蒼い月 - poker face girl - 作:雨にんじん
ランスニュイア国王に仕えるアストライア大佐の使用人をしております。
新たに使用人へと加わりました、"アテナ"という方とバディを組むことになり、
人手が増えて仕事も少し楽になるかと思いきや、なぜか日常が更に忙しくなりました。
…とっても不思議です。
彼女は私と対照的な性格で、気さくでとても感情豊かです。
裏表はありませんが直情的。故に後先考えずに行動するので私も手を焼いております。
しかし誰しも人は成長しなくてはなりません。
弱音は吐かず、どうすれば彼女と上手に生活し仕事を全うできるか、
失敗や経験を元に、毎日を過ごしていかなくてはなりません。
ここはランスニュイア国の城下町。
昼間この通りは露店が沢山出ていて、人も多くにぎやかです。
使用人当番の日は、一緒に暮らす大佐とその使用人達の食材を毎度買いにやってきます。
「お!アヤちゃん!今日もいらっしゃい!」
「こんにちはアーテルさん。今晩と明日のお昼までの食材を買いに来ました。」
いつもにこやかに手をパンとたたいて出迎えてくれるこの方は、
露店商人のアーテルさん。私が小さい頃からお世話になってるお店の主人です。
「そっかいそっかい!そうそう今日はねえ!見てこれ!ジャーン!」
「こ・・・これは・・・。お肉・・・!!」
脂肪が筋肉の間に細かく網の目のように入っている・・・。
やわらかそうな霜降り肉・・・。
「豚肉だけどね!もうアヤちゃんだから特別安くしとくよ!へへへ!」
「ジュルリ。…っは!」
いけません。私とした事が…つい顔が緩んでしまいました。
安くして頂けると言ってくれましたが、そんな贅沢をしてもいいのでしょうか…。
考えるのですアヤ…。持てる五感をフルに活用し、今こそ考えるのです!
…。
しかし…献立というのは皆の栄養も考えなくてはいけません。
そう。決して私が食べたいのではなくて、みんなを考えての事です。
無表情のまま、そのキラキラと照り輝くお肉を見て動かない私を心配して、
アーテルさんは顔を覗き込んで声を掛けました。
「???アヤちゃん…?どうした…?大丈夫かい?;;:」
「アーテルさん。少しだけ待っていてください。」
「え?お・・・おう。;」
「どうかそのまま。待っててくださいね。」
大佐の使用人として、みっともない姿を知人に晒すわけにはいきません。
お店を離れ、あの建物の陰でコッソリお財布と相談しなくては!
よし、誰も見ていませんね・・・。いざお財布の中身を確認。
・・・。
あれ?おかしいですね。お金がとても少な・・・ハッ!
そういえば昨日アテナが料理中に。。。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アヤー;;このおたま、また柄の部分とれちゃったー;;」
「またですか・・・。」
この無残にも壊れたおたまはアテナの使用人生活の初日、
寝坊をして一向に起きる気配のないアテナの頭に大佐がバケツをかぶせ、
その物でおもいきり殴った際壊れてしまったおたまです。
「なんとかくっつけて使っていましたが、限界のようですね。」
「どーすんのー・・・?;」
「今日の買い物当番はアテナでしたね?仕方ありません。雑貨屋で買ってきてください。」
「マジ!?wおっけー!任しといて!ちょーカッチョイイの買ってくるん!」
そういって確かルンルンでアテナは出かけていきましたね。
今思えば"ちょーカッチョイイの買ってくるん!"をまず気にするべきでした。
そしてさらに記憶を辿っていくと・・・。
そうです。その夜に確かアテナと夕飯の片づけ、洗い物を一緒にしている時、
調理場で声をかけられました。
「アヤ!そういえばみてみて!この買ってきたおたま!」
「アテナ。そこのお皿、まだ泡が流れてません。綺麗に洗い直してください。」
「このスイッチを押すとね!ほら!いろんな便利道具が飛び出すの!ほら!www」
「アテナ?それはいいので、そのお皿をもう一度洗い直してください。」
「へ・・・へぃ・・・。;;;」
スイッチ・・・?確かスイッチと言ってましたよね・・・?
まさかあの子・・・あのおたまに余計な豪華多機能がついていて・・・?
通常よりもおかしい値段張るような品物を買ってきた訳ではないですよね・・・?
飛び出すって何がですか?お財布の残金を見た私の目玉がですか?
心臓がバクバクいって止まりません…。どうしてくれるんですか今後の食費。
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結局その後、大佐に何と言っていいかわからず、
皆との夕飯の時間になってしまいました。
お財布の残金を気にして節約の買い物をした結果、
夕飯と呼ぶにはあまりにも粗末な食事になってしまったのです。
用意された食事を見て大佐は即こう言いました。
「なんだ・・・今日はずいぶん質素な食事だな。買い物当番は誰だ?」
「私です。大佐。」
「アヤか。そうか。」
「申し訳ありません…。」
「…まあいい。何か訳があるのだろう?
