蒼い月 - poker face girl -   作:雨にんじん

2 / 2
私が大佐と出会ったのはまだずっと幼かった時の頃。

その日は雨がひどく降っていて、
私はいつも此処、人通りの少ない路地で膝を抱えて座っていた。

『見ている世界が全部、希望の光も何もない。灰色に見えた。』

ただ時間が過ぎればそれでよかった。
どうせ戻らねばならない場所へ戻っても、どのみち最悪なのには変わりがないから。


虚ろな目でじっとしている私の前を、
高貴な靴を履いた女性がカツカツと通り過ぎようとした。

私とは違う別世界に生きる人達。
羨む以前に、自分とは違うと頭は完全に切り離して考えている。

それが私の常識だった。



出会いとシアワセ

「こんな所で何をしている?風邪をひくぞ。」

 

目を見開いて声のする方を見上げた。

私に話しかける他人がこの世に居たのだと。生まれて初めての出来事にびっくりした。

 

まず目に飛び込んだのは高そうな服。こんな綺麗な物を近くで見るのは初めてだ。

そして凛とした顔立ちが印象的な女の人。吸い込まれそうな眼差しに心臓が高鳴った。

 

私は周りをキョロキョロと確認をした。

此処では誰かが私へ話しかける事自体、蔑まれてしまうからだ。

 

「びしょびしょじゃないか。いつから此処に居るんだ?家はどこだ?」

 

その人はしゃがんで私を傘の中に入れ、濡れた頬を親指で拭った。

私は口を開き何か返事をしようとするけど、もうずっと人と会話をしていなくて声が出ない。

パクパクと何かを伝えようとする私を見て、その人は気が付く。

 

「言葉が話せないのか?」

 

その人が話す言葉をうっすらとしか理解が出来なかった。

だけどこの毎日続く同じ最悪の中で、この変化、出来事はどこかキラキラしていて・・・。

 

私はコクリと頷く。

 

「そうか。よし、ではついて来い。」

 

これが私とアストライア大佐との出会いだった。

 

 

 

わけもわからず手をひかれ、連れて行かれたのは服屋だった。

カッチリとした礼装から、可愛らしい子供服までたくさん飾られている。

 

もちろんこんな所へ来たのは初めてだったから、

私は店に入る事を躊躇した。

 

私なんかがこんな所へ入ったら、何を言われ、どんな事をされるかわからない。

そんな恐怖もあって、中には入れずにいた。

 

「大丈夫だ。いくぞ。」

 

大佐はそう言うと、怯えている私の手をひいて店内へと入った。

 

入口の扉のベルが鳴ると、店主が奥からやってきた。

大佐と手を繋いだままの私は、怖くてずっと俯いたまま震えてる。

 

「いらっしゃいませご婦人。今日はどのような物をお求めですか?」

「妹がそこで転んでしまいましてね。新しい服を買おうと立ち寄ったのです。」

「あらあら・・・。それは大変です。でしたらこのようなお洋服はいかがでしょうかね?」

 

繰り広げられる会話。

もちろん緊張でカチコチになった私の耳には、まったく内容は入ってこない。

 

店主がいくつかの子供服を私にあてがう。

そして大佐はそれを見ながら私に似合う服を指差して選んだ。

 

「うん。この服頂きます。」

「こちらですね♪サイズもピッタリそうだ。ありがとうございます。」

 

試着室。

 

自分の姿がはっきりと映る美しい鏡の前で、

ふわふわの可愛らしい洋服へと大佐に着替えさせられる。

まるで夢の様な世界。絶対に立ち入れないと思い込んだ憧れた世界。

 

私の日常がどれほどに苦痛なものだったのかを、その時少しだけ悟った。

 

着替えの最中、大佐の手が止まる。

汚れと思った私の肩を手で摩ると、大佐は私の"事情"に気が付いた。

 

「これは・・・痣か・・・?背中もよく見ると傷だらけではないか。」

 

鏡越しにジっと私を見つめる大佐。

その真剣な顔に、私はどんどんと不安になっていった。

 

その場で頭を抱えしゃがみ込む私。

 

「ご・・・めんなs・・・い。ご・・・なさ・・・ぃ。」

 

私は精一杯の声に鳴らない声で、涙を流して何度もそう必死に謝った。

私自身がどういう存在なのか、気が付いたらこの人もきっと私を叱るに決まっている。

 

その瞬間。

 

