調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第27話 大決断

 アリスが目覚めてから3日が経った。最初こそ全員が大号泣して状況を掴めていない彼女であったが、その後の医者の検診や状況整理によって現実が明るみになった。

 

 やはり、アリスの視力は〈影龍〉の呪いによって失われ、爺さんと同じように魔法まで扱えない体になってしまった。この事実にアリスは相当なショックを受けていたが、まだ6歳とは思えない胆力と精神力で毅然とした態度を取った。

 

『あの天災と遭遇して命があるだけ感謝です』とは彼女の言であり、本当に彼女は俺と違って強い。そんな悲しい事実確認もありながら、それでも屋敷は以前の活気を取り戻しつつあった。

 

「これはどこに持っていく!?」

 

「あれ、カンナさんは??」

 

「おーい、こっち手伝ってくれ!!」

 

 少し前までどんよりとしていた雰囲気が今では無くなりつある。両親や爺さん、使用人はもちろんのこと、俺の精神的不安はかなり緩和され、以前のような鬼気迫るほど心は焦っていなかった。

 

 それでも彼女の前で誓ったように、俺にはアリスと爺さんに呪いを刻んだ元凶──〈影龍〉を殺すという目的がある。それを果たすには今回のことで安堵して気を抜いている暇はなかった。本日もカンナの監視のもと一人で朝の鍛錬を終えて、食堂に向かう。その途中でアリスと鉢合わせた。

 

「おはよう、アリス」

 

「あ!おはようございます、お兄様!!」

 

 彼女は声のした方向から俺の位置を割り出して、身体をゆっくりと振り返らせた。

 

「大丈夫か?食堂まで一緒に行こう」

 

「ありがとうございます」

 

 アリスの側まで寄って彼女が転ばないように侍女に変わって手を取り、ゆっくりと食堂に向かう。その間でアリスは楽しそうに話し始める。

 

「聞いてくださいお兄様!」

 

「うん、なんだ?」

 

「今日の朝ですね──」

 

 まだ目が見えなくなったと分かってから3日、彼女は本当に頑張っている。新しい生活に慣れるための努力と、周りを心配させないために普段通りに振舞っている。

 

 ──本当に強い子だ。

 

 そんな彼女の姿を目にするたびに胸中から込み上げてくるものがある。それを何とか抑え込んで、俺も普段通りに彼女に接した。食堂へ辿り着けば既に父様と母様が席について出迎えてくれる。二人は中に入ってきたアリスを見てほっと胸をなでおろしている。

 

「おはようございます!」

 

「ああ、おはようアリス」

 

「おはようアリスちゃん」

 

 やはりと言うべきかそこに爺さんの姿はない。アリスが目を覚ましてからは一層忙しそうにしているから仕方がない。そもそも本来はそれが当たり前なのだが、今までが今までだったので違和感が凄い。

 

「今日も叔父様はいないのですね……」

 

「まあ普段からいすぎたくらいなんだけどな」

 

 残念そうなアリスを励まして席に着く。俺としても彼がいないのはここにきて色々と不便あった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 そんな考えを読んだかのようにその老兵は午後の鍛錬中に突然姿を現した。

 

「お、今日も励んでるなレイ!!」

 

「この時間に顔を出すのは珍しいな……どうしたんだ爺さん?」

 

 素振りを止めて、俺は爺さんを見た。つい最近までは死んだ魚のように生気を感じず、やつれ具合に拍車がかかっていた爺さんであるが、ここ最近で随分と顔色は良くなり、いつもの調子に戻りつつあった。

 

 しかし、依然として〈影龍〉の件や騎士団がらみで忙しそうな彼はこちらの鍛錬に顔を出せていなかったのだが……今日久しぶりに姿を現した。

 

 ──いったい、どういう風の吹き回しなのだろうか?

