調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第51話 条件

「まじかよ!!」

 

「Bクラスのリーダーが負けた! 下剋上だ!!」

 

「一週間ちょっとで内部抗争とかBクラスはどうなってんだ……」

 

 訓練場にどよめきが上がる。今しがたヴァイスがスチュアードだかなんだかの腹を叩き斬った。

 

 気弱な少年がBクラスの頭目を一瞬でのしてしまった。それは周囲で様子をうかがっていた連中からすれば予想外であり驚くべきことだろうが、彼らはヴァイスが勝ったことより、別の意味で驚いていた。

 

「てか、なんだあの魔法……」

 

「光……火属性か?」

 

「いや、それにしては何かおかしかった……」

 

 今の決闘を見ていた一部の生徒がヴァイスの使った魔法の考察をしていた。それは一般的な魔法の属性には当て嵌まらない、未知の属性であるのだから分からなくても当然の話であった。

 

 ──この魔法が確認されたのは勇者がいたとされる約三百年前だしな。

 

 そもそも血統魔法はその存在自体に秘匿性が高く、近代に存在しなければ過去にどのような魔法があったのかも定かではない。知っていたとしてもそれは一部の人間──それこそ王族とか高位の貴族だけになる。

 

「激しい光……ジル、見たことある?」

 

「いえ、あんな魔法初めて見ました……」

 

 それは最優の騎士も同様であり、〈比類なき七剣〉すら知り得ない魔法、それほど今の魔法は珍しいものであった。

 

 ──と、言うよりも廃れてしまった魔法か。

 

 既にこの魔法は歴史の波に呑まれて消えた魔法だ。一度目の人生の記憶がある俺はその魔法の正体をもちろん知ってはいる。

 

 何百年も前に存在した〈勇者〉、その血統を色濃く受け継いだ者にだけ扱える血統魔法──

 

「【輝明魔法(ブライトアーツ)】」

 

「知ってるのレイ?」

 

「数百年前にいた〈勇者〉が使っていたとされる()()()()血統魔法(プライマルマジック)〉……ヴァイスは勇者の末裔だ」

 

「勇者!? 古の伝承の……彼があの!?」

 

 俺の説明を聞いてジルフレアさんが驚愕する。

 

 勇者の文献は数多く残されているがその実、確証性のあるものは少ない。創作性もあることから結構眉唾な話が多いのだ。俺はわざとらしく同意して見せる。

 

「俺も初めて聞いた時は驚きました……でも本当みたいですよ」

 

 さも、最近知りました見たいな口ぶりだが全然嘘である。けれどその詳細を最近知ったっというのは本当のことだ。

 

 改めて見てもあの魔法は馬鹿みたいな性能をしている。今まで、ヴァイスは大して魔力量や魔力操作の技術がなかった所為でまともにあの魔法を扱えていなかった。しかし、この一週間で彼はバケた。

 

輝明魔法(ブライトアーツ)】はその名の通り光を操る魔法だ。光の刃だったり盾だったり、使い方は正に自由自在。酷いものでは数千の熱閃光を無作為にばら撒く魔法なんてのもある。多勢の殲滅力は一線級であり、その代わり莫大な魔力量と魔力操作技術が必要らしい。

 

 今のヴァイスでは目つぶしが限界だが、たかが目つぶし、されど目つぶしだ。あの光を初見で対処するのはほぼ不可能だし、分かっていても厳しいものがある。

 

 ──しかもまだまだ馬鹿げた魔法が大量にあると来たもんだ。

 

 一度目の人生ではあの目つぶし〈光明〉は勿論のこと、数々の魔法に殺されかけた。加えて、ヴァイスは身体強化の技術も常軌を逸していた。

 

「今のどうだったレイくん!!?」

 

 こちらに気が付いたヴァイスは呑気に駆け寄ってくるが、全く油断ならない。あんな無邪気な笑顔をしておいて、その本質は才能の塊、すぐに龍と互角に戦えるほどの実力者になること間違いなしだ。

 

