調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第41話 ガイナ・バスターくん

「どうしてこうなった……」

 

 なんだか以前にも同じようなことを言った気がするのは、確実に気の所為ではないだろう。なんならこうなることが当たり前になりつつある。やはり、世界は俺のことが嫌いらしい。全くふざけるなこの野郎。

 

 二度目の学院生活は地味に無難に、できるだけ荒事には首を突っ込まず、目立たずに行こうと思っていた。それが一度目の自業自得な人生で学んだ唯一のこと……だというのに、入学して二日目で俺は王子殿下の代わりに何故か決闘をする羽目になっていた。

 

 ──本当になんで?

 

「レイ!思いっきりやっちゃっていいわよ!!」

 

 理由なんてのは分かり切っている。今回の全ての元凶は後ろの方ではしゃいでいる戦闘狂(フリージア)の所為だ。

 

 場所は学院内にいくつか存在する訓練場の一つ──第二訓練場。対峙するのは入学初日から何かと俺に怨嗟の籠った視線を向けてきていたガイナ・バスターくんであり、やはり彼は今もこちらに鋭い眼光を飛ばしてきていた。彼の背後では同じ陣営の取り巻きどもが何やら俺に野次を飛ばしてくる。

 

「学院の面汚し!」

 

「真面目に試験を受けた全生徒に謝れ!」

 

「自分だけズルをして恥ずかしくないのか!」

 

 そんな謂われない野次を聞いて、俺の背後にいる今回の元凶はとてもご立腹である。

 

「なんですって……?レイのこと何も知らないくせに適当なこと言ってんじゃないわよ!?」

 

「お、落ち着けグレイフロスト嬢。君も淑女ならば婚約者であるレイの勝利を信じて──」

 

 ──……うん。俺のことで怒ってくれのは大変感慨深いんだけれども、俺は普通にお前を許していないから後で覚悟してろよ???

 

「許すまじ……」

 

 依然として怒り収まらないと言った様子の暴動系お嬢様を、王子殿下が宥めるというよくわからない光景を確認して、俺は対面する相手へと向き直る。

 

 俺よりも頭一つ抜きんでた体躯に、短く切りそろえられた赤髪は彼の獰猛さを表してるようだ。既に武器である訓練用の木の長剣を構えたガイナ・バスターくんは殺気を隠さずに、こちらを叩き斬る気満々だ。

 

 ──決闘だよね?殺し合いじゃないよね?

 

 心配になるが、いざと言う時は責任者のヴォルト先生が止めに入ってくれるだろう。勝手にそう信じて、俺は今にも斬りかかってきそうなガイナくんに改めて挨拶をした。

 

「どうぞ、よろしくお願いします」

 

「ハッ!ブラッドレイの怠惰野郎がお行儀よく挨拶とはどういう風の吹き回しだ?お前みたいな雑魚が本当に闘えんのかよ?部屋に閉じこもってなくていいのか?」

 

 うーん、この嫌われ具合。ここまで来るといっそ清々しいまであるな。

 

「いや、別にずっと部屋に引きこもっていたわけでは──」

 

「本当に気に入らないぜ。俺達〈試験組〉は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お前みたいな()()()()血統の人間はそれをしなくても()()()()()()()()()()()()()。お前みたいな貴族が俺は大嫌いなんだ!!」

 

 弁明しようにも、ガイナ・バスターくんは聞く耳を持ってはくれない。どうやら俺個人と言うよりは貴族と言う人種自体が彼は嫌いらしい。

 

 確かに今彼が言ったような貴族は多くいる……と言うか大半が今言ったどうしようもない奴ばかりだ。一度目の人生の俺は正にそんな貴族の模範であったように、それは事実であり弁明の余地はない。二度目の今回も傍から見れば俺はその一種でありその実、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「グサグサと来るなぁ……」

 

 実は本当のことを言われて結構凹んだりもしている。それでも俺は彼に負ける気など微塵もなかった。凹んでいるのは本当だが、それと同じくらいに実は結構腹も立っている。

 

「その腐った根性を叩き直してやる。行くぞ、怠惰野郎」

 

