まぁ……飯炊きに専念しとけば大丈夫かなって   作:スターク(元:はぎほぎ)

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生きて、抗え。


DB-1.0

アタシの初陣はツフル王宮の掃討だった。

 

労働力としてあくせく働いてたら、いつの間にか始まった戦争。上司だった偉そうなツフル人が目の前で同胞に殺されて、あれよあれよとう内に仲間に引き入れられ、駆り出された先が征圧した宮殿。そこに隠れた残党を炙り出せって、ベジータ王、当時は3世に命じられて。

 

同族の怒号に背を押され、ビクつきながら部屋という部屋をひっくり返していく。とは言っても恐る恐る、隠れているツフル兵士に反撃されるんじゃないかと気が気でなくなりながらだ。

 

そうしてる内に、見つけた。

王女様だった。大手柄だ。人質に取れば他の王族だって誘き出せる。苛められて育って来た臆病な身の上だけど、周りが私を見る目だって変わるかも知れない。だから私は、その手の銃を幼子に突きつけて───

 

 

「──奥の部屋にポッドがあった。アタシ達の仲間は近くにいない……今しか無いよ!!」

 

 

まんまと、逃した。

怯える彼女の姿に自分を投影した。心底同情してしまった。因縁を断ち損ねた。

逃げ延びた彼女は将来、サイヤ人に復讐しにくるかも知れない。私がやった事は同胞を危険に晒す行いだ、とても褒められた事じゃない自覚はあった。

 

まぁ、それを物陰から見てたらしい男が私を気に入ったらしく、後に結婚に至った訳だけれども……あーもう、なんでこんな事思い出すかな。今は()()()()()()()()()ってのにさ。

 

「いたぞ!撃ち落としたサイヤ人だ!!」

「囲め、捕まえろ!」

「手足を折ってフン縛れ!!!」

 

あっ、そうか。これ、あの時の王女様と同じ状況なんだ。

力無く倒れる私、それを取り囲む敵兵達。とは言っても侵略したのはアタシの方で、つまりあっちが正義なんだけど。

 

(あーあ。なんで今更になってこんなデートにしたのさ)

 

思わず内心で毒づく、その相手は夫。アタシ達の結婚記念日だなんだとか言い出して、久しぶりに昔のチーム仲間と組んで戦おうって。

それに乗ったアタシもアタシだ。姐さんと一緒に食堂を切り盛りして、心だけでも強くなった気分でいたんだ。前線から長年離れて、体も勘も衰え切ってたってのに。

痛い。撃ち抜かれた脇腹が、スカウターの装着部ごと抉られた左耳が熱い。今にも気絶しそうだってのに、更なる危機を突きつけようと兵士達がジリジリ詰め寄ってくる始末だよ。

 

あーあ。なんとかしてよバーダック。なに相手の不意打ち喰らって一足先に寝込んでんだよ。アンタの愛しの女がピンチなんだよ。

 

……ごめん。流石に茶化してられない。一周回って寒くなってきた、血を失い過ぎたんだ。

 

(死にたく……ない……!)

 

これが“報い”?サイヤ人として多くの命を踏み躙ってきた、その後方支援をしてきた跳ね返りがこの恐怖?なら本当に真っ当で、だからこそ受け入れられないよ。

だってアタシには家族がいる。子供がいる。反抗期のラディッツがいて、まだ数える程しか抱けてないカカロットが家で待ってる。アタシは、帰らなきゃ、いけないんだ。

 

「恨むなだなんて、言わないからさぁ……っ!!」

「コイツ、動くぞ!?」

「えぇい撃て撃て!何もさせるなァッ!!」

 

きっと1秒後には蜂の巣にされて終わる。そうと分かっていてなお足掻く。サイヤ人に生まれた者の(さが)に、私もまた端くれとして当て嵌まっていたらしい。

思考停止気味にそう考えた、その時。私の向けられていた銃口がエネルギー波の中に搔き消された。

 

「バ…バーダック!」

「……すまねぇ」

 

断末魔さえ上げさせずに敵を殲滅した、()()()()()()()()()()夫。応急処置モードのポッドから急いで出てきたのか、その破片と思われる残骸まみれで私を見下ろしている。

その姿に安堵を覚えて……力尽きた。

 

(あっ。これ、駄目だ)

 

もう無理。最後の命がもう尽きた。残り火が今度こそ潰える。

足から力が抜けて……倒れるかと思ったら、抱き止められた。何だいバーダック、その微妙そうな顔は。サイヤ人の男に情を求めるのは酷かもだろうけど、こんな時ぐらい必死に呼びかけておくれよ。

でも……アンタがいれば、子供たちの未来は、大丈夫かな。

 

 

「お願い、ね……」

 

 

言い残すのに選んだ言葉はそれ。悔いは無……いや、あった。

 

ごめんね姐さん。先に逝くから。

 

 

どうか姐さんは、天寿をまっとuムグゥッ!?!

