影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『打ち上げ花火、下から見た奴。上から見た奴』

 chapter8が終わった。終わった。まあ、うん。結果オーライ、といった所か? 

 

 

 良く分からん。

 

 

 これで本当に良かったのだろうか? 

 

 

 くたくたの体、露天風呂の中をただ一人つかり、眼下の様変わりした街並みを見下ろして、物思いにふける。

 

 

 夜闇の中でも決して屈せず誇り高く輝いていた摩天楼たちは、今や根元からへし折れ、黒焦げた堆積物として月明かりの下で無残にも屍を晒していた。

 

 

 焦げた匂いが風に乗ってこちらまで届いて来た。思わず顔を顰める。

 

 

 繁栄を謳歌していた街並みが一夜にして消え失せ、後に残るのは黒ずんだ夢の名残。

 

 

 盛者必衰。なんとも惨いものである。

 

 

 今頃京都の伝統派共は手を叩いて喝采しているに違いない。それ見た事か。これこそは京都を汚し尽くし、我ら京都伝統派を開発計画から追い出した欲張り者どもへの報いである。ザマをみよ。おおザマをみよ。てな感じ。

 

 

 頭を振って、持ち込んだ水筒から水を飲む。冷たい水が喉奥を通り、熱で浮ついた思考をクリアに洗い流す。

 

 

 グレンキュウビ。恐ろしい敵であった。完全態ですらない状態であれほど強いなんて。想定外、とは言わないが、まさか死に物狂いで削りに削ってようやく6本尾とは。

 

 

 ゲーム本編と違ってあのまま指をくわえて顕現を待っていたら、いきなり街の中心に9本尾状態のグレンキュウビが出現していたかと思うとぞっとする。

 

 

 ゲームでは難易度に応じてグレンキュウビの出現場所、及び戦闘開始時の尾の本数と尾が増える速度は大分違う。

 

 

 イージーならば3本、更に尾が生成される速度は限りなく遅く、発生する増援の雑魚も闇の者が出ない上、黒い者も少ない。

 

 

 ノーマルなら4本。尾が生成される速度もこれが基準となる速度で、増援も闇の者が数人ほど混じった編成が為される。

 

 

 ハードなら5本。尾が生成されつ速度もノーマルよりも1.5倍ほどの早さとなる。増援も増え、闇の者の数も増える。

 

 

 エクストラで6本。ハードの倍以上の速さで尾が生成され、増援も狂ったような数が配置される。更にステージ各所が定期的に爆発するようになるというおまけつきだ。

 

 

 尾が9本の完全態となると、グレンキュウビの体が膨れ上がり、ステージ全土を吹き飛ばす超絶広範囲爆発を起こし、街が消滅。ゲームオーバーとなる。

 

 

 だがゲームをクリアしても、その被害は物凄い。グレンキュウビを倒せたはいいものの、奴が焔部隊に命じてあらかじめ仕込んでいた爆弾と奴自身の爆破の被害で街の半分が吹き飛んでしまう。エクストラの最中に爆発したのはこの仕込んでいた爆弾が起爆したためである。

 

 

 それでまた鳳凰院家の評価が下がる事となる。死してなおこき下ろされるとは、やったことがやった事とはいえ、ここまでされる謂れはない……かどうかは知らんが、ともかくそうなる。

 

 

 だから、そうならないために前日で建物に仕込まれていた爆弾を人海戦術で全て取っ払った。

 

 

 だから、完全態にさせないために可能なツテを全て使って揃えられる限りの戦力を集めてグレンキュウビの足止めをさせた。おかげで尾の生成は阻害され、尾が6本以上に増える事無く戦闘を終える事が出来た。

 

 

 被害の方もゲームと比べて三分の一程度にまで抑え込めた。人的被害に関してはほぼゼロだ。

 

 

 戦闘員に死傷者が出たものの、これほどまで抑え込めたのならば十分頑張ったと言えるのではないか? 

