猛禽類よ、一等星が映る星空を見上げよ   作:ナギサ推し

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 ウマ娘の映画新世代の扉最高すぎだろ!
 という事で頭の中に設定が出てきたので供養。

 みんなも映画を見よう!


第1章
ダークブルー・イン・ザ・ターフ


 

「ねぇねぇ、凱旋門の中継始まってるよ!」

 

 ここは未来、現役のスターたちが集う場所。

 中央トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。

 

 全校生徒中等部3学年、高等部3学年及び少数の大学部生徒を抱えるモンスター学園の寮の一角である談話室。

 

 とある生徒がワンセグで中継を見ていた。現地時間は16時ごろだが日本の現在の時間は23時。圧倒的に消灯時間は過ぎていた。

 

 ちなみに寮長さんは大目に見ていたどころか便乗して見ていたので、消灯時間なぞ関係ないという勢いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、日本中が沸いた。

 

 海外遠征など夢のまた夢とされる日本陣営において、夢を一度ならず二度も三度も叶え、偉大なる連覇をかけたこの一戦において。

 

 深夜にも関わらず皆が固唾を飲んだ。

 

 道ゆく車の多くが路肩に停車し、カーナビのワンセグの実況に耳を傾け、カラーのブラウン管テレビに食いつく家族はどこにでも見られた。

 

 

 

 

 

 

 200×年 フランス パリ ロンシャンレース場

 

『フォルスストレートを抜け最後の直線!13番ラストーチカが未だ先頭、2番手14番とは2バ身程離れている!』

 

 鳴り響く地割れのような音、飛び跳ねる芝。

 泥濘んだ欧州の重馬場芝は例えるなら田植後の田圃の如き。

 

 そんな芝を滑走するかのように滑らかに駆けるウマ娘がいた。

 

 まさにズブズブのターフの上で加速するのは至難の業だ。

 

 まさにこのような状況でも慣れていて対処が容易にできる現地のウマ娘の方が有利であるのが確かだ。

 

 勝つためにチームで挑むのも通りに通っている。

 

 だがそのウマ娘は包囲や強めの接触などものともせず、何事もないかのように外から抜け出し、猛然と加速を始めた。

 

 もはや重馬場とはなんだったのかというほどの加速。

 

 スピード、スタミナ、パワー。そして根性と賢さ。

 

 天性とも言える才能を最大限活用した走りはどのようなウマ娘も寄せ付けなかった。

 

 そしてそのウマ娘は、やがて世界に覇を唱える。

 我こそはと。その首を頂こうと襲いかかったモノは全て返り討ちにした。

 

 かかってこないものも全て撃墜してやった。

 

 彼女に叶うものはもはや誰一人として居ない。王者にして孤高。孤高にして世界最強。

 

 そしてそのウマ娘は一つの神話を築き上げたのだ。

 

 そのウマ娘の名は。

 

 

『おーっと!ここで唯一の日本勢、ファイティングイーグルが包囲から抜け出した!残り300を通過!まだ先頭との差は3バ身は離れているぞ、届くのかーっ!』

 

 

 

『きたぞきたぞ、鷲がきたぞ!ファイティングイーグル、差し切ってゴール!不敗神話は未だ途切れず!

 日本の!夢を!抱いて!やってくれました!!!』

 

 

『ファイティングイーグル』

 

 不敗神話を築いた、孤高の王者だ。

 

 

 


 

 それから8年後。

 一人のウマ娘が中央トレーニングセンター学園の門扉を潜った。

 

 胸には燦然と輝くURA中央トレーナーライセンスを有することを示す徽章が付けられている。

 

「トレセン学園、か。1年ぶりだな」

 

 校庭には眩しいばかりの情熱でトラックを走るウマ娘達に思わず目を細める。

 

 引退して既に6年の私からすれば、彼女達の青春にあるレースへの向き合い方、あり方は些かというには過剰な程・・・・・・眩しい。

 

 確かに6年前に引退した。

 

 別に走れないというわけではなかった。ピークが過ぎ去り、これ以上のレース出走は実力的に厳しいという判断だった。

 

 自分自身でも納得しているつもりだった。

 

 当時は私のトレーナーと一日中話し合って、決めた事だった。

 

 今でもその決断は後悔はしていない。

 

 けれど心の底から湧き上がるウマ娘の本能が沸き立つ。

 立ち止まっていた脚が、前へ前へ踏み出そうとする。

 駆けていきたいと泣き叫ぶ。

 

