調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第10話 厄日

「どうしてこうなった……」

 

 今日は厄日か何かではなかろうか?

 

 そうとしか思えないほど今日の俺は不甲斐なくも目立ちまくっていた。唐突に決まった国最強の騎士──〈比類なき七剣〉との手合わせ。たかが8歳のクソガキがあのジルフレアと手合わせするというだけで注目するには充分であった。どこで話を聞きつけたのか、いつの間にか訓練場にはこの手合わせを一目見ようと異様な数の観衆が押し寄せていた。

 

「こんなことなら大人しくアリスと家で本を読んでいるべきだった……」

 

 そもそも俺はジルフレア殿の誘いに対してうんともすんとも言っていないのに、クソジジイが了承したからってどうして勝手に始めようとするのか? これが本当にわからない。

 

 ──()()が師匠だからか? ()()の弟子である俺に決定権はないのか?

 

 師事を仰ぐ相手を盛大に間違えたかもしれない──なんて後悔したところでもう遅かった。訓練場の中央で既に俺は最優の騎士と対峙している。

 

「ひゅっ……」

 

 それだけで生きた心地がしない。たかが訓練用の粗悪な木剣……だというのに最優の騎士がそれを構えるだけですべてを切り裂く一振りに見えてくるから不思議だ。

 

 ──今すぐやめたい……。

 

 それができればどれほどよかっただろうか。すでに周りの観衆に囲まれて逃げ場はなく、手合わせをするしかない状況だ。

 

「そんなに緊張なさらず。先ほどの鍛錬の時のように自由に打ち込んできてください」

 

「は、はい……」

 

 こちらの緊張した様子を察して最優の騎士殿はさも簡単にできるだろうと言わんばかりに微笑むが、そんなに単純な話ではない。

 

 殺されるはずがないと分かっていても、ただ彼の前に対峙しただけで無意識に足が竦んでしまう。踏ん切りがつかない、そもそもこんなことをして自分になんの得があるというのか? 強くはなりたいが、こんな良くも悪くも注目を集めて目立ちたいわけではない。別にこの騎士と手合わせをしなくとも、これから地道に努力を重なれば自分の目指す強さは手に入る。

 

 ──それなら戦う必要なんて……。

 

「おいレイ! 何を戦う前から弱腰になってやがる! 俺はお前をそんな軟弱ものに育てた覚えはないぞ!」

 

「ジジイ……」

 

 不意に背後から飛んできた爺さんの熱い激励に俺の弱気になった心は震える──

 

「ふざけんなよクソジジイ……!!」

 

 はずもなく、ただふつふつと怒りが沸いてきた。

 

 そもそも誰の所為でこんなことになってると思っていやがる。お前が一つ返事でジルフレア殿の申し出を受けなければ俺がこんな苦悩する必要はなかったんだ……それなのに自分の思い通りに事が運んで満足げなあの表情ときたら……。

 

「許すまじ……」

 

 詰まるところ、あのクソジジイが全部悪い。これが終わったら絶対にあの腹立つ顔面をぶん殴ってやらないとこの逆立った気は収まらない。

 

「絶対にぶっ飛ばしてやる──」

 

 怒りの所為か良くない方向に意識が向いてく。何故かようやく収まってきたはずの血も昂ぶってきている──もうなんだかどうでもよくなってきた。

 

「ようやくやる気になってくれましたね──それじゃあ始めましょうか!!」

 

 完全に吹っ切れた俺を見て最優の騎士殿は変な勘違いをする。それをわざわざ訂正する気にもならず、すれ違いが起きつつも──不意に戦闘が始まる。俺は思い切り地面を蹴った。

 

「おらぁ!!」

 

 最初から全力で、先ほどの騎士たちとの訓練でしたように一撃で仕留めにかかる。

 

 ──目立つな? 謙虚に、無難にやり過ごせ? 

 

 知るか。今、俺は心底機嫌が悪いのだ。相手があの〈比類なき七剣〉だろうが関係ない。ただ全力でこの内から湧き上がる怒りを発散するだけだ。

 

 鋭く首元目掛けて突きを放つ。先ほどの騎士たちならば確実に仕留められたであろう一振りを──

 

「これはなかなか……先ほどの乱戦では全く本気ではなかったと……」

 

 真紅の騎士は涼し気に去なす。なんなら力量を正確に推し量って読み取ってくる。その余裕が気に入らない。俺は気にせず木剣を切り返す。

 

「だったらなんだ!? 調子に乗って手加減していたことをお説教でもするってか!!?」

 

 支離滅裂。自分でもそう思う。それでも止められない。昂ぶる血が醜い俺の本性を剥き出しにする。冷静になるべきだと分かっている、それでも止まらない。気分は最悪だが、調子はどんどん上がっていく。

 

「クソくらえだ!!」

 

 攻める勢いは緩めない、寧ろさらに加速させて激しく木剣を振るう。体中の血液が沸騰しそうなほど熱いのが分かる。

 

 この一週間の鍛錬で〈血流操作〉にはいくつかの段階があるのだと学んだ。

 

