初代魔王が勇者に倒され、2代目が就任した時に魔王が開催を決定した魔界の祭り《魔王祭》。そこで選ばれた者が現魔王と魔王の座を賭けて競いあうのがルール。そうして選ばれた現魔王は大の人間好き。あまりの人間好きが転じて、全ての魔物達に人の遺伝子を組み込ませ、擬人化させるに至った。
魔物と言えば人形の魔物をさし、魔獣と言えば擬人化する前の魔物をさし、禍獣と言えば魔物ではない化物をさす。
現在、人と魔物はうまく共存できているところは少なく、現魔王は心を痛めている。
尚、現魔王はすでに数百年も魔王の座を守り続けている。
今日の学園はいつもと違った。
落ち着きがない。誰もがそわそわして、何かを待っていた。
今、午後1時。多くの人が次々と時間を確認しては、まだか…と言いたげな顔をする。
みんな、待っているのだ。決闘の時を。
この学園は血の気の多い生徒ばかりで決闘なんて珍しいものじゃないけど、今回は違うのだ。
人間と魔物。
その対戦カードは今までない組み合わせだった。
人間は魔物より弱いと言う事実から、こんなことはあり得ない。あったとしても、人間が降参するか自主退学するのだ。
だからあり得ない。
だから、みんな心待ちにしている。
今回の人間は逃げなかったから。心が強かったから。
「大丈夫かな……、転校生君」
私──ココアは少し遅めの昼食を食べながら呟いた。
彼が逃げないことはなんとなくわかっていた。だって彼は強いから。
冷たいな目を向けられても、陰口を耳にはさんでも、彼は学園に居続けた。
それだけじゃなく、彼は他人と関わり、笑顔にした。私も笑顔にしてもらった一人。
だから、今度は私が支えるんだ!友達だから!
ココアは勢いよく立ち上がり、食事トレイを片付けて南館に向かった。
彼女をよく知る人物なら彼女の顔の変化に気が付いたであろう。
いつもの朗らかな表情ではなく、戦士のように凛々しい顔つきになっていたことに。
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場所は南館。
南館は簡単に言えば体育館のような構造で、ステージとその向かい側の2階に広いスペースがある。
時刻は午後3時の少し前。
もうすぐ、決闘の時。
「・・・」
エルフの少女、ナチルは何時もと同じ無表情で南館の中央に立っていた。まるで、石の彫刻のようだ。
しかし、彼女の気迫は鎖に繋がれた猛獣の如く荒々しく圧縮され奮えている。
彼女は楽しみにしているのだ。これから始まる戦いを。
彼女は最初、『弱い人間』を『戦いの素人』と同意義に捉えて対戦相手を馬鹿にしており、同時に落胆していた。
そのような心境で、今回の決闘は楽しめそうにないとがっかりしていた彼女に嬉しい朗報が入る。
人間が『テオ・レオナルド』『羅皇紫電』『ライラ・ネオルド』『アサギ・アカツキ』以上の四名の指導を受け、戦いに臨む準備をしている。
これを聞き、恋する乙女の如く体が熱くなった。
あそこで戦うことが叶わなかった三人と確かな実力確かめることができた一人から指導を受けたとなれば、人間と言えどかなりの実力を身につけているはず。
そう予感した彼女は残りの日数を修練だけに費やした。
最高の状態で戦うために。
そして今、楽しみで楽しみで堪らない。
焦らされ興奮がおさまらない。
───早く、戦いたいッ!
