調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第24話 決意

 七龍──〈影龍〉の眷属、そしてその残滓がベイラレルの森に出現したという話は国内、そして他国へとすぐに波及した。

 

 運悪く、騎士団の郊外訓練中に〈影龍〉の眷属と残滓が現界し、騎士団に襲い掛かった。どうしてここ数十年は確認されなかった七龍がらみの事象が突然、確認されたのか?

 

 その理由は定かではないが、今回現界した〈影龍〉の眷属と残滓はクロノスタリア王国騎士団へと甚大な被害を齎した。実際に眷属や残滓をその目にせずとも森全体を奴らの魔力と戦闘の衝撃が彼らを巻き込んだ。

 

 負傷者15名、死者は20人に及び、実に訓練に参加していた半数以上が龍の脅威に脅かされた。そして天災が現界したベイラレルの森も酷い有様だ。このまま七龍の現界にクロノスタリア王国は為す術なく、龍に鏖殺されるだけかと思ったが一人の英雄がそれを食い止めた。

 

 その英雄の名はフェイド・グレンジャー。

 

 現騎士団の指南役であり、元〈比類なき七剣〉第一席〈紅血魔帝〉、その実力を持ってして彼は影龍の眷属と残滓を()()()()()()退けた。これにより、クロノスタリア王国は破滅の危機を回避できた。突然の七龍の脅威に王国は呆然とするしかなく、そしてすぐに霧散した脅威に現実味が薄かった。その実、慌てる暇もなく、人知れず龍は現れてその姿を消したことになる。国は至って平穏であった。

 

「七龍の天災を一人で退けた英雄を讃えよ!!」

 

 とは国王──ライカス・クロノスタリアの言葉である。そうして龍を退けたフェイドは国王から勲章を与えられて国民からも英雄と持て囃されることとなる。

 

 これが今回の事の顛末だった。

 

 しかし、実際のところそれで「はいおしまい」とは、そんな簡単な話ではなかった。傍から見れば、甚大な被害は被りつつも七龍の脅威は無くなり、国には平穏が訪れた、全てが解決して終わった。

 

 けれど、俺の中では何一つ終わってなんていなかった。

 

「……」

 

 意識を取り戻してから早一週間、郊外訓練はもちろん中断だし、気が付けば俺は治療院のベッドで意識を取り戻した。情けないことに爺さんと影龍の残滓の戦いを見届けた後、俺はずっと気を失って知らぬ間に王都に戻ってきていた。

 

 眷属竜との戦闘でほぼ瀕死の状態だった俺は度重なる無理によって最初こそ、いつ死んでもおかしくない状態であったが、流石は〈血統魔法〉と言ったところか、何とか一命は取り留めた。退院したのがちょうど二日前で、あれだけボロボロだった体はいつの間にか元通り──だというのにあの夜の傷はまだ完全に癒えた気がしなかった。

 

「はぁ……」

 

 屋敷に戻ってきてからは日がな一日ぼんやりといつも鍛錬をしている裏庭の隅で空を見上げていた。いつもならば朝の鍛錬を終えて、座学の時間であるが流石に騒動があった数日でいつもの日常に戻れるはずもなかったし、父のジークも鬼ではなかった。「ゆっくり休むといい」と言われ俺はその言葉の通り安静にしていた。

 

 ──こんなに何もしない時間を過ごしたのはいつぶりだろうか?

 

 本当に怠惰で退屈で無為な時間だ。正に一度目の人生でこんな時間は無数にあった気がする。本来、俺と言う人間はこういう無駄な時間の浪費が大好きであった。

 

 龍と遭遇し、その眷属と戦ってなお俺は五体満足で生き伸びた。その事実に家族や従者たちは大変喜んでいた。俺も自分のことながら本当に奇跡としか思えないし、普通ならば手放しで喜ぶべきことなのだろう。

 

「……チッ」

 

 けれどこの事実に俺は素直に喜べないでいた。

 

 理由は明白だ。まだアリスが目を覚ましていないからだ。

 

 突如として〈影龍〉に狙われた彼女を何とか助け出すことはできたが、どうしてか彼女は未だ昏睡状態だった。医者に見せても原因は不明、治すこともできずにただ様子を見ることしかできない。その事実が俺の精神を罪悪感で締め付けた。

 

 ──どうして俺だけ……!

