─────────────────────
──── v√ν ── ^v√γ ── ……
強行犯係に帰ってみれば殺人事件の張り込みでまた徹夜。
伊達はさすがに欠伸を噛み殺す。一緒に行動していた相棒の高木も隣でぼーっとしていた。
「警察学校時代から思ってるが、本当この町普通じゃねーな……」
思わずそんなぼやきも出るというもの。
隣の高木がふふっと笑った。
「あっちの本部ですごく目立ってた松田さんも、伊達さんの同期なんですよね?」
泥惨会との利権争いに捜査範囲を絞った本部に、散々反発していた松田の様子を高木は思い浮かべる。
伊達も松田と同意見で
「ああそうだ。ったく、何年経っても変わりゃしねえ」
呆れたように肩を竦める伊達だったが、その表情と声音は非常に楽し気なものだった。
「気になるなあ、すごく優秀だったけど問題だらけだったって風の噂で聞きましたよ」
ふはっと伊達は思わず噴き出した。
「誰だよそんなこと言ったの」
「だから噂ですってば。色んなとこでちらほら……伊達さんって首席だったんでしょう?」
揶揄うようにして詰め寄った伊達に少し身を引きながらたじたじとする高木だったが、目をキラキラさせ始めた。
尻尾をブンブンと振る柴の子犬をどこかに幻視しながら、伊達は溜息をついた。
「それこそ誰が言ってんだろうな。俺たちの代の主席は──」
ふと気づくと高木の向こうに、こちら方向へと歩いている人影が見えた。
「……あ?」
伊達は思わずぽかんとする。
遠目にも分かる珍しい風貌だ。
淡い金色の髪、ちらとだけ見えた空色の瞳、少し褐色に寄った肌、すらりとした長身。
丁度話題にしていた人物と瓜二つな容姿と雰囲気を持つその人は、しかしどう見ても女性だった。
顔はキャスケットを被っているせいでよく見えない。
無関係の人間だったら悪いとは思いつつ、伊達は思わずその人に駆け寄った。
「あの──」
声を掛けると顔を上げてくれたので、伊達はその顔を直視することになった。
瞠目する。
「伊達さん?」
高木もすぐ後ろに駆け寄って来たらしい。
「つかぬことをお伺いしますが、御親戚に降谷零という男がいませんか」
すると女性は首を傾げた。
少し考え込んだ様子を見せる。
やがて。
「うーん。……聞いたことないですね」
当然かもしれないが、聞こえてきたのは件の『 降谷零 』とは違う、女性そのものの声だった。
「そ、そうですか、申し訳ない。あまりにも似てたものですから」
「いえいえ。世の中そっくりさんが三人は居るって言うでしょう?」
そう言ってふわっと柔らかく笑う彼女に、「あ、零じゃねえな」と内心で彼は思った。
彼が柔らかい笑みかたをしないという意味ではない。ただ種類が違うと感じる。
「本当メチャクチャ似てるんですよ、双子かってくらい」
「そうなんですねえ」
こんな急な話にこうして相槌を打って笑ってくれるのだから、随分優しい人なのかもしれない。
「ほら、今丁度話してた俺らの代の首席だよ。この人に良く似てる男でな」
「えっ、伊達さんの同期……?」
言ってまじまじと彼女を見つめる高木に、少し伊達は顔を引きつらせる。
「俺に老け顔って言いてえんだろうが、あいつのほうも童顔だったんだよ。余計に同期にゃ見えねえだろうな……」
伊達ががしっと上から頭を掴んで少し揺すぶると、高木はヒィと悲鳴を上げた。
──そんな時だ。
「……あ!」
伊達と高木の後ろの方向を指して、彼女が息を飲んだ。
彼らが振り向くよりも先に轟音が鳴り響く。
車が路肩に突っ込んでいた。その左前面が無惨に壊れている。
伊達と高木は
彼女のほうへ駆け寄っていなければ、二人は巻き込まれていたかもしれない。
救急と警察に連絡を入れた三人は車に駆け寄り、運転手の救命に当たる。
同乗者はいなかった。そして幸い、運転手にも大きな怪我はないようだった。
「……寝ちまってた? ははッ、ちゃんと休めよ。まあ俺らも人のこと言えねえが」
ここ最近の徹夜続きを思って伊達は目を泳がせた。
「お忙しかったんですか?」
降谷そっくりの女性がきょとりとした目で聞いてくる。
「ああ、今も仕事帰りなんですよ……そうだ、名刺渡しときます。困ったことがあったら飛んできますからね」
「ありがとうございます。ああ、警察のかただったんですか、通りでテキパキしてらっしゃる……。しかしすみません私、名刺がなくって、えっと」
彼女は伊達と高木から名刺を受け取りつつ彼女は眉を下げて笑い、手帳を取り出して何事か書いていた。
「いやいや、気にしないで下さい」
「ふふ。同期さんに似てるっていうのが気になって。何かの縁って奴じゃないですかね」
彼女が綺麗に切り取ったページに書かれていたのはやはり名前と連絡先だった。
『 安室雪 』
雪の横には『すすぐ』と書いてある。
「『雪』で『すすぐ』って読むんですね。珍しい、綺麗な名前だ」
「夏目漱石の『漱』だったらかっこよかったんですが」
少しおどけて言った彼女に、伊達と高木はふふっと笑った。
綺麗なのに、という言葉はきっとこの場にそぐわない。人はどうしても無いものねだりをしがちな生き物だ。そもそも彼女は冗談めかしている。
「何だか秋晴れの下の稲穂が思い浮かびましたよ。その後、我が国の米所は雪の季節を迎える」
雪は目を見張る。小さく口を開けてすらいた。
「それから緑に包まれて、雨が零れて、豊かな土を作り、また何度も繰り返す。俺らの国はこんなにも美しい、ってな」
雪がふふっと笑った。
「……詩的ですね」
「似合わねえ、ってとこですか?」
「そんなことないですよ。国を愛するお巡りさんは、きっと強い」
眩しそうに目を細めて言われ、今度は伊達が少しだけ目を丸くした。
「あ、そろそろ行かないと。お巡りさんがた、いつもお仕事お疲れ様です。程々に、きちんと休んで下さいね」
時計を見てそう言った後、ぺこりと雪がお辞儀をするものだから、伊達と高木は何となく敬礼を返した。
歩き去る後ろに救急車や警察車両が到着するのを聞きながら、雪はぽつりと呟いた。
「──君はやはり、同じことを言うんだな……」
─────────────────────
差出人:伊達航
- 「今日お前そっくりな人に会った。
名は、雪って書いてすすぐって読むんだと。
世にそっくりさんが三人いるとして、あと一人揃ったら、
桜とかって名前に付いてそうだぜ。
なんて、柄にもなく哀愁漂うこと思っちまった。
たまには連絡しろよな!」
降谷はふっと口元を綻ばせた。
/
伊達さんの目に留まりそうなタイミングで顔を上げるなどしていた確信犯。
日本大好きな降谷さんを見てて、伊達さんは名と容姿を絡めて四季を想像したことがある、という設定です。
降谷さんと雪を並べて、あとは春っぽい人がいれば完結しそうだなあ、となっている。