調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第55話 大図書館

 一年生合同訓練から三日が経った。

 

 急ピッチで進められていた第一訓練場の修繕も目途が立ち、あと数日もすれば再開放されるとのこと。一定の生徒からは一番設備の整った訓練場が使えないことに苦情が殺到したらしいが、その元凶が〈比類なき七剣〉だと知ると何故か納得して大人しくなったとか……。

 

 ──まあ、この国最強の騎士には誰も文句は言えないよな。

 

 なんなら半壊した訓練場を一目見ようと見物人までできる始末。なんでも「〈比類なき七剣〉の名残をこの目に焼き付けたい!」と……大丈夫かこの学院の未来の七剣候補たちは……。まあ、俺が心配したところで見物人は減るわけでもあるまいし、別に気にすることでもない──

 

「おい、あれが例の……」

 

「ああ。〈比類なき七剣〉のジルフレア様とグラス様を土下座させて、怒鳴りつけたっていうう……」

 

「〈残虐非道〉のクレイム……」

 

 なんならもっと気にすることが俺にはあった。

 

「……」

 

 本日の授業は恙なく終わり放課後。

 

 珍しく一人で廊下を歩き、絶賛目的地に向けて学院の廊下を進むと、すれ違う生徒たちから奇異の視線が向けらる。それは入学当初に頻繁に感じた覚えのある侮蔑するようなものではなく、今までのものとは正反対の畏怖を孕んだもの。

 

 合同訓練の一件から、どういうわけか俺の新しい噂が学院内に充満しつつあった。

 

 曰く、傲慢怠惰なクレイム・ブラッドレイは合同訓練にて〈比類なき七剣〉のグラス・グレイフロストに肉薄して見せた。曰く、〈灼熱魔帝〉のジルフレア・アッシュフレイムを顎で使い、暴走したグラスを制圧した。曰く、騒動が収まった後に〈比類なき七剣〉に正座をさせて小一時間説教をした。曰く、〈比類なき七剣〉に罵詈雑言を浴びせて唾を吐きかけたと。曰く、グラス・グレイフロストは愛人であると。曰く……曰く……曰く──

 

「でたらめにもほどがある……」

 

 噂なんてのは大抵ロクでもないものだが、だとしてもこれは酷い。

 

 最初の二つは辛うじてあってはいるが、他は論外。尾ひれ背びれが付き付きまくり、ねじりにねじりまくられていた。もう何なら別物で、全然関係のない嘘まで混じっていた。そんな噂が流れ広まった結果、俺に新しいあだ名がついた。

 

〈残虐非道〉のクレイム

 

 もうここまで来ると虐めだ、集団リンチだ。俺が何をしたっていうんだ──いや、何もしてない。俺は至って清廉潔白な一学院の生徒であり、平穏をこよなく愛する平和主義者だ。

 

 ──それがどうしてこうなった?

 

「はあ……」

 

 ここ最近はそんな噂に振り回されてしまい、気が付けばこうしてため息が増えた。現在は前述した通り、いつも近くにいるヴァイスやフリージアが一緒ではないので、無遠慮な視線がすごい。これならまだ誰かと一緒の方がマシである。

 

 ──ストレスで頭がハゲるのも時間の問題かもしれない。

 

 なんてアホなことを考え、逃げるように廊下を進んでいくと目的地へとたどり着いた。

 

「漸く、学院(ここ)に来てやりたかった事ができる」

 

 何かと忙しなかった新生活、まだまだ落ち着く気配はないがそれにずっと構っていてはこの学院に来た目的が微塵も果たせない。

 

 そう直感した俺は無理やりそれを敢行することにした。その目的とは──

 

「クロノスタリア魔剣学院〈大図書館〉」

 

 この国随一の蔵書量を誇るここで、龍に関する情報を収集することだった。

 

 人生最大のトラウマがたくさん詰まっているこの学院。なんども行きたくないと駄々を捏ね、如何にして入学しないかを考えて無駄な策を弄してきたが、結局のところ入学は免れず、今こうしてここにいる。