みんな育ち盛りだ。私の分も分けて食べなさい。コーヒーだけ頂こう。」
大佐の言葉が1つ1つがもう優しすぎて、グサグサと胸に突き刺さります。
そして皆が祈りを捧げて、食事をはじめました。
「明日の買い物当番はリゼだったか?すまないが買ってきてもらいたいモノがあるのだが。」
「かしこまりましたーですー♪大佐♪」
明日の使用人当番はリゼットですか…。迷惑はかけられませんね。
仕方ありません…私の貯めたお金を後でお財布に足しておきましょう。
するとその大佐とリゼットの会話を聞いていたアテナが、
手をあげてガタリと席を立つと、元気よく言ったのです。
「あ!はいはい!私明日パラスとお休みだから!買ってきますよ!アスさん!」
「ブフッ!!!」
『!?』
おもわずスープを噴き出した私に一同、困惑した眼差しを向けています。
もう嫌です・・・本当に恥ずかしい。恐らく耳まで真っ赤になっていた事でしょう。
このままだとアテナはまた変な物を500%くらいの確率で買ってきそうです。
大佐に提案しなければ。
「た・・・大佐。アテナは初めてのお休みですので。買い物はリゼの方が良いかと思います。」
「それも・・・そうだな。自由に過ごす時間も必要だ。わかったリゼに頼む。」
とりあえずほっと胸を撫で下ろした私。
しかしこの"高級多機能おたま事件"はこれで終わりではなかったのです。
その数日後、パラスが深刻な顔つきで私の元へ相談にやってきました。
「ねーアヤー。」
「なんでしょうか?パラス。」
「このおたま・・・使ってる最中にボタンみたいなのさわっちゃって色んなの出てくるの・・・。」
パラスが柄の部分のボタンを押すと、なぜかチーンという軽快な音と共に、
横からコルク抜きがシャコンと飛び出し、先端からは栓抜きが飛び出した。
「・・・。」
「あの可愛らしいはずのリゼットがもうイライラしちゃってて…
とっても使いずらいんだけど、なんとかしてくれない・・・?;;」
仕方がないので・・・結局私は自腹で別の安いおたまを買う事に・・・。
ため息が止まりません。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんな出来事からしばらく時は流れ、外は雪の降る夜の事。
『ハッピバースデートゥーユー♪』
「アテナおめでとーです♪」
「わはwリゼちゃんありがとんとんー//」
今日はアテナの誕生日だということで、大佐が皆でお祝いをしようおっしゃいました。
ふふ…ふっふふふふ。
ようやく待ちに待ったこの日がやってきたのです。
私はケーキをとりわけ、みんなへと配りました。
「アテナはケーキ食べないの?」
「うんw食べられないから大丈夫wパラスおいし?」
「うんー//おいひー//しあわへー//」
「www」
「アテナ♪これはリゼとパラスからプレゼントなのですー♪」
「わー//いいのー?//」
それに続いて大佐もアテナへとプレゼントを渡します。
「ではこれは私からだ。」
「ええ!?ありがとうございます//」
ニコニコ顔で皆からのプレゼントを受け取るアテナでした。
そして次に私のほうをチラチラとモジモジしながら見つめてきます。
「ええ。私も用意してますとも。とっておきのプレゼントですよ。」
「えまじ!?//えっへへへへ//」
「はいどうぞ。」
「え・・・。なにこれ・・・。」
ソレを手渡した瞬間、困惑するアテナ。
周りも首をのばしてリボンのついたそれを何かと確認してきました。
さぁ…お仕置きの始まりです。
「中古なので箱には入ってませんが、アテナの為に一応ラッピングしてはおきましたよ。」
「えこれ・・・前に私の買ったおたま・・・だよね?」
「ええ。アテナがちょーカッチョイイ//と気に入っていた高級多機能おたまです。
この日の為に私がそれはそれは大切に保管をしておきました。」
「えぇ!?;;どおりで最近見かけないと思ったら・・・。」
みんな状況がつかめないのか、とりあえず私の話を聞いているだけでした。
「アテナがこのおたまを購入したおかげで、翌日お財布の残金が少なくなり、
私の・・・ではなく皆の晩御飯のお肉を買う事が出来ませんでした。」
「そ…そなんだ…。;」
「さらに皆がこのおたま使いずらいと不評でしたので、私は自腹で普通のおたまを購入。
少なくなってしまった食費のお財布の中も、私のお金で補う羽目となった訳です。」
「そ…そっか…なんかスンマセンシタ…。;;;」
知られざるアヤのつもりつもった愚痴に、
汗を垂らしながらどんどんと小さくなっていくアテナ。
「私は考えました。さてこのアテナの勝手な判断で買ってきた、
無駄な高級多機能おたまをどうしたものかと…。そこで考え付いたのです。」
「アテナのプレゼントにしてしまおうと。」
アテナは肩をすぼめて俯いたままプルプルと震えています。
「さぁアテナ、ちょーかっちょいいおたまです。どうぞ。」
食い気味で顔を近づける私に、たじろぐアテナは苦笑しておたまを受け取りました。
「気に入って、頂けましたか?????」
「へ・・・へい・・・。;;;」
「そうですか。ではこれに懲りて今後は考えてお買い物をしてください。」
その日はアテナにとって特別な日でしたので、
