影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『花火会場のその裏で』

 一方ここは雲の上。人類が決して踏み込んではならない領域で、人知を超えた戦いは続いていた。

 

 

 白と黒の光が大嵐の如く飛び交い、ぶつかり合っては対消滅の爆発を上げていた。

 

 

 その只中で、黒き長剣と白き大剣がぶつかり合い、つばぜり合って火花を散らす。持ち手たちも額を近づけて睨み合う。眼光がぶつかり合い、煮えるような憎悪が火花を散らす。

 

 

 大気が軋み、空間が捩じれた。可視化されるほどの殺意はやがて両者を中心に渦を巻いた。

 

 

「取るに足らない狐風情にうつつを抜かしていたかと思えば今度は花火の真似事てか! 天に仇なす大悪党たる魔王が落ちも落ちたり!」

 

 

 ゴスペルは嘲り嗤う。

 

 

「そう言うお前は悪魔の使い走りか。ただでさえ小さなお前がそこまで落ちぶれるとは。生きていれば何が起こるか分からないとはよく言ったものだ」

 

 

 魔王は無感情に言い捨てた。

 

 

「―――ぬかせッ!」

 

 

 渦巻く殺意がはじけ飛んだ。瞬時に激昂したゴスペルは柄から片手を離し、凄まじく光が凝縮された拳で魔王の顔面を殴りつけにかかる。

 

 

「相変わらず熱しやすい奴よ」

 

 

 魔王は鼻を鳴らすと背部より広がる闇色のマントをコウモリの翼の如き形状へと変え、大きく羽ばたいて上昇する事によってかわす。

 

 

「私の上に立つなどッ!」

「元よりお前は私の下よ。上に立てた試しなど一度としてありはせん」

 

 

 追いすがるゴスペルへ桜吹雪の如く闇の弾丸を飛ばしながら魔王はつまらなそうに言った。

 

 

「ほざくなっ!」

 

 

 同様に6枚の翼から光弾を放って対消滅させながら、ゴスペルは吠えるように叫んだ。

 

 

「むうん!」

「ふんっ」

 

 

 ゴスペルが振りかざした神速の一撃を、魔王は長剣で流し逸らし、体勢の崩れたゴスペルの脇腹に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ぐおっ!」

 

 

 尋常ならざる衝撃に周囲の闇と光の弾丸はそれだけで消し飛んだ。眼下の雲が雲散し、燃える死都が露となる。

 

 

「どうした? 守れておらぬぞ?」

「おのれっ!!!」

 

 

 背部の翼を大きく広げて反動を殺したゴスペルへ、燃える死都を見下ろしながら魔王は肩をゆすって虚無的に笑った。

 

 

「ッ!」

 

 

 ゴスペルは喉元まで出かかった罵声を何とか呑み込んだ。彼とてそれは分っている。これは明らかにこちらの敗北である。

 

 

 しかし。

 

 

「なにっ?」

 

 

 魔王は突如としてゴスペルから顔を離し、電撃的勢いで振り向いた。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 ゴスペルもほぼ同時に同方向へ顔を向ける。

 

 

 次の瞬間、空の彼方で尋常ならざる大爆発が巻き起こった。世界すら揺らさんばかりの破滅的な爆発が周囲の雲を全て消し飛ばした。

 

 

「馬鹿な!」

 

 

 吹き荒れる熱波を気にも留めず、魔王は空中で微動だにせずに驚愕した。雲海の下、死都にて恣に命を弄んでいたグレンキュウビの反応が、爆発とともに完全に消え去ったからだ。

 

 

 それは実際彼にとっても予想外であった。マガツノオロチよりもさらに大規模破壊に特化し、常時爆発する体を突破してもなお堅牢な殺生石を突破できる者がこの時代にいるなどと、想像の埒外である。

 

 

 生きてきた(とき)ならばあの妖狐の方がずっと古いというのに。古きを良しとし、新しきを侮ったか? 

 

 

 そしてこの奇跡を仮に成した者がいるというのであれば、魔王にはすぐに察しがついた。脳裏に閃くのは、神を前にして不遜にも(こうべ)を垂れなかった、贄に過ぎない人形の一つ。

 

 

 更には爆発の寸前に生じたすさまじい憎悪が発したどす黒い思念が叫びし怨敵の名前。

 

 

 〝イィイイイイイイイイミィイイイイイイイイイテェエエエエエエエエエショォオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン!!! 〟

 

 

「おのれイミテーション、またしても!」

 

 

 ここで初めて魔王が感情を発露した。それは驚愕である。それは憎悪である。それは……執着? 