彼女は顔に笑顔を浮かび、体が震えた。
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南館2階。
細い通路には密集した見物者が、まだかまだかと決闘の開始を待っていた。
そんな中、2階唯一広いスペースには五つの椅子と五人の生徒がずっしりと腰を下ろしていた。
龍と馬を合わせたような顔で和服を着た妖しい雰囲気を漂わせる男。『羅皇紫電』
金色の肌に鋼のような筋肉。髪形はモヒカン。ネクタイとパンツのみを身に付けた巨漢。『テオ・レオナルド』
面積が極端に少ない衣服と山羊の骸を被っており、その表情から年相応の無邪気さと年相応ではない残虐性を伺える、どこか年老いた雰囲気を纏っている幼女。『シェリル』
女性らしい美しい褐色肌と鍛え上げられ、引き締まった力強い筋肉が見るものを魅了する。腕が六本それぞれに黄金で作られた装飾品を多く身に付けており、まるで戦の神と思う神々しい女性。『シュラ』
小柄な体。美しい金髪。病的に白い肌。頭より大きな帽子を被り、貴族の子どものような服に身を包む少年。『ロキ・クォーツ』
以上五名。
彼らこそ、この学園のトップである生徒『六芒星の将』。通称、六芒星である。
六芒星とは、この学園最強と言う意味の称号である。その証拠に彼らの周りから生徒が離れて、窮屈な二階に無理矢理スペースを作っており、彼らに決闘をよくみてもらう為の無意識の配慮がなされている。
正確には全員が離れている訳ではない。
一番左に座る男、紫電とその隣の席に座る巨漢、テオの周りでキャッキャッと騒ぐに数名。反対側の右端の席の少年、ロキの後ろに立って周りを警戒して気を張っている三人の女子生徒。彼らが六芒星と親密な関係であると周りの生徒は言わずとも察することができるだろう。
一触即発とも言える空気の中で自分のペースを貫き通す、テオの周りで騒ぐ生徒。その中の一人、ニーナがテオに質問をした。
「ねえねえテオ様。アニキ……大丈夫っすよね?」
停学をくらっても笑っていられるほどお気楽な彼女でも、今回の決闘には不安を隠せない。いつもの明るいトーンの声ではなかった。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、気遣いなどない真剣な声色ではっきりと答える。
「どうであろうな。少年が勝てる確率を上げるために、我輩も色々と仕込んだが、最後は少年の心が勝敗を分けるであろう」
「わからないってことっすね」
「フーハッハッハッ!!全くもって、耳が痛いぞ!」
豪快に笑うテオ。それに構うことなくニーナは別の人にも質問をぶつける。
「皆はどう思うっすか?アニキ、大丈夫っすよね?」
「大丈夫でしょう。少年は中々に芯が強いからねぇ」
と紫電が言う。曖昧な物言いの割には自信に満ちている声だ。
「お兄さんは僕らのリーダーだよ?負けるわけないよ」
尻尾を力なく垂らして答える遥。その声は震えている。
「最悪……にぃが死んだら、私……死霊術でなんとかする」
いつもの調子でホロンが言う。楽しみなのかそわそわしている。
「負けたらおしおきよ」
「いや、そこは優しく慰めるべきと思うけど」
いつもとは違って真面目な表情でナチルを見詰めるアサギ。彼女の言葉に反対意見を述べるライラ。
「大丈夫だよ、ニーナちゃん」
隣にいたココアがニーナに言う。いつもとは違う空気を纏うココアにニーナは戸惑う。
ココアは言葉を紡ぎ続ける。
「なんでかわからないけど、わかるんだ。転校生君は大丈夫だって。だから、心配なんてやめて、応援しようよ♪」
「ココアちゃん……」
どうしてわかるの?と問いただしたかったが、ニーナは言葉を飲み込み、胸にとどめた。これだけ自信に満ちた表情で言い切ったのだから、これ以上聞くのは野暮だと思ったのだ。ニーナは南館の中央に視線を戻した。もう、その顔に不安の色はない。
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「…………来た」
ナチルの呟く一言に反応したのか、それまで騒がしかったギャラリー達が一瞬にして静まり返った。同時に南館の扉がゆっくりと開いた。そこから現れる人影、彼の登場だ。
「転校生……ッ!」