 体内の血液と魔力を馴染ませて、加速させて、循環させる。これによって爆発的な身体能力を発揮させるのが〈血流操作〉の原理。しかし、最初から最高速度で体内の血液を循環させることはできない。ただでさえこの魔法は身体に負担をかける、身体の準備が整っていない状態で血液を最高速度まで無理やり循環させること俺の体は内側から弾け飛ぶだろう。だからしっかりと血液と魔力を体中に馴染ませ、試運転をして、準備する必要がある。

 

 ──ようやく、温まってきた……。

 

 そうして今、この瞬間に俺の中に流れる血液と魔力は最高速度に到達しようとしていた。

 

最高速度(トップギア)だ!!」

 

 今叩き出せる最高の状態で、最優の騎士に挑む。正面から単調に勢い任せの連撃でジルフレアに攻め込んでいたが、ここに来て攻め方を変える。

 

「ッ──!!」

 

「ほう……」

 

 数段階も跳ね上がった身体能力で俺は一瞬にして奴の視界から消え去る。手順としてはただ正面から背後に回っただけであるが、不意を衝くには充分な速度と隙を作り出せた。その勢いのままに俺は無防備な背中に斬りかかる。回避は不可能。絶対に当てたと確信する。

 

 ──もらった……!!

 

 しかし俺の剣は届くどころか軽くあしらわれる。大きく木剣を振りかぶり視界が少しだけ開けたのと同時に飛び込んできたのはジルフレアの抜き放った木剣だった。

 

「んぐえっ!?」

 

 俺は回避は疎か防御も間に合わずにその一振りを正面から貰う。

 

「あなたの実力はその程度ですか?」

 

 間抜けな声を上げて尻もちを搗けば煽られる。

 

 安い挑発だ、それも相手を考えれば仕方のないことだった。だがそんなの関係ない。調子に乗ってきた一度目の俺にとっては相手がどれだけ強者であろうと見下されるのは気に入らないことであり、悔しくて仕方がなくて、ただ眼前の男を見返したいだけ──その一心だ。

 

「まだまだぁああ!!」

 

 飛び跳ねるように立ち上がって更に体内の血液を加速させる。全身が熱くて、心臓の脈打つ音が激しさを増す。視界は色褪せて、周りの雑音がぼやけていく。ここまで体を酷使するのは初めての経験だ。けれど不思議とまだ全然余裕がある。今が限界だと思っていたのに簡単に限界を飛び越えられる予感がする。

 

 ──俺はまだまだ強くなれる。

 

 体感した。知らなかった。自分がこんなに才能に溢れていたなんて……一度目の怠惰で、傲慢で、見栄しか張れない無能な自分では気づけなかった、体験できなかった感覚。

 

「これはクソジジイに使うなって言われてるが……とっておきだッ!!」

 

「っ!?」

 

 いつの間にか体中には無数の傷があちこちにある。そこからは微かであるが()が滲んでいる。

 

「〈鉄血〉!!」

 

 それは魔を帯びた命令。全身は今叫んだ命令によって無数の傷口から血を吹き出す。そして飛び出した血は俺の意思一つで鋼鉄と化す。方向なんて関係ない。躱す、避ける、防ぐ、去なすの話ではない。それらを全て無意味にするほどの物量──血の茨が真紅の騎士に襲い掛かる。

 

「──ッ!?」

 

 明らかに眼前の真紅の騎士は俺のとっておきに動揺している。今度こそ当てたと思ったが──

 

「いやいや、これは驚かされました」

 

 それでもジルフレアは紙一重で周囲に張り巡らせた血の茨を無効化する。理屈は分からない。ただ奴が木剣で空を斬っただけで血の茨は勝手に俺の意思下から外れて霧散した。

 

「──バケモノめ……」

 

 手応えなんて無いに等しい。ここまで身銭を切っても俺にできたのは彼の鎧をわずかであるが傷つけることのみ。それでもジルフレアはまさか攻撃を当てられるとは思わなかったのか、その端正な顔立ちを驚愕の色に染めていた。

 

 しかしそれも一瞬で、彼はすぐに好戦的な笑みを浮かべる。

 

「まさかここまでとは──先ほどの発言は取り消させてもらいましょう」

 

「騎士が一度吐き出した言葉を取り消す? ふざけんな!一度吐き出したなら最後までその言葉に責任を持ちやがれってんだ!!」

 

「……確かに、ならば私の魔法を持って謝罪といたしましょう」

 

 瞬間、場の雰囲気が激変する。底冷えするような恐怖に思わず、忘れていた竦みを思い出す。どうしてあんな煽りをしてしまったのか? いまさら後悔するがもう遅い。全ては調子に乗ってしまった俺の落ち度である。

 

「灰燼」

 

「っ!!」

 

 刹那、先ほどの寒さが嘘のように俺へと刹那的な熱量が襲い掛かる。

 

 一言でソレを表すのならば「炎」である。しかし、ただの炎ではない。それはまるで一瞬ですべてを無に帰す、忘却の炎だ。その一端にほんの一瞬だけ対峙しただけで俺の意識はかすめ取られ、簡単に霧散した。

 

 ──やっぱり、次元が違う。

 

 ようやく冷静さを取り戻した思考で俺は激しく後悔して、おざなりに意識を手放すしかなかった。

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