 深く刻まれ、運命付けられた本能を理性で必死に抑え込む。

 

 校舎へと向かうその脚は、どうしようもないほどに疼き出していた。

 

 

 


 

 

 

 

 理事長室。ここにくるのは一年振りかな。

 

 理事長はここトレセン学園の名実共のトップである。さらにはウマ娘を鍛え導くトレーナーの二つ上の上司だった。

 

 長期休暇をしていた私に様々な恩義を図ってくれた恩もある。

 だから一番最初に挨拶に向かうべきだと考えた。

 

 勿論事前にアポはとってある。

 

 扉を3回叩くと、久しぶりに聞く女性の声が聞こえた。

 

「どうぞお入りください」

 

「失礼します」

 

 中に入るとちんまりとした、どう考えても風貌が幼女で帽子の上に猫を乗っけている(けどこう見えても理事長)理事長の姿と、緑の悪魔ことたづなさん(一応理事長秘書)の姿を認める。

 

「あら、お久しぶりですね

 

 

 

 

 

奥野さん」

 

 たづなさんに本当に久しぶり似合ったかのように声をかけられる。確かに一年ぶりではあったけども、私たちの家が府中にありトレセン学園に近いせいかちょくちょく道端で出会ったりもするので、仕事場としての再会は久しぶりということでしょう。

 

 休暇中に上司に会うのはちょっと気まずいけども。

 

 閑話休題。

 

「えぇ、産休で長らく現場から離れていましたけど、今日から復帰することになりました」

 

「待望!君の復帰を待ち望んでいたぞ!例のプロジェクトも順調に進んでおるからな!」

 

 例のプロジェクト?私は何も聞いていなけどなんだろうか。

 

 夫も中央の現役トレーナーをしているけども、育休を取る上で私が一年という長期間をとる上で、夫と相談した上で双子の子育てと2年前に生まれていた子の子育てを並行していた私を慮ってかそういう仕事の話は一切振ってこなかったから。

 

「理事長、不躾な質問で恐縮ですが・・・・・・例のプロジェクトとは?」

 

 すると理事長とたづなさんが思わずと言ったような雰囲気で顔を見合わせた。

 

 神経な表情でたづなさんが話しかける。

 

 立ち話も何なのでとソファーに座るように誘導される。

 

 これは話は長くなりそうだ、な。

 

「アルデバランのトレーナーさんからすでに聞いていらっしゃると我々も思っていたところでしたが」

 

「はぁ、夫は私に慮ってかあまりそういう話をしませんでしたから。私が話を振って見ても、チームのこの子のこの持ち味、末脚はすごい!とかこの子は今こんなに成長しているとかそういう話をしていてばかりでしたから」

 

「そうだったんですね。実は・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「プロジェクト ラーク?」

 

「そうです」

 

 話を聞いているととても凄まじい計画であった。

 ファイティングイーグルの凱旋門賞連覇以降、日本のウマ娘も我こそはと挑戦し、その遠すぎる橋の如く勝ちきれない状況が続いてきた。

 

 また日本に凱旋門賞バを誕生させたい。

 

 その為のプロジェクトが立ち上がったという。

 

 現在はまだ各組織との調整中のため外部には公表はできない状況であるというお話であった。

 

「その関係で、臨時でアルデバランのトレーナーがプロジェクトL’ark限定でURAへ出向するお話も出ているのです」

 

「え」

 

 たづなさんは、豆鉄砲に撃たれた鳩のような顔をしている私の顔を心配そうに覗き込むと、補足をしてくれた。

 

「実はアルデバランのサブトレーナーである貴女についてもURAへ出向するお話が上がっているんです。凱旋門賞バを育て上げた今のチームアルデバランのトレーナーさんも有力ですが、数多の海外レースを勝ち取りかつ凱旋門を最も早く駆け抜けた奥野さんが元競走バとしては珍しいとはいえトレーナーをしていらっしゃる。

 

 プロジェクトの立ち上げの上では良い人材となるだろう、との上からのお達しになります。

 

 人事といたしましては一時的な出向ですし、此方としても無理強いをするつもりはございませんので、その点はご安心ください」

 

「そうであれば良いのですが」

 

 

 

 

 私は理事長室を辞し、総務部へ顔を見せ産休の復帰を済ませると、いつもの部屋へ向かう。

 

「やっほ」

 

 チームアルデバランのチーム室だ。

 

「おはよ、昨日ぶりだね」

 

