IS 昔懐かしSS   作:ユキ (旧 rain time)

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C106 サークル「妄想通信局」収録
追懐


 暴力と言えるほどのエネルギーが地表に照射される季節。夏休みも相まっていつもなら盛況なIS学園の食堂も今日は閑散としている。その中のあるテーブルにはいつもの六人が座っていた。

 

「ったく、いつから日本はこんな暑くなったのよ」

 

 ぐでーっと机に突っ伏しながら鈴がぼやく。先ほどまで猛暑の中を歩いていたこともあり、暑がりな彼女にとってはきついものがあるのだろう。

 ふと一夏がカレンダーに目を向けると、あることに気づく。

 

「それにしても、もうお盆か」

「ボン?」

 

 一夏の何気ない発言にセシリアが首を傾げる。それに箒が説明に入った。

 

「盆というのはな、私たち祖先の霊をまつる時期だ」

「まつる?屋台でも出すのか?」

「ラウラ、それは祭りだ」

 

 日本語特有の言葉の難しさからか、ラウラが疑問を口にする。実際、セシリアとシャルロットも頭に?マークを浮かべていた。

 

「亡くなった親族を偲ぶ日だと思ってくれればいい」

 

 疑問符を浮かべる欧州勢に箒が説明に入る。神社出身である彼女から盆の説明とその背景に全員が耳を傾ける。

 

(お母様に……お父様)

(お母さん……)

 

 その中でセシリアとシャルロットは目を伏せて、自身の家族を思い出す。共に思い出すのは生前の家族……ではなく、亡くなったその日を。

 

(あの日、お母様と……お父様は、何故同じ列車にいたのでしょうか……?なんで、列車事故に巻き込まれてしまったのですか……)

(お母さんが病に倒れる前に、もっと早くに病院に行っていたら、お母さんは助かっていたのかもしれない……僕が気づけたかもしれないのに……)

 

 悔やんでも悔やみきれないような、もやもやとした感情に二人の顔に影を落とす。

 そんな雰囲気を察したか知らずか、一夏は話を鈴に振った。

 

「鈴は何かあるか?盆に関する話で」

「雑なふりするんじゃないわよ」

 

 鈴があきれるも、うーん、と少し唸って、目を開く。

 

「あたしが覚えてるのは、中国のおじいちゃんかな」

「どんな人だった?」

「素手で熊しばいてた」

『熊しばいてた⁉︎』

 

 想像を超える言葉に誰もが驚愕する。

 

「山に入っては熊やら密猟者やらをしばき回してて、それが日課みたいな人だったわ」

「それは日課と言わないよぉ!」

「く、熊はともかく、密猟者は流石に嘘だろ?」

「……なら、『これが今日の密猟者共だぞ~』って言って、首から下を埋められた人たちを見させられたあたしの記憶を説明して」

「野蛮すぎますわ!」

 

 先ほどまで沈鬱としていたセシリアとシャルロットも暗い思考を全て吹き飛ばされて、ツッコミに回っていた。

 

「いつまでも生きてると思っていたけどさ、死んだって連絡貰った時は信じられなかったわね。前の日まで元気だったらしくて家族も信じられなかったって」

「まあ、理想的ではあるな」

「ぽっくり逝ったって聞いた時は悲しさもあったけど、おじいちゃんも人間だったんだなって。子どもながらにしみじみ思ったものよ」

「鈴さんが感慨に耽るなんて……鈴さんじゃありませんわ」

「どう言う意味よ!どういう‼︎」

 

 フシャー!と猫のように威嚇する鈴。だが、鈴のフィジカルの強さはこの祖父譲りだなとみんなは勝手に納得していた。

 

「まあ、鈴のおじいちゃんも天国に行けてるって!」

「おばあちゃんは『あれだけ罪のない熊しばいてたんだから、今頃地獄よ』って言ってたわね」

「辛辣すぎるぞ!鈴のおばあさん!」

 

 しんみりとした空気になるかと思いきや、まさかの大喜利会場の様となっている。

 しかし、ここで一夏が唐変木の片鱗を見せてしまう。

 

「まあ、俺には千冬姉しかいないから、そんな悲しむことないんだけどな!」

 

 一瞬にして空気が凍る。本人はギャグで言ったつもりだったが、かなり重い発言に、彼女たちはいい塩梅の言葉を出そうと頭をフル回転させる。

 だが、彼女達はISの専用機持ちであることを除けば普通の女子高生。いい言葉が思いつくはずもなく、重い沈黙の音が響き始める。

 

「一夏君ってたまに笑えない冗談言うのね」

「ブラックジョーク……」

 

 そんな光景の近くを通りかかった更識姉妹が言葉を差し込む。地獄の空気を払拭するためにシャルロットが二人に今の話題を振る。

 

