あったかもしれない魔法の物語 作:ぴーこ
今日も、いつものように僕たちは集まっていた。大きな裏庭の、小さなガゼボに。でも小さくても確かに、僕たちの大きな居場所だった。
ジェフリーは何か難しい本を読みながら、イライザの入れた紅茶を飲む。
「うん。美味しい。また上達したんじゃないか?」
「もちろん!紅茶占いは味わう過程も大事なんだから!」
そんな会話を耳に入れながら、サンドラと僕は芝生に座り込みながらアイトワラスに杖をふる。
「インテリリーゴ!...これでこの子の言っていることが分かるはずだけど...」
「お!本当だ。流石だねサンドラ。これでこの子について詳しく調べられるね!」
あの事件以来仲良くなった僕たちは、【探求倶楽部】を立ち上げた。立ち上げたとは言っても、僕たちが集まって話すだけの場所。でも、たまに記憶喪失の幽霊の謎を解いたり、教頭室に隠された秘密の部屋を探索したりと、名に恥じぬ活動はしていると思っている。
今日も駄弁っているだけ...と思っていたんだけど。
「オカアサン...」
「お母さん?」
魔法をかけたアイトワラスが、ボソッと喋った。喋ったというよりは脳に語り掛けてくる。といった感じであったが。
「ねえサンドラ。これちょっと慣れるまでしんどいかもね」
「ええ。もう少し調整する必要があるかも」
「二人ともそんなこと話してる場合じゃないでしょ!ねえアイちゃん。お母さんってどういうこと?」
「まだアイちゃんと呼んでいるのか...ダサいからやめろといっただろうに...」
ギャーギャーと騒ぐ僕たちを無視するように、アイトワラスは更に言葉を紡ぎ続ける。
「サビシイ...オカアサン...」
...僕たちの間に沈黙が走る。流石に気まずいな...そう思っているとイライザが席から立ち、アイトワラスを抱っこする。
「そうだ!みんなでアイちゃんのお母さんを探してあげましょう!この子も親と離れ離れなんてかわいそうだわ!」
「ずっと悲しそうな声を出されると読書に支障が出るしな。俺も手伝おう」
「私ももう少し調整したいし、どんな副作用が出るかわからないから観察ついでに手伝うね」
「僕もアイトワラスの生態を知りたいし手伝うよ~」
「みんなありがとう!なら【探求倶楽部】活動開始だ~!」
おー!と手を上にあげる。アイトワラスもどこか嬉しそうにイライザの腕の中に納まってキュウ!と鳴いていた。
「まずは、この子がどこから来たのか探るのがいいと思うんだけど。イライザ。この子はどこで見つけたんだっけ」
「この子はベスティア先生の畜舎で見つけたんだよ!キュウ~って寂しそうに鳴いていたの!」
「なら、ベスティア先生にこの子はどこから来たのか聞きに行こうか。」
「そうだね~今の時間ならここからすぐの厩舎でグリフォンの世話をしているはずだよ~」
ベスティア先生は農夫のような出で立ちの優しい先生。魔法生物学の先生で、僕もよく放課後に厩舎の馬とかを触らしてもらっている。
「なら、さっそく会いに行こうか」
「さんせー!」
ジェフリーのその言葉で、僕たちは厩舎に向けて歩き始めた。この時は、まだこの子がそんな風に生まれたなんて知らなかったんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それで、この子について聞きに来たと」
グリフォンの毛並みをブラシで整えながらベスティア先生は問いかけてくる。長袖を着ているが、腕を伸ばした時に見える肌は古傷でいっぱいだ。それでもこんなに優しくグリフォンに接しているのだから本当にすごく優しい人なのだろうと思う。
「はい。私が魔法をかけて、動物の言葉が分かるようにしたんです」
「そうしたらアイちゃんがオカアサン...って喋ったから...この子は、あたしが畜舎で保護したから、畜舎の管理をしているベスティア先生なら何かわかるかな...と」
ふうん...と顎のりっぱな髭を触りながら考えるベスティア先生。ふと何かを思い出したような顔をしてから、そうだ。と口を開く。
「その子は確か、あの事件の前日ぐらいに保護したものだよね?あの時の畜舎は雨漏りがひどくてね。自分で直そうとも思ったんだけど、あいにく杖の調子が悪くて。教頭先生に修理を頼んでたんだ。そうしたら教頭先生はあっという間に直しちゃって。スゴイよね~僕もあの速度では無理だよ~。まあ...ボクは「巻き戻しの魔法ぐらいちゃんと使ってください。」って怒られたんだけど...」
怒られたことを思い出したベスティア先生は、ブラシを動かす速度が少し落ちてしまっていた。悪いことしちゃったな...と思いつつ先生に感謝を述べてこの場を去る。
「先生!ありがとうございました!絶対この子の親を見つけて見せます!」
「おう。頑張ってな~」
そう手を振っているベスティア先生を横目に、僕たちは森を進んでいく。校舎にいくには一番の近道!みんなは昼なのに薄暗い森に、少し興奮しながら前を進んでいる。まあ、僕も冒険感があって結構楽しんでいるけど!そういえばアイトワラスってイライザに保護される前はどうしてたんだろ...
