影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
4『コンバット家 エミリーの部屋』
『悪いがこいつでカンバンだ』
『そうか、奇遇だな』
「……」
スパイ映画のラストシーン。主人公である凄腕のスパイと、宿敵である敵対組織のエージェントとの最後の決闘、その最終攻防の直前のやり取りを、エミリーは食い入るように見つめていた。
その傍らでは千歳が画面など一ミリも注視せずに出されたクッキーを夢中で貪っていた。
『最後は一騎打ちだ』
『こいつが落ちた時が、銃を抜く合図だ』
死屍累々のバトルフィールド。その中心に立つ満身創痍の2人のエージェント。弾かれるコイン。全てがスローモーションに動く中、エージェントたちは己の手の中にある拳銃の重みを確かめながら、ただその時を待つ。エミリーは固唾を飲んで行く末を見守る。千歳は紅茶を一口飲み、首を傾げた。
やがて、コインが落ちた。
『『──────』』
電撃的な抜き撃ち。弾けるマズルフラッシュ。放たれた弾丸は過たず突き刺さり、どちらかが倒れ、どちらかが生き残る。果たしてこの戦いの勝者はどちらか。
『言ったろ? こいつでカンバンさ』
負傷した腕を押さえた主人公は、額に穿たれた穴から血を流して倒れ伏す宿敵へ、そう投げかけたのであった。
「……はお」
エンドクレジットが流れ、きついギターが鳴り響くエンディングが始まると、エミリーはようやく息を吐いた。
「下らん。所詮は映画だな」
千歳は視界の端のテレビへ向けて鼻を鳴らした。
「むっ何ですその感想は?」
ジト目を向けてくるエミリーへ、千歳は言った。
「あんなやり取りイミテーションが常日頃からやってる。わざわざ映画で見る程の事でもない。あむ」
千歳は切って捨てた。
「……」
エミリーは閉口して黙り込んだ。脳裏に過ったのはイミテーションの
『おのれイミテーション! 裏切り者の三下めが!』
工場の敷地内で闇の者が、目の前に立つイミテーションへと指を突きつけて叫んだ。
それは溜まりに溜まった依頼を一人一人消化していた時の一幕。エミリーは工場跡地で出没する不審人物発見、及び確保の依頼を請け負っていた。
案の定廃工場内には教団の一団がおり、エミリーはどうにか内部へと潜入して敵勢力の全貌を把握する事に成功した。
しかし増援を要請するために離脱しようとした矢先に闇の者に隠密がバレ、なんとか廃工場から脱出できたものの、後一歩のところで敷地内で囲まれてしまったのだ。
その時颯爽と現れたのがイミテーションであった。奇しくもその時の構図は彼女が愛してやまないスパイ映画のラストシーンを彷彿とさせるものだった。
『三下が三下を語るなど、これほど滑稽な事もありません』
イミテーションは取り合わず、逆に嘲笑でもって返した。同時に、周りを囲んでいた雑兵たちの首筋に赤い線が走り、ポロリと落ちた。闇の者は驚きはしなかった。
『抜かせ犬飼めが! 雑兵を殺したくらいで粋がるな! この工場の要はこの私よ! 私が生きている限りどれだけ兵士が消えようともすなわちこれ大健在也!』
啖呵を切った闇の者へ、イミテーションは口元を押さえてくすくすと笑った。闇の者は訝った。
『健在?』
肩をゆすって笑いながら、イミテーションは懐から拳銃のグリップの様な物を取り出し、躊躇いも無く引き金を引いた。
瞬間、工場が爆発炎上した。
『なっ―――』
目を見開いて固まる闇の者。そしてイミテーションは闇の者の背後の上空にてきりもみ回転しながらその様を冷たく見下ろしていた。
『え?』
闇の者が疑問に思った刹那、その体各所に白と黒の線が走り、一瞬後にバラバラと落ちた。
『死して屍、拾うもの無し』
着地したイミテーションが言い捨てた。
「……」
エミリーは我に返り、画面を見た。あれほど素晴らしかった映画が、なんだか酷く色褪せて見えた。焚いてたアロマが目に染みた。
■
5『京都ネオン街跡地』
「おらエレファント! 無駄にデカい図体は何のためだ! とっとと動かすんだよ!」
「パオーン! (そんなこと言ったってさ~!)」
氷の虎を複数展開したスーツ姿の偉丈夫、ヤマネコが、体長5メートルほどの象の尻を蹴っ飛ばした。象は抗議するように嘶いたが、ヤマネコは聞く耳持たずだ。構わず尻を蹴っ飛ばした。
「ファハハハ! 愚か! 愚かの極み!」
「あぁ?」
と頭上より嘲笑が聞こえ、ヤマネコは心底煩わし気に眉間にしわを寄せると頭上を見た。そこには深紅のワイバーンがホバリングしながら彼らを見下ろしており、口元には無残にも事切れたレギオンが咥えられていた。
「ぺっ!」
深紅のワイバーン、クリムゾン
「どうだ!」
アルバトロスは勝ち誇る様に言った。
「何がだよ」
ヤマネコはうんざりと言った。
「これで20体目だ!」
「で?」
「お前らが瓦礫撤去などという雑兵の様な仕事にうつつを抜かしている間に俺は敵勢力をこんなにも排除したのだ!」
ヤマネコは話にもならないとばかりに首を振った。エレファントはそそくさと離れゆき、極力話に関わらないように瓦礫撤去に没頭した。