「簪と楯無さんはお盆をしっかりするの?」

「私の家はしっかりやるよ。お墓参りから迎え火に送り火、近くの川で灯籠流しも」

「灯籠流しも!篠ノ之神社でも灯籠流しはやらないから、本格的だな」

 

 更識家の盆事情に箒が興味を持つ。灯籠流しを行う意味を知る箒は、更識家は先祖を本格的に祀っているのだろうと思いながら、灯籠流しの説明を代表候補生たちに行う。

 

(任務で散っていった仲間たちを、ね)

(本当は誰も送らないのが一番なんだけど)

 

 実際は暗部であるが故に命を賭した者たちを偲ぶためである。が、それを言えるはずもなく二人は黙って箒の説明に耳を傾ける。

 

 

 そんな話で盛り上がる中、シャルロットが隣のラウラに話しかけた。

 

「みんないろんな考えがあるんだね、ラウラ」

「…………」

 

 だが、ラウラは反応しない。唇が微かに動いていたが心ここに在らずという様子のラウラを、シャルロットが心配そうに覗き込む。

 

「ラウラ?」

「ッ!あ、ああ。そうだな……」

「大丈夫?体調悪い?」

「いや、そうではない。問題ない」

 

 そう返すラウラだが、その表情はいつになく青白い。そういえば、先ほどから会話に参加してないなと思いはしたが、シャルロットはラウラの言葉を信じて皆の会話に入り込んだ。

 

 

 

「シャルロット、すまないが定期連絡をする」

 

 その日の夜、ラウラはヘッドセットを装着してパソコンを立ち上げる。シュヴァルツェア・ハーゼ隊への報告をするときは必ず先の言葉と共に通話の準備を行っている。事前に外出許可を得ているシャルロットもわかった、と言って部屋から退出しようとする。

 

「……ラウラ」

「何だ?」

「僕に相談しても良いからね?」

「……感謝する。だが、今回はクラリッサではないといけないのだ」

 

 そっか、とだけ言ってシャルロットは部屋から退出する。まもなくしてラウラはクラリッサと通話を始めた。

 

「お疲れ様です、隊長」

「では定例報告を開始する」

 

 クラリッサの挨拶で始まり、報告を済ましていく。一通りの報告を終えてクラリッサはふぅ、と一息ついた。

 

「それでは隊長、他がなければ通話を終えますがいかがいたしましょう?」

「クラリッサ……聞きたいことがある」

「何でしょうか、ハッ!?」

 

 先ほどまでハキハキ話すラウラが消極的なことに、クラリッサは恋に関する質問だと邪推する。そんな話に目がない彼女は言葉を捲し立て始める。

 

「一夏殿をどう落とすかですね!最近アニメから良い発想が出たのです!裸エプロン姿でフライパンを持って起きなさーい、と言えばイチコロで」

「『 』……は覚えているか?」

 

 ラウラから出た名前。その名前は白熱しかけたクラリッサが黙るには十分なものだった。クラリッサからの笑顔も消え、軍人としての表情に戻る。

 

「……覚えていますよ。隊長からその名前が出るのは意外でしたが」

「そうか、意外……か」

 

 ラウラが出した名前、それはラウラが隊長になってからのシュヴァルツェア・ハーゼ隊で唯一の戦死者だった。

 

「ですが、なぜ彼女を?隊長は、その、なんと言いますか……」

 

 隊で一番の後輩でチームのマスコットだった彼女。だが、当時のラウラは彼女を疎んでいた。

 軍人として弱かったからだ。要領が悪くヘマをよくしていた彼女だったこともあり、当時のラウラが疎むには十分だった。

 

「日本は今、ボンという時期らしい」

「盆……たしか亡くなられた身内を思い起こす日でしたか」

 

 物知りだな、とラウラが言葉を漏らす。日本のアニメからある程度の情報を知るクラリッサだが、今はラウラの話に徹している。

 

「クラリッサは、覚えていたのか?」

「ええ、忘れたことなど一度もありません」

 

 はっきりと言い切るクラリッサ。誇張とも思う表現だったが、その言葉は嘘偽りが無いように感じ取る。同時にラウラの顔の影が濃くなる。

 

「私は、彼女が死んだ時を思い出した。報告を受けたその日も……クラリッサ達に言ってしまった言葉も」

「……」

 

 大きな後悔の波にラウラはクラリッサから目線を切るように手で顔を覆った。眼帯がずれて他人に見られたくない金色の瞳が露出するが、それを厭わずに言葉をこぼす。

 

「あの時、報告を受けた時、弱かったから死んだのだと……そう、切り捨ててしまった」

 

 力が全てだと思い込んでいた過去の愚かだった自分の発言が、ラウラとクラリッサたちに溝を作った言葉が今のラウラに突き刺さる。

 