大佐は私をギュっと抱きしめてくれた。

そして頭をゆっくりと、私が泣き止むまで何度も撫でてくれた。

 

だけどなぜか、私はもっともっと涙が溢れて止まらなかった。

 

 

「ご婦人?妹さん大丈夫ですかい?」

「あぁ、ごめんなさい。慣れない場所に来たせいか、落ち着かないみたいで・・・。」

「あらあ・・・。まあどうせ雨のせいでお客も来ないですから。ゆっくり着替えて下さいまし。」

「すみません。ありがとうございます。」

 

 

私の気持ちが落ち着いた頃、

服を着替え、会計を済ませて店の外へ出た。

 

外はまだまだ雨が降り続いてる。

 

私と大佐はしばらく手を繋いだまま、同じ傘の下でその場にじっと立っていた。

動かない大佐の顔を見上げると、前だけを見つめてずっと何かを考えている。

 

私は自分の身に着けた服を、チラリチラリと照れながら何度も確認した。

こみ上げる嬉しさ。恥ずかしさ。

顔はなかなか笑えなかったけど、気持ちの中ではきっとにやけていたのだと思う。

そんな私を見つめて、優しく笑う大佐が話しかけてきた。

 

「名は言えるか?」

 

私はコクリと頷いて声を出した。

 

「ア・・・ャ・・・。」

 

「アヤか・・・。よしアヤ、もしお前が今の生きている状況に絶望していたとして、

 この先私と共に違う人生を送りたいと思うなら、私の手を握れ。」

 

 

"その人はその時、私をこの灰色の世界から連れ出してくれるといった。"

 

 

「だけどもどこへ行ったとしても、自分の人生は自分で変えなければ何も変わらない。」

 

 

"瞳いっぱいに涙を溜めて、私はその人の話をずっと聞いていた。"

 

 

「だから私の元に来る事が、本当にアヤの幸せの道になるかはわからないけれど。」

 

 

"わたしは・・・"

 

 

「一緒に来るか?後悔しない道をアヤ、お前が決めるんだ。」

 

 

"そう私はロードレーの『奴隷』だった。"

 

 

きつく、握られた手。

 

 

 

私達はその後、私の所有者である主人の元へ話をつけに向かった。

主人は私の去り際、笑いながらこう言った。

 

「まさかお前が金の卵を産むとは思わなかったぞ!こりゃ笑いが止まらん!w」

 

大佐は私の手を引いた。

 

「行くぞ。アヤ。」

 

ランスニュイア国王から大佐は借金をし、私を買いとったという。

恐らくその額はとんでもない金額だったに違いない。

 

「そうだ家名を付けないとな。アヤ=マキナーシブル。

 今はもう居ない私の親戚の家名だ。もし聞かれたらそう答えるんだぞ。いいな?」

「は・・・ぃ・・・。」

 

 

 

それから新しい生活が始まった。

 

 

「ん、アヤの作ったこのスープ・・・なんで甘いんだ・・・?」

「ぉ砂糖・・・ぃれちゃいました・・・。」

 

 

「泣くなアヤ!泣けば女の価値が下がる。」

「すみません・・・。」

 

 

「今日からアヤと一緒に働くリゼットだ。」

「リゼット=リスタニアって言いますです♪よろしくです♪」

「アヤです。よろしく。リゼット。」

 

 

「大佐お食事のご用意が出来ました。」

「ん。あぁもうこんな時間か・・・。すまない今行く。」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

・・・ャ?・・・ァャ?

 

「アヤ?ねえ起きて!材料買ってきたよ!」

「はっ!アテナ。」

 

私としたことが・・・物思いにふけっている内にウトウトしてしまったようです。

 

「ぶふwwアヤも優等生ぶってるけどww睡魔には勝てなかったみたいだねぇーw」

「っくぅ・・・。なんたる失態でしょう。よりによってアテナに言われてしまうとは・・・。」

 

「じゃアヤは夕食の準備、私お風呂の用意してくるねーw」

「そうですねお願いします。もし終わりましたら、こっちを手伝って下さいね。アテナ。」

「おっけー!いってくるん!!!」

 

 

今日は昔の事を、たくさん思い出してしまいましたね。

 

大佐。私は今本当に穏やかで輝かしい世界の中に居ます。

此処はあなたがくれた世界。

 

大佐。私はいつまでも、いつまでもあなたが大好きです。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。