父さんは【剣聖】、母さんは【剣神】、僕は【おち〇ぽチャンバラマスター】   作:枩葉松

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第1話 おち〇ぽチャンバラマスター

 

「レグルス……お前は勘当だ。今すぐ荷物をまとめて、この家から出て行け」

 

 その日父さんは、僕を書斎に呼び出すなり神妙な面持ちでそう告げた。

 

「そ、そんなぁ! そんなのってないよ、父さん!」

 

 当然、僕は反発する。

 

 つい昨日、14歳になったばかり。

 この年齢で勘当? 独り立ち? いやいや、そんなの聞いてないって。

 

「……確かに俺も心苦しい。可愛い息子にこんなことを言うなんて、罪悪感で吐きそうだ」

 

「じゃあ何で!? 僕、今までずっと頑張ってきたのに……!」

 

 その叫びに、父さんはグッと何かを堪えるように唇を噛んだ。

 小さく深呼吸して、同情的な瞳で僕を見る。

 

「……今更言うまでもないが、我がエーデルライト家は剣士の家系だ。剣に生き、剣に殉ずる。そうやって数百年も前から、この国の守護神として栄えてきた」

 

「わかってるよ! だから僕、小さい頃からずっと剣の修行をしてきたじゃないか! 兄さんには負けたことないし、父さんにだってこの前勝っただろ!?」

 

「あぁ、お前は優秀だ。俺が見て来た中で、間違いなく最強の部類だろう。そこは認める……認めるがなぁ……」

 

 苦しそうに声を絞り出し、片手で顔を覆った。

 

「……俺のジョブが何か、言ってみろ」

 

 14歳になると、天からジョブを授かる。

 ジョブとはその人間の才能であり、世界の中での役割であり、人生や運命を決定付ける重要なもの。

 【農家】であれば畑を耕して生き、【商人】であれば物の売り買いで生計を立てる。

 

「えっと……け、【剣聖】です」

 

「じゃあ、母さんは?」

 

「【剣神】……です……」

 

 どちらも剣士系のジョブの中で最高位のもの。

 

 ジョブは血によって遺伝することが多く、エーデルライト家に生まれた者は基本的に【剣士】に類するジョブを授かる。

 

 だから僕も、同じような道を辿るはずだったのに――。

 

「だったらレグルス、お前はどうだ? お前は昨日、14歳の誕生日、どんなジョブを授かった?」

 

 父さんの問いに、僕は逡巡ののちに乾いた唇を開く。

 

 

 

「――――――【おち〇ぽチャンバラマスター】です」

 

 

 

 僕と父さんは顔を見合わせて、静かに視線を落とした。

 

「……俺の弟はな、ジョブが【花屋】だったばかりに家を追い出されたんだ。そんなジョブのやつがいたら、エーデルライト家の名が汚れるって言われて。父さん、それが本当に許せなくて、自分が当主になって子供を持った時はどんなジョブでも受け入れようと思っていた」

 

 腰を上げて、後ろの窓に目をやった。

 そこから見える中庭には、叔父さんの店で買った沢山の花が植えられている。

 

「【花屋】でもいい! 【大工】でも【料理人】でも……剣に関係なくても構わないじゃないか! エーデルライトの名を背負って立派に生きてくれたら十分だって、そう思っていたんだ……」

 

「じゃあ、僕も――」

 

「あのな、レグルス」

 

「はい」

 

 中庭から僕に視線を移した。

 その目は、今にも泣き出しそうなほど悲しい色をしていた。

 

「【おち〇ぽチャンバラマスター】は……ちょっと父さん、無理かもしれない」

 

「……」

 

「限度ってものがある」

 

「……まあぶっちゃけ、僕もそう思うよ」

 

「だよな」

 

 悔しいが意見が合ってしまい、お互いにため息をこぼす。

 【剣聖】と【剣神】の息子が【おち〇ぽチャンバラマスター】は、流石に体面上まずい。それくらいのことは僕でも理解できる。

 

