調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第49話 合同訓練

 気が付けばヴァイスとの鍛錬を始めてから一週間が経った。つまり俺と彼が授業をサボったのも同様の時間経過をしたということである。この一週間で俺が学んだことは、やはり鍛錬とは至高であり、学院に行かないことがどれほど気軽かと言うことだ。

 

 ──逆に行くのが楽しみになってきたな。

 

 心労がないだけでこれだけ前向きになれるのだ。やはり人間、適度に息抜きは必要なのである。

 

「行くぞ、ヴァイス」

 

「うん。今日もよろしくお願いします」

 

「おう」

 

 あれだけ朝起きるのがダメだった勇者殿は、今では俺に叩き起こされる前に外へと出る準備が整っている。この一週間で彼は本当に成長した──なんならもう別人である。変わりすぎて一度目では聞くことの出来なかった暴言の数々が、すらすらと出てくるようになってしまった。

 

「なんだそのへなちょこな素振りは! もう終わりかぁああ!?」

 

「なんだと!? まだまだ余裕だ!!」

 

 ──ちょっと変な影響を与えすぎてしまった気がするが……まあ気にするな。

 

 良くも悪くも、もう以前の気弱な少年はそこにはいなかった。

 

「今日も元気だな~」

 

「だな~」

 

 日常と化した朝の鍛錬。寮の裏庭で罵詈雑言が飛び交うのも普通になり、他に鍛錬をしている寮生たちも気にしなくなった。

 

 既に素振りの回数は二千を超えている。しかも全力で身体強化をしている状態でだ。今までのヴァイスならば、これだけの回数を全力の強化を行った状態で熟すのは不可能であったが、今の彼にはまだ十二分に余裕が感じられる。それでも汗をかく量は尋常ではなかった。

 

「今日は一日訓練だ。朝の素振りは軽めでいいぞ」

 

「分かりました!!」

 

 切りの良いところで鍛錬を止める。今日は授業をサボる前にヴォルト先生に言われていた合同訓練の日だ。

 

 久しぶりの授業に、遂にこの鍛錬期間も終わるのだと実感が込み上げてきた。この一週間は本当に色々とあった。俺としては久しぶりに思う存分に鍛錬することができたし、とても充実したものになった。それはヴァイスも同様だった。

 

「まだ授業に行くのは嫌か?」

 

「不思議なことに全然。ずっと怖かったべインドくん達も今は怖くないや──もっと恐ろしい人がいるってわかったからね……」

 

「なんだ、まだ余裕があるなら素振り追加するか?」

 

「だ、大丈夫です!!」

 

 どこか遠い目をする勇者殿に、そう提案をすると彼は慌てて首を横に振る。

 

「冗談だ」

 

「冗談じゃすまないよ……」

 

 その反応が面白くて笑ってしまう。恨めし気な非難の視線が勇者殿から飛んでくるが、誤魔化すように寮へと戻る。

 

 ・

 ・

 ・

 

〈一年生合同訓練〉

 

 それはその名の通り、この時期に全一年生合同で行われる訓練であり、お互いのクラスの武力やら結束力を示し格付けをする場でもある。

 

 毎年行われるこの恒例行事には、必ず特別講師として名のある騎士や武人が来るのだが──

 

「今年の特別講師は〈比類なき七剣〉のジルフレア・アッシュフレイム殿とグラス・グレイフロスト殿だ!!」

 

「「「おお!!」」」

 

 架設された壇上に並び立った二人の騎士に歓声が上がる。今回はひと際豪華な講師が来ていた。

 

「まさか最優の騎士が二人も来るとはな……」

 

「お姉さま……」

 

 俺達が集められたのは第一訓練場──この学院の中で最大規模のこの場所で訓練は行われる。

 

 クラスが別のヴァイスとは既に分かれて、俺は〈特進〉クラスの連中と最優の騎士を紹介するヴォルト先生の話を聞いていた。

 

 久方ぶりの授業であるが、そもそも二度目の人生である今回は入学早々にその授業をまともに受けていなかったのでそれほど懐かしさは感じない。

 

 ──フリージアが隣にいるのは懐かしいな。

 

 妙な感覚を覚えながらも、隣の戦闘狂お嬢様は眼前の壇上に立った肉親を見て驚いた様子だ。

 

 珍しく真剣な様子の彼女の気持ちは分からないでもない。正直、俺も驚いている。ジルフレアに加えて彼女もいるとは……やはりと言うべきか、ここら辺も一度目の人生とは全く異なっている。

 