「そういえば畜舎にいたってことだったけど、どうやって育ったのかな?」
ふと湧き出た疑問をみんなに聞いてみる。
うーん?と僕らより少し前を進んでいたイライザが木の幹にもたれかかって僕たちを見つめる。キュウ!と肩に乗っているアイトワラスも鳴いた。ああ、サンドラの魔法が切れちゃったみたいだ。
「うーん、鶏小屋にいたから、普通に鶏のエサを食べてたんじゃない?ほら!アイちゃん雑食だし」
「ああ。俺もそう思うけど。何か気になることでもあったのか?」
うーんと頭を掻きながら、少し考えた後に
「この子がもし野生なら鶏とか食べてそうなんだよなあ...って」
イライザは血まみれのアイちゃんを想像したのか少し吐きそうに。サンドラとジェフリーは確かに...と腕を組み考える。
「確かに...そっちのほうが自然だ...でもイライザ。君が拾った時には血まみれだとかそんなわけではなかったんだろ?」
「うぷ...うう...もちろん...そんなわけないじゃない!」
「そこから少し考えたんだけど...もしかしたらこのアイトワラス、もともと他の人に飼われていたのかも...」
みんなの視点がイライザに向く。イライザはえっ...えっ...と僕たちを見回して戸惑っている。
「え...あたし...もしかして盗んじゃった...?」
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校舎に入り、赤い絨毯に縦に広い廊下を通る。古臭いというか、古風というか。この学校の歴史と高潔さを感じられる廊下。途中、シルキーやブラウニーの屋敷妖精さんたちとすれ違った。ふきげんグランピーには「早起きしてくれないと困るんですよね」って小言を言われちゃった...
「とうとう着いたね...教頭室...」
威厳を放つ大きい漆黒の扉に、気圧される僕たち。普段なら絶対に入らないけど、今日は違う。
「アイちゃんについて何か聞きださないと...うう...怖いなあ」
「でもまあ、入るしかないだろう。失礼します!」
ジェフリーはコンコン!と二回ノックし、教頭室にずんずんと入る。その後に続いて僕たちもおそるおそる入る。
部屋の中心には黒い机、周りを本棚に囲まれていた。中庭に繋がる窓から差し込む光が、薄暗い部屋を舞っている埃を照らしていた。
「教頭先生は...不在みたいだね。」
「そうだね。また、別の時間に会いに行こうよ!」
そう話していると、イライザの肩に乗っていたアイトワラスが急に大きな声で鳴き始め、部屋の中を飛び回り始める。本棚や机の上の資料にぶつかり、部屋をぐちゃぐちゃにしていく。
「え!?いったいどうしたんだ!」
「待って!何か壊したらまた怒られる...!」
「サンドラ!アイちゃんが何を言ってるか分かるようにして!」
「うん!インテリリーゴ!!」
サンドラが杖をふると同時に僕の頭に声が流れ込んでくる。
「クサイ!クサイ!」
そう言ってアイトワラスは暴れ続け...ふとカチッという音が鳴る。
「「「「カチッ?」」」」
ゴゴゴ...という音とともに本棚が横に動いていく。そして、もともと本棚があった場所には下へと続く階段が隠されていた。
「なんだ...この階段は...?」
「...ねえ。みんな入ってみない...?」
「サンドラ!ダメに決まってるでしょ!」
「でも...この子の秘密が分かるかもしれないよ...」
「...」
僕らの間に沈黙が走る。お互いがお互いの顔を見合わせて、本当に入っていいものかと思案を巡らせる。そうしていると、ジェフリーがパン!と自分のほほをたたいた後、よし!と口を開く。
「みんな!入ろう!ただし!何か危ないこと起こったら必ず逃げる!これでどうだ!」
「うん。そうしよう」
「あの教頭が何をしているか気になるしね~」
「私はそれで大丈夫」
「満場一致だ!入るぞ!」
そうしてジェフリーがイルミナー!と明かりの呪文を唱え、前を進んでいく。アイトワラスは、なぜか静かになっていた。
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階段をコツ...コツ...と進んでいく。真っ暗闇で、頼れるのはジェフリーの杖の先から出ている明かりだけ。教頭室から差し込んでくる光はとっくになくなっていた。
「ねぇ...やっぱり引き返さない...?」
「でもここまで来たんだからさ...あの教頭が何をしているか気になるし」
ジェフリーの足が止まり、「扉だ...」と呟いて、こちらを振り向く。
どうしようか...とサンドラと顔を見合わせていると、イライザがおずおずと「開けてみる...?」といった。それを聞いたジェフリーが「開けるぞ...」と両手でバン!と勢いよく扉を開ける。
目の前に広がるのは緑の光に満たされた部屋。グリフォンが4匹も入るだろう横幅のだだっ広い空間の両側にはポコポコと泡が浮き上がる緑の液体に満たされたガラスの容器。そしてその中には...
