調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第63話 レイル・ブレイシクル先輩

「直ぐに倒れてくれるなよ!!」

 

 二刃の剣を構えて、レイル・ブレイシクルは地面を蹴った。

 

 ──速い……!!

 

 武器の持ち合わせは──あるが使わないことにした。なのでいつも通り自分の血から〈血戦斬首剣(ブラッドソード)〉を顕現させて、迎え撃つ。

 

 瞬き一つ。左右に携えられた鋭い刃が揃って頭上から降り落ちてくる。それを難なく血剣で受け止めた。

 

 唐突に仕掛けられた勝負。鍔迫り合いの形になって漸く、その一連の動作を首にぶら下がった護符は決闘と判断して淡く輝く。このように自分と同格、または格上の相手と決闘が始まった場合に魔道具が勝手に起動して勝敗を見極める。

 

 誤作動なんてのはあり得ない。この魔道具によって不正は不可能であり、地道に真面目に勝星を築いていくのが上へと昇る一番の近道である。

 

 ──思った通りだ。

 

 初めてまともに輝いた護符を見て俺は少し高揚する。予想通り彼は俺より同格以上の階級であり、彼に勝利すれば長かった停滞状態から脱することができる。ささくれ立っていた気分が少しだけ持ち直った。

 

「これ以上、レビィアに付きまとうのはやめろ!!」

 

「……は???」

 

 だと言うのに眼前の先輩殿はこちらの持ち直った気を削ぐようなことを言ってくる。鍔迫り合いから次いで、今度は交互にタイミングをずらして鋭く迫ってきた二つの刃。その連撃の勢いに普通の生徒ならばそれだけで気圧されてしまい、瞬く間に決着は決してしまうだろうがそんなことは起き得ない。

 

 やはり何ど聞いても、思考を巡らせてみても納得がいかない。全くもって意味が分からない。

 

 誰が好き好んでこの女に付きまとうと言うのか?

 

 風評被害もいいところだ。なんなら俺がこの女に付きまとわれてるまである。

 

 ──ご丁寧に捨て駒をたくさんよこしといてよく言う……。

 

 脳裏にはこれまでの支離滅裂な言動の生徒たちが蘇る。それだけで不快指数が自然と蓄積していく。……まずい、変に彼らの言葉に耳を傾けていると気が狂いそうになる。これはアレか、新手の精神攻撃か何かの類か???

 

「ふざけんのも大概にしろよ……」

 

 やはり、同情とかやめて無残に手駒に堕ちたこの先輩をボコボコにしてやろうか。既に限界値だったあのクソ女への怒りが限界突破しそうになる。

 

 一度目の人生。過去の愚かな自分と対峙した勇者はよくもこんなのを相手に対して怒り狂わなかったな。同じ境遇を一度経験しただけの俺でさえ、無性にむしゃくしゃして、怒りに身を任せて暴れまわりたくなっていると言うのに──

 

「……はあ、落ち着け」

 

 深呼吸をしてまた荒立ちそうになった気を静める。今対峙しているのはこの学院でかなりの実力者、それも血統魔法の使い手だ。勢いに任せて勝てる相手ではない。

 

「……よし、落ち着いた」

 

 全く油断も隙も無いブレイシクル先輩の攻撃を対処していく中で頭は冷静になっていく。〈血流操作〉の循環率と加速具合は上々、いい感じに昂ってきた。

 

「もう一本追加だ」

 

 手首を切って噴き出た血から新たな剣を顕現させる。彼を相手取るのならば生半可な剣では太刀打ちできない。手数を補うためにこちらも二刀で対応する。

 

「猿真似だな!僕の剣技は見よう見まねでマネできる代物じゃない!」

 

 確かに、先輩の言う通りである。彼の扱う二刀流は先祖代々、ブレイシクル家が古くから受け継ぎ研鑽を積んできた剣技だ、技の深度が違う。けれど、別に剣技を模倣するつもりは初めから無い。ただ、防御としてもう一本剣があったほうが都合がいいから追加したまでである。

 

「ふざけるなよ……僕はお前には負けない!絶対にこの剣技でレビィアを救って見せる!!」

 

「……」

 

 俺が冷静になるのと比例してブレイシクル先輩は勝手に盛り上がる。しかも何やら事実無根の俺の悪事を彼は声高々に語り、めちゃくちゃお怒りである。

 

「レビィアに迫ってこっぴどく振られたからと言って、その腹いせに暴力を振るうなんて騎士を志すものとして論外だ!猛省しろ!!」

 

「はぁ?」

 

 被害妄想すぎるだろ。いったいあのクソ女は先輩に何を吹き込んだというのか。もう怒りを通り越して感心する程だ。それでも油断は許されない。まんまとあのクソ女の手駒になってしまったレイル・ブレイシクルだがその実力は健在。

 

「これが僕の本気だ──」

 

 何よりも彼の使う血統魔法が厄介極まりない。

 

「──飛べ!!」

 

 右の刃を肩越しに構え、そのまま振り下ろして空を切った途端に不可視の斬撃が()()()()()

 

 いきなり飛んできた不可視の斬撃に俺は対処しきれない。しかも一振りで何故か飛んできた斬撃の数は四つだ。一つ、二つ程度ならば直撃の瞬間に反応できるが、この数は分かっていても難しい。

 

「チッ……!!」

 

 仕方なく斬撃の一つを無防備に食らう。

 

 ──任意のタイミングで無数の不可視の斬撃を繰り出す魔法!!

