影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter9 妖怪大戦争』

 拝啓 イミテーション様

 

 

 木の葉も鮮やかに色づきだし、金木犀の甘い香りが漂い始めました。風もやや肌寒さを感じるようになりましたが、いかがお過ごしでしょうか

 

 

 この度は私、虚部隊総大将ぬらりひょんは来る10月○○日より、鳳凰院コーポレーション本社ビル前にて、貴方様に決闘を挑みたいと思い、この手紙を送りました

 

 

 当日は私達の偉大なる指揮者たる魔王閣下もご招待しております

 

 

 イミテーション様におきましても、配下の猟犬様方、ご友人の勇者様方もぜひともお呼びいただけますよう、心よりお待ちしております

 

 

 どうか、良き死合を  

 

 

                         敬具 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 銀杏の木が等間隔に植えられた道を、僕の犬たちを引き連れて、歩く。

 

 

 不等間隔で立つ、カメラを抱えた下賤な野良犬をかき分けて、歩く。

 

 

 冬の予感を感じさせる冷たさを孕んだ風が頬を撫で、脇を通り抜けてゆく。強い風を受けて、肩に羽織った黒いコートがぱたぱたとはためいた。かぶっていた黒のフェルトハットが飛んでいかないように、押さえつける。

 

 

 かけていたサングラスを直し、俺たちはゆっくりと歩み進む。生者の行進か、はたまた死出の旅となるのか。

 

 

 どうしてこうなった、などという疑問は、あの風と共に俺の胸の中から飛び出し、宙で踊り、手を振りながら風と共に去っていった。

 

 

 どうしてとか、何でとか、最早そのような段階は超越し、遥か高次元の高みから俺を見下ろして笑っていた。

 

 

 そういえば、11月の初めにこの通りで祭りが行われるんだったな。もし参加できたのならば、ペットショップ(うちの犬ども)が警備をする中、千歳に引っ張られて人ごみの中を歩かされることになるに違いない。

 

 

 そんな取り留めも無い事を考えながら、木の葉が木枯らしに蹴散らされる道を、歩く。

 

 

 緑の中に鮮やかな黄色が混じり始めた銀杏の木。ほのかに香る金木犀の甘い香り。秋特有の眠たくなるような穏やかな空気。

 

 

 雑草のように乱立する野次馬共が、聖者に割られた海さながらに左右に分かたれて出来た道を、進む。生きるために。死を打破するために。

 

 

 無粋にもフラッシュを焚くカメラ。パシャパシャと、されど誰も言葉を発さない。いくら野良犬でも、決闘前に話しかけるような愚は犯さないという事か。

 

 

 果たし状は虚部隊の悪だくみをくじき、泥と化した闇の者の死体を聖光教のエージェントに片付けさせている時に、ふと懐に違和感を感じ、取り出してみれば、それは果たし状であった。

 

 

 白状しよう。この時、俺は相当に動揺した。

 

 

 何故? どうして? 

 

 

 頭の中を、どうしてと何故が占領し、まるで洪水さながらに俺の中を蹂躙した。

 

 

 あの時理解できなかったことは、当日になった今でも分からない。きっと、俺には理解できない理屈で、あの()()()()()()()()()()は俺を指名したのだろう。

 

 

 他者の事など、完全に理解する事などできやしない。ましてや完全に狂った闇の者、それよりさらに理解できなくなった闇の泥相手の思考回路なんて、常人に推し測る事などできるはずも無いのだ。

 

 

 動揺して俺は、どうしようもない程の凡ミスにすら気が付かなかった。果たし状を握りしめたまま帰還してしまったのだ。

 

 

 戻ってみれば、光の神はさも当然のように我らが〝巣〟にてシバイヌより振舞われた茶菓子に舌鼓を打っていた。

 

 

 光の神は目敏く俺の握りしめる呪物を見咎めた。

 

 

 俺は手の中からひったくられる手紙を、ただ目で追う事しかできなかった。あれよあれよよと回し読みされ、決闘の話は仲間間の間で瞬く間に共有された。

 

 

 目をキラキラと輝かせた光の神は、俺の掴みをすり抜けて消え去り、次の日には俺とぬらりひょんとの決闘を大々的に発表した。

 

 

 全てのプランは水泡に帰した。暗夜とマンツーマンで練り上げた対ぬらりひょん攻略方も。攪乱戦術も。何もかもが。

 

 

 ビーハイブと共に、俺が持つゲーム知識を交えた情報収集により得られたいくつかの切り札。

 

 

 暗夜との戦闘時に意識を逸らす為に集めた懐刀は、手の中から滑り落ち、ガラス細工の様に砕け散り、全て無意味になった。

 

 

 裸一貫で霊峰へと挑むような物だ。俺は今、死の淵にいる。助けてくれるものはおらず、武器になるものは培ってきた技術と、山のように積み重ねられた屍から取り込んだ経験だけ。