 

「お、オイ!そんな強引に押し込んで大丈夫なのかよっ」

「うるせェ、他に方法があっか!?」

「 こ れ は 酷 い 」

 

ちょっ!息、末期の息!!それぐらいさせて?!

急に喉に何か押し込まれて、苦しッ!?これじゃ成仏なんか出来や──あれっ。

 

「……信じてたぜ。テメェは()()()()()()()()()ってな」

 

気付けば流血は止まり、私の肌はしっかりと血色を取り戻していて。苦痛は一部ぶり返してすらいるけれど、それは紛れもない“生”の象徴。

……助かっ、た?

 

「ふぃ~。カナッサ星人の奴ら、まさかここまでやるとはなぁ」

「呆れるぜ、テメェらあんなザコ相手にギネ一人守れねェとは。恥を知りやがれッ」

「寝込んでたアンタが言えた義理かよバーダック!幾ら()()()()()()からってわざと攻撃受けてさぁ」

「そーだそーだ」*1

「うっせぇブッ殺すぞォ!」

 

明瞭になった視界で見渡せば、気付けばいつの間にか集まっていたかつての仲間達。セリパ、パンブーキン、トテッポ───トーマを除いた、チームバーダックの仲間たちが。

え。殲滅が終わったらしいのは分かるけど、この雰囲気は何?

 

「ギネ、おはよう。いやぁ悪かったね、ここまで危ない目に遭わせちまうなんて」

「セリパ。一つ聞いて良い?」

「その前に確認だ。スカウターは……こりゃ丁度いい、丸ごと吹っ飛んでら。耳も再生してるし不幸中の幸いだね」

()()()()だったり、する?」

 

んぐ。セリパの返答はその二文字だった。

見遣れば目を逸らす男衆。どうやらこれは……瀕死になるのは想定外にしても、アタシが相当な怪我するのは織り込み済みだったって事、らしい。

 

「悪ィ、ギネ。お前はこの星で()()()()()()

「……額面通りの意味じゃない事だけは、分かるよ」

 

色んな方面でショックを受けてクラクラし始めた視界。傷の痛みも相まって近くの瓦礫にもたれれば、念押しするように言ってきたのは夫だ。

 

「フリーザ軍は俺達サイヤ人の絶滅を企んでいる。そしてその日は近い」

「……嘘だぁ」

「情報元が()()()()()()()()か?」

「!!」

 

途端に信憑性の塊を叩きつけられ、二の句を告げなくなる私。そこへ追い打ちを掛けるように、トテッポが言の葉を継ぐ。

 

「タイムリミットは姐御が旅立ってから1年弱。それまでにやるべき事として、一つにお前とお前のガキ共の安全確保。二つに俺たち自身の戦力増強があった。前者を今、完遂する」

「スカウター紛失と、その直前のバイタル低下で死を偽装するって寸法だ。ああ予後は安心しろ、医術と技術力を兼ね備えたコイツに看守らせるから」

「いてっ!酷いですじゃ!!」

「あ、タコの科学者」

「キャコタですじゃっ!!」

 

最後にパンブーキンが投げて寄こしたのは、病院に勤めてた奴隷学者のタコ。これでミッション完了とばかりに、全員がやり遂げた表情で汗を拭いた。

……でも、それはつまり。

 

「アタシだけ……逃げろって言うのかい」

「言っとくが、お前が足手まといだからとか変な事考えんじゃねぇぞ。逆にうざってェ」

「「「素直じゃなーい」」」

「うっせぇブッ殺すぞ」

 

自蔑に陥りそうになる思考を打ち払う、ぶっきらぼうな声。でもそれが表に出ない優しさゆえなのは分かっていた。

 

「ラディッツは助かる。カカロットも生き延びる。だがお前だけは……そうファムから頼まれてんだ」

「姐さんが…」

「俺も同じだ。お前が無事なら、心置きなく戦える──()()()()

 

