調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第9話 深紅の騎士

「やりすぎた……」

 

 そう気が付いたころには既に手遅れであった。

 

「また派手にやったなぁ」

 

「すごいです、お兄様!」

 

 やけに上機嫌な爺さんの声とアリスの無邪気な声が俺の心を深く抉る。それを更に加速させるのは訓練場に転がる無数の騎士たちの姿だ。

 

「うぅ……」

 

「痛ってぇ……」

 

「ヤバすぎ……」

 

 そのどれもが苦し気に呻き声を上げて、ピクピクとその身を痙攣させていた。その悲惨な場にしっかりと立っているのは俺だけであり、彼らを地べたに這いつくばらせたのは言わずもがな俺であった。

 

 ──マジで気まずい……。

 

 侯爵家の嫡男、〈血統魔法(プライマルマジック)〉の継承者であってもまだ年端も行かない子供だ。周りで鍛錬の様子を眺めていたほかの騎士たちも誰がこの結果を想像できただろうか。本人の俺でさえこの結果には困惑としているのだ。何かの間違いであるとしか思えなかった……いや、間違いであってほしかった。

 

 何せ、ほとんど全力を出していなかったのだ。

 

 ──精々、五割程度しか〈血流操作〉は稼働させていない。まだまだ全然余裕すらある。

 

「……手を抜かれた?」

 

 仮にも侯爵家の嫡男である、もしものことがあったら──と、鍛錬に参加した騎士たちは俺に気を使ったのはでは? そんな疑いが自身の中で芽生えるがそれを爺さんが否定した。

 

「それはないな。最初のうちは手を抜かれていたかもしれんが、途中からこいつらは本気でお前を倒しに来ていた。それは対峙していた者が一番わかっているはずだ。なあ、レイよ?」

 

「……」

 

 したり顔の爺さんに俺は目を眇めることしかできない。このクソジジイはこうなることを最初から分かっていたのだ。まんまと乗せられたわけである。

 

 ──クソ……調子に乗らず目立たないと誓ったのに……。

 

 これでは目立ちまくり、調子乗りまくりのクソガキにしか見えないだろうが……ああ、己の熱くなりやすい血が憎い。

 

「これがお前の今の実力、そしてポテンシャルだ。どうだ?これでまた次からの鍛錬が楽しくなるだろう。お前はまだまだこれ以上に強くなれる才覚を秘めている」

 

「……」

 

 やはり得意げなクソジジイが気に食わない。素直に褒められているというのに気に入らない。強くなれた実感、強くなれる可能性が体感できたのはとてもうれしいのだが、それを打ち消すほどの後悔が凄い。

 

「本当にやっちまった……」

 

「おお、本当に豪快な戦いぶりだった」

 

「すごいかっこよかったです、お兄様!!」

 

「……」

 

 違うそういう話ではない。いや、そう言うことなのだが俺が言いたいことはもっと別のことだ。呆然自失としていると、不意に地面に這いつくばっていた騎士たちが立ち上がり、俺を取り囲む。

 

「ッ!?」

 

 ゆらゆらとまるでアンデットを彷彿とさせる雰囲気に背筋が寒くなる。

 

 こんなクソガキにぼこぼこにされた腹いせに全員で一斉にフルボッコにされるのかと身構えるが──

 

「すごいな坊主!!」

 

「その小さな体のどこからあんな馬鹿力が出んだよ!?」

 

「おいお前ら!この方は侯爵家の御子息だぞ!そんな無礼な態度を取ったら……」

 

 どうやらその予想は外れらしい。一様に騎士たちは興奮した様子で俺の先ほどの大立ち回りを称賛してくれる。

 

「──」

 

 全く予想外の反応に脳の処理が追い付かない。一度目の人生ではこんな誰かに素直に称賛されるという経験がなかった。いつも称賛されるときは裏があり、打算があり、誰も本当の俺を褒めてはくれなかった。だから俺はこの裏表のない感情にどう反応すればいいか困惑した。

 

「なんだ、照れてんのか?まだまだクソガキだなぁ」

 