「だが息子よ、気を落とすな。【おち○ぽチャンバラマスター】は、決して悪いジョブじゃないんだ」

 

「えっ。父さん、知ってるの!?」

 

 僕に【おち○ぽチャンバラマスター】と言い渡した神官にどういうジョブなのか聞いたが、いまだかつて見たことがないと言っていた。自分のジョブ、一生背負う肩書きであり運命の実体が掴めないというのはかなり不安なもので、僕は父さんの発言に食いつく。

 

「七星剣の伝説は、当然知っているな?」

 

「うん。千年以上も前に世界を救った、七人の立派な剣士のお話だよね」

 

 その伝説は大陸全土にまで轟いており、誰もが子供の頃に寝物語として聞かされる。

 当然、僕も何度も耳にしており、全編暗唱することだってできる。

 

「七人の剣士のジョブは覚えているか?」

 

「うん。【剣聖】に【剣神】、【剣豪】と【剣鬼】に――」

 

「違う」

 

「えっ? いやでも、母さんからはそう教わったし、本にも書いてあったよ……?」

 

「それは表の歴史、本当はそうじゃない。……いいか、レグルス。我がエーデルライト家は、彼ら七人のうちの一人が興した家だ。故に当主は、代々この秘密を受け継ぎ守ってきた。状況が状況だ、特別にお前にもそれを明かそう」

 

 戦に臨む前のような、物々しい目つき。

 冷たく重い空気の中、僕はゴクリと唾を飲む。

 

「七星剣の伝説。彼らは皆、同じジョブを天から授かった。そのジョブというのが――」

 

 父さんは口を開く。

 重々しく、額に汗を滲ませながら。

 

 

 

「――――【おち○ぽチャンバラマスター】なんだ」

 

「な、なんだってー!?」

 

 

 

 あまりの衝撃に、お手本のような声を出してしまった。

 

 でも、仕方がない。

 僕が憧れの神話の剣士と同じジョブなんて、そんなの信じられないよ。

 

「でも、何で!? 何でその人たちは、嘘のジョブを後世に残したのさ!」

 

「確かに強力で、世界を救ったジョブだ。しかしな、【おち○ぽチャンバラマスター】だぞ?」

 

「……」

 

「お前がもし、今すぐ【おち○ぽチャンバラマスター】と【剣聖】を交換できると言われたらどうする?」

 

「すぐに交換してもらう」

 

「そういうことだ」

 

 ……確かに。

 世界を救った英雄であれば、その名が何世代にも渡って語り継がれる。だが、間抜け極まりないジョブ名まで一緒に伝わるのは恥ずかしい。

 

「ご先祖様曰く、【おち○ぽチャンバラマスター】とは極めて特別なジョブらしい。世界に何か異変が起こった時、発現するものだと。ゆえにレグルス、お前のもとにはいずれ大きな運命が訪れるだろう」

 

「大きな運命……僕に……?」

 

「それが何かは俺にもわからん。だが、歴史上八人目の【おち○ぽチャンバラマスター】に選ばれたことには、きっと意味があるはずだ」

 

 自分の両手に目をやった。

 鍛錬に次ぐ鍛錬で、傷だらけになった手のひら。それをグッと握り締めて、肩にのしかかるプレッシャーに耐える。

 

「強くなれ、レグルス。これまで通り……いや、これまで以上に! 新たな時代の【おち○ぽチャンバラマスター】として、そのジョブに恥じない生き様を世界に示すんだ!」

 

「……っ! わかったよ、父さん。僕、強くなる。今よりもっと、強くなるよ……!」

 

「うん、それでこそ俺の息子だ。……しかしまあ、それはさて置き」

 

 ふーっと父さんはため息を漏らし、僕から視線を逸らした。

 

「ご先祖様が歴史を改ざんしてまで隠したジョブを俺が認めるわけにもいかないし……何よりその……息子がムスコを振り回すようなジョブというのは、父さん無理だ。耐えられない」

 

「……」

 

「レグルス。お前は勘当だ」

 

「……はい」

 

 

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