そう告げての抱擁。それが最後。

最愛の夫との最後の触れ合いは、あっけなく。

 

 

「カカロットは地球という辺境の星に飛ばす予定だ。だからお前も……じゃあ、な」

「待っ……!!」

 

 

飛んでいく背中に手を伸ばす。届かない、届く訳が無い。そんなの分かってても、アタシは。

……無力感に苛まれる背中へ声を掛けたのは、まだ残っていたセリパだった。

 

「羨ましいねぇ。アンタがいなけりゃ私が貰ってたぜ、女房思いの糞強下級戦士なんて」

「…凄いよね、バーダックは」

「私ゃ今アンタを持ち上げてんだよ」

「えっ」

 

バン、と叩かれた背中は気心の知れた喝。昔からセリパは、照れ隠しがある時によくこうしてたっけ。

でも振り返って見えた彼女の顔に恥ずかしげな雰囲気は無い。真っ直ぐに、瞳をギラつかせていた。

 

「これは生存戦略で、そして生存競争なのさ。私とアンタを含むサイヤ人の、そしてアンタと私達の間での」

「……どういう事?」

「この世は弱肉強食に見せかけた適者生存って事。派手に暴れて敵を作りまくる私達と、穏やかに逃げ延びながら生き抜くアンタで道を分つ。どっちかが生き残れば良い、どっちも生き残れば尚良い──けど、きっとそうはいかないから」

 

未来を頼んだよ、新しい(おだやかな)サイヤ人。

 

そう言い残して今度こそ、全ての旧友が視界から消えた。残された廃墟にて、私は空を見上げた。

 

 

……生きなきゃ。

 

「分かったよバーダック、セリパ、姐さん」

 

総てを飲み込めた訳ではないけれど。死地に向かおうとする夫が、仲間たちが心配で、無事を祈らずにはいられないけれど。

私の戦場は彼らとは違う。今ここで、ひたすらに生き足掻く事なんだと。

 

泥水啜っても。踏み付けられても。

 

未知の未来へ、サイヤ人の魂を。

 

 

 

「……しかし、これからどうしましょう?自由の身とはいえ、こんな死の星に取り残されるなんて全く異常ですじゃ」

「うーん。タコ学者、宇宙船造れないかい?カカロットが飛ばされるっていう地球を探したいんだけど」

「キャコタですじゃ!出来なくもないですけど、まずは貴女様の手当ですじゃ!!」

 

 

 


 

 

()()()()()()のは、愛する女と今生の別れを経たその瞬間だった。

その未来の俺は、仲間達の死骸の中に立っていた。セリパもパンブーキンもトテッポも血の海に斃れ、そして()()()()()トーマまで。

アイツからバンダナを受け取った俺は、血の色に染まったそれを額に巻きつける。仲間の意思を背負う為に。

そして下手人たるフリーザ軍の兵士達へ、一目散に突撃をかましていった───

 

「さて、もうスカウターの電源つけても良いだろ……って新指令?惑星ミートに向かえだと」

「行くな」

「は?」

「フリーザ軍が待ち構えてる。お前ら全員死ぬぞ」

「……見えたのか、未来が!」

 

頷く。これで俺はようやく、ファムと同じ視点を手に入れたんだ。

 

「カナッサ星の発見が遅れていたらどうなってたか分かりゃぁせんな。トーマも地獄で喜んでるだろうぜ」

「……あぁ。だがどうやら先の時間を好きに覗ける訳じゃねぇようだ。未来視のタイミングは完全なランダムだな」

「使えるのか使えないのか微妙だぜ」

「いいや、これでタイミングを“完全に”捉えた……ッ」

 

ファムから貰った情報は主に三つ。一つは1年弱後のフリーザの攻撃、一つはそれを前にした“何も知り得ない俺”の行動だ。

 

“俺”は惑星カナッサへの侵攻中、生き残りのカナッサ星人から不意打ちを食らって卒倒。今みたいに未来視を植え付けられて、急いで仲間たちのところに向かうも間に合わず、全員を喪う。仇討ちとばかりに敵へ挑み、達成するも現れたドドリアに完敗。這う這うの体で惑星ベジータへ逃げ延びると。

そこでフリーザの裏切りを伝えるも同胞には相手にされず、単身フリーザに立ち向かう事になり……絶滅。それが本来の俺の末路だと。

 

つまり……

 

()()()()()ってヤツだ。急いで惑星ベジータに戻るぞ!!」

「「「応!!」」」

 

