父さんは【剣聖】、母さんは【剣神】、僕は【おち〇ぽチャンバラマスター】   作:枩葉松

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第12話 辛い修行の日々

 ◆

 

 ――出力150パーセント。

 

 武太血(ぶったち)ゲージが11以上残っていた時のみ可能な、今僕が繰り出せる最強の技。

 

 これの最大のデメリットは、次がないことだ。

 

 5パーセントなら10分くらいはもつし、80パーセントでも最大1分は維持可能。

 ただこの完全開放状態は、たった一度使うだけで武太血(ぶったち)ゲージが空になり、しかもおよそ1秒しかもたない。

 

 この間に、僕がすべきことは二つ――。

 

 一つ目は、鎧の破壊。

 二つ目は、生身への攻撃

 

 一つ目の時点で衝撃が中身にまで届き気絶してくれたらいいが、あの防御力を見せられると期待すべきではない。

 

 鎧を壊したら即座に出力を5パーセントまで絞り、今度は生身を叩いて倒す。

 そんな器用なことは初めてやるが、やらないと鎧無しの【重騎士】は耐えられないだろう。

 模擬試合で監督官を肉片にするのは流石にまずい。

 

 ……さあ、準備は整った。

 

 征こう。

 勝つのは、僕だ。

 

「――――ッ!!」

 

 地面を力強く蹴る。

 

 加速する。

 加速する。

 加速する。

 

 もはや足の感覚はなく。

 それでも、更に一歩、もう一歩、つま先を前に出す。

 

 音は遥か後方。

 〝それは果てなき願いと希(ペニスカリバー)望の剣〟の切っ先は、彗星の如く白い光の尾を引く。

 

 ――思い返す、辛い修行の日々を。

 

 揉んで勃って。

 押し潰されて勃って。

 ぐちゅぐちゅにされて勃って。

 

 〈抜刀(ヌキ)〉〈抜刀(ヌキ)〉されて。

 

 何度も折れ、その度に勃ちあがった。

 たくさんの汗と涙で、ベッドと下着を濡らした。

 尊厳も性癖も何もかも、おっぱいにより踏み荒らされてしまった。

 

 そうして勝ち取った、この一撃。

 アトリアとミモザがいたから実現できた、この瞬間。

 

 二人の想いも乗せて、僕の全てを叩き込む!

 

「はぁああああああああああ――――ッ!!」

 

 狙うは、先ほど突きを食らわせた場所。

 いくらか耐久値が減ったことに期待して、同じところへ攻撃する。

 

 〝それは果てなき願いと希(ペニスカリバー)望の剣〟最大出力の突き。

 

 弾かれた感覚は……ない。

 だが同時に、確かな手応えもない。

 

 【重騎士】のスキルの効果と僕の突きの衝撃が、見えないところで鍔迫り合いをしているのだろう。

 

 

 ――――ビキッ。

 

 

 僅かに僕の鼓膜を刺激した、鈍い音。

 その音は徐々に大きくなり、突いた箇所からヒビが入り、それは鎧全体に波及していく。

 

 破壊……できたのか?

 

 僕の疑問に答えるように、瞬きの間にメルガの鎧は砕け散った。

 

 ……やった。

 やったぞ! 僕はやったんだ!

 

 っと、まずいまずい。喜ぶのはまだ先。

 ある意味、ここからが本番。

 

 生身の彼を倒さなければ――って。

 

「……えっ?」

 

 動くのが遅れたせいで、〝それは果てなき願いと希(ペニスカリバー)望の剣〟が消滅。

 射精後の疲労感の数百倍が、僕の肉体を襲う。

 

 ――でも、そんなことが気にならないくらいの衝撃的な事実が、眼球に飛び込んできた。

 

 200㎝を優に越す身長。

 薄い緑の瞳とショートヘア。

 花の王冠を作って遊んでいそうな、ふわふわとした可愛らしい顔。

 

 ……そして。

 

「メルガって……女のひと、だったの……?」

 

 アトリアとミモザ並みに大きなおっぱい。

 

「ぁっ、う、ぅう……あぁあ……!」

 

 僕の問いかけにメルガは、両の瞳を涙でいっぱいにして怯えるようにビクビクと身体を震わせた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「メルガ……!! あいつ、女だったのか……!?」

 

 私の隣に座るアラン様は、口をあんぐりと開けた。

 アトリア様も、観客たちも、一様に驚きの様子。

 

 当然、私も驚いた。

 あの体格で、あの防御力で女性。

 しかも威圧的な鎧に似合わない、ゆるふわなルックス。

 

「……うわ、気持ち悪っ」

 

 観客席の誰かが言った。

 

「あの身体であの顔……?」

 

「気持ち悪ぃー……」

 

「……化け物だ……」

 

 波及する悪意。

 罵詈雑言。

 

 誰が何を思うかなど自由……だが、どうしてわざわざ口に出す。

 あまりにも品がない。

 不愉快だ。

 

 ハッと我に返ったアトリア様が、周囲の声に歯を食いしばった。

 彼女はこういう時、黙っていられない性格。

 

 グッと拳を作り立ち上がった、その瞬間。

 

