斯の存在の名を述べよ   作:千里亭希遊

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斯の存在の名を掴め。

差出人:萩原研二

- 「降谷ちゃん元気してる?

  今日さーまた爆弾事件起きたんだけど、時間内に解体できなくてさ、十億円だって! ほんっと悔しい!

  防爆装備の性質ってどうしてもアレだろ? 休憩挟む時間もあるにはあったけど、マジ疲れた!

  陣平ちゃんみたいにワンラウンドって言えるようになりたいもんだねえ。

  俺ももっと頑張る。いつかお前に褒めてもらえるようにな!」

 

差出人:松田陣平

- 「聞けよ。

  萩原の奴、防爆装備着ねーまま解体再開してやがった。

  焦ってたのもあるだろーが、休憩は休憩、作業は作業、しっかり分けろっつの。

  しかし変な電話があったらしーな。

  考えてみりゃ、一人も避難させるな、なんて両方監視してねーと言えねーわな。」

 

 降谷は思わず返信しようとして抑えた。

 萩原、お前が解体できなかったんなら相当だろう。あとこれ暗にまた会おうって言ってるな?

 松田はきっと萩原に滅茶苦茶説教したんだろう? 程々にしてやれよ。まあ僕も多分口酸っぱくしただろうけど。

 

 変な電話って何だ? 松田は相変わらず言葉が足りないよ。

 

 

─────────────────────

 

 

「……やっぱりお出でなすったぜ。約束通りお前の仇は俺が取ってやるさ……」

 

 返答を期待しない呟きを、宛先とする親友以外の何者かが聞いていたことなど、彼は知りようもなかった。

 

 世話焼きな教育係がいつものように出してくれた捜査車両の助手席で、彼は一通のメールを受け取った。

 その差出人に驚愕する。

 

「もしかしてあなたが毎日泊まり込んでたのって……松田君?」

 

 佐藤が怪訝に名を呼ぶと、松田はニヒルに小さく笑った。

 

「……ハッ。つれねー友人殿が三年振りに連絡寄こしてきやがってな。少々驚いた」

 

 この、佐藤の先輩なのに後輩でついでに不本意な相棒は、少し言葉が少な過ぎる。

 しかしその三年という数字は先程聞いたばかりだ。

 

「三年って、この爆弾事件に関係してる人だったりする?」

「全然関係ねー。だが、中身は大アリらしい。『もう一つは米花中央病院』だとよ。一体どこから見てやがるんだか……」

 

 佐藤ができるのは困惑くらいだ。彼は誰かに聞かせているつもりですらないのかもしれない。

 

「……え?」

「しゃーねー。関係あるほうの親友殿もテメェの仇はテメェで討ちてーだろうから、機動隊には俺から連絡しとく」

「えっと……え?」

 

 戸惑う佐藤を他所に、松田はただ前だけを向いて不敵に笑ったのみ。

 やがて『親友殿』のほうが松田からの着信に応えたようだった。

 

「よォ、例の予告についてはどうせ聞いてねーだろ? 俺たちしかほんとに起きると思ってねーみたいだからな」

 

 松田の声はどこか楽し気でさえあった。

 

「今回も二つ。一つは俺たち捜一が既に向かってる。もう一つは米花中央病院らしい。情報提供元は聞いて驚け、我らが首席殿だ」

『……っ、ハァ!?』

 

 電話相手が佐藤にも聞こえるくらい素っ頓狂な声を上げていた。

 

 首席殿、と聞いて佐藤はぼんやり予想を立てる。

 彼女は警察学校時代、一つ上、つまり松田たちのせいで、思い切り大変な思いをした。思い出してげんなりする程に。

 ただそのヤンチャだった先輩たちは優秀ではあったと聞きもした。

 こんな時にこんな事に対して『情報提供』なんてしてくるなら、警察学校以外の学友ではない気がした。

 

「ああ。何かしら根拠があんだろ。犯人様からのヒントにも合致するしな」

 

 ヒント? と佐藤は内心で首を傾げた。

 

「予告文? ああ、」

 

 松田は電話相手にすらすらとその内容を伝える。白鳥刑事が一度読み上げたのを聞いただけのはずだが、一言一句覚えているらしい。

 

「病院のほうは任せる。……んぁ? そうだ強行犯係だ。……うるせー。動ける奴が動きゃいいだろ。俺だって望んでここに居るわけじゃねー」

 

 佐藤は渋面になる。

 爆弾があると予想したのならまず特殊犯係と機動隊に連絡を入れるべきだったのかもしれない。

 

 そんな時、佐藤の携帯が鳴った。

 彼女は前を向いたまま片手でポケットからそれを取り出すと、松田の脚の横あたりに置く。

 

「……ねえ松田君、ウチの誰かからだったら出てくれない? こんな時だし」

 

 彼は発信者の名が『白鳥任三郎』であったため通話ボタンを押した。

 

「松田だ。佐藤は運転中。……マジかよ。三年前ので味占めやがったな……ああ、連絡ありがとうな」

 