「んだとクソジジイ!!」

 

 爺さんに煽られて反射的に噛みつくが──正直、助かった。あのまま騎士たちに囲まれて持て囃されていたら、また良くない自分が出るところだった。

 

 ──ただでさえ我慢するのが限界だったんだ。

 

 元来の俺は褒められれば褒められるほどに調子に乗ってしまう。その所為で無駄なことをしてしまったり、剰え捨て駒として気が付かずに国に喧嘩を売るほどなのだ。頭では「ダメだ」と分かっていても、身体が細胞単位で他人の称賛を機敏に察知して疼いてしまう。

 

 ──やはり呪いの類かな???

 

 などと思考をぼかして、興奮する騎士たちから逃れて一息ついているとまた一人、俺の大立ち回りを見ていた騎士が声を掛けてきた。

 

「素晴らしい身のこなしでした。次のブラッドレイ家は安泰ですね」

 

「あはは、どうも──ッ!?」

 

 愛想笑いを浮かべて声のする方へと振り返れば俺の思考は停止する。まるで蛇に睨まれた蛙のように絶句していると爺さんがその騎士の名前を呼んだ。

 

「おお!見ていたのかジルフレア!!」

 

 振り返った先には深紅の具足鎧に身を纏った一人の騎士。その雰囲気はこの訓練場にいるどの騎士よりも上で、それこそ爺さんに匹敵するほどの実力者だと見ただけで分かる。

 

「今日は朝からやけに上機嫌で「面白いのを連れてくる」と言っていましたからね。気になって来てしまいました」

 

 朗らかに笑うその騎士を俺は知っている。いや、この国にいるもので彼を知らない人間はいないだろう。

 

 王に認められた七人の騎士だけが賜ることができる称号──〈比類なき七剣〉の一人。その名をジルフレア・アッシュフレイム。間違いなくクロノスタリア王国最強格の一人が俺の目の前にいた。

 

「な……んで──」

 

 そんな彼がどうしてここにいるのか、そもそもいつから訓練を見ていたのか──濁流のように押し寄せる情報量にどうすることもできない。依然として呆けることしかできない俺にジルフレアさんは畏まって頭を下げた。

 

「お初にお目にかかります、私の名はジルフレア・アッシュフレイム。クロノスタリア王国騎士団〈比類なき七剣〉の第四席を任されています。以後、お見知りおきをクレイム・ブラッドレイ様」

 

「お、お噂はかねがね伺っております。貴方のような最優の騎士とこんなところでお会いできるなんて光栄です……」

 

「なんと、クレイム様に認知されているとはとても光栄にございます」

 

 恭しく傅く真紅の騎士を前に生きた心地がしない。身分的には敬われる立場だとしてもこんな子供になんの躊躇いなく傅けるとは正に最優の騎士と言ったところか。一度目の自分ならばこの状況に優越感を覚えて、更に調子に乗っていたところだろうがそんな呑気な気分ではいられない。

 

 ──バケモノか……?

 

 立ち居振る舞いを少し見ただけで確信する。この騎士は強すぎる。戦々恐々としているとジルフレアさんは佇まいを正して、いきなり質問をしてくる。

 

「時にクレイム様、まだ体力に余裕がありそうですが……彼らでは鍛錬の相手には不足でしたかな?」

 

「うぇ!?い、いやまさか!!皆さん未熟な私に気を使って加減をしてくれたのです。とても有意義な鍛錬でした!!」

 

「その割に、鍛錬中はなかなか不満気な声が聞こえてきましたが?」

 

「……」

 

 先ほどの鍛錬中、血が高ぶり調子に乗ってしまった結果、自分のこれまた生意気な発言を思い返す。

 

 ──やはり調子に乗ると碌なことがない……。

 

 激しい後悔が再発していると、ジルフレアさんはとんでもない提案をしてくる。

 

「もしよろしければ、私と手合わせをしませんか?」

 

「……はえ?」

 

「おお!それいいな!やれやれ!!」

 

 この国、最強の騎士の提案に答えたのは俺ではなく、クソジジイであった。

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