 

 

 グレンキュウビとの戦闘から一夜明け、今も聖光教から派遣されていた騎士やら消防隊やらが重機や異能で瓦礫を撤去している真っ最中である。ペットショップ(うち)の畜生たちも何人かやらせている。俺の私兵としての役割を持つ彼らだが、会社としてある以上知名度を上げることに越したことはないからだ。

 

 

 鳳凰院社長も再開発には乗り気らしい。もうすでに支援者を募ってどういう風にするか会議室で殴り合っていると、室内の監視カメラを乗っ取ったビーハイブから嬉々として伝えられた。

 

 

 これで良かったのだろうか。どうなのだろうか? よくわからん。

 

 

 ともあれ想定通りの被害だったので、とりあえずは良しとする。

 

 

 しかし想定外な事もまたあった。

 

 

「虚部隊がここで動くとは……ぬらりひょんめ、何を考えていやがる」

 

 

 爬虫類部隊『御神木』〝マガツノオロチ〟

 

 

 焔部隊『菊星』〝グレンキュウビ〟

 

 

 虚部隊『総大将』〝ぬらりひょん〟

 

 

 巨壁部隊『最終防衛隔壁(ライン)』対聖騎士極度殲滅用改造人間〝大入道〟

 

 

 これが教団の今の幹部の全容である。

 

 

 そのうちの2人。マガツノオロチとグレンキュウビが落ちた。マガツノオロチもグレンキュウビも、どちらも古い怪物である。グレンキュウビに至っては今の魔王よりも古くから存在していた大災厄である。

 

 

 それが落ちた。さしもの教団も焦り始める頃だ。ここからが真の地獄の始まりである。

 

 

 ゲーム通り進むのならば事が起きるのはこっから2ヶ月後。野山の木々が紅に染まり始め、風に冬の面影を見出す頃に、暗夜へと一枚の手紙が届くはずだ。

 

 

 差出人はぬらりひょん。

 

 

 それはぬらりひょんが今代の勇者へと送った、果たし状であった。

 

 

 第一作中最も短いchapterであるこの話で起こる事はたった一つ。

 

 

 両陣営の重鎮が見守る中での幹部との一対一の決闘。

 

 

 それがchapter9の内容である。

 

 

「始まる前に、暗夜を鍛え上げなければ。今のままだとぬらりひょんは突破できても()()()でなます切りにされちまう」

 

 

 そうするためには暗夜にはもっと危機感を持ってもらわねばならない。強くならなければいけないという焦燥感を培わせるためにも、いろいろとけしかけなければならない。

 

 

 微睡みの時期は終わりを告げた。ここからは適度に負荷(ストレス)を与える時期である。

 

 

「ならこんな所で油を売っている訳にはいかんな」

 

 

 立ち上がり、そしてかくりと膝を付いた。

 

 

「……」

 

 

 俺はニンゲンドックを呼んだ。ブチ切れたニンゲンドックが浴衣を着たまま俺を抱え上げて脱衣所に放り込んだ。

 

 

「あほ、アホ、阿保、ボケ~!!!」

 

 

 耳元で炸裂するニンゲンドックの怒鳴り声に思わず顔をしかめ、つい毒づく。

 

 

「病み上がりの人間にそう怒鳴るものではありませんよ。障ったら大変です」

「どの口がッッッ!!!」

 

 

 怒髪天を衝くとはこのことで、白髪交じりの髪を逆立てんばかりに怒る闇医者の口から放たれる様々な罵詈雑言を聞き流しながら、犬たちを待つ。

 

 

 暗夜たち3人とエミリーと小柳祖父娘は先に帰った。前者は虚部隊が動いている事から何らかの企みを警戒しての強制帰還。後者はトサケンがずいぶんくたびれていたから先に帰らせた。

 

 

 後に残ったのは保健所のメンバーのみだ。三本槍は復興の手伝いと死肉に群がってきたやじ馬(ハイエナ)共の対処でてんてこまいである。

 

 

 しかし肝心の犬どもが遅い。何をしているのだろうか。このままではこの年で難聴になってしまう。

 

 

 早く来てくれないだろうか。

 

 

 祈りが通じたのか。単にそういうタイミングであったのか。ともかくいつもの三匹の犬と、その背後にレトリバーが何かを押しながらやって来た。

 