 


 

 

「超サイヤ人に、超サイヤ人ゴッド。調査してみましたが、どうやらどれもただの伝説に過ぎないようですね」

「そんな事だろうと思ってましたよ」

「ああ、ただ……妙な動きをする一団がありまして。先に秘密裏に鏖殺したベジータ王及びその兵団とは無関係と思われますが、指令を無視してまっすぐ惑星ベジータに向かっているとの事です。丁度あのポッド群だと思われますが、如何いたします?」

「放っておきましょう。自分から死地に集って来てくれるだなんて、なんとも好都合じゃありませんか」

 

 


 

 

「ポッド盗んできたぜ」

「フリーザ軍の宇宙船が来る前にカカロットを詰め込んで飛ばすぞ。発射場所は例の場所で良いな?」

「応、さっそく向かおう」

「ビィエーーーーーーッ!!!」

 

到着するや否や、大急ぎで我が子の亡命準備に務める。保育器を開けて引っ掴み、喚くのも構わずポッドに放り込んでやった。

オイ情けねェツラで泣くな。俺が泣いてるみたいだろうがその顔立ちじゃ。

 

「気付いたら母親が消えてて、んでもって父親がおっかねぇ顔で睨んでくんだぜ。そりゃあビビるっての」

「うるせぇ」

「お、見えてきたよ。トテッポの奴、念入りに整地したなぁ」

 

乱暴に平らにされた荒野、そこで手を振る仲間の元へ着地。ポッドに行き先をプログラムし、さぁ発射……いや、その前にだ。

 

「姉御の“伝言”って奴か?それ」

「……まぁ、な」

 

未だ泣き止まないカカロットの手に握らせた手紙。遥か彼方へ願いを託す、未来への置き土産。

さぁて……どうなるやら?

 

「願い事を叶える龍だなんて、流石にファムの奴も大法螺吹いたんじゃないの?突拍子が無さ過ぎるって」

「いや、俺は惑星シリアルで実際に願いを叶える龍と接触した。地球にあるかどうかはともかく、龍の存在は本当(ガチ)だ」

「……そういう大事な情報は事前共有してくれねぇ!?」

「利用出来るならそうしたっての。シリアル星はヒータ軍の管轄下で競売に掛けられてんだ、今更ノコノコ出向いたらすぐにフリーザに通報され……ッ!!?」

 

 

───刹那、記憶がよぎった。ただし自分の物ではない。

 

少年が駆ける。妖怪変化を吹っ飛ばし、雲のマシンに乗り込んで。

 

空を飛び越え山を越え、尻尾を靡かせ駆け抜ける。

 

その手に掴んだ、四つ星の龍玉と共に───

 

 

「……はっ」

「急にどうした」

「どうしたも何も。こんのガキ、なんとも摩訶不思議な大冒険に繰り出すつもりだってよ」

 

その少年は、自分のよく似た髪型をしていた。つまり目の前の赤ん坊そのものだった。

知らずバーダックの口角が上がる……もはや心配は無いと。

 

「いいか。ギネとラディッツとお前で……や、これは今言う必要も無ぇか。ともかくだ」

「ぁぅ……?」

「……絶対、生き残るんだぞ」

 

それが最後。浮き上がるポッド、次いで激烈な噴射。飛翔の軌跡を夜空に描き、最後の心残りは星々の向こうへ消えたのだった。

 

 

そして、漢達の瞳に闘志が灯る。

負け戦にて勝利を掴むべく、決死の覚悟を湛える肉体。その血を迸らせて睨み付けるは、今し方ワープして来たのか、宇宙(そら)に突如現れた星──“敵”の母船だ。

 

「後顧の憂いは完全に消えた……大暴れしてやろうじゃないの!」

「うおおおーっ!!フリーザの野郎ぶっ殺してやらァア!!」

「今まで散々扱き使って来やがった()()、払ってもらおうぜッ」

 

セリパが、トテッポが、パンブーキンがそれぞれの気迫を放つ中、バーダックが触れたのはバンダナ。自分の企みに最初に乗り、そして命を落とした盟友の生きた証。

今一度、キツく締め直し。

 

「──俺が……」

 

吼えた。

 

「俺()が、未来を変えるッ!!!」

*1
とパンブーキンも言っています




ギネに逃がされた後、ツフルの王女は色々あって異世界に流れ着きました
まぁ大体察しがついてる読者の方もいらっしゃると思います
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