「私はっ……隊長として……人として最低なことをしてしまった……」

 

 懺悔に近い言葉を漏らすとともに、ぽたっ、ぽたたっ、と机に水滴が落ちる。それを止めようとラウラは手で拭うも、堰を切ったかのように涙が流れ続ける。

 

「すまない…クラリッサ……」

 

 ぐずっ、ひぐっ、とラウラの嗚咽だけが通話に流れる。断続的にすまない、と言葉を漏らし続けるラウラをじっとクラリッサは見守る。

 

「隊長」

 

 クラリッサが一言発する。一瞬ラウラは顔を上げるのをためらう。クラリッサの表情を確認するのが怖かったのだ。失望してるのではないか、昔みたいに関係が悪くなってしまうのではないか。そんな恐怖がラウラの思考を駆け巡る。

 

「顔を上げてください、隊長」

 

 数瞬の後、恐る恐る顔を上げる。罵倒も覚悟して、ぐしゃぐしゃになった顔を上げた先には、優しい笑みをしたクラリッサがいた。

 

「今の隊長は過去の行いを悔いている。それでもう充分です」

 

 クラリッサの言葉は、ラウラを許すものだった。遠くを見つめるようにして、クラリッサは言葉を続ける。

 

「アイツも……彼女もきっと許してくれます」

「いいのか……?こんなっ、隊長でっ」

「今のあなただからこそ、私はついていきますよ隊長」

 

 過去の暴言を許す言葉にまたしても涙が溢れる。それをクラリッサは保護者のようにラウラを見守っていた。

 しばらくして、時計を確認すると通話が一時間になることに気づく。

 

「そろそろ終えましょう。シャルロット殿も戻られるでしょうし」

「グズッ……分かった」

 

 それでは、と言ってクラリッサは通話を切る。それと同時に扉をノックする音がラウラの耳に入った。

 

「ラウラ、入るよ?」

「あっ……」

 

 待ってくれ、と言葉が出る前にシャルロットが扉を開ける。シャルロットの前で無様な姿はさらさないようにと思ってはいたが、依然として涙は止まらない。

 

「………」

 

 それを見たシャルロットは何も言わずにコップに牛乳を注いでレンジに入れる。レンジが動く中、あえて目線を合わせないシャルロット。部屋は鼻をすする音しかしない。

 

「……聞かないのか?」

「んー……多分だけど僕や一夏たちには言えないことなんでしょ?だから聞かない」

 

 チン、と小気味よい音と同時にコップを取り出したシャルロットはマグカップをラウラに渡した。

 

「こういう時はあったかいもの飲んでさ、落ち着こう?」

「スンッ……ありがとう、シャルロット」

 

 そう言ってラウラはマグカップを受け取ったのだった。

 

 

 

夜、私は幾許かの思いに耽る。隊長と通話した日の夜は、新たな恋愛作戦と己の欲求のためにビールを飲みながらニッポンのアニメを楽しむのがいつもだ。

 けれども今日はそんな気分ではない。静寂が部屋を包む中、私は棚からビールではなく我が国で有名なウイスキーを手に取る。

 

「まさか隊長が彼女を想う日が来るとは……」

 

 誰もいない部屋でポツリと呟きながら、数個の氷をグラスに入れてウイスキーを注ぐ。半分ほどに満ちたグラスを手に取り、自室のパソコン前に腰掛ける。様々な感情をまとめるために一息ついたクラリッサは机の引き出しからフォトフレームを取り出した。

 

 今は亡き部下とクラリッサのツーショット写真。私が副隊長となって初めての、そして一番目をかけていた部下だった。

 

「向こうで元気にしているだろうか……」

 

 弱かったから死んだ、その言葉は軍人として、隊長としての判断は間違いとは言えないだろう。けれども、報告を受けた直後の私に対してかける言葉ではなかった。それほどまでに昔のラウラは力に固執していた。

 そんなラウラからの、数年越しの謝罪。人とは変わるものだとクラリッサは感慨深く思った。

 

「なあ、……信じられるか?隊長がお前のことを気にかけたのだぞ」

 

 本来なら生前にかけて欲しかったのだけど、と普段なら絶対に言わないラウラへの愚痴を語る。

 

「……お前は、隊長を許してくれるか?」

 

 写真を眺めながらぽつりと問いかける。誰もいるはずがないのにと苦笑しかけた時、

 

 カラン……

 

 手から離れたグラスからの返答。

 

「そうか」

 

 彼女のことだ。きっと笑って許してくれている。

 そう思ったクラリッサは亡き後輩に乾杯の手向けをした。

 

 




 今回は方向性を変えたものとなっております。純正のIS二次小説が書けて満足です。
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