「チームのみんなは授業中?」

 

「そうだよ」

 

 それからと言うもの、私のノースポイントスターはパソコンにずっと向き合っている。

 

 私は育児、夫は仕事と振り分けたは良いものの、今まで私がしてきた仕事を一人ですることになった彼は、帰ってこずに夜通しで仕事するのもしばしばだ。

 

「私が復帰したんだから、今まで休職していた分やるよ。ほらパソコン貸してさ」

 

「ちょっと待ってて、引き継ぎ書作ってるから」

 

「引き継ぎ書?」

 

「あぁ、あの子達の今の状況を纏めたものだ。ないよりあった方がずっといいだろう?」

 

 

 

 そして暫く無言の状態が続いたが、彼が十数枚の印刷物を出力した。

 

「ありがとう、あとで読んでおく。じゃっ、ほら。こっちおいで?」

 

 ぽんぽんと太ももを叩いて感覚を誘導する。

 

「あ、あぁ」

 

 うまくいった。人間はこういう朦朧としている時が一番判断力が落ちる。

 

 休ませるにとっておきの条件だ。

 近づいた所を見計らい、体を上手くソファに横倒しにして膝枕を敢行する。

 

 そしてちょっと今だにやるにしては恥ずかしいけど、胸をアイマスク代わりに被せ視界を遮ってやるんですよ。

 

 すると、頭の周囲が柔らかい感触と遺伝子が超絶相性の良い証であるいい匂いに包まれると人はすぐ幸せな気持ちになり寝落ちしてしまう。

 相変わらず不器用で、可愛い奴だ。

 

 胸サンドをしながら引き継ぎ書に目を通していく。

 

 まぁおおかた予想通りだ。

 

 我がチームアルデバランは所謂中堅チーム。

 

 1勝、2勝勝てばその時点で一握りの勝者になる世界の上で、複数の勝ち星はなんとか出来ていると言ったところ。

 

 重賞への出場権はあるが、どうも勝ちきれない。

 

 そういう状況が続いていた。

 

 

 

 

 

「ん?project L’arkの対応?これたづなさんが今日話してくれた例のプロジェクトかな?」

 

 引き継ぎ書を読み進めていく。

 

 

・プロジェクトの成功には、凱旋門賞勝利経験者の出向は不可欠である。その為、チームアルデバランのチーフもしくはサブトレーナーの出向は必要である

→暫く海外遠征していないチーム、アルデバランにおいて海外遠征のノウハウは失われているため、出向しても意味がないと思われる。

→→プロジェクトの性質上、凱旋門賞勝利経験者の経験は必要不可欠である。

→→→我々の凱旋門賞勝利時においてURA職員のお歴々にお世話になった。当チームのトレーナーを出向させたところでURAに人材が残っている以上我々を出向させる理由としては極めて薄いと言わざるを得ない。

→→→→URAの凱旋門賞遠征経験者は一名を除き退職している

 

→→→→→上記協議結果から鑑みるに、アルデバランのトレーナー2名のうち少なくともどちらか一名は出航するべきである。

 

 

 大丈夫かなこれ。終始喧嘩腰だけど。

 

 全く、一人で抱え込んじゃって。

 

 あの頃と全ったく同じだね。

 

 ちょっとパサついている彼の頭を優しく撫でる。

 

「少しは相談しても、良いんだよ」

 

 

続きを読み進める。

 

 

 

・対応すべき事項。

 

1)チームの新規受け入れを絞り、チームメンバーの自然な引退により3年以内にチームを6名→1-2名程度とし片方の負担を減らす事とする。

2)プロジェクト終了後元の規模へ復帰する。

 

・・・・・・そういえば。私の産休前は6人だったはず。

 

 なのに今のチーム所属は2人。

 

 4人共ほぼ同じ時期に入ったわけだから引退もほぼ同じだった。

 

 

 

 

 チームアルデバランは近い時期に無くなるのかも、しれない。

 

 

 

 

 もしかしたら夫は私に専属でトレーナーを担当してみてほしいと思っているのかもしれないな。

 

 今度家で聞いてみるとしよう。

 

 それはそれとして、チームメンバーが二人にも関わらず徹夜でやるような仕事があるのかねとは思いはしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで膝枕で眠り呆けていた大きい子供はとりあえずソファに寝かしつけ、残されていた仕事を片っ端から片付けたのであった。

 

 

 


 

 

 

 

 