 

 

 数多の怨念を糧に、果たして俺はどれほどの男となったのか。自分自身の姿を、自分で見ることはできない。客観視をする事など、真の意味では出来やしないのだ。

 

 

 やがて、摩天楼の中にあってなお雄々しく聳え立つ鳳凰院コーポレーション本社ビルが見えてきた。そしてその前に、開けた空間の中に、小さな霊峰が佇んでいた。

 

 

「来ましたねぇ……」

 

 

 しわがれた声が、編み笠を目深にかぶった老人から発せられた。その背後には長剣を携え、黒い鎧で全身を覆った偉丈夫が立っていた。円形のフィールドの半分を囲むように、直立不動の姿勢で虚無僧兵たちが立つ。

 

 

「……」

 

 

 刺すような視線が、魔王より発せられる。重圧がかかるが、適当に受け流す。

 

 

 別方向からも同様の視線。否、こちらの方が感情が籠っている。決して良いとは言えない感情が渦を巻く視線が。

 

 

 眼だけを向ける。尋常ならざる殺意を滾らせた白い偉丈夫が、そこにいた。傍らには子供のように目を輝かせた眉目秀麗な白髪の少女、光の神が、横にいる茶髪の少年に絡んでいた。

 

 

 茶髪の少年、暗夜は絡んで来る光の神に全く反応せず、ただ強張った顔をこちらへと向けていた。その隣には流れる金髪の少女。黒髪の長髪の凛々しい少女。白髪の髪を束ねた少女。そして我が半身が。

 

 

 績も、軌陸も、エミリーも、暗夜と同様に表情は強張っており、その目は不安げに揺れていた。

 

 

 唯一千歳だけが、全く動じずに俺を見ていた。見つめ返す。彼女は鼻を鳴らした。勝ってこい。そう言いたげに。

 

 

「……」

 

 

 それよりやや離れた地点に、鳳凰院社長が揺れる瞳で浅い呼吸を繰り返していた。見つめる。呼吸の感覚はますます早まった。

 

 

 鼻を鳴らし、目を逸らして前を見据える。

 

 

 目深にかぶった編み笠で老人の表情は窺い知る事は出来ないが、雰囲気で、小さなものを弄ぶ嗜虐に大層な喜びを感じている事を悟った。

 

 

 前に出る。後ろの僕たちも続く。そして、畳五枚分ほどの距離で止まる。

 

 

 控えていたチワワが葉巻を差し出してきた。手に取り、咥える。ポメラニアンがマッチを擦り、火をつけた。

 

 

「保健所、全員集合ですか。壮観ですなぁ」

 

 

 そう言いながら、老人は笠をゆっくりと取った。

 

 

 その奥から出てきた異形の頭に、周囲の野良犬たちが息を飲んだ。

 

 

 首から下は、何の変哲もない着物を着た老人である。しかし首から上、閉じられた瞳。完全なる禿頭の頭。そして、一際目を引くのは異様に出っ張った後頭部だ。

 

 

 頭部というより、まるで昆虫の下腹部だ。何が詰まっているのか、時折蠕動してはほのかに黒い光を放っていた。

 

 

「どうもどうも、わざわざ遠くからご足労いただき誠にありがとうございまする」

 

 

 妖怪は慇懃にお辞儀した。

 

 

「お久しぶりでございます。継承の儀以来でございますなぁ。いやはやあの時から随分と立派になられました。我々一同としても、鼻が高い」

「御託は結構」

 

 

 紫煙を吐きながら、言い捨てると、肩をゆすって笑っていたぬらりひょんの動きが止まった。閉じていた瞼をゆっくりと開けた。

 

 

 無限の闇がこちらを覗く。理解不能な闇。俺を陥れる地獄への入り口。

 

 

「虚部隊総大将 ぬらりひょん」

「ご丁寧にどうも、〝保健所〟所長(ボス)イミテーションです」

 

 

 葉巻を踏み消し、残った紫煙を肺から吐き出しながら返す。

 

 

 サングラスを外してシバイヌへ手渡し、帽子を取ってプードルへと差し出す。受け取ったプードルは帽子を掻き抱き、一歩後ろへと下がった。

 

 

 トサケンにコートを脱がされ、レトリバーによって鋼鉄籠手(ガントレット)が嵌められた。

 

 

 ニンゲンドックが肩に手を置く。俺は頷いた。

 

 

「両者、構え」

 

 

 間に立った光の神が、俺とぬらりひょんを交互に見た。

 

 

「これより両陣営合意の元、光暗決闘を開始する!」

 

 

 合意なんかしてねーぞ。言葉を飲み込み、構える。ぬらりひょんも腰の長ドスに手を添えた。

 

 

決闘(デュエル)開始ィイイイイイ!」

 

 

 かくして火蓋は切って落とされた。

 

 

 妖怪の薄ら笑い。俺は踏み込んだ。

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