調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第62話 忠告無視は万死に値する

「お前、俺が前に言ったことを忘れたのか?」

 

 自然と殺気が全身を駆け巡る。反射的に殺しにかからなかった自分の事を褒めたいくらいだ。それほどまでに俺は眼前の女を殺すことに躊躇がない。果たして俺の問いかけにクソ女は顔を俯かせて怯えるばかり、それを隣にいた男が庇うように前に立った。

 

 なんとも勇ましいではないか、そしてなんとお優しいことだろうか。これではどちらが悪役か分かったものではない……いや、傍から見ればこの場の悪役は満場一致で俺なわけだが、しかし俺はそれを気にせずに言葉を続ける。

 

「二度とそのツラ見せるなって言ったよな? それとも何か? 本当に殺されたいのか?」

 

「っ……!!」

 

 眼前のクソ女はやはり怯えた様子で幼気な少女を演出している。こいつの本性……とまではいかないが前科を知る俺にとってその態度はただ神経を逆なでするだけで、端的に言えば煽ってきているようにしか思えない。

 

「なんだその物騒な物言いは。女性(レディ)の扱い方がなってないな」

 

「……は?」

 

 やはり俺は眼前の男からすれば俺は大悪党に映って見えることだろう。か弱い少女を恐喝する悪役貴族。それを身を挺して守ろうとする男。それでも知ったことではない。そもそもこちらは一度忠告をしている、それを破ったのはそのクソ女の方なのだ。ぽっと出のすかし野郎にとやかく言われる筋合いはない。正義は我に有り。

 

「黙ってろ。俺はお前じゃなくてそこの女に言ってるんだ。別に俺も好き好んでこんなことを言ってるわけじゃない。約束を破ったのはそっちだ」

 

 恐らく……いや、十中八九、俺と同じ轍を踏んだ愚か者の好で、一度は男の無遠慮な言動には目を瞑ろう。老婆心ながら、その女はやめておいたほうがいいと思う。

 

 ──本当に、ガチで。

 

 本気で男の方を心配していると件のクソ女は喚いた。

 

「な、何のことですか!先に絡んできたのはそっちの方じゃない!レイル様、この男で間違いありません」

 

「やはりそうか……」

 

「は???」

 

 ──この女、今なんて言った?

 

 本当にふざけるのも大概にしろよ。被害妄想も甚だしい、「何のことですか」はこっちの台詞だ。なんなんだ本当に、こっちが世間体を気にして手を出さないからと言って……別にその気になればお前の細い首なんていつでも刎ね飛ばせるんだ。証拠をすべて闇に葬れば、完全犯罪は成り立つんだ。

 

──やるぞ?本当にやっちまうぞ???

 

 それと言いがかりを付けるならもっとマシな文句を考えてから来い──いや、てかそもそも来るな。徐に腰に携えた剣に手をかけるとクソ女を庇っていた男も臨戦態勢に入る。

 

「君に恨みはないが、私の大事な人を傷つけたというのなら無視も出来ない。申し訳ないが痛い目に遭ってもらうよ」

 

「本当に身に覚えがない……って言ったところで聞いてくれそうもないか」

 

 そのやり取りにはどこか懐かしさを覚える。まるで、一度目の人生の俺を目の前で見ているような気分だ……いや、実際にはその通り、眼前の男は俺と同じ道を辿ろうとしている。焼き回しだ。俺も今の彼のように勝てる相手にだけ勝負を挑んでいた。

 

 ──本当に厄介な魔法だな……。

 

 あれだけ脅しておいて、また俺の前に現れたその真意は分からないが、こちらは既にお前が嗾けてきた雑魚どもの時点で結構頭に来ているのだ。こんな直接成敗しますよみたいな感じで来られると今まで何とか堪えられていた怒りももう我慢できない。

 

 ──……と言うかこの男を俺は知っている。

 

 怒りで思考が遮られていたが、今ようやく思い出した。別に一度目の知り合いと言うわけではなく、ただ情報として何となく知っている程度だが、その境遇からハッキリと記憶には情報としてあった。

 

 学院二年、ブレイシクル侯爵家が嫡男──レイル・ブレイシクル。

 

 俺と同じく血統魔法(プライマルマジック)の〈継承者〉であり、一度目の人生では学院内で最も〈比類なき七剣〉に近いと言われていた剣聖だ。

 

「ちゃんとした実力者もその魔法は手籠めにするのか……」

 

 一度目のクソザコな俺がクソ女の謎魔法に抵抗できず、無残に操り人形へとなってしまうのは納得できる。しかし、まだ二年次とは言え学院最強格の人物ですら彼女の魔法は難なく毒牙にかけられるらしい。

 

 ──それなら俺があの時、奴の魔法を抵抗(レジスト)できたのはなんでだ?

 

 今思うと不可解な点が多い……いや、不可解だらけだ。そもそも出身が帝国なのが可笑しいし、謎の血統魔法だって結局何なのかはわかってはいない。逆にこのまま野放しにしているのもダメなような気がしてきた。

 

 ──それに何より、ブレイシクル先輩が不憫だ……。

 

 一度目の俺よろしく、二度目の人生では俺の代わりに彼が生贄になってしまったのだ。他にもクソ女の毒牙に惑わされて襲ってきた奴はいたが、彼は顕著だ。あの女が常に一緒にいると言うことは、二度目の今回の大駒はレイル・ブレイシクルで間違いない。

 

「一度目の時と比べると随分、豪華で強力な駒を手に入れてるじゃないか……」

 

 そう考えると、怒りはあれど同情が勝って、何とかこの人をあの悪女の手から解放してやりたいと思ってしまう。

 

 ──その為には結局、戦うしかないか……。

 

 単純かもしれないが、やはり激しい衝撃を与えて正気を戻すと言うのが妥当なところのように思える。きっと、一度目の勇者──ヴァイスもこんな気持ちだったのかもしれない。彼ほど分け隔てなく人に優しい奴もいないしな。

 

 気になるところではあるが……今は疑問を悠長に考察している暇もない。奴さんは既にやる気満々だ。いい機会だし、いずれ学院最強になる男と勝負をしてみようではないか。

 

 ──序でに〈学院階級〉も上げさせてもらおう。

 

 この男なら【第五級】以上は固いだろう。そう考えると変ないちゃもんを付けて絡んできたクソ女にも少しは感謝をしてやらないでもない。

 

 ──それでもお前を処すことは決定事項だがな。

 

「覚悟はできたようだね?」

 

「ええ、まあ……はい」

 

「それじゃあ遠慮なく君を倒して、しっかりと僕のレビィアに謝罪をしてもらう!!」

 

「────」

 

 ブレイシクル先輩の律儀な確認を最後に、決闘が始まる。けれど俺は彼の鼻につく言動が気になりすぎてそれどころではない。

 

 ──やっぱり助けるのやめようかな……。

 

 傍から見れば彼の言動は痛すぎる。一度目の俺もこんな感じだったのだとしたら最悪だ。やはり、色々な感情を抜きにして眼前のすかし男を滅多切りにしてもいいような気がしてきた。

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