 ──ほんと、末恐ろしいよ……。

 

 上には上がいるとはよく言ったもので、俺にとって彼がその最たる例だ。けれど、今だけは師匠として素直に彼の勝利を喜ぼう。

 

「文句なしだ。見事だったよヴァイス」

 

「──ッ! ほんと!!?」

 

「ああ」

 

「やった!!」

 

 素直に褒めてみるとどうだ、彼は本当に嬉しそうに破顔するではないか。その威力は一瞬でも彼が男であること悪れそうになるほどだ。

 

 ──だが、男だ。

 

「き、君! 今の魔法はなんだい!?」

 

「ぜ、是非詳しい話を!!」

 

「え! え!?」

 

 自身に確と言い聞かせて平静を装う。件の勇者殿はジルフレアやクロノス殿下、他の生徒に取り囲まれて質問攻めを食らっている。

 

 その光景を傍から眺めていると再び背後からやわらかい何かに包まれる。……()()とは確認するまでもなくグラスだ。

 

「いや~、レイちゃんがわざわざ稽古をつけるくらいだから、どれほどの逸材かと思ってはいたけど予想以上だったなぁ~」

 

「離れてください」

 

「しかもあの子、一週間前は全く戦えなかったんでしょ? いったいどんな稽古をつけてあげたの?」

 

「この痴女騎士、全然話聞かねぇ……」

 

 抵抗しても全く離れる気配のないグラスに諦めて俺はいやいや答える。

 

「──別に特別なことはしてません。普通に俺が爺さんにされたのと同じ鍛錬をしました」

 

「え……あのアホみたいな鍛錬を彼に?」

 

「はい」

 

「あはは、やっぱりレイちゃん頭イカれてる~」

 

「はっ倒すぞ」

 

 急に罵倒されて俺は思わず反射的に言ってしまう。こんなことを言えば彼女は必ずノッて来てしまう。妹に負けず劣らずこの姉も──

 

「お! いいね~。それじゃあお姉ちゃんと久しぶりにヤっちゃう?」

 

 相当な戦闘狂なのである。確実に無駄なことを口走ったと後悔して俺は首を横に振る。

 

「しませんよ。グラスさんと模擬戦をやったら模擬戦じゃ済みませんし。それと今俺、自制中なんです」

 

「なんの?」

 

「この前、決闘をしてちょっとやりすぎたので、その戒めに暫く大人しくすることにしてるんです」

 

「へえ~、無駄な努力だと思うけどなぁ~」

 

「……」

 

 この女、煽れば俺が乗ってくると思っていやがる。だが今日の俺は絶対に戦わない。彼女とやろうものなら絶対に血が昂ってやりすぎてしまう。

 

 この訓練場なんてものの数分で更地になって、そしてまた変な噂が立つことは秒読みである。極力目立たないと言う目標は変わらないのだ。しかし、そんな俺の思いを一瞬で吹っ飛ばす劇物が投下される。

 

「今回は頑なだねぇ~。折角、レイちゃんの為に()()に関する情報を持ってきたのになぁ?」

 

「……は?」

 

 グラスのたった一言で俺の意識は強制的に引き寄せられる。彼女もそれが分かっているのかいじらしく笑みを零して言った。

 

「簡単に教えるのも面白くないしぃ。私と勝負してくれたら教えてあ・げ・る」

 

「……」

 

 分かりやすい挑発だ。簡単な誘導だというのは分かり切っている。それでも()に関することになってしまうとどうしても無視ができない。

 

 しかもそれが〈影龍〉に関することならば、どんな犠牲を払ってでも俺はその情報が欲しかった。だから俺の答えは自然と、全ての柵を度外視して決まってしまった。

 

「その言葉、嘘じゃないですよね?」

 

「当然。可愛いレイちゃんとの約束はお姉ちゃん、しっかりと守るよ」

 

「ならよかったです。さっさと殺りましょう」

 

「そう来なくちゃ!」

 

 そうして俺は衝動のままに〈比類なき七剣〉の一人と模擬戦をすることになった。

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