 放課後はウマ娘たちが練習をしたり遊びに行ったりと、色々する時間である。

 

 大きい子供ちゃんとその後お話()したところ、色々考えたけど来年度4月1日より出向して、チームには私を残すつもりだと話していて、たづなさんとか理事長にその事を話してないのかと言うとやはり話してなかったという。

 

 横方向の展開がたりてないんじゃあっと一喝して、未来あるウマ娘の練習風景を見に行くことにした。

 

 トラックには自主練習をしているウマ娘が多く居る。

 

 10月ともなると、本格化が近いウマ娘は選抜レースに出て才能のあるウマ娘はあらかた専属かチームの加入という何らかの形でトレーナーがつくものだ。

 

 チームや専属となると、担当するトレーナーが監督するが、自主練習となると凡そはトレーナーがついていないウマ娘が多数となる。

 

 つまりクラスの周りの優秀なウマ娘はスカウトされてるのに、自分はトレーナーがついていないという事実に焦る。

 

 トレーナーが居ると居ないとでは練習の質が違ってくる為に、勝てるレースも勝てなくなってしまうのが一般的な感覚であった。

 

 つまりは、このトラックにいるウマ娘たちは焦っているという事だ。

 

 

 なんとか自分をスカウトしてもらおうと、より一層気合いを入れて練習に力を入れる。

 そのトレーナーがトレセン学園唯一のウマ娘トレーナーとはいえ、いやチームアルデバランのサブトレーナーがその唯一のウマ娘トレーナーであるからこそ目立つ。

 

 チームアルデバランはG1バこそ輩出してはいないものの、重賞バを多数輩出しているというチームであるからこそだ。

 

 アルデバランは一昨年の中頃から一人も新規加入者がおらず、サブトレーナーが産休に入ったから新規加入者を取らないという噂まで流れた。

 

 その噂から考えると、アルデバランのサブトレーナーの復帰は新規加入が始まるんじゃないかと。

 

 そう考えるのも自然だった。

 

「おっ!あの子のトモいい発達具合だ、将来有望だよ」 

 

 

 

 

 結局そのトレーナーはスカウトの一つも二つもせずに、20分30分もせずにどっかへ行ってしまった。

 

 ちなみに彼女はチームメンバーの監督のためにチーム部屋へ戻っただけである。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 夜がふけ始める20時。

 

 チームアルデバランの部室にはまだ灯が灯っていた。

 

 夫は子供を預けていた保育園へ向かいに行かせ、チームトレーナーとしての仕事は私が全て引き受けた。

 

「ん゛ーーーーーーっ!疲れたぁ・・・・・・

 

 キリが良いし帰るかなぁ」

 

 身体を少捻るだけで固まった体からボキボキボキっ!っと音が鳴った。

 

「なんかすごい音したぞこれ」

 

「チームのみんなも元気そうにしてたし、良かった良かった。

 

 あとは家帰って飯食って風呂入って洗濯物して風呂洗って子供寝かせて終わりだぁーーー!」

 

 カバンを引っ掴んで後者を出る。

 流石にこの時間ともなると、ウマ娘の寮は門限が近い時間だしトラックには誰も居ないはずだ。

 

「・・・・・・ん?」

 

 と思っていたが、そうではないようだ。

 

 

 

「はあっ、はぁっ、はぁっ」

 

 息を苦しそうに吐きながら、練習をしていたウマ娘。

 

 この時は知る由もなかったが、彼女の名前はアドマイヤベガ。

 

 後に覇王世代と言われる、強者の一角だ。

 

 

「・・・・・・こんな時間まで練習をしているなんて

 

 声、かけてみようかな」

 

 余計なお世話かもしれないけど、こんな練習を続けると故障してしまう。

 

 なかなか勝ちきれない。勝てない。そんなウマ娘の子たちはこう考えてしまう。

 

 勝てない。なぜ勝てないのか、それは練習が足りないから。

 

 それで無理な練習に結びつけ、身体を壊してしまう。私が現役時代の時やトレーナーとして働いている今において何度も見た光景だ。

 

 故障し夢を絶たれ、学園を去っていくウマ娘は何度も見かける。

 

 無事是名馬をモットーとするアルデバランのサブを務めているからには、珍しいウマ娘トレーナーとはいえ第一に考えるのはウマ娘のこと。

 

 彼女に声をかけるため、カバンをベンチにおいて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 その決断が、ベガと担当契約を結ぶことになるなんて、この時はひとかけらとも考えていなかった。

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