 

「黙れ――――ッッ!!!!」

 

 

 窓を割る勢いの凄まじい怒声が、試合場全体にこだました。

 他の誰でもなく、坊ちゃまの声だった。

 

「散々ヤジ飛ばして、今度は容姿の批判か!? お前らに品位とか敬意ってやつはないのか!?」

 

 この場で誰よりも小さい、たった十四歳の少年。

 されど彼は、国内で四人だけのSランク冒険者の最硬の鎧を破った男。

 

 戦士としても、男としても、既に格付けは終了している。

 

 故に坊ちゃまの正論に、冒険者の男たちは一斉に閉口した。

 親に叱られた子供のように、気まずそうに視線をそらす。

 

 やっべぇー……相変わらずかっちょえー。

 あれでまだ子供ってマジ? どんな大人になっちゃうの?

 

 あ、まずい。

 うっ、い、ぐぅっ……いぐぅうううううううう!!

 

 ……ふぅ。

 

「レグルス君、大丈夫かな……」

 

 ポツリと、アトリア様がこぼした。

 

 武太血(ぶったち)ゲージ消費した今、坊ちゃまの身体には凄まじい疲労感がのしかかっているはず。

 だけど彼は歯を食いしばり、拳を握り、叫ぶ。

 

 力の限り。

 

「だいたいよく見ろ、メルガを!! こんなに可愛いんだぞ!! それにこんなに強いんだぞ!! ここまで魅力的な女性のどこに文句をつける余地があるんだよ!!」

 

 何の臆面もなくド直球に褒められ、メルガ様は思い切り赤面した。

 うわぁ……これは恥ずかしい。坊ちゃま、ああいうこと平気で言っちゃうもんなぁ。嬉しいけど、私だったら耐えられない。色々な意味で。

 

「まだうだうだ言いたいやつは、今すぐ降りて来い!! 僕がぶん殴って根性叩き直してやる!!」

 

 ……やべ。

 また、いっ……ぐぅっ……!! んぉお!! おおおおおおおおおおおおお!!

 

 ……ふぅ。

 

 まったく、やれやれ。

 今日も坊ちゃまは最高(ゲキシコ)だぜ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 わたし――メルガ・ボルガの小さい頃の夢は、お嫁さんになることだった。

 どこか素敵な街で、可愛いものに囲まれながら、素敵な旦那さんと楽しく暮らしたい。……なんて、夢みたいなことを考えていた。

 

 でも、授かったジョブは【重騎士】。

 その影響か、小さかったわたしの身体はメキメキと成長し、一年と経たず村の誰よりも大きくなってしまった。

 

『化け物』

 

『怪物』

 

『気持ち悪い』

 

 声は小さくて、顔はそのままなのに、身体ばかりが成長して……。

 皆はわたしを指差して、いつも嗤っていた。

 

 それからひとが怖くて、怖くて、どうしようもなくなってしまった。

 

 でも、パパが病気で働けなくなったから、わたしが何とかしないといけない。

 

 幸い、このジョブのおかげで簡単に騎士団に入れた。

 鎧を着込み声を出さず、自分が女だとバレないよう息を殺して過ごした。……その結果、クビになった。

 

 冒険者になってからも、ギルドに雇ってもらってからも。

 鎧のまま、喋れないまま。

 

 仕事にならないのに、ひとと接するのが怖くてどうにもならない。

 

「散々ヤジ飛ばして、今度は容姿の批判か!? お前らに品位とか敬意ってやつはないのか!?」

 

 自身の防具を超強化するスキル〈鋼鉄の祝福〉。

 今まで一度も破られることのなかったこの鎧を破壊した少年は、わたしにトドメをさすことも忘れて観客に怒っていた。

 

 わたしよりもずっと小さな身体なのに。

 その背中は、今までに見た誰よりも大きく見えた。

 

「だいたいよく見ろ、メルガを!!」

 

 と、わたしを一瞥して。

 

 

「――――こんなに可愛いんだぞ!!」

 

 

 え。

 

 

 えっ……。

 えぇええええええええええええええええっ!?

 

 か、かっ、かわ!! かわかわかわ!! 可愛い!?

 わたしが……わ、わたしがぁ!?

 わたしが可愛いぃ!?

 

 ふひぇええええ!?

 

「それにこんなに強いんだぞ!! ここまで魅力的な女性のどこに文句をつける余地があるんだよ!!」

 

 そう語る横顔に、嘘はないと思った。

 本気でそう思っているから、そう口にしているのだと、本能で理解する。

 

 この身体になってから、可愛いなんて初めて言われた。

 それにこの身体になってから、誰かに庇ってもらったのも初めてだった。

 

 【重騎士】だから。

 大きいから。

 誰よりも硬いから。

 

 そんな理由でただ攻撃を受けるだけだった自分を、彼は身を挺して守ってくれている。

 

「まだうだうだ言いたいやつは、今すぐ降りて来い!! 僕がぶん殴って根性叩き直してやる!!」

 

 あぁ、ダメだこれ……。

 

 わたし。

 

 

 

 ――彼のこと、好きになってる。

 

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