皆「まぁまぁ」と私をなだめてアテナを優しくフォローしていました。
私も少しだけやり過ぎたかなと思いながらも、この件は許してあげる事にしました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれだけきつくお仕置きをしたので、さすがにアテナと言えど学習するでしょう。
ある日、力任せに食器を洗うアテナがみんなのスープカップを割ってしまったので、
私は替わりのカップの買い物を頼みました。
「アヤー!言われた通りカップ買ってきたよー!」
「まさかとは思いますが多機能カップとか買ってきてませんよね?」
「そんなのある訳ないじゃんwww」
「いや…おたまに多機能がついているのもおかしいのですが。まあいいです。どれどれ。」
「まずリゼちゃんにはこれ!ちょー可愛いウサちゃんカップ!取っ手が耳なんだよ!w」
「は・・・い?」
「パラスにはこれ!色んな難しい字の入ったカップ!なんと暗闇で光ります!w」
「アテナ・・・。」
「アスさんのはジャーン!ゴージャスな宝石の入ったキラキラカップにー・・・」
「ちょ・・・ちょっとまってください。」
「私のはカッチョイー金色カップ!ほらみて!ピッカピカ!w」
こ・・・この子は・・・。アテナ用のカップが必要ないのに気が付いていない。
いや、そういう問題じゃない。それ以前にまったく学習をしていない・・・。
「アヤのはーw変な面白い顔がついたカップwここ押すと舌が飛び出すん!ほら!w」
私の中で何かがブツっと切れた音がしました。
「だれが…こんなバラエティに富んだカップを買ってきて欲しいと頼みましたか!」
「え・・・。だって面白い方が…良いかなって・・・。」
「あなたという人は!!おバカなんですか!?今回ばかりはもう許しません!!!
あとの仕事は私が全てやっておきます!いますぐに・・・返品してきなさい!!!」
「えとあのその・・・ご・・・ごめんなさい・・・!!!;;;」
人前でこんなはしたない大声を上げたのは…はじめてかもしれません。
「普通ので良いんです!いつも使っているようなシンプルなので!!!
だいたい。なんですかこの私のカップ。ふざけた顔がついてて?更に舌が飛び出す?
前回のおたまからあなたは何を学んだのですか!?いい加減にしてください!!!」
我慢の限界でした。
またもや、ため息が止まりません。
感情的になった私に、アテナはかなり驚いている様子でした。
指を弄りながら俯いてずっと気まずそうにしています。
暫くシンとした沈黙が続き、アテナが涙ぐみながらこう言いました。
「アヤはいつも無表情だから・・・。ちょっとでも笑顔になったらいいなって・・・。」
そのアテナの言葉に、
私は今まで溜まりにたまった怒りを、言葉を、詰まらせました。
この子はこの子なりに、なによりも純粋なんだと悟った瞬間だったからです。
アテナはカップをゆっくり箱へしまい、持ってきた買い物袋へと戻しました。
「返品して買い直してくるん・・・。」
居間の扉から寂しそうに出ていこうとするアテナ。
「・・・・・・。待ってください。アテナ。」
「…ん・・・?」
「私のそのカップだけ、それでいいので置いて行ってください。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の夕食、いつも通り祈りを捧げ、頂きますの言葉で食事は始まりました。
食事はとらないアテナも一応、みんなと一緒にお祈りをして挨拶をしています。
いつもと違うスープカップが目に留まった大佐が、手に取って話し出しました。
「おや?・・・カップを新しくしたのか?」
「ごめんなさいアスさん。私が割っちゃって・・・。替えのを買ってきました。」
「そうかケガはなかったか?アテナ。」
「はい。大丈夫でした。」
「ならいい。シンプルだがなかなか持ちやすいな。ん・・・?」
皆の視線が、ひときわ目立つふざけた顔の付いた"ソレ"でスープをすする私へと向けられます。
「ア・・・アヤのだけ・・・なぜか個性的だな・・・?」
「はい、アテナが私の為に、このカップを買ってきてくれたみたいです。」
そんな大佐とのやり取りの中、私のカップを見つめ、キョトンとするパラスとリゼット。
次第にその描かれたおかしな顔に、二人は笑いが込み上げてきた様子です。
「え?え??wアヤのだけwwwなんでそんな!www」
「ぶふ!!wwwあっははw面白いですー♪w」
私はスープを飲み干すと、隣に座るリゼットの目の前にカップを差し出しました。
「ほらリゼ、ここを押して?」
「なんですアヤ?wここです?w」
リゼはそう言うと笑いで震える指先で、私のカップの仕掛けボタンを押しました。
「ほら、舌がビローン。」
「ぶ!あっははははは♪wwwなんですかこれーwww」
お腹を抱えて笑うリゼとパラス。
「ふふ…w」
二人につられて私もそう静かに笑うと、
アテナも大佐も嬉しそうに笑ってくれました。
笑うだけで人に優しくできるんだなって。
あなたが来てからというもの、
いつもいつも振り回されてばかりで気が滅入ってしまいそうでしたが、
今はほんの少しだけ、あなたの事が好きになれそうです。
ありがとう、アテナ。