 

「おや来ましたか……それは何ですか?」

 

 

 ニンゲンドックに肩を貸されてどうにか立つ俺を凝視した犬たちは互いに見やり、肩を竦めた。ご愁傷さまとでも言いたげに。

 

 

「……」

 

 

 萌は無言で俺の前に出た。磨き抜かれた車いすを突きつけながら。その顔は実に穏やかであったが、その目は恐ろしく淀んだ暗い感情が渦を巻いていた。

 

 

「──────」

 

 

 瞬間的に危機を察した俺はニンゲンドックを振りほどいて駆けだそうとしたのだが、あろうことかこの中年野郎は俺の肩をがっしりとホールドし、絶対に離さないとばかりに万力の力を込めた。

 

 

「放しなさい……!」

「お断りだ馬鹿野郎!」

 

 

 ぐいぐいと押しのけようとするが、力が入らない。徐々にニンゲンドックに力に圧され、ついには車いすの中へと押し込められてしまった。

 

 

『搭乗者を確認。ロック開始』

 

 

 途端に車いすがその中に仕込まれていた恐るべき機構を作動させた。俺の体はたちまちのうちにシートベルトでガチガチに固定されてしまった。

 

 

「じゃ、行きましょうか」

 

 

 反転して満面の笑みを浮かべたレトリバーは、滑らかに車いすを押した。犬たちもそれに続く。

 

 

「俺はしばらくここに居座るぞー。働かされた分休ませてもらう」

「好きにしなー」

 

 

 チワワは振り向きもせずに手を振った。

 

 

「これでしばらくは無茶できませんね☆」

 

 

 シバイヌはレトリバーと同様の笑みを浮かべながら俺の頬を突っついた。

 

 

「……」

 

 

 睨みつけると、くすくすと笑いながら離れていった。

 

 

「ま、これで分かったでしょ? ウチらはあんたが思ってるほどおとなしく付き従わないってこと」

「……」

 

 

 耳元まで顔を近づけて囁き、したり顔をするポメラニアンを恨みがましく睨みつける。綾子は笑った。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ところ変わって、帰りの新幹線。プレミアムクラス3番個室に俺はいた。

 

 

 服装は京都行き前に買わされた服を着せられ、同じように車いすで拘束され、犬たちにかわるがわる飯を食わされるという拷問のような時間を過ごしていた。

 

 

「はい、あーん」

 

 チワワがスプーンにリゾットを乗せ、俺の口元まで近づけてきた。

 

 

「いえ、自分で食べられますから……」

「あーん」

 

 

 聞く耳を持たず、チワワは繰り返した。主張が強い。今までこんな事は無かったのだが。遅れてきた反抗期だろうか。お前らもう22だろ。なにガキみたいなことやっていやがる。

 

 

 俺は天を仰ぎ、それから観念して口を開き、突っ込まれたリゾットを咀嚼する。

 

 

「そうそう、それでいいんすよそれで」

「~~~~~~……」

 

 

 よしよしと俺の頭を撫で、勝ち誇ったように笑うチワワへ、喉奥をついて出そうな罵詈雑言をかろうじて呑み込んだ。

 

 

 さっきからずっとこんな調子である。チワワが、シバイヌが、ポメラニアンが。かわるがわる交代でものを食わせてはけらけらと笑い転げた。

 

 

 しかしそれには参加せず、じっとこちらを凝視するレトリバーが不気味である。いつもならば絶対に参加するであろうあいつが、何もせずただ見ているだけなどと。

 

 

 絶対これは後で爆発するパターンである。経験で分かる。

 

 

((これマジで殺されるんじゃねーか?))

 

 

 淀んだ瞳を可能な限り視界に入れないようにしながら、俺はいつかに考えたことが現実に起きやしないか、戦々恐々とするのであった。

 

 

 流れゆく青くみずみずしい葉をつけた木々を抜け、新幹線は突っ走る。その中に地獄の種が植え付けられているとは露知らずに真っすぐに。

 

 

 夏真っ盛りの太陽が照り付ける、あくびが出る様な正午の内の一幕であった。

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