影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter9 妖怪大戦争』④

「「あぁーっ!」」

 

 

 振り下ろされる鋭利な半透明状の物体を、僅かに後ろに下がって最小限でかわす。空振りした半透明上物体は、地面を何の抵抗も無く切り裂いた。

 

 

((やはり〝空間刃〟への防御は無意味。全てかわすしかねぇか……))

 

 

 深々と切り裂かれた地面を一瞥し、イミテーションは舌打ちする。

 

 

 のっぺらぼうが握りしめる半透明状物体の正体は、切り取られた空間である。

 

 

 瞬間移動、あるいは時空間を司る何かしらの異能の持ち主は、最終的に限定的ではあるが空間そのものへの干渉が可能となる。

 

 

 そしてこの怪物が扱う空間刃もその一つ。空間の一部を切り取り、まるで武器のように振るう事が出来るのだ。

 

 

 この空間刃を前に防御という行為はまるで意味をなさない。闇だろうが光だろうが異能による盾であろうが、全てを一切の容赦も慈悲も無く、濡れた紙の如くあっさりと叩き割る。

 

 

 一応防ぐ手段は存在するが、どの手段も今のイミテーションには縁なき話である。故に、全てをかわす事を余儀なくされるのだ。

 

 

 ゲームでもこの空間刃はすさまじい脅威であり、第一形態のぬらりひょんのゲージを全て削り終えた後に出てきたのっぺらぼうのこの空間刃に一瞬で削り切られてゲームオーバーにされた初見プレイヤーが続出した。

 

 

「「あはははは!」」

 

 

 のっぺらぼうは嬉々として笑った。子供のように無垢な、しかし老人の様に枯れ果てた、そんな笑みだった。そして彼の周囲に、数えるのすら億劫な量の空間刃が生成された。

 

 

((出るかのっぺらぼうの〝弾幕ゲー〟!))

 

 

 そのように考えた瞬間、生成された空間刃がイミテーション目がけて一斉に降り注いだ! 

 

 

 そう、この空間刃による面制圧攻撃こそが、ぬらりひょんの、のっぺらぼうの真骨頂である。圧倒的なまでの手数に加え、完全防御無視の即死攻撃である空間刃。初見のプレイヤーはこの制圧攻撃の洗礼を受け、何とか潜り抜けても当然のように握られた空間刃でカウンターを受けて撃破されてしまう。

 

 

 だが何度かコンテニューしていくと、降り注ぐ空間刃にパターンがある事に気が付く。潜り抜けた先のカウンター攻撃も、動きこそ速いが動き自体はかなり単調であり、避ける事に集中すればさほど難しくなくかわし切れる。

 

 

 そしてかわし切ると大きな隙を晒すので、そこで初めて攻撃する事を覚えてゆくのだ。

 

 

 総評して、初見だと苦戦するが慣れてくると単調な作業ゲーとなるため、あまり戦っていて楽しいボスではないという評価に落ち着いた。体力自体も他のボスに比べれば少ないため、ぬらりひょんとの戦いはタイムアタックでは休憩時間として扱われていた。

 

 

 だが現実ではどうだろうか? 

 

 

 当然意思を持つこの世界ではパターンなど存在しない。定型ではない。同じ愚など犯さない。これはゲームではない。救済措置など無い。死ねば終わりだ。コンテニューなどという生易しいものは存在しないのだ。

 

 

「ガキ! 空間刃だ! 防御すんな! 腕ごと持ってかれるぞ!」

 

 

 光の神のアドバイスが、酷く遅い。やがて声すらも届かなくなり、主観時間はほぼ完全に静止した。

 

 

((舐めんなコラ!))

 

 

 瞬時に脱力、力を解放して空間刃が到達する前にのっぺらぼうの眼前に出現! 拳を突き出す! 

 

 

「「わあっ!」」

 

 

 無邪気に驚いたようにも、深い憎悪の雄たけびにも似た声をのっぺらぼうは発した。その顔面に左上段突きが突き刺さる! 

 

 

 しかし、衝撃が完全に伝わるよりも早くのっぺらぼうはバツンと音を立てて消失! 

 

 

「──────ッ!」

 

 

 イミテーションは脳裏に閃く死の予感に突き動かされて黒炎を纏った裏拳を放つ! 拳は今まさに首筋に向けて振り下ろされた手首を打ち、ギリギリの所で弾き逸らした。

 

 

 危ない所であった。あと0.01秒遅ければ、首に大穴が開いていたところだった。

 

 

「「あちゃー」」

 

 

 口惜し気なのっぺらぼうのため息。瞬間的な脱力から踏み込み、その体に黒と白に燃える12の打撃を叩き込む! 

 

 

 しかしのっぺらぼう、再びの空間跳躍! 打撃の衝撃を瞬間移動で踏み倒し、強引に攻撃に撃って出た! 右手空間刃による刺突が迫る! 

 

 

「はっ!」

 

 

 イミテーションは空間刃に触れぬように腕に手を添えることによって逸らし、カウンターの右クロスを叩き込む! 

 

 

「「あはは!」」

 

 

 鼻先に白炎が燃える拳が触れた瞬間にのっぺらぼうは消失! イミテーションの真横に出現した彼は、周囲に旋回させていた空間の薄刃をイミテーション目がけて射出した! 

 

 

「ふん!」

 

 

 だが、イミテーションの体を空間刃が素通りしたかと思えばのっぺらぼうの真後ろにその姿はあった。気が付き、振り向きながらの空間刃回転斬撃が届く前に強烈なサイドキックを叩き込んだ! 

 

 

「「わたしはァアアアア!」」

 

 

 だがつま先が脇腹にめり込み、最大の威力を発揮する前にのっぺらぼうは消失! 次の瞬間、イミテーション目がけて豪雨の如き空間刃が降り注ぐ! 