「どうぞお手やわらかに──」

 

 逆にこれだけ好き勝手言われてムカつかない奴はいないだろう。仮にいたとしても俺はそこまで善人なんかじゃない。嫌いは嫌いで構わないが、だとしてももう少し取り繕ってくれ。そうじゃないと俺は平穏な学院生活を送れないだろうが。

 

「挨拶はすんだか?それじゃあ──始め!!」

 

「「ッ!!」」

 

 ヴォルト先生の合図で決闘の火蓋は切って落とされた。同時に俺達は地面を蹴る。瞬きのうちに剣の届く間合いとなり、剣戟が響いた。

 

 ──取り合えず、お手並み拝見だ。

 

 あれだけの啖呵を切っていたのだ。ガイナ・バスターくんが今日までどれだけの()()をしてきたのか素直に気になるし、その実力とやらを見せてもらおう。

 

 鍔迫り合いの形と相成る。力は拮抗──

 

「クッ……!!」

 

「へえ、これが耐えられるならまだ上げてもいいな」

 

 しているように演出する。ガイナ・バスターくんにだけ聞こえる声量で言って、俺は更に力を込めた。

 

「──」

 

「な、んだよ、これ!!?」

 

 速度を一段跳ね上げる。彼がギリギリ捌けるかどうかの剣筋で、致命傷にはならない程度に攻めてみた。

 

 結果として二十数合中、ガイナ・バスターくんがまともに俺の攻撃を防げたのは四合のみ。あれだけ大口を叩いたのだからせめて半分の十くらいは捌くか避けてほしかったけれど……高望みし過ぎたか。

 

「まだ上げるぞ?」

 

「はあ!!?」

 

 それでも止めはしない。久方ぶりの対人戦だ、せっかくならもう少し楽しみたい。

 

 龍を殺すと決めて、爺さんの鍛錬の密度が以前よりも過密になってから早六年と半年。大して使える魔法の数なんてのは増えていないが、それでも俺は強くなったと自負していた。【紅血魔法(ブラッドアーツ)】は長期戦に特化した魔法であり、魔法稼働率の初速が他の魔法と比べると異様に遅い。傷つけば傷つくほどに強くなる……なんて言えば聞こえはいいかもしれないが同時にデメリットも多くあるし、普通に傷つくのが前提の戦い方なんて頭が沸いているし、狂っている。

 

 ──てか普通に痛いの嫌だし。

 

 と言うか好きな奴なんてごくわずかだろう。だからいきなり大技を繰り出して敵を制圧するなんて芸当は正直したくない。その為には大量の出血が必須となるのだし。

 

「儘ならねえなぁ……!」

 

 使い込めば使い込むほどにこの魔法は面倒で、扱いずらい。本当に肉弾戦最強の魔法かと疑いたくもなるが、それでも眼前の男を圧倒するぐらいはできる。

 

「ちょ、まって、もうむ──!!」

 

 ──まあそれができたとして、何の意味もないんだけれども。

 

 この六年半で俺が成長したことと言えば、単純に以前よりも剣術の腕が上がったのと、血液量と魔力量が増えたということだけ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うッ……く、クソ!!」

 

「流石にここまで上げるとついてこれない――か」

 

「〈岩石(ストーンバれ)──」

 

「呑気に魔法を使わせてもらえると???」

 

「うぐッ!!」

 

 変な小細工や、周囲を殲滅できる大魔法なんてのは必要ない。俺には基礎の基礎──〈血流操作〉があれば大抵の敵を殲滅できる。

 

 ──正に原点にして頂点ってわけだ。

 

 戦況は正に防戦一方。俺はガイナ・バスターくんに反撃の隙さえ許さない。戦闘が進めば進むほど俺は彼の様子など度外視して勝手に一人で戦闘速度を上げていく。

 

 自分でも自覚していなかったが俺は彼の態度に相当なストレスを感じていたらしい。〈血流操作〉が活性化していくごとに()()()()()()が不意に顔を出す。舌もよく回るというものだ。

 

