本日、本部の開発室にこもりきりだったクローニンが久しぶりに玉狛に帰ってきた。
「遅くなっちゃったけど、B級昇格おめでとう赤松」
夕飯後、リビングのテレビを占領して陽太郎とWiiリゾートで遊んでいるとクローニンから声をかけられる。最初の時は声を掛けられたら内心ビクッとしていた飛塚だが今では普通に反応出来る。慣れたものだ。
ゲームをやっている都合上クローニンの方は向けないので、飛塚はそのままの体勢でお礼を言う。
B級昇格の事は小南あたりから聞いたのだろうか?と聞くと、
「うん。入隊式があった日の夜にね」
忙しかっただろうに小南が申し訳ない。迷惑料として自分に出来る事があれば言って欲しい。と伝える。
「完全に桐絵嬢のこと妹かなにかだと思ってるね。うーん。だったら今度試作のトリガー使ってもらおっかな。アレ結構トリオン喰うから」
「了解」
試作トリガー、性能をまだまだ上げられたりトリオン効率をもっと抑えられたり、そんな感じのトリガーだと飛塚は記憶している。
思えば、彼が使っているテレポーターも試作中のトリガーだ。だからやたらとエンジニアの人たちに使った感想を聞かれたのかと今更ながら腑に落ちる。
「あ………」
その時、クローニンの視線がテレビ画面に釘付けになる。
ゲームにおいてチートなサイドエフェクトを持っていながら飛塚が陽太郎に負けたのだ。
「やったー!」
「やられた」
「ふっ。まだまだだなあかまつ」
「うん。陽太郎は強い」
まるで本当の兄弟みたいな光景にクローニンは安心する。が、気付く。
(…………それだと瑠花嬢と赤松が結婚してる事になるな)
しかし本部にいた時に飛塚の写真を見せたら顔を真っ赤にして数時間ソレを眺めていたから大丈夫か。と1人納得する。
話を戻し、飛塚が玉狛に来た当初はあまりの仏頂面にもしかしたら子供嫌いなのではと疑ったりもしたが、蓋を開けてみればゲロ甘の優しい少年だった。
他にも、嵐山の話では佐鳥や時枝にも度々食事を奢っている光景が目撃されている事から歳下の人間を特別視しているのは間違いないだろう。
ソレをふまえて、改めて考えると小南に対する態度も随分甘いもので、さっきは冗談で妹なんて言ったのだが割と本気で思っているのかもしれない。
「そうだ。昇格祝いにトリガー見てあげよう。どうせスコーピオンとテレポーターしか入れてないでしょ。この機会に新しいトリガーを試してみな」
クローニンの言う通り飛塚のトリガー構成は最初からいっさいいじっておらず、メインとサブ両方にスコーピオン、サブにテレポーターという簡素な物だ。
「せめてシールドは入れなよ」
シールド…………シールドかぁ〜。
シールド無し構成にもはやアイデンティティを感じている飛塚は渋い顔(実際はずっと無表情)をする。確かにランク戦で欲しい場面は数回あったが大体サイドエフェクトで何とかなるので極力シールドは入れたくない。
まぁ結局は自分だけの特別感が欲しい年頃の少年のわがままだ。
そんな事より新しいトリガーを試してみたい。
「色々あるけど…ま、オレは戦闘員じゃないから、口で言うより実際に使う方が早いか。トレーニングルーム行こう」
「わかった」
◆◇◆
飛塚から受け取ったトリガーホルダーの蓋を開きチューブを繋げる。その周りには各トリガーのチップがずらり。
まずはどれから試そうかと悩む飛塚と、見守るクローニン。
「で、なんのトリガー使うの?」
そして途中からついてきた小南だ。
「ちなみにオススメは双月よ!」
小南が何か言っているが飛塚はスルーする。
やはり新しく付けるなら苦手なトリガーへの対抗手段がいい。
ランク戦をした中で、苦手意識があるのはメテオラだ。他の弾と同じ感覚で斬ると爆発してそのままお陀仏。というパターンが10回以上はあった。なので安全圏から撃ち落とせる中距離のトリガーが欲しい。
「オッケー。銃か弾どっちがいい?」
少し迷う。銃という単語が子供心を擽るが、ここは冷静に。
何かを上達するには経験者からのアドバイスが重要だ。そして射手には友達である出水がいる。比べて銃手には仲の良い者はいない。以上をふまえれば、もはや選択肢は一択だ。
「オーケー。弾ね。アステロイドでいい?」
「メテオラがおすすめよ!」
「桐絵嬢どんだけお揃いにしたいの…」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
またもや思案。撃ち合いすると言っても、あくまで飛塚は攻撃手なので隙あらば距離を詰めたい訳で、その場合メテオラだと弾と一緒に攻める際に自爆しかねない。
バイパーは……リアルタイムの弾道作りは論外。場面によってのマニュアル使い分けもテンパりやすい飛塚にはミスマッチに思える。
となればアステロイドかハウンドか。
クローニンにその2つをセットしてもらい、飛塚と小南はトレーニングルームに入る。すると殺風景だった内装がみるみる変わり、市街地に切り替わった。
「じゃ、まずはアレに向かって撃ってみなさい」
そう言った小南が指差したのは背の高い団地の屋上にある貯水タンク。
言われた通りに撃ち落とすためアステロイドを起動する。