「これは...蛇...?」
様々な種類の動物が、液体の中で目を閉じていた。
「ねえ...これって不味いんじゃ...」
全員がそう思っている中、イライザが一つの容器を指さしていた。
「これって...アイちゃん...?」
確かにそこにはアイトワラスが眠っていた。僕には違いが判らなかったが、イライザは「絶対そうだ...」と呟いていた。
「もしかして...クローンってことか...?!」
「クローン技術は、魔法界刑法で禁止されてるはずだよね...!?」
「わからない...だが同じアイトワラスがいるんだ...」
僕たちは気づかなかった。目の前の信じられないことに夢中になっていた。突然部屋の明かりがつき、視界が真っ白に染まる。少しづつ目を慣らしていると後ろから
「どうやって入ったんですか?」
と声がした。振り返るとそこには教頭先生が立っていた。普段着ているはずの漆黒のローブが、今はなんだか怖いもののように感じる。
「きょ...うとう先生...」
「はい。教頭先生ですよ。それで、どうやって入ったんですか?」
「えと...本棚が動いて...それで...」
「そんなことより!教頭先生!動物のクローンは魔法界刑法で禁止されてるはずですよね!」
「ええ...?まあクローンは禁止されていますが。それが?」
ギロっとこちらをにらんでくる。目の前の魔法使いは、はあ...とため息をつき、言葉を紡ぎ始める。
「勝手に教頭室に入ったこと、部屋を荒らしたこと。いろいろ言いたいことはありますが、とりあえず、また課外活動禁止は免れないものと思ってくださいね。詳しいことは、また明日聞きます。」
「...」
「ほら。早くここから出てください。全く...」
僕たちは無言のまま部屋を出る。階段をのぼり、寮へと戻った。あのアイトワラスが人になついていたこと...教頭先生が黒魔術師だったこと...色んなもやもやとした気持ちを抱えながら、僕たちはベットで泥のように眠った。
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「それで、どうしてあんなことをしたんですか?」
翌日、僕たちは裏庭に集められ、教頭先生に問い詰められていた。前の事件の時と似たような感じだな、とは少し感じたが、それを口に出すと怒られるだろうとも感じた。
「えと...こっ、この子の、この子がどうやってここに来たか知りたくて...ベスティア先生が畜舎のことなら、教頭先生に聞けって...」
涙ぐみながらイライザが声を出す。僕は何も言えなかった。
「はあ。全く。そんなことであの研究室に入ったんですか?あそこは危ないものが置いてあるから隠してあったというのに...」
「そうです!あの研究所は何なんですか!先生は黒魔術師だったんですか!」
「...?さっきから何をいって」
「とぼけないでください!俺たちは見たんです!緑の液体に、いろんな生物が浮かんでいるのを!」
そうやってジェフリーは教頭先生をにらみつける。教頭先生も、ジェフリーを見つめ返す。そうして沈黙が続く。
「ああ。教頭先生。どうしたんですかこんなとこで...ってあれ。キミたちは...また何かしたのかい...?」
僕たちの間に広がっていた沈黙を破ったのは畜舎から来たであろう、檻に入れた鶏を連れたベスティア先生だった。ええと...と頭をポリポリかきながら何があったか聞いてくる。
「それで...なんでキミたちは怒られているんだい...?」
「それは...教頭先生の研究室に入ったからで...」
「ああ。教頭室の?そりゃ怒られるよ。あそこ肌がデロデロになる液体とかあるんだから」
「それでも!クローンは認められるわけじゃないでしょう?!」
「...?クローン...?教頭先生はそんなことはしていないよ?」
「なら!このアイトワラスは一体どういうことなんですか!」
そういってジェフリーはイライザの胸に抱えられたアイトワラスを指さす。
「アイトワラスが!鶏を食べないなんて変だと思って調べたんだ!そうしたら緑の液体の中にアイトワラスが浮かんでいて...!」
ベスティア先生はきょとんとした顔をして、僕たちを見る。
「いや、アイトワラスは鶏を食べないよ?」
「「「「え?」」」」
僕たちもきょとんとした顔を浮かべる。
「そりゃそうでしょ。アイトワラスは鶏から生まれるんだから。親を食べるわけないでしょ~」
ベスティア先生がそう言い、鶏を檻から出すとイライザの胸の中にいたアイトワラスがベスティア先生の隣の雄鶏に「オカアサン!オカアサン!」とすり寄っていく。
「...え?じゃああの施設って...」
「あれは私の研究室です。法に触れるようなことはしていません!」
「てことは...私たちの勘違い...?」
僕たちはお互いに目を見合わせる。
「そっかあ...あたしたちの早とちりかあ...」
「...それで、何か言うことはありませんか?」
「「「「ごめんなさい!」」」」
そういって僕たちは教頭先生に謝った。ベスティア先生は「このアイトワラスを思ってのことだから...」と庇ってくれたが、教頭先生からはみっちりと説教され、1か月の課外活動禁止を命じられた。
「...次からはちゃんと調べてから動こっか...」
「賛成...」
アイトワラスは何も気にせずにキュウ!と僕たちの部屋を飛び回っていた。