影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑨

 1『商店街某所 ファストフード店店内席』

 

 

「すげー1日だったな」

「本当にな」

「はあ……」

 

 

 傷も癒え、聖光教から呼び戻された暗夜たちは口々に言い合っていた。といっても話しているのは専ら軌陸と暗夜の二人で、績は上の空げに相槌を打ったり、定期的にため息を吐いたりするのみであった。

 

 

「まだへこんでんのかよ。いい加減立ち直れって」

「こら暗夜」

 

 

 績の肩をゆすってそんな事を言う暗夜を軌陸はどやしつけた。

 

 

「へこんでいる女子に対してなんだそれは! そういう時は慰めの言葉の一つでも送るのが普通だぞ!」

「何だそりゃ」

 

 

 暗夜は目を眇める。軌陸は目を吊り上げた。

 

 

「気の利かない奴だなお前は。イミテーションに女の扱い方の一つでも教わってから出直してこい!」

「いやあれはハードル高すぎるだろ」

 

 

 憤る軌陸へ、暗夜は素で返した。

 

 

「それもそうだな」

 

 

 軌陸は大人しく引っ込んだ。

 

 

「実際ありゃ相当場数を踏んでると見た」

 

 

 と暗夜。

 

 

「でもあの3人からは()()()()()()()がしないですよね」

 

 

 いつの間にか調子を取り戻していた績が言った。

 

 

「ムムム、という事は、別に愛人がいる……?」

 

 

 軌陸の冴え渡る様な推理が炸裂した。

 

 

「な、にぃ!?」

 

 

 暗夜は目を剝いて立ち上がった。

 

 

「ふ、不健全! 不健全です!」

 

 

 顔を真っ赤にした績が両手を振り回して興奮した。

 

 

「でなければあの手慣れ具合には説明がつかん」

 

 

 名探偵軌陸は断言した。

 

 

「畜生あの野郎! あんなすまし顔しといて中身はとんだやり手だぜ畜生!」

 

 

 暗夜は嫉妬で身悶えしながら激しくいきり立った。

 

 

「「……」」

 

 

 女子二人は氷のようなまなざしで暗夜を睨み据えるが、暗夜はまるで堪えた様子もなく内なる衝動(リビドー)に突き動かされるまま口を開き続ける。

 

 

「俺も美女美少女侍らせて裏で愛人囲いてぇなぁ!!!」

 

 

 男暗夜、魂の発露であった。

 

 

「軌陸」

「あぁ」

 

 

 二人は立ち上がり、未だ喚き散らす愚か者の肩を掴んだ。

 

 

「え?」

 

 

 暗夜は目を白黒させて績と軌陸を見るが、二人は何も言わずに暗夜を引きずり出口の方まで向かっていった。

 

 

「え? え? え?」

 

 

 困惑して首を振る暗夜の姿はいっそ哀れであった。周囲の客たちは固唾を飲んで成り行きを見守っていた。

 

 

 やがて3人組は出口を出て行き、しばらくすると野太い悲鳴がガラスドアを通してなお大きく響き渡った。

 

 

「痴情のもつれは怖いな」

 

 

 客の一人がしみじみ呟き、他の客も同意するように頷いた。ウエイトレスは死んだ目で接客を続けた。一つの不幸が訪れようが、世は事も無しである。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 2『保健所〝巣〟ボス専用休憩室』

 

 

 

 

「はいこれ」

 

 

 部屋に入って来るなり、萌はそう言ってノートパソコンの画面を突きつけた。

 

 

「……どうも」

 

 

 有無を言わさぬ迫力に一瞬だけ気圧されながらも、イミテーションは顔に出さずに画面を注視した。

 

 

 今現在〝巣〟には彼らを除いて誰もいない。療養のための休暇と見るや3匹の犬は街へ繰り出して遊び惚け、小柳祖父子は健康センター巡りで忙しい。ニンゲンドックに至っては未だ京都で温泉三昧である。

 

 