 

 それがブレイシクル家の血統魔法──〈剣撃魔法(ブレイドアーツ)〉であった。

 

 殺傷能力の高いこの魔法でブレイシクル家は数十年、代々に渡って〈比類なき七剣〉の席に名を連ねている。一度目の人生でレイル・ブレイシクルが〈比類なき七剣〉に成れたのかは、処刑されて死んだ俺には分からない。けれども、少なくとも学院にいた彼にはその潜在能力があった。

 

「レビィアが負った傷の痛みを知れ!!」

 

 二振りの刃が空を切る。こちらに当てる気のない攻撃、回避なんてするまでもない、しかして数秒後には俺の周囲に不可解な空気の歪みが生じた。

 

「本当に厄介な魔法だ!!」

 

 身体を捻り、旋転して回避を試みる。だがやはり全てを回避することはやはり難しい。また右の脇腹と左の肩に裂傷ができる。

 

「ッ──ハァ……痛、ってぇなぁ!!」

 

 血が外部に噴き出たことでその損失を補うように〈血流操作〉が加速する。〈血流操作〉の超回復によって今しがた負った傷は即座に塞がるが代償は大きい。別にこの魔法は失った血まで補填してくれるわけではない。代わりに魔力を補填として貧血を抑えているがこれもまたデメリットが存在する。

 

 それでも何となく感覚は掴めてきた。今までの一連の流れを脳内で再生する。その間も攻撃は絶えず続くわけだが……まあ、少しくらいなら問題はない。

 

 ──短文詠唱(スピードスペル)と同時に奴の周囲が不自然に歪む。流石に周囲の砂や埃まで無視できるほど透過率は高くない……。

 

 ならば見切り方などいくらでもあった。

 

「あー……なんか思い出して来たら腹立ってきた」

 

 不意に先ほどの先輩の言葉も脳裏に蘇る。一度冷静になって、一旦は置いておこうと思ったことだが、こうもあっさりとぶり返してくるともうおさまりが付かない。

 

 ──本当によくない癖だ……。

 

 自覚はできている。戦うたびに、血を消費して〈血流操作〉の調子が良くなる度にこうなっていたんじゃあ本当にどうしようもない。それでも身体の奥底から唸り狂う衝動には逆らえない。

 

 言ってしまえば──

 

「よし、一回ぶっ飛ばして正常に戻してやらぁあッ!!」

 

 血が昂ってきた。

 

「な、なんだ急に……!?」

 

 こうなれば荒治療だ、徹底的にぶん殴って、失ってしまった正気を取り戻してもらおう。先輩には大変申し訳ないがぼこぼこになってもらおう。

 

「そうだそれがいい。それが一番の最善策だ。妙案(グッドアイデア)だ!!」

 

 数段階、速度を跳ね上げる。既に容赦はない、先輩だろうが変な女に騙されていようが関係ない。平等にぶっ飛ばす。

 

「速ッ!!?」

 

 無数の斬撃を無視して突貫。眼前まで迫った俺に先輩は反応できない。〈比類なき七剣〉──あの痴女騎士で漸く追いつける速度だ。潜在能力はあれど今のレイル・ブレイシクルには到底追いつけまい。

 

「覚悟の準備は良いかぁ?」

 

 そのまま決めにかかる。〈血流操作〉の具合は完璧、負傷具合(・・・・)も申し分ない。好き勝手に斬られたお陰で過剰すぎるほどだ。

 

「飛──」

 

「おおっと!これ以上斬られるのは勘弁だな!!」

 

 ──痛いのは嫌だしな。

 

 先輩が剣を振りかぶる前に、俺は先輩の顎をまず一発ぶん殴る。

 

「ふぐえ!!?」

 

 回避は当然、無理。先輩は無様に宙に浮かんだ。その一発で意識を刈り取るには十分だが……まだ足りない。彼は重度の精神病を患った患者であり、壊れてしまった頭は一発殴ったぐらいでは治らない。

 

「はい、どんどん殴り(ちりょう)しましょうねぇええ!!」

 

「え、ちょまっ──!!」

 

 二、三、四、五……と無防備に先輩を血の縄で宙吊りにしてたタコ殴りにする。患者は苦しそうに藻掻くが我慢してほしい。俺もほんとはこんなことしたくないんだ。仕方がないんだ。だってこれは──

 

「治療だから我慢しろ!男だろうが!!」

 

「ひぃ!!あ、悪魔!!?」

 

 何やら外野のうるさい悲鳴が聞こえてきたが無視する。こちらも患者の為に必死なのだ。もう少しだ、もう少しでそのおかしくなった頭が治りますからね~。

 

 そうして合計三十発。思う存分袋叩き──治療に必要な回数を殴り終えたところで勝負は決する。

 

「……」

 

 患者のレイル・ブレイシクルは気を失……安らかに眠っている。治療の後遺症で顔面が酷いことになっているが腕の良い回復魔法師に治療してもらえば大丈夫なはずだ。

 

「チッ……逃げ足だけは早いな──」

 

 あのクソ女は気が付けば何処かへいなくなっていた。本当はあいつの頭も治療したかったが致し方ない。なんならあの腹立つ顔が勝手にいなくなってせいせいした気分だ。

 

 そうして全ての問題が解決(?)して俺は正気に戻る。

 

「やべ……」

 

 流石にやりすぎたかもしれない。場には無数の血痕とボロボロに殴られたレイル・ブレイシクルと拳が血濡れた俺。その光景だけで事件性は十分、傍から見れば俺は先輩を殴殺したように思われるだろう。

 

 けれどそう気が付いたところでもう遅い。

 

「に、逃げよ……」

 

 俺は誰かにこの悲惨な現場を目撃される前にその場を立ち去った。

 

 後日、学院内ではこんな噂が流れる。

 

「悪逆非道の首狩りが今度は人の顔面を殴りつぶして遊ぶようになった」と。

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