 松田がドリンクホルダーに佐藤の携帯を立てているのを視界の端で認め、何を聞いたのかと彼女は口を開こうとした。

 

「なあ萩原(ハギ)、確定だろ、こりゃアイツらだ。とめて欲しけりゃ十億円寄こせだとよ」

 

 彼はまだ親友との通話を切っていなかったらしく、佐藤が問わずに済んだ。

 

「楽しいリベンジと行こうぜ。どっちが早いか競争だ」

 

 佐藤はジト目になりながら苦笑いを浮かべる。何て不謹慎な奴だろう。

 

 思えば彼が異動してきた時に、目暮警部は『去年まで警備部機動隊に所属していた変わり種』と紹介していた。

 だから彼は自信満々で直行しようとしたのだろう。思わず着いて来てしまったが自分たちの所属を思うと少し頭が痛い。

 

「……ねえ、三年前の事件ってどんなだったの?」

 

 向かっているからには、同一犯と思われる事件の内容は知っていた方が良いはずだ。

 

「あの時は本心から十億円が目当てだったんだろうな。最初から二か所とも場所を明示してきた。

 こっちの予想じゃ一つは本命、もう一つは混乱や戦力分断を狙ったダミー。

 爆発物処理班の解体担当は俺とさっきの電話相手だ。運悪く本命に当たっちまった方はその性悪さに手を焼いてな、カウントダウン終了前までに解体できないと判断した。

 それでまんまと十億円取られた上に逃がしちまってよォ。その日の内にFAXで『3』が届いた」

 

 松田がつらつらと詳細を教えてくれたのは少し意外だった。

 ……ただ、彼が配属されて一週間程の間に、傍若無人なだけではないかもしれない、と思い始めてはいるのだが。

 

「……そういやあの時は謎のタレコミがあったらしい。『犯人は二人いる』。『解決するまでリアルタイム中継以外の映像・音声の放送を許可するな』。偶然公衆電話の声を聞いただの、車にもう一人居ただの、二人の容貌だの、犯人を刺激するなだの言ってたらしいが、普通、聞かれるような距離に人がいる状況で脅迫電話なんかするか? けど、コレならあれも主席殿の仕業だったかもしれねーな」

 

 肩をすくめる松田に、佐藤はまたジト目になりながらの引きつり笑いを浮かべる。

 

 結局その日は彼らが二か所とも時間内に解体を完遂し、リベンジと相成ったようだったが、犯人の確保はできなかった。

 

 松田は独断専行を注意されたようだったが、解体できたためか罰則などが科されることはなかったらしい。

 

 佐藤はそれからもしばらく松田に振り回される日々を送ったが、比較的すぐに彼は希望通りの特殊犯係への異動が決まった。今回の成果が物を言ったのかもしれない。

 

「じゃあな。わりと楽しかったぜ」

「……少しは大人しくしなさいよ。SITに同情するわ」

「うるせーっての」

 

 佐藤は少し淋しさを覚えることに自嘲しながら、ふっと笑う。

 

「……あなたなら捕まえられると思うわ」

 

 彼がきょとりと目を丸くしたのは、サングラス越しに伝わっただろうか?

 

「……フッ」

 

 佐藤がよく見たニヒルな笑みを残して、彼は強行犯係を去って行った。

 

 

─────────────────────

 

 

差出人:萩原研二

- 「降谷ちゃん元気? ありがとな!

  今回はちゃんと解体できたぜ。

  汚名は返上できたかな?」

 

差出人:松田陣平

- 「おいてめーどこから情報手に入れやがった。

  まー、お前の所属はだいたい予想がつく。どうせソレだろ。もう警察相手取った連続テロみたいなもんだしな。

  今度会ったら根掘り葉掘り聞いてやっから、覚悟しとけよ」

 

 降谷の頭には疑問符が大量に飛び交った。

 問い返せない僕の方こそもどかしいぞ、と彼は渋面になった。

 

 

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()存在(モノ)の名を掴め。

 

 

 

────  v√ν ── ^v√γ ── ……




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三年前の爆弾事件で警察は犯人二人に逃走を許してしまいました。
タレコミした人間はたまたま犯人二人を見かけて追うことになり、諸々対策の甘い警察に苦言を呈してみたりしたけれど、やむにやまれぬ事情が発生し途中離脱を余儀なくされた。具体的に言うと公安の研修が入った。
あっさり十億円を手にしたと思ってる犯人たちは、味を占めてその日の内にまた爆弾事件を起こすことを決め、警視庁にカウントダウンの『3』を送り付けます。

二度目、十億円の要求は犯人たちにとってついででしかなく、完全に遊んでいます。今度は設置場所を探させることから始めてやろう、爆弾自体も二つを連動させて複雑にしてやろう、と、完全に愉快犯と化しています。警察をおちょくって無邪気に遊んでいるだけ。タチが悪い。
結局十億円も取れなかったし二つとも解体されてしまったけど、犯人たちは世間を揺るがして楽しめたので満足した。
さて次はもっと警察を困らせてやろうと色々練って、翌年からまた『3』を送ってカウントダウンする。
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