調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜   作:EAT

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第65話 エルフの国の……

 森人族(エルフ)

 

 この世界には多種多様な種族──土人族(ドワーフ)獣人族(ビースト)等々──が存在するが、その中でもこの種族はとても珍しい。というのも森人族と言うのは所謂、〈古代種族〉と呼ばれる古くから繁栄してきた種であり、そんな〈古代種族〉の中で唯一の生き残りでもある種なのだ。

 

 他にも蜥蜴族(リザードマン)だとか吸血族(ヴァンパイア)なんて言った種族が古代には存在したらしいが全部滅んでしまったらしい。一度目の人生でもこうしてまじまじと森人族を目にすることはなかった。つまり何が言いたいかと言うとものすごく緊張している。

 

「ッ……!!」

 

 突如して現れたエルフの女生徒は至近距離で俺の瞳をのぞき込んでくる。

 

 翠色の瞳は光に反射して下手な宝石よりも美しく、その美貌は作り物めいていて……目を奪われる。それになにやら鼻腔を擽る甘い香りに思考は困惑する。

 

 ──なんだこの生き物は?

 

 いや、紛うことなきエルフの女性と言うことは分かるのだが、やはり超命種なだけあってかその容姿はどこか年齢の概念を感じさせず完成されていた。

 

 ──そもそも、俺の周りにいる女性陣がだいたい碌でもなくてヤバい奴ばかりなのでその差異(ギャップ)がすごい。

 

 見るからに知的そうなその雰囲気はどこぞの戦闘狂とはわけが違う。端的に言えばドギマギしていた。

 

「君が最近噂のクレイム・ブラッドレイだね」

 

「は、はい……」

 

 名前を呼ばれて心臓が跳ね上がる。俺は一度目の記憶のお陰で本当に簡単ではあるがこのエルフの女性を知っている。しかし、まさか彼女に俺のことが認知されているとは噂の事を抜きにしても思わなかった。何せこの女、他人……それも人間にはとことん興味を示さないと学院では有名だからだ。

 

 彼女の美貌に魅了された生徒は数多く存在し、それと同時に言い寄る男は後を絶たなかった。しかし、このエルフは数々の求愛に靡くことなく、悉く誘いを断って、魔法の研究に没頭していたと聞く。それと同時に振られた男は生気を絞りつくされたように帰ってくるのだとか……。

 

 ──魔法の実験台にされたとか、触媒の為に必要な血や魔力を大量に抜き取られたなんて話も聞いたことがある。

 

「初めましてだね。私の名前はエリューレ・グランドフォレスト。一年生の君がこんなところに何ようかな?」

 

「えっと……」

 

 そんな一度目の記憶と印象の違うグランフォレスト先輩に俺は戸惑う。なぜ彼女が俺に声をかけてきたのかは分からない。大の研究家で有名な彼女だが、それよりもまずこのエルフは出生が凄いのだ。

 

 大陸の南部に位置する大森林を統治するエルフの国のお姫様──そんな彼女がそもそもこの学院にいること自体が異常事態なのだ。なぜ彼女がこの学院に通ってるのか。王族の考えることなんてのは往々にして凡人には理解できない。

 

 グランフォレスト先輩の質問に答えあぐねていると彼女はのんびりとした口調で続けた。

 

「レイル・ブレイシクルを倒したのは聞いたわ。たしか彼は【第四級】だったから……もしかして自分が取り入れる〈派閥〉を探しに来たのかな?」

 

「ッ……!!」

 

 どうやら俺の考えていることは全て筒抜けらしい。まあ、当然と言えば当然……寧ろそれしか考えられないくらいに単調な行動をしている訳だから仕方がない。

 

 驚きはしたが直ぐに冷静になる。逆にこれは好機だった。何も足がかりなしに突撃しようと思っていたところを既に〈派閥〉の王として君臨する彼女が絡んできてくれたのだ。

 

 ──それも情報通りであれば、まだ彼女の派閥はメンバーが集まっていない。

 

 ならばまだ彼女の下僕(・・)に成れる可能性はある。

 

「──は???」

 

 不意に違和感を覚える。

 

 俺は今何に成れると言った? 下僕? 誰が誰の?

 

「ん?どうしたのかな?」

 

「あ、いや、えっと……」

 

 呆ける俺を前に妖艶なエルフは小首を傾げる。その仕草はとてもいじらしくて、今すぐにでも自分の両腕で抱きしめたいと思えて、滅茶苦茶にしたい欲求が駆け巡って──

 

「俺はそんな節操なしじゃないわい!!」

 

 全身の血が勝手に活性化する。この感覚には覚えがある。いつかのクソ女に絡まれた時と大変似通った甘ったるく蝕むような感覚。

 

「ッ!!」

 

「あら」

 

 正気に戻った思考を働かせて俺はグランフォレスト先輩から一気に距離を取る。今のは危なかった。何をされたのか分からなかったが、何とか謎の誘惑からは逃れられた。

 

 ──あのクソ女の時みたく魔力の発露は感じられなかった。ならば……。

 

「俺に、何をしましたか?」

 

 分からないのならば本人に直接聞くしかあるまい。俺の質問にグランフォレスト先輩は少し頬を緩めて答えてくれた。

 

「ちょっとした実験……試験かな?」

 

「試験?」

 

「そう。私の()に簡単に惑わされるようならそもそも話す価値もない。だから君は合格だよ、クレイム・ブラッドレイ。あそこまで掌握できればもう私の魅力に罹ったも当然なんだけど……流石は今年の注目株だ」

 

「すいません、全く話が読めないんですけど……」

 

 今までの幻想的な雰囲気とは一転して研究者然とした雰囲気を纏うグランフォレスト先輩に俺は困惑する。

 

 ──あと、近い。

 

 なぜか分からないけど、取ったはずの距離がいつの間にか詰められて、先輩はこちらの身体を異様にべたべたと触ってくる。なんとか引きはがそうとするもこの先輩は一向に離れる気配はない。どこかあの痴女騎士と同じ雰囲気を感じながらも先輩は言葉を続けた。

 

「派閥を、探しているんでしょ? 私たちもあと一人探してしるんだ。強くてカッコよくて頼れる騎士(ナイト)をちょうどね。お互いに利害は一致していると思わないかい?」

 

「はあ……」

 

「でも簡単に派閥に入れるのは面白くない。だから試験だよ」

 

「それで結果はどうだったんですか?」

 

「とりあえず、一次試験は合格かな」

 

「そうですか……」

 

 妖艶に微笑むエルフを前に素直に喜んでいいのか疑問が浮かぶ。いや、第一候補として彼女の派閥に入るのが一番手っ取り早いと考えていたわけだが、いざ実物を見せられると考えを改めざるを得ない。

 

 ──この数分でヤバい女感がヒシヒシと出てきたな……。

 

 自慢ではないが女運は悪い方でだと自負している。それは一度目も二度目の今回も変わりない。そうした経験が囁くのだ、「こいつはヤバいよ」と。

 

「それじゃあこれから最終試験。派閥のメンバー全員と面接をしようか」

 

「は、はぁ……」

 

 絡む相手を間違ったかもしれない。そう気が付いた時はもう俺は逃げられないほど深く、その沼に足を突っ込んでしまっていた。

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