調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第三章 昇級決闘編
第58話 郷愁


 大図書館でのトラウマ女(レビィア)との邂逅から一週間が過ぎた。

 

 相当、一度目の脅しが効いたのか、あれ以降、彼女から直接的な接触は無くなり俺は平穏な学院生活を──

 

「おうち帰りたい……」

 

 送れているはずがなかった。

 

 いや、入学当初と比べれば今の生活は人間関係やその他諸々の事がかなり改善されてるが、漸く改善されたと思ったところで次々と新しい問題が浮上してくるから全くそんな気がしない。この前のトラウマ女が最たる例だ。

 

 ──全くふざけるなこの野郎。

 

 胸中で愚痴っていると眼前に鋭い突きが迫ってきた。それを難なく往なして俺は深くため息を吐いた。

 

「あぶね……」

 

 そんな一見気落ちしたような俺に対して、今しがた鋭い突きでこちらを殺しにかかってきていた元凶──ヴォルト先生が言葉を続けた。

 

「おいおい、まだ一か月しかたってないのにもう郷愁か?」

 

「一か月も経てば妥当でしょう」

 

「……そう言われればそうか?」

 

 俺の返答に首を捻る先生。その間も容赦なく剣戟は続く。全く容赦のない連撃の嵐だ。

 

「そうですよ」

 

 それを難なく躱したり、去なしつつ、序に反撃なんかもしてみる。すると、ヴォルト先生は楽しげにまた一つ戦闘速度を跳ね上げた。

 

「ば、バケモノ……?」

 

「なんであれに付いていけるんだ……」

 

「流石ですぜアニキ……」

 

 そんな俺達を見て地面に身投げした〈特進〉クラスの連中が絶句する。午前の座学が終わり、現在は午後の実践授業。ここ最近まで様子見だったヴォルト先生の実践授業はここ数日で()()()()()()を取り戻しつつあった。

 

 それこそ精鋭ぞろいの〈特進〉クラスの生徒がほぼ全滅するぐらい、彼の実践授業は過激になっていった。俺としてはこれぐらいの方が歯ごたえがあってとてもやりがいを感じるのだがどうやら周りは違うらしい。

 

「ま、負けないんだから……!!」

 

 あの戦闘おバカのフリージアでさえダウンしているのだ、ヴォルト先生の授業のヤバさは押して知るべし。既に俺意外全滅しているので、授業は自然と俺と彼の一対一の無限模擬戦へと相成っていた。

 

 ──まさか先生の授業を普通に受けられる日が来るとはな……。

 

 一度目の俺では考えられない状況に感慨深く思っているとヴォルト先生は更に戦闘速度を跳ね上げてきた。

 

 手数は倍、何なら魔法なんかも織り交ぜながら本気で俺を潰しに来ているのだから、この教師はこれが授業の模擬戦であると言うことを忘れているのかもしれない。……いや、仮にそうだとしたら周囲を巻き込むほどの荒れ具合を見せるだろうから、まだ正気は保たれているらしい。

 

 その証拠に先生は平然と世間話をしてくる。

 

「まあお前のお陰で最初はどうなるかと思っていたクラスも纏まったし、俺の仕事が減って助かる助かる。この調子でどんどん俺に楽をさせてくれ、そしてその功績で出世させてくれ」

 

「教師として有るまじき発言すぎる……別に俺は何もしてないですよ。周りが勝手に騒いでるだけです……と言うか今の発言が学院長の耳に届けばまたお叱りを貰うのでは???」

 

 ある意味全く取り繕わないヴォルト先生に俺は困惑する。先生は快活に笑って刃を振るった。

 

「まあそういうなって、俺にもっと楽をさせてくれ……それを抜きにしても今の発言で先生は嫌な気分になったので大人しく殴られてください。人に嫌なことを言ってはいけません」

 

「どうしようもない大人だ……」

 

 そもそも一生徒にそんな個人的すぎるお願いをしないでほしい。後、私怨で教え子を殴ろうとするな。体罰で訴えるぞ、最近はそういうのに煩いご時世なんだぞ。

 

 やはり、授業の模擬戦とは思えぬ本気の一撃を難なく躱して、ゲンナリしていると先生は思い出したかのように話題を変えた。

 

「そういえばそろそろ一回目の〈昇級決闘〉が始まるけど、ブラッドレイはどうするんだ?」

 

「……不承不承ながら参加します」

 

「なんでそんな嫌そうなんだよ???」

 

 更に表情を渋くさせた俺を見て先生は首を傾げる。その反応は至極当然であり。普通、この学院でこの行事に参加しない生徒はほぼいない。なんなら殆どの生徒がこの〈昇級決闘〉を心待ちにしていることだろう。

 

 勝てば名誉、負ければ辛酸を。

 

 正にそれを体現したかのような、この学院特有の制度と根強く関係のある行事──〈昇級決戦〉は以前も話した〈学院階級〉を上げることができる一番手っ取り早い方法であった。

 

 この〈昇級決闘〉を勝ち上がり、〈学院階級〉を上になれば上げるほど様々な特典が与えらえる。その最たる例……一番の目玉が〈比類なき七剣〉になる為の登竜門と言われる騎士団の特別部隊〈錬魔剣成〉への入隊推薦権の獲得であり、この学院に通う殆どの生徒はこの推薦を勝ち取るのが最終目標である。だから続けられたヴォルト先生の質問も至極当然であった。

 

「参加するからにはお前も〈錬魔剣成〉に入りたいんだよな?」

 

「いえ全く。ちょっと借りたい本があるので〈学院階級(カースト)〉を上げようかと」

 

「……は?」

 

 俺の返答を聞いて先生は思わず攻撃の手を止めるほどに呆気に取られる。相当、俺の〈昇級決闘〉への参加理由が予想外だったようだ。まあ、この学院に通う生徒の事を考えれば、まさか「ちょっと本が読みたいからこの行事に本気で参加します」と言う輩は稀有であろう。けれど、別に可笑しな話でもない。

 

 何も決闘への参加理由……〈学院階級〉を上げる理由が〈比類なき七剣〉ばかりではあるまい。少なからず俺のように独自の目的を持った生徒はこの学院にいるわけで……往々にしてそういう生徒はこう呼ばれる──

 

「やっぱりお前、()だよなぁ……」

 

「いきなり失礼ですね」

 

「いや、だってなぁ。それだけ強ければやっぱりこいつも〈比類なき七剣〉になりたいのかなとか教師ながらに勘ぐってみたりするわけでな?偶にお前みたいなやつがいるんだよ」

 

 魔剣学院に浸透した常識では俺みたいな生徒は変人扱いだ。まあ、既に「傍若無人」だったり「首切り」だったり「怒らせたらヤベー奴」などなど好き勝手に呼ばれているので、今更その中に新しく「変人」が追加されたところでなのだが、流石に先生にまで変な奴扱いされるのは少し悲しかった。

 

「常識は人それぞれですよ、先生。多様性の時代です」

 

 それに俺としては別に騎士団の特別入隊権など微塵も魅力的ではなかった。なんなら新たな地獄へと誘う切符でしかない。間違っても手に入れちゃいけない。

 

 ──まあ、【特級】にならなければいいだけの話だ。

 

 しかして境界線(ボーダーライン)は明らか、違えようはない。

 

 なんて思いながらその後もヴォルト先生との模擬戦を続けて、気が付けば午後の実践授業は恙なく(?)終わりを迎えたのであった。

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