 

 更に今、国内で英雄と騒がれている爺さんの様態も芳しくはなかった。今回の騒動、そしてアリスのことで彼は深く責任感を負い、すぐに意識を取り戻し、怪我人とは思えないほど事態の収拾に尽力し動き回っているが、彼は先の一戦で致命的な欠陥を負ってしまった。

 

 それは世界を見下す七龍の一体に認められた証であり、祝福であり、呪い。〈影龍〉に刻まれた(ノロイ)によって爺さんは右腕の感覚を失い、そして()()が使えなくなった。それは騎士として致命的であり、明らかな欠陥だ。それでも爺さんはこの事実を民衆に隠し、英雄を演じていた。

 

 何故か?

 

 それが強者の責務であるからだ。

 

「ハッ……クソほど笑えないな」

 

 これが実際のところの話であり、そして俺はこの事実に自身の不甲斐なさを心底痛感した。強くなったつもりでいた、もう十分な力を手にしたと思っていた。けれど全然だ、全くだ、微塵もだ。

 

 ──足りない。

 

 圧倒的な力を前に俺はただ絶望し、大切な人間を守れなかったではないか、何もできなかったではないか。

 

 慢心していた、驕っていていた、弛んでいた──調子に乗っていた。それは一度目で嫌と言うほどに思い知ったと思っていた。だが全然だ、全くだ。俺はあの死から何も学んではいなかった。同じ過ちを繰り返してしまった。

 

「ふざけるな!!」

 

 周りは気にするなと言う。お前だけでも無事でよかったと喜んでくれる。しかし、俺は全くこの事実に喜べないし、喜べるはずもなかった。一度目の俺ならば素直に喜べたはずだ。

 

『別に自分だけが助かればそれでいいじゃないか』

 

 醜い何かが宣う。

 

『自分の望んだ未来にはなんの支障もない』

 

 確かにその通りかもしれない。過去に戻ってきてすぐに、俺は自分が助かりさえすれば、果たすべき責任も責務も全て放り出して、誰かに任せてしまえばいいと思っていた。自分だけ逃げてしまえばいいと思っていた。けれど、どうしてか今の俺は微塵もそうは思えない。

 

 自分だけ逃げることがどれだけ苦しく、惨めで、情けないことか、その行為がどれだけ無責任で愚かでなことであるか思い知った。考えを改める必要がある。目指す未来に変更はない。けれどその前に成すべきことがある、成さなければならないことがある。それは──

 

「あの龍を絶対にぶっ飛ばす」

 

 敵討ち……などと言った責任感なんかではない。それを果たさなければ俺は自分が望む未来を素直に享受できない、結局のところは俺自身が楽になりたいが為にすると決めたことだ。

 

 爺さんは言った。

 

『恐らく、アリスはもう少しで目を覚ますだろうが、俺と同じように何か失っている。それは〈影龍〉の寵愛であり呪いだ。どんな聖なる力を以てしても解呪は不可能で、唯一の方法はその呪いを刻んだ元凶を滅ぼすことだけだ』

 

 付け加えて彼はこう言った。

 

『別にお前が責任を感じる必要はないし、何かをする必要もない。不幸な事故に遭っただけだ』

 

 釘を刺すような彼の言葉を俺はしっかりと覚えている。けれど責任を感じずにはいられなかった、何かをしなければいけないような気がした。

 

 だから俺は決意する。

 

「それができなきゃ、俺は一度目と同じクズ野郎だ」

 

 あの龍を殺すまでは、あの龍を殺すためならばこれから起きる龍絡みの事柄には一切の妥協はせず、手を抜かないと。どんな手段、方法を使ってもあの龍をこの手で殺すのだと。その為には、結局のところ俺はまだ強くなる必要があった。

 

 やることは最初から何も変わらない。ただ、何となく続けていた鍛錬を死ぬ気で取り組むだけだ。そう、大した変わりはないのだ。

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