調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第18話 郊外訓練(2)

 いきなり放り込まれた郊外訓練で色々と戸惑うこともあったが何とか平静を取り戻すことができた──と言うよりも冷静にならなければ外では簡単に死んでしまう。

 

 ──いつまでもうじうじと過ぎたことを考えていても仕方がないしな。

 

 アリスにも諭したように外には危険が大量に潜んでいる。少しの油断、ほんの数秒の判断ミスで自らを危機にさらしてしまう。森に入ってしまえば常に周囲の警戒を怠ってはいけない状況が続く。

 

 だからと言って目的地に向かっている最中の行軍が決して楽な訳ではない。配給された四日分の水と食料、そしてサバイバル道具一式を背負って、丸一日代り映えのしない道を進むというのはなかなか精神的にくるものがある。

 

「疲れた……いつになったらつくのよ……」

 

 朝一で王都を出発して、あんなに高かった太陽も気が付けば殆ど沈みかけていた。ここまで何回か小休憩を挟みつつも、ほぼぶっ通しで移動してきて騎士たちの疲労は最高潮であり、愚痴をこぼす者も出始めてきた。

 

「リル~口に出すな~。言葉にすればするほど疲労が溜まっていく──ような気がするぞ」

 

「そうだよ。それにほらリルより年下のレイくんが弱音を吐いていないんだから見習いなよ」

 

「う~……どうしてレイはそんなに余裕そうなのよ……」

 

 隊列を乱すことなく愚痴る騎士三人組。突然の俺の参加にゴードンさんたちは不満を表すどころか、快く歓迎をしてくれた。ここまで和やかな雰囲気で来れたのも彼らの人徳の成せるところだ。

 

 話題の矛先がこちらに向いたので俺も彼らの意見に便乗する。

 

「そんなことないですよ、リルさん。俺も結構限界です。でもあと少しなんで一緒に頑張りましょう」

 

「うえ~絶対ウソだぁ。だって全然顔が疲れてないもん」

 

「フェイド様のしごきを毎日受けてるんだ、お前とは鍛え方が違うってことだな!」

 

「あはは! 違いない!」

 

「なによ二人とも~!」

 

 俺の発言を三人は謙遜と受けたったようだが、実際のところ疲労は溜まっている。足の感覚はほとんどないし、できることならば歩きたくなはい。けれど精神の方はまだ余裕があった。

 

 彼らの言うように毎日クソジジイの鍛錬を受けているというのもあるだろうが、それよりも〈血流操作〉で身体能力を底上げしたり、疲労回復を促進させたりしてズルをしているのが大きかった。

 

 ──なんだか三人に悪いな……。

 

 なんの悪意もなく素直に褒めてくれる三人にちょっと罪悪感を覚えてしまう。使えば使い込むほどに〈血流操作〉は身体に馴染んで、多種多様な活用ができる。基礎的な魔法であるが本当に侮れない。やはり一度目の人生でこの魔法の重要性や汎用性に気づけなかった俺は愚か者であったらしい。

 

「はは……」

 

 なんて、自嘲的な笑みを浮かべながら進んでいると目的のベイラレルの森前へと到着する。一日目は最初の説明通り移動日であり、今日は森の中に入らずこのまま野営をして明日から本格的に始まる訓練に備える。

 

「よし、そのまま野営準備に入れ!!」

 

 一様にぐったりと疲れた様子の騎士たちだがまだ休むことなく、指示通りにテキパキと設営作業に取り掛かる。

 

「そんじゃあ、俺らもさっさと野営の準備だ。レイとリルはテントの設営、俺とルイドは火起こしだ」

 

「「「了解」」」

 

 俺達もゴードンさんの指示で即座に準備に取り掛かる。やはり三人とも普段の訓練からこういったことには慣れているようで、動きが別格だ。とても心強い。

 

「じゃあちゃっちゃっと立てちゃいましょうか」

 

「ですね」

 

 リルさんと一緒にテントの設営作業に入る。

 

 初めての野営にフリージアではないが少し興奮しているのはうまく隠せているだろうか?

 

 そんな不安が過るくらい今の俺は正直この状況を楽しんでいた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 初めてのキャンプから夜が明けて郊外訓練二日目。今日から森の中へと入って一泊二日のサバイバルが本格的に始まる。今回の訓練の課題は森の中で二日生存することは勿論、特定の魔物の討伐だ。

 

「ハウルウルフを20体討伐とハイドゴブリンを30体、それから──」

 

「相変わらずえげつない量だね……」

 

「ほんとに二日で狩れるかしら?」

 

 早朝、森の中に入る前に各隊に配られた指令書の内容を確認して俺達はゲンナリとする。指令書には討伐対象の魔物が羅列されており、その数は全部100体だ。

 

 このベイラレルの森は奥に行けば行くほど魔物の生息量や脅威度が上がり、危険になっていく。指令書には森の中域まで赴かなければ遭遇することが難しい魔物も普通に書いてあるのでクソジジイの鬼畜ぶりが覗える。

 

「ちなみにレイは魔物との戦闘経験は?」

 

「多くはありませんが一応はあります。でも不慣れなことには変わりないのでご迷惑をかけるかもしれません」

 

 ゴードンさんの質問に俺は素直に答える。一度だけ爺さんに連れられて郊外に出たときに魔物との戦闘経験はある。だが、その時は近場でそれほど脅威度の高くない魔物と戦闘をしただけで、しかも数回ほど戦闘をしてみると爺さんはすぐに「よし、大体わかった。戻るぞ」と言ってすぐに普通の鍛錬に戻されてしまった。

 

 あの爺さんは何事も出来が悪ければそれが爺さん基準で良くなるまでとことん実践の数を熟す。なので早々に切り上げたということは別に俺が不甲斐なかったり、魔物との戦闘センスが皆無というわけではないだろうが、その真意は不明である。

 

「まあ、一緒に訓練してるのをみるに魔物との戦闘は問題ないように思うぞ。そんなに気張らずに行こう。何も一人で戦うわけじゃあない」

 

「そうだよ!」

 

「気楽にいきましょ」

 

「ありがとうございます」

 

 過去の出来事を振り返りつつ、三人に励まされながら森を進んでいく。森に入ってから、かれこれ三十分ほどが経ったが今のところ魔物との遭遇は無し。

 

 ──そろそろ接敵してもおかしくはないけど……。

 

 忙しなく視線を巡らせて情報を更新していく。些細な変化も見逃すまいと集中力を高めていくと──

 

「っ!!」

 

 不意に視界端に映った茂みが不規則に揺れる。耳朶を打つ茂みを掻き分ける音にゴードンさんたちは即座に臨戦態勢に入る。それに倣って俺も剣を抜いた。いつも鍛錬で使っている刃の潰れた木剣ではない、それは確かに生物を斬るために鍛えられた鋼の刃である。

 

「……」

 

 特段、違和感は覚えない。重さも長さも普段の鍛錬で使っている木剣となんら変わりない。寧ろ、こっちの方が少し軽いまであった。

 

 そうして茂みから出てきたのは四体の魔物だ。

 

「Bow!!」

 

「ハウルウルフだ。数は四つ! 各個撃破で行くぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 ゴードンさんの指示にしたがって俺たちは隊列を解いて散会する。吠える獣との戦闘が始まった。

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