 

 

 万象の一切合切を無慈悲に切り刻む死の雨が降る! 悪魔は、踏み込む! 

 

 

「何とっ!?」

「ぬぅ……」

 

 

 光の神は目を剥いた。魔王すらもが押し黙った。

 

 

 悪魔は豪雨の只中を駆ける。駆ける! 己の身が切り裂かれる事すら厭わず死が満ちる空間を稲妻の如く切り裂き、フィールドのほぼ反対側に立っていたのっぺらぼうの眼前に出現した! 

 

 

 彼の身は空間刃を紙一重で躱したがゆえに傷だらけである。だが、致命傷は一つとして負ってはいない。何という狂気的な腕前か。

 

 

 これが人の(わざ)か? この場の強者たちは全く同じことを思った。それほどまでに、イミテーションの戦闘技能は常軌を逸していた。

 

 

 異能を使えば、ある意味では似た様な挙動は可能であろう。しかし、あの男は攻撃の瞬間にだけ異能を使うばかりで、それ以外は完全に生身であった。

 

 

 裸一貫で数百年を生きる大妖怪を相手にするなど狂っている。あれほど道楽気分で観戦していた光の神ですらも、今や真顔であった。その額には一筋の汗が流れていた。

 

 

「……」

 

 

 まるで神話の如き凄惨な戦いを前に、暗夜は固唾を飲んで見守っていた。彼の脳裏に過るのは、果たし状が届く前の対ぬらりひょん攻略の戦法を話し合った時の事であった。

 

 

『ぬらりひょんの異能は瞬間移動です』

『瞬間移動?』

 

 

 小首をかしげる暗夜へ、イミテーションは頷いた。

 

 

『そうです。離れた地点へと一瞬で出現する、きわめて強力な異能です』

『お前がいつもやってるあれか?』

『あれはただそのように見せかけているだけの高速移動ですよ』

『うおっ!?』

 

 

 いつの間にか真横にいたイミテーションに、暗夜はひっくり返りそうになった。

 

 

『そして、空間系の異能の持ち主はえてして一つの(こたえ)へとたどり着きます』

『何だよ。そりゃ』

『それは──────』

 

 

 空間刃。空間系の異能の一つの終着点。切り取った空間を武器のように扱い、あらゆる防御を無意味とする絶殺の一振り。

 

 

 当たれば終わり。そのように聞いていた暗夜は、目の前で見せつけられた常軌を逸した光景に、ただ恐れ戦いた。当たれば必ず死ぬ攻撃を前に引きもせず、避けもせず、前に前にと進むなどと。とても正気とは思えなかった。

 

 

 イミテーション。暗夜は彼の事は友人だとは思っている。だが、それはそれとして、時々この男の事がまるで理解できない時がある。

 

 

 人かどうかすらも疑ってしまう時がある。特に、空間刃の事を教えた時の微笑みが、まるで。そう、まるで──────。

 

 

(悪魔みたいだ……)

 

 

 奈落の底のような瞳。暗夜に戦慄が走った。

 

 

「「だぁああああれぇええええ!」」

「はあっ!」

 

 

 イミテーションは首狩り旋回空間刃を首をひねるだけでかわし、振り下ろされる右空間刃斬撃を手首を打って弾き、左空間刃刺突を更に踏み込むことでかわす! 

 

 

 息がかかる程の超零距離! 悪魔はなおも踏み込む! 

 

 

「「ひっひひひひ!」」

 

 

 その身に瞬間的に叩き込まれた32の打撃を前に、のっぺらぼうは哄笑した。悪魔は顔面に向け鷲の爪で薙ぎにかかる!だが爪先が抉り取る寸前で妖怪の姿が消失した。

 

 

 消失を確認した瞬間にはイミテーションは後方宙がえりをしていた。やや遅れて空間刃が音の何十倍の速さで悪魔の残した残像を貫通した。飛んでいった空間刃はやじ馬の一人を貫通して即死させ、その背後の建物を貫通倒壊させて消えた。

 

 

「「ダレ? 私は誰? だれ? あはははは!」」

 

 

 狂気に身をくねらせ、妖怪は先ほどの豪雨よりも濃密な空間刃の面制圧攻撃を繰り出す! しかし悪魔はすでに眼前! 認識が追いつくよりもなお速く、その顔面を打ち抜いた! 

 

 

「「不遜也!」」

 

 

 超自然にエコーがかった憤怒の声が空間を震わせる。凄まじい圧力の放射。悪魔は躊躇いなく踏み込んだ。

 

 

「「むうん!」」

 

 

 超音速で振るわれたのっぺらぼうの偃月切りをハードル競技者の如く飛び越え、顔面に直蹴りを叩き込む! 

 

 

「「小癪!」」

 

 

 たたらを踏むのっぺらぼうへ、イミテーションはショートレンジの左右フックを6発ずつ叩き込む! 

 

 

「「ぐわっ!?」」

 

 

 内臓に直に叩き込まれた衝撃に、のっぺらぼうは血を吐いた。口も鼻も無い顔から夥しい量の黒い墨汁の様な粘液が噴出した。

 

 

 しかし攻撃にやや意識を割き過ぎたイミテーションは、背後より迫る空間刃に対応が遅れた。

 

 

「──―っ!」

 

 

 ギリギリの所で反応が間に合ったものの、かわし切れずに肩口を深々と切り裂かれた。鮮血が舞い、床にびちゃびちゃと滴った。

 

 

「ボスっ!?」

 

 

 犬の誰かしらの悲鳴。

 

 

「ぐぅっ」

 

 

 衝撃に、イミテーションは堪らず体勢を崩した。その体に、無数の空間刃が突き刺さった。

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