 千歳はエミリーの趣味の映画鑑賞に付き合わされておらず、鳳凰院社長は京都仮設支部にて敏腕を振るっている。三本槍もそれに付き合わされているらしく、よく保健所のグループトークへ愚痴と怨嗟をまき散らしていた。

 

 

 帰還してから1日が経過したが、イミテーションの回復力をもってしても此度のダメージは大きく、万全の体調に復帰するにはせめて1週間は必要というのがニンゲンドックの言である。

 

 

 故にイミテーションは未だ車いすに囚われたままであり、その身はスーツではなく女子組が選んだ服で拘束されていた。

 

 

 生殺与奪の権利を握られた、とはやや大げさな表現であるが、それに近い状態であることは確かであった。

 

 

 この状況で、ただでさえ不穏な雰囲気を漂わせている萌を刺激する様な事だけは避けたかった。

 

 

((これ以上考えるのはやめておこう……))

 

 

 そう結論付け、イミテーションは画面に意識を戻した。問題の先送りでしか無いのは、本人とて百も承知であった。

 

 

 ノートパソコンの画面には今回の戦闘で使用した兵器である対巨大異能存在撃滅最終決戦兵器『スクラップ・タイタン』の試作型『プロトタイプ・スクラップ』の図と機体の損傷について事細かく書かれた。

 

 

「……」

 

 

 あまりにも細かく書かれているが故、目が滑りそうになるのをどうにか抑え込み、たっぷり10分かけてどうにか読み切った。その間萌は沈黙を貫き、息がかかる距離でイミテーションの横顔を凝視していた。

 

 

「で?」

 

 

 と、イミテーションが読み終えたタイミングで萌は声を発した。底知れぬ闇を孕んだ、ぞっとする様な冷たい声であった。

 

 

「──────」

 

 

 震える体を、イミテーションは恐ろしいほどの根性で抑え込んだ。されど垂れる冷や汗、留まる事を知らず。

 

 

 

「ふうん……」

 

 

 イミテーションの白い肌の上を垂れる一筋の汗を指で掬い取り、眼前に突き付け、萌は言った。

 

 

「汗をかくって事はさ、悪いことした自覚があるってことよね」

「……そうですね」

「じゃあ!」

 

 

 イミテーションの体を車いすの背もたれへと押し付けながら、萌はドスの利いた声で問い詰めた。

 

 

「何であんな危ないことしたの?」

「必要な事だからですよ」

「この前私なんて言ったっけ? もう忘れちゃった?」

「もちろんです。故に何度でも言いましょう。私は消えないために」

「ッだから!」

 

 

 激昂した萌はノートパソコンを放り捨て、身を乗り出して掴み掛った。拘束されたイミテーションに逃れる術はない。あっさりと両手首を掴まれ、背もたれに押し付けられた。

 

 

「あの子はまだ試作品なの! わかる? 試・作・品・な・の! 出力も安定しないし主砲は射撃するには耐久が不安だし何より全体の装甲だって完全じゃなかったのよ! それを何あんた? いきなり装備の換装? 勝手な持ち出し? それでよく死なないために戦うなんて言えるわねホント尊敬するわよくもいけしゃあしゃあと思ってもいない事を口に出せるわよねあんたホストが天職よそうよそうに違いないわその口で女の子誑かせて地獄に連れて行くのがお似合いよやめて触らないで触るな!」

 

 

 イミテーションはどうにか片手を振りほどいて萌へと手を伸ばしたが、あっさりと振り払われ、今度は決して振りほどかれないように指と指を絡めて完全に掌握された。

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 

 肩で息を切らせた萌はそこで黙り込み、イミテーションを睨みつけた。目元にたまった涙が端からこぼれ落ちた。

 

 

「萌……」

「──────ッ」

 

 

 呼ばわれた萌はそれを皮切りにボロボロと涙をこぼし、イミテーションの腹に顔を埋めておいおい泣いた。

 

 

((ど、どうすりゃいんだ……))

 

 

 泣きじゃくる萌を抱きすくめながら、健太郎は天を仰いだ。完全にお手上げである。こちらに落ち度がある以上、彼女に対して自分にできる事などありはしない。何を言われようとも、()()()()()()彼女の思いのままである。彼女にはその権利がある。