彼は何時も着ている私服ではなく、胸ポケットが幾つも付いているタクティカルベスト。その下に黒色のセーター。ズボンは丈夫さと動きやすさを兼ね備えた、この世界にはない素材を使ったもの。その姿はさながら特殊部隊の隊員のようだった。
彼はゆっくりと進みナチルの前へと立つ。
「またせたな」
「ええ、本当に。てっきり逃げたのかと思いました」
「アホか。準備だ準備」
「それは一体?」
「お前を倒す為の準備だよ。わかりきってんだろ?」
「なるほど。それは、楽しみですね……♪」
語尾が最後だけ弾む。はやく戦いたくて仕方がないみたいだ。口の端も少し上がって冷たく微笑んでいる。
睨み合う二人の緊張感が南館全体に広がり、ここもまた一触即発の空気となった。そんな中、南館に女の子の声がメガホンで拡声されたように響き渡った。
「みな様ーーーー!!大変長らくお待たせいたしました!!遂に、戦士が集いましたので、決闘の開始を宣言させてもらいます!!」
『おおおおおおおおおおおおお!!!』
鼓膜が割れほどの歓声。耳が痛い。
声の主である白い翼を背中に生やした女の子が二人の側に降り立つ。頭に輪っかもあるのでエンジェルとわかる。
エンジェルは手に持っている淡く発光する石を当てながら話を続けた。どうやら、その石がメガホンの代わりのようだ。
「え~まず、二人にはこれから決闘を行ってもらいます。勝敗はどちらかが戦闘不能になるか、負けを認めるかで決めます。その他は大体何をやってもオッケーなので存分に暴れちゃってください。血肉が舞うような戦いを期待してます!」
このエンジェル、血の気が濃いな。
ルールはシェリーちゃんに聞いた通りだ。大丈夫、できる。
「では、さっさと始めますね。ほらほら距離取って!もう私もみんなも焦らされて興奮が半端じゃないんですから!」
鼻息を荒くして早く事を進めようとするエンジェル。他人事だと思って気楽なことで。
言われるままに距離を取り、向き合う。ナチルの目線が俺をじっと捉えているのが嫌でもわかる。
「それでは始めるぞお前らああああ!!」
『おぉおおおおおおおおおおおお!!!』
「良いですかお二人とも。私がこの水晶を投げますので、地面に落ちた瞬間を開始とします。いいですね?」
「ああ」
「こっちもだ」
「はい!では両者の確認が取れたとこで……いきます!」
瞬間、ナチルはさっと剣を抜いて構える。対する俺は少し遅れて自分の武器を構える。すると、周りからどよめきが聞こえる。
「なんだあの武器?」「見たことのない形をしている」「本当に武器か?」「ブラフかもな」「ナチル!気を付けろ!」
───戦いは始まる前から始まってるんだよ。
彼が持っている武器は彼の世界での主流の武器『銃』である。それは、この世界では全く認知されていない未知の代物であった。
彼の狙いは未知の武器を相手にする警戒心と恐怖心を煽っていき少しでも勘を鈍らせることである。
「……それが貴方の武器ですか?」
「ああ。銃ってんだよ。見るのは初めてか?」
「噂なら聞いたことがあります。が、聞いた物とは違う形状ですね」
「まあ、そりゃそうだ。なぜなら、これは異世界の技術によって作られた武器だからな!」
「ッ!?」
俺はこの場所にいる全員に伝えるつもりで、声を張り上げる。
「いいか!俺は異世界の技術の結晶を駆使してお前を倒す!お前は手も足も出ず地面に膝をつき、敗北するだろう!ヒャッハーーー!!」
周りからは怒号やら歓声などが飛び交い、よりいっそう騒がしくなる。
「バカ言ってんじゃねーぞ人間!」「ふざけんなよ!」「ナチル、やっちまえぇ!!」「アニキ、頑張るっすよ!」「少年!脱ぐのだ!脱ぐのだ!生尻だ!」
最後は聞かなかったことにする。
そこに、半切れのエンジェルが割り込んできた。
「ああもう!いい加減に始めますよ!いつまで待たせるきですか!?」
「あ、すんません」
「はいはい、わかればいいんですよ。それでは……ゴホン、魔物と人間の意地を賭けた勝負!第なんちゃら回目、パンデモ主催決闘……」
会場が静まり返り、水晶を突きだす。
「始め!!」
言葉と同時に水晶は放り投げられ、遂に戦いの火蓋は切られた。
ゆっくりだけど、しっかり進める。
下手だけど、頑張って書き抜く。
書けなくて嫌になるけど、毎日画面と睨めっこ。
今日も私は妄想した物語を苦しいながらも楽しみながら文字にする。
by.DAMUDO
戦いはもういいから、日常風景書きたい。でも、自棄にならない。