 壇上から目ざとく俺とフリージアを見つけた最優の女騎士が小さく手を振ってくる。それにどう反応すべきか俺達は困惑するしかない。

 

 フリージアの五つ上の姉──グラス・グレイフロスト。姉妹なだけあって容姿はフリージアとは瓜二つ。違いがあるとすれば姉は水色の髪で、それを肩口辺りまで短く切りそろえらているぐらいだ。彼女とはこれまでに何度か騎士たちの駐屯所で対面し、手合わせをしたこともあるがいい思い出はない。

 

 ──今日はなるべく近くに行かないようにしよう。

 

 心に誓ってヴォルト先生の説明に耳を傾ける。

 

「今日の合同訓練は各クラスの顔合わせと交流の意味もある。お前らあんまりはしゃぎすぎて怪我すんなよ? とりあえず最初は近くの奴と打ち込み鍛錬だ。準備しろ!」

 

「「「はい!!」」」

 

 一つの訓練場に総勢500人の生徒が集まれば壮観である。大所帯にも関わらず、生徒たちの動きは迅速だ。それは偏に憧れの〈比類なき七剣〉に鍛錬を見てもらえる故か、どこか浮足立っているようにも思えた。

 

「さて……」

 

 周りがそそくさと準備をする中、俺は徐に視線を巡らせてヴァイスを探す。

 

 するとすぐに件の勇者殿は見つかった。どうやらあからさまにクラスの連中に省かれて孤立しているようだが、その表情は平常だ。あれなら問題はないだろう。

 

 ──それでも気になるのは師匠心ってやつか?

 

〈特進〉クラスの連中も打ち込み相手を決めていく中、俺は黙ってその輪から外れようとする。久しぶりに授業に参加しようと思ったら、早速サボろろうとしてるのは如何なものかとも思えたが仕方がない。少し目を離した隙に一番弟子が宿敵に絡まれているんだ。

 

 ──俺にはそれを見届ける義務がある!!

 

 そう自分を肯定して歩き出そうとすると、不意に肩を捕まれる。同時に直ぐ真後ろから甘い女性の声がした。

 

「あれ~?打ち込み相手も決めずにどこに行くのかな~?」

 

「──」

 

 瞬間、背筋が凍る。即座に距離を取るべきだと脳内が警鐘を鳴らすのに、身体は微塵も動かない。まるで蛇に睨まれたカエルのように背後へと視線を流すとそこには──

 

「それとも()()()()()と久しぶりに一緒に遊ぶ、レイちゃん?」

 

「い、いえ、結構です──グラスさん……」

 

 フリージアにそっくりな、しかしてその雰囲気は似ても似つかない綺麗な女性がいた。

 

「あの、離れてくれません?」

 

「私からはやーだ。もし離れたいなご自由にどうぞ」

 

 流れで背後から抱き着いてくるグラスさんに俺は為す術がない。

 

「もう詰んでるだろうが……」

 

 別に年上のお姉さんに抱き着かれるのを嬉々として受け入れているとか、思春期特有の強がりとかそういうわけではない。

 

 単純に彼女の拘束から逃れられないのである。この女、平然とこちらの関節をキメてきて動きを制限しているのだ。それだけで彼女のヤバさが分かってもらえると幸いである。

 

「レイから離れて姉さん!!」

 

 すぐ隣にいたフリージアが俺から姉を引きはがそうとするが、件の姉様は一向に離れようとしない。

 

「や、やめろフリージア! むやみに動かすと──んぐえ!?」

 

「フーちゃんも久しぶりだね~」

 

 一見、美人姉妹に取り合わられるという、何とも男の夢を体現したような状況だが、その渦中にいる俺は生きた心地がしない。

 

 何せ、この姉のヤバさを俺はしっかりと理解しているからだ。もう戦闘狂系お嬢様のフリージアが普通の女の子に思えてくるほどだ。と言うか関節が本格的にキマって、身体があらぬ方向に曲がろうとしているのだから実際にヤバい。

 

「何をしているんですか、グラスさん。彼に久しぶりに会えてうれしいのは分かりますが仕事はしてください」

 

「はーい……」

 

 そこに救世主が現れる。彼女と同等……いや、それ以上の地位を持つ騎士──ジルフレアだ。

 

「助かった……」

 

 もう少しで完全に腰が一回転するのではないかと言うところで、姉の拘束から解放される。俺は心の底からジルフレアに感謝した。

 

 ──さすがは最優の騎士だ。

 

 そんなくだらないことをしているうちに、既にヴァイスは運命の一戦を始めようかと言うところであった。

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