 

 

((このまま抱きしめるだけで満足するってなら安いもんだ。どうせ時間は余ってる))

 

 

 イミテーションは頭を振るい、泣きじゃくる萌の頭を抱きすくめ、あやすように背中を撫で続けた。

 

 

「──────ん」

 

 

 やがて、多少なりとも落ち着いたのか、萌は顔を上げてイミテーションを見上げた。上気した頬。熱っぽい吐息。潤んだ瞳は何かを期待しているようで。

 

 

「──────」

 

 

 イミテーションは咄嗟に全身の筋肉の力を抜き、力を爆発させてその場から離脱を試みた。

 

 

 しかし。

 

 

『搭乗者へのロック強化。付与『脱力』及び『拘束』を発動』

「なっ!?」

 

 

 車いすより無慈悲な宣告が為されると、その言葉通りにイミテーションの体に超自然の力が走り、体から完全に力が失われた。

 

 

((こ、こいつみみ子に付与まで仕込ませやがったのか!? や、やばい! こ、この状況非常にまずい!))

 

 

 健太郎は焦った。非常に焦った。グレンキュウビが爆発した時くらいには焦った。

 

 

 藻掻こうと試みるが、付与が為された体はピクリとも動かない。萌の顔はすでに目の前に! 

 

 

((え? これヤラなきゃいけない流れ?))

 

 

 湧いた疑問は、燃えるような口づけに蓋をされた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 3『ショッピングモール3階 ゲームセンター』

 

 

 

 

「なあ、萌のやつ大丈夫かな?」

 

 

 ガンシューティングゲームの筐体で拳銃型コントローラーを振り回していた一二が、背後の二人へと投げかけた。

 

 

「あ? あぁ、あのガキね。大丈夫だろ」

 

 

 血走った目でクレーンゲームに興じていた綾子が振り向きもせずに言った。

 

 

「どうかなぁ~」

 

 

 と心ここにあらずなリリーがはらはらしながら一二のプレイ風景を見ていた。

 

 

「どうって、どうなんだよ」

 

 

 と一二。

 

 

「だって萌ちゃん、あれ大分まいってたよ。何をしでかすか分からないくらいには」

「やめろよ考えない様にしてたのに」

 

 

 一二は暗い眼の萌を思い出し、ぞっとして体を震わせた。それが隙となり、画面の奥から飛来した斧を撃墜できずにライフが0となった。

 

 

「ア゛ー!!!」

「うるせーぞクソガキ」

 

 

 目を剥いて絶叫する一二の背中へ、綾子は苛立ちを隠しもせずに空の空き缶を放り投げた。

 

 

「いて―なこの野郎」

「知るか」

「実際、かなり不味いと思うんだけど」

 

 

 とリリーが蒸し返すが、綾子は舌打ちし、言った。

 

 

「仮にそうなったとして、だから何だってんだ?」

「だからって……だって」

 

 

 ずかずかと近寄ってきて肩を殴りつけてきた綾子に、リリーはなおも食い下がった。

 

 

「仕方ねーだろ。あの状態を鎮めるにゃあそれ位しないと収まりがつかねえってんだよ。つべこべ言うな。この馬鹿」

「むぅ……私達だってまだなのに」

 

 

 

 唇を尖らせるリリーへ、一二は画面にぶー垂れながらも100円を入れてコンテニューしつつフォローを入れた。

 

 

「別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()順序が多少変わったところでいいだろ。今回のMVPは間違いなくアイツだぜ。時には可愛い妹分に譲ってやるのも姉貴分の務めさ」

「む~……」

 

 

 綾子は頬を膨らましてむくれるリリーを鋭く睨みつけると、夢中になってプレイしている一二の背中を蹴っ飛ばした。それで画面奥から飛んできた樽を撃ち落としきれずにライフが0となった。

 

 

「ア゛ー!!!」

 

 

 一二は目を剥いて絶叫した。綾子は鼻で笑った。リリーはなおもむくれていた。

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