「─アステロイド」
「デカいわね」
掌に出現したキューブは小南の言う通り巨大であった。目測、出水の倍以上あるそのキューブを飛塚は慣れない手つきでに分割していく。
最終的に125個になったキューブの全てを目標に狙いを定め放った。ハズだった。
キューブは一瞬発光すると、飛塚の想像とは違い四方八方に飛び散っていく。それらは地面や周囲の建物、そして2人のトリオン体をも貫く。
『『トリオン供給機関破損。トリオン体再構築完了』』
2つに重なった電子音声が鳴り、真っ暗だった視界がクリアになる。
「……今の、ワザと?」
まだ目がチカチカしているのか、半目の小南がおどろおどろしい声で問う。
フルフルと首を振り否定する飛塚。気を取り直して2度、3度とアステロイドを射出していくが、何度試してもキューブはあらぬ方向にとんでいく。
ならばと、分割をしないでそのまま丸々撃ってみたが、どデカいアステロイドが飛塚と小南の脛から上を消し飛ばした。
◆◇◆◇◆
「そんで、結局銃にしたのかよ」
「そうだね……」
「まぁお前のトリオン量で
日を跨いだ正午。飛塚は出水を誘い個人ランク戦のロビーに来ていた。
そこまでやって、改めて拳銃の使い勝手の良さを感じている。今まで中距離相手には、スコーピオンを盾にしたりサイドエフェクトで弾を斬りながら突っ込むしか無かったが、
今は持ち前のトリオン量から来る射程と威力で撃ち合いが出来る。
自慢気な雰囲気を出す飛塚だったが、その様子を見た出水は苦笑いを浮かべる。
「つーか。撃ち合いがどうのって結局シールド入れれば解決だったんじゃねーの?お前なら片方シールド片方スコーピオンでもシールド割られずに距離詰めれるだろ」
「………いや、あー」
「変な意地張らないで入れた方がいいって、現にブチ切れてる人もいるし。あの人怒ると怖えぞ」
「え」
その場面を想像したのか、出水の頬に冷や汗が垂れる。そんな反応をされると飛塚まで内心焦ってしまう。
口ぶりから、そのブチ切れてるという人間というのは彼の知り合いなのだろう。コレが全く知らない誰かならそれ程問題無いのだが……
もし怒っているのが太刀川なら、
『お前シールド入れてねーの?じゃあ俺の隊にゃいらね』
これはまずい。
そんな事になれば飛塚のハートが砕け散ってしまう。早急にシールドをセットしなくては。
エンジニア室に行って構成を変えてもらう事にする。
「おう。俺はまだまだランク戦してっから終わったら戻ってこいよ」
「わかった」
入隊してから2ヶ月ちょっと。建物内の構造は9割方頭に入ってる。今なら道に迷わないハズ。
飛塚は自信満々に歩きだす。が、正面から両手をポケットに入れた怖そうな人が歩いて来ていたのですれ違うまでは俯いて歩く事にする。
「………………」
「……ん?」
すれ違う時に横目で盗み見たが、ひとつ気になる箇所があった。
振り返って、すれ違った人物の後ろ姿を見つめる。
勘違いでなければ胸の辺りに【A01】と書かれたエンブレムがあったような……
そこまで考えたが、だからと言って呼び止める気は全く無い。飛塚はそのままエンジニア室に向かった。
◆◇◆
何やらロビー内がザワついている。一瞬飛塚の顔が原因かと思ったがさっきエンジニア室に行ったばかりだ。
何事かと出水も周りを見渡すと、原因はすぐ見つかった。
「あれ?二宮さんもランク戦ですか」
二宮匡貴。A級1位、射手1位、個人総合4位。という成績も去る事ながら、その人相と言動によりプレッシャーを全方位に放っている。そして何より、先の飛塚との会話で出てきたブチ切れてる人間がこの人だ。以前、知り合う機会があった出水でさえブルってしまう。
滅多にランク戦をしない二宮が現れ、ここまでザワついていたのか。と出水は納得した。
「──今日はアイツはいないのか?」
「アイツ、ってのは誰の事です?太刀川さんなら本部長に…」
「アレじゃない。スコーピオン使いの方だ」
「あー、赤松ならシールド入れにエンジニア室に行きました。待ってれば戻ってきますよ」
「───そうか」
そう言うと、ポケットに手を入れたまま出水の横に腰を下ろす。
隣に座られると自分にまで悪いイメージが付くかもしれないので辞めて欲しいと思うが、口に出す勇気は出水には無い。
肝心の二宮は一言も喋らず、正面を見ながら足を組んでいるだけだ。
どうやら目当ては飛塚らしいので、戻ってくれば擦り付ければ……
「早く戻ってきてくれ…」
「何か言ったか?」
「いえいえ」
アイデンティティの喪失
『飛塚』
シールドを手に入れてしまった事でアイデンティティを失いションボリしている。それがあってか表情にはいつもより陰りがあり黄色い悲鳴がいつもの2割り増しになった。
実は自らの顔の良さには自覚があるが母親の英才教育により「モテる=告白される」という認識があるため、勇者が現れない限り自覚する事は無い。
顔と性格が怖い人
『二宮』
筋が良い新入りがいると聞いたので見に行ってみるとシールドを入れてないという舐めた小童だったのでイライラ。
大人しくシールドを入れたと聞き当初の要件は無くなったのだがついでにランク戦をするつもり。