 

 内心、疑問を抱きつつもこちらとしては色々と聞きたいことがあったのでちょうどよかった。俺は鍛錬を一旦中止して爺さんの元へと行く。すると彼は開口一番い聞き捨てならないことを宣った。

 

「レイよ、大事な話がある」

 

「なんだよ?」

 

「俺、騎士団辞めてきた」

 

「……は?」

 

 いつになく真剣な様子なものだから何を言うのかと身構えていると予想外の言葉が飛んできて困惑する。そんな俺の反応を見て、クソジジイは同じ言葉をもう一度言った。

 

「だから、俺、騎士団辞めてきた」

 

「はああああああああああ!!?」

 

 今度はその言葉の意味をしっかりと嚙み砕き、そして驚きのあまり大きな声が出てしまう。続けて俺は詰め寄った。

 

「辞めたって……はあ!? また、いきなり……なんで!?」

 

「おお、いい反応するなあ」

 

 俺の詰問を意に介さず眼前のクソジジイは呑気に笑う。面白がられていることを自覚して、俺が恨めしく半目を向けると爺さんは素直に事の顛末を語った。

 

「別にそんなに驚く話なんかでもない。なんなら当然ともいえる。俺はこれ以上、騎士団にいても何の役にも立たん、だから辞めてきた」

 

「役に立たないなんてそんなことは……」

 

「そんなことあるさ。自分の右腕と、魔法もまともに扱えないジジイがいつまでも騎士団の指南をするっていうのは無理だ。適任は俺以外にもいるしな──」

 

「……」

 

 説明した爺さんは納得しているみたいだが、どこか哀愁を漂わせる。この一カ月で相当な葛藤があったのは容易に察せられた。

 

「それにこれは以前から決めていたことなんだ。集中してやりたいこともできたしな」

 

「やりたいこと?」

 

 首を傾げると爺さんは俺を指さした。

 

「お前だよ、レイ。お前、あの龍を殺すつもりなんだろう? なら、師匠の俺もそれ相応の覚悟を決めなくちゃならん」

 

「なっ──」

 

 まさかの理由に驚く。爺さんに〈影龍〉のことを話した覚えはない。まるで思考を盗み見られたような気分だった。

 

「お前のその張り詰めた顔を見れば嫌でも分かるさ。だから俺は残りのクソみたいな生涯をかけてお前を鍛え上げると決めた」

 

 これはもう決定事項だと言わんばかりの爺さんの態度には懐かしさすら覚える。この爺さんはいつも「やる」と言ったら絶対にやるし、違えることはない。

 

 ──ほんと、いつも急なんだよ。

 

 騎士団を止めると言う大決断を無断で決行して、しかもその理由がなし崩し的に取った弟子の面倒を見るからなんて──

 

「本当に、どうかしてるぞアンタ……」

 

「わはは!褒めても何も出ないぞ!!」

 

 ──褒めてねえよ……。

 

 突っ込むのも億劫なので流す。何でもかんでも反応していたら気疲れしてしまう。一つ深呼吸をして気を落ち着けていると、爺さんは一転して真面目な顔つきになる。

 

「しかし、レイの言いたいことも分かる」

 

「は?」

 

「つまりあれだろう? なんか当然のように師匠面している俺が気に食わないのだろう?」

 

「いや、違──」

 

「分かる! 分かるぞ! 俺でも、右腕が使い物にならず終いには魔法も碌に使えないクソジジイなんかに教わることなんてないと思う!」

 

 何故か自身を卑下して熱弁するクソジジイ。

 

 ──こいつほんと人の話聞かねぇな……。

 

 それも今に始まったことではないのだがどうかとは思う。クソジジイはなおも言葉を続けた。

 

「だから、これから証明しようではないか!!」

 

「何を?」

 

「もちろん! 俺がまだまだレイより強くて、師事を仰ぐのに足る人間であるということをだ!!」

 

 声高らかに言い放つボケ老人。つまりこのクソジジイは何が言いたいのかと言うと──

 

「これから俺と決闘だ!!」

 

 直接戦って見極めろと言うことらしい。

 

「……」

 

 本当にこの爺さんはいつも唐突でメチャクチャすぎる。しかし、俺に拒否権はなかった。実際、気になっていたことである。

 

 今の俺がこの爺さんと比べて、どれほど強くなれたのか。

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