 

 

「──────は?」

 

 

 ゴスペルは目を見開く。

 

 

「オロチに続いてキュウビまでも! 忌まわしい操り人形風情が! 我らに楯突くなど不遜の極み!」

 

 

 呆けるゴスペルを差し置いて、魔王は死都の上空の一画を睨みつけた。その方向こそ、まさしく千鶴に抱えられたイミテーションがいる方向であった。

 

 

 魔王は怒る。憎む。我らが歩き進むべき道を邪魔し、穢し尽くす裏切り者を。目の前にいる宿敵へ向けていた憎悪に勝るとも劣らない感情(もの)を籠めて。

 

 

 ここで魔王はようやくイミテーションというものがどれだけ脅威であるか痛感した。魂の出力が黒の者にも白い者にも劣る存在であるため、今の今まで幹部との対峙でたやすく躯を晒すかと考えていた。

 

 

 それは誤りであった。

 

 

 考えてみれば当然である。14年間もの間を地獄の底で耐え忍んでいた者が、たかが幹部との対峙で滅ぼせるはずも無し。

 

 

「良かろう」

 

 

 魔王は遠く彼方を指さし、静かに、されど億万の憎悪を籠めて、唸るように宣言する。

 

 

「貴様は実際恐るべき脅威だ。それは認めよう。ならばこそ、悪魔を滅ぼすには、それに相応しい地獄を見せるより他は無し」

 

 

 魔王は徐々に高度を上げてゆく。ゴスペルは茫然とそれを目で追った。

 

 

「策を考えねばならぬ。悪魔を殺す算段を」

「待て……」

 

 

 魔王は背を向けた。ゴスペルは手を伸ばす。

 

 

「待てぇええええええええええ!!!」

「っくどいぞ!」

 

 

 憎悪と憤怒の叫びと共に放たれた莫大な光の束に、魔王は心底鬱陶しいとばかりに睨みつけ、そのまま光に飲み込まれて消えた。

 

 

「ハア―ッ! ハア―ッ! おのれ……おのれおのれおのれ!」

 

 

 あっという間に成層圏を抜け、重力の鎖を振り切って飛んで行く光を見上げ、ゴスペルは身を仰け反らせて絶叫する。

 

 

 手ごたえは無かった。元よりあの程度で滅ぼせるとは思ってはいなかったが、まさか交戦もせずに逃げるなど。

 

 

 今まではそんな事は無かった。今までならば互いに神からの静止がかかるまで延々戦い続けていたというのに。

 

 

 今までは。数百年間。ただの一度としてこんな事は無かった。

 

 

 魔王とゴスペル。両者ともに両陣営の戦力の要。どちらかが動けばもう片方も必ず動く。

 

 

 ずっとそうだった。500年も前のあの日から。全てが変わってしまったあの日からずっとそうだったではないか。

 

 

「なのに!!!」

 

 

 あの時の魔王の眼中には、ゴスペルの姿が映っていなかった。

 

 

 映っていなかった。

 

 

(映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった映っていなかった──────)

 

 

 今やゴスペルは第二の太陽の如く激しく発光していた。熾天使は猛り狂っていた。

 

 

 映っていなかった! 

 

 

 あの時の魔王の興味関心は、数百年も永きに渡って殺し合いを続けた宿敵ではなく、たかだか十年程度しか生きていないような未熟な命ただ一つだけを映していたのだ。

 

 

 あんな! どうしようもなく小さくて愚かで鬱陶しくて不気味で陰気な野良犬の寄り合いの飼い主気取りの薄汚い乞食にも劣る様な者が! 

 

 

 聖光教のナンバー2である自分を差し置いて魔王に興味関心を持たれるなど! そんな傲岸が! そんな不遜が! 許されるはずが無い! 

 

 

 何という屈辱! なんという──────。

 

 

 〝ふざけるな(ずるいぞ)!!! 〟

 

 

「悪魔ぁあああああああああ!!!」

 

 

 光は極限まで輝き、やがて、ネオン街上空で爆ぜたものにも勝るとも劣らない大爆発を巻き起こした。

 

 

 この日、京都街炎上事件の終わり際で上空で起こった()()()()()は、長い事ニュースや新聞で報道され、お茶の間での会話の種にされるのだった。

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