「あのな、競うような事でも何でもないからなそれ」
「ファハハ負け惜しみか!」
「~~~~~~……」
ヤマネコは説得を試みるが、アルバトロスは聞く耳を持たない。彼は頭が弱いのだ。
『そこまで』
「「っ!」」
声のした方へ顔を向ける。そこには瓦礫撤去用ドローンの一機がまるで咎めるように赤ランプをチカチカと点滅させながら浮いていた。
『手が止まってるよ。さあ、仕事仕事』
「だとよ」
「ふん!」
ヤマネコはにやりと笑いかけた。アルバトロスはそっぽを向き、瞬く間に上昇してまたぞろ残党兵あさりへと飛び立っていった。
「すまんブルドック。うちの班員が迷惑かけたな」
『いいよいいよ。別に暴れたって訳じゃないならそれでいいさ』
頭を下げるヤマネコへ、ドローンは作業用マニピュレータを振った。
「あ☆ヤマネコく~ん! ブルドックく~ん!」
『おや』
「あん?」
声の方向へ顔を巡らせると、
「どお? 作業? 終わった?」
「まだ全然」
とヤマネコ。
『僕の方は少し止まってる。途中で潜伏していた黒い者の集団に襲われてね。今ようやく作業を再開したところさ』
ドローンは困ったようにマニピュレーターを動かした。
「そう言うお前は?」
「私は~この子」
ハスキーは背を見せ、背負っていた者、負傷した子供を見せた。
『なるほど。なら早く急がなくちゃ』
「うん。じゃあ二人とも、作業頑張ってね~☆」
手を振って別れたハスキーの背を見送りながら、ヤマネコはぼそりと一つ。
「でっけぇなぁ~」
『やめときなよ。社長に殺されちゃうよ』
ドローンが窘めるように作業マニピュレーターで突っついた。
「馬鹿言うな。やるわきゃねーだろ。でも見るだけならタダなはずだぜ。そうだろ小象?」
「パフォ!? (え、このタイミングでこっちに振るの!?)」
ダラダラとエレファントへとからむヤマネコたちに、ドローンは背を向けた。あんな感じではあるが、展開してある氷の虎は片時も休まず仕事を進めており、咎める様な事は何も無かったからだ。
『やってる?』
ブルドックが操るドローンは瓦礫の撤去をしながら見回りを続け、丁度足元にいたスーツを着たモルモットへと声をかけた。
「もちろんさ! 私も友に負けていられないからね!」
ふよふよと目線の高さへと浮き上がったモルモットが遠く、瓦礫の中から飛び出したレギオンを鼻の一閃で無造作に即死させる象を見ながら腰に手を当ててふんぞり返った。
『うん、お互い頑張ろう』
「心得た、班長殿!」
モルモットは手を振り、凄まじい勢いで飛び離れ、次の持ち場へと向かっていった。
『さてと、僕の方もそろそろ始めないとね』
モルモットが飛んでいった方向を見つめながら、ブルドックも気合を入れ直し、周囲のドローンを一帯に集め、時折襲って来るレギオンや潜伏していた一般兵士を機銃で撃ち殺しながら瓦礫の撤去に勤しむのであった。
「……」
その様をモニターで見ながら、鳳凰院社長は物思いにふけっていた。
資金集めは誠に順調。瓦礫の撤去は聖光教やイミテーションが紹介してきた胡乱な警備会社ペットショップとやらの構成員のおかげで予定よりも120%ほどの進み具合である。
再開発の目処は立っており、早ければ半年で元通り、否、さらなる改良すら加えられる事であろう。
金。莫大な金が消費され、その消費分を補って尚余りある莫大な金が再び満たされるはずだ。
満たされる。なのに、満たされない。
この矛盾。この乾き。果たして如何様な手段であれば潤す事が出来るのか。
彼には分からない。彼には理解できない。
金。金。金。あればあるだけ良い物。この世で唯一裏切らない物。
あぁしかし。結局の所それは紙の束でしかない。社会というものの中では価値あるものだが、一歩外に出ればそれは何の価値も無くなる。独りでは、金など何の役にも立たないのだ。
それを、彼は無意識の内で悟っている。だからこそ、彼は乾いていた。彼は飢えていた。それを解消できる方法を知り得ないまま、時は過ぎてゆく。
変わらない価値。変わらない自分。変わりゆく社会。変わりつつある娘。…………変わらない悪魔。
奴ならば、この渇きを潤す方法を知っているのだろうか? あるいは、娘はもうその答えを得たのだろうか?
分からない。分からない。理解できない。
懊悩は続く。時は過ぎてゆく。
殺風景な部屋の中、ただ一人佇む鳳凰院社長は、ただ独り延々と解の出ない問題を前に立ち往生していた。
■
6『健康センター 休憩所』
「あ゛ぁ゛~……」
「え゛ぇ゛~……」
休憩所に備え付けられたマッサージチェアに身を委ねながら、みみ子とみみ蔵はだらしなく体を弛緩させていた。
「い゛ぃ゛~……」
「う゛ぅ゛~……」
完全にトリップした二人の体へ、マッサージチェアは徐々に振動を強くしていった。
「え゛ぇ゛~……」
「お゛ぉ゛~……」
振動は遂に最高潮を迎えた。
「あ゛ぁ゛~……」
「お゛ぉ゛~……」
至福の時間は続く。夢心地の中、マッサージチェアは付き合っていられないとばかりにその振動を止めたのであった。