 

 結果として二度と行きたくない場所にもう一度通うのだ。ならばせめて、今回の学院生活は有意義で実りのあるものにしようと考えた。結果、この図書館でしか閲覧することのできない、龍に関する書物を読み漁ってやろうと考えたのだ。

 

〈龍〉と言うのはよく伝承なんか昔話でよく出てくるが、実際のところ史実に基づいた詳しい内容の書物と言うのは少ない……と言うよりも貴重すぎて普通はお目にかかれないらしい。しかし、この図書館ならばそんな龍に関する書物も腐るほどある。

 

 ──と、聞いたことがあったような、ないような……。

 

 それが読めると考えれば学院に通うのも悪くない。我ながら妙案だと今でも思う。

 

 最近まで改修工事とやらで図書館は閉館していたのだが、つい先日にその工事も終わって、こうして図書館は再開放された。それを聞きつけた俺は貴重な鍛錬の時間を割いてここまで来たわけだ。

 

「さあ、読みまくるぞ~」

 

 鬱屈とした気分を晴らすように中へと入る。瞬間、薄暗い光と古ぼけた紙の匂いが出迎えてくれた。一度目の人生では一回も訪れることのなかった図書館ではあるが、それが勿体ないと思えるほどに中は立派である。

 

 大講堂を二つほどぶち抜いた館内には所狭しと本棚が整列しており、それが二階三階、四階まで続いている。在学中でこの量の本をすべて読むのは到底不可能であり。その実、この図書館の蔵書は約三万冊に及ぶのだとか。

 

「こりゃあ期待できる」

 

 これだけの本があれば龍に関する書物も大量にあるだろう。

 

 再開放されたばかりなので館内には、これまでここの開放を待ち望んでいた生徒や教師の影がいくつもある。妙な熱気を孕んだ館内を俺はあてもなく彷徨ってみる。様々な学術や分類に区分けされて、数の多さと比較して館内はとても回りやすい。しかし、どれだけ回ってみても龍に関する本棚は一つも見当たらない。

 

「なぜに……?」

 

 まさかこの図書館の蔵書量を持ってしても、龍に関する本が一冊もないわけではあるまいし。根気強く探してみるが──

 

「マジで何処だよ……」

 

 それでも一向に見つかる気配がない。

 

 小一時間ほど館内をしらみつぶしに見て回り、自力で探してみてもダメだった。そこで俺は潔く、この館内に一番詳しいであろう書士さんに本の場所を聞いてみることにした。

 

「龍に関する書物を探しているのですが、何処にありますかね?」

 

「龍、ですか……学生証はお持ちですか?」

 

「あ、はい」

 

「お預かりします……少々お待ちください」

 

 入学してすぐに手渡された学生証を見せると、書士さんはカウンターを離れて奥の方へと消えてしまう。

 

 いったいあんな紙板を預かって何をするというのか、数分ほど待たされて書士さんが一冊の本を持って戻ってくる。そのまま本を俺に差し出すと彼女は言った。

 

「現在、ブラッドレイ様が閲覧できる〈龍〉関連の書物はこちらになります」

 

「……え?」

 

 本を受け取って呆けた声が溢れ出る。そんな俺を見て書士さんは言葉を続けた。

 

「こちらの本を貸出なされますか?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

「はい?」

 

「こ、これだけですか?」

 

「そうですね」

 

「これだけ大量の本があって、俺が読める〈龍〉の本はこれだけと?」

 

「そうですね」

 

「嘘だろ……」

 

 眉根一つ微動だにさせない書士さんの返答に俺は絶望する。そうして彼女は再び尋ねてきた。

 

「それで貸出なされますか?」

 

「──します……」

 

 希少なものだと理解していたつもりだが、どうやら〈龍〉の情報を仕入れるのは想像以上に簡単な話ではないらしい。

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