「おいおい、あんだけ啖呵切っといてそんなもんかよ?俺より血の滲むような努力してきたんだろ? ならよぉ……見せてくれよ。俺はお前の言ってること正しいと思ってるんだぜ?だからさぁ……本気で努力してきた奴の底力見せてくれよ!!?」

 

「ひぃッ……!!」

 

 急接近して大上段から斬り下ろすと情けない声が聞こえてきた。眼前のガイナ・バスターくんの顔を見てみるとなんとも情けない表情だ。

 

 そんなバケモノに襲われたみたいな顔をしないでほしい。俺と君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。仲良くやろう、いがみ合うなんてバカバカしい、それこそ時間の無駄だ、同じ弱者なのだから平和に行こう、この決闘を有意義なものにしよう、高め合おうではないか。まだまだ俺達は伸びしろがある、強くなれる。

 

「ま、参った!おれ、俺の負けだ!!」

 

 しかし、そんな俺の思いは彼に届かない。いつの間にか情けなく尻もちを付いたガイナ・バスターくんは後ずさるように逃げながら、半泣きで叫んだ。

 

「……は?」

 

 思わず気の抜けた声が出る。〈血流操作〉の循環率はまだまだこれから、漸く体が温まってきたところだと言うのにもう終わり? 納得がいかない。不完全燃焼もいいところだ。

 

「そこまでだ。クレイム・ブラッドレイ」

 

「──」

 

 この決闘の審判をしていたヴォルト先生を見ると彼にまで止められてしまう。全然納得できないので、もう一度ガイナくんの方へと視線を戻して文句の一つでも言ってやろうとするが──

 

「え?」

 

「う、ひっぐ……痛え、痛えよぉ……!!」

 

 そこで俺は正気に戻った。目の前には尻もちを付いていつの間にかガチ泣きしているガイナ・バスターくん。それは変わらない。けれど気が付いたことがある。

 

 ──こんなにボロボロにしたっけ?

 

 軽く訓練用の木剣で二、三回斬りつけただけの感覚であったが、それよりも多くの傷が彼には付いていた。特に首回りが酷い。

 

「や、やりすぎた……」

 

 そこで漸く、俺は自分がしでかしたことに思い至る。よくない癖がまた出てしまった。もうちょっと耐えられるかと思っていたが、判断を見誤ってしまった。

 

「ご、ごめんね、ガイナく──」

 

「ひぃ!な、生意気言ってすみませんでした! だ、だから殺さないでください!!?」

 

「……」

 

 彼の身を案じて謝罪をしようとするが、もう完全に格付けが済んでしまった。よくよく観察してみれば今の決闘を見ていたほとんどの人が絶句している。

 

 それもそのはずだ。先ほどまで威勢よく息巻いていたガイナくんがこの豹変ぶりなのだから、傍から見ても決闘中の俺は相当おかしな奴に映っていることだろう。こんなのを見て喜ぶのはあの女ぐらいである。

 

「流石、レイ!ちょっと見ない間にこんなに強くなって……今度は私と勝負しなさい!!」

 

「──今はそのしつこいくらいの戦闘狂ぶりがありがたく思えるよ……」

 

 けど、今日はもう何もしたくない……と言うか、決闘はしばらく控えようと思う。

 

 ──これ以上はボロが出かねない。

 

 もう手遅れな気もするがまだ間に合うはずだ。

 

 地味に無難に、できるだけ荒事には首を突っ込まず、それなりの実力で目立たずに、そんな学院生活の夢はまだ叶うはずだ。龍を殺すのに無駄な争いは不要である。無駄なことで時間を浪費している暇はない、猛省だ。

 

 

 そうしてクラスのリーダーを決めるための代表戦は終わりを告げる。

 

 結果はもちろん、俺のいる〈推薦組〉陣営の勝利。代理で戦った俺が勝ったということはつまりクロノス殿下が我がクラスのリーダーと言うことである。

 

 ──叶うと、いいなぁ……。

 

 勝利者にしては聊か勝った側の陣営の反応も引き気味であり、変な距離感を覚えながら俺は青く澄み渡る空を見上げた。

 

「本当にすごかったわ!!」

 

 それでもこの戦闘狂だけは大喜びである。




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