父さんは【剣聖】、母さんは【剣神】、僕は【おち〇ぽチャンバラマスター】   作:枩葉松

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第2話 武太血(ぶったち)ゲージ

 

『もし今回のことを自分のせいだって思うなら、これを最後に強くなりなさい。自分も皆も守れるくらい、強くね』

 

 自室で荷物をまとめながら、僕はふと母さんの言葉を思い出した。

 

 今から七年ほど前。

 僕は両親にいいところを見せたくて、酒場で飲んでいた盗賊一家をやっつけようと喧嘩を売り、造作もなく捕まった。

 

 一番最初に助けに来たのが母さんだった。

 【剣神】のジョブを持ち、若い頃は父さんと血みどろの戦いを繰り広げたという歴戦の猛者。だけど僕が盾として使われてしまい背中から刺され、後遺症のせいで二度と剣を振るえなくなった。

 

 だから僕は、強くなろうと決めた。

 

 弱さは自分だけじゃなくて、誰かの足も引っ張る。自分を守れなくちゃ、誰も守れない。母さんの分まで強くならなければいけない。

 

 毎日毎日剣を振り、模擬戦だったら兄さんや父さんにも勝ったのに。

 

 なのに、今は……。

 

「うぅー……くっそ、重いぃ……!」

 

 愛用の剣を鞘から抜き構えるが、あまりにも重くて姿勢を維持できない。

 ジョブを授かるまでは、まったく問題なく振り回せたのに。

 

 おそらくこれは、ジョブによる弱体化(デバフ)だろう。

 自身のジョブとあまりにもかけ離れた道具を使おうとすると、こういう現象に見舞われると聞く。ただ、ここまで重症なのは他に例がないらしい。

 

「……あんなに頑張ってきたのに、全部無駄になっちゃった……」

 

 ため息を共に剣を鞘に納めてうな垂れた。

 【おち○ぽチャンバラマスター】だとか大きな運命だとかよくわからないが、僕から剣を奪っておいて何がしたいのか。これじゃあ敵と遭遇しても戦えないよ。

 

「しかも、スキルが意味不明だし……はぁー……」

 

 頭の中で、ステータスと唱えた。

 

 

 

 レグルス・エーデルライト

 ジョブ 【おち○ぽチャンバラマスター】

 スキル 〈抜刀〉Lv.01

 

 

 

 脳内に浮かぶステータス画面。

 

 ジョブにはそれぞれスキルという特殊能力が設定されており、使うことで生活をちょっと便利にできたり、超常的な現象を起こすことができる。

 

 ちなみに僕は兄さんと父さんに勝ったわけだが、あれはスキル抜きの純粋な剣技の勝負での話だ。スキルを使われたら、僕などひとたまりもない。

 

 そしてこの〈抜刀〉というのが、僕のスキル。

 詳細を表示するよう念じるが、

 

 

 

 〈抜刀〉――剣はここに一振り。滾りと共に鋼と成る。

 

 

 

 意味がわからない。何だこのポエム。

 兄さんがこっそりノートに書いてたやつの方がもっと格好よかったぞ。

 

 しかも使おうとしたって発動しないし。

 本当に何なのさ、これ……。

 

「坊ちゃま、こちらの準備は終わりました。いつでも出発できます」

 

「あぁ、うん。僕もできた。今行くよ」

 

 ドアをノックして部屋に入って来たのは、黒髪ロングの青い目をした無表情の女性。

 僕の専属メイドのミモザ。

 年齢は四つ上で、お姉さんらしい大人な雰囲気をまとっており、僕のジョブが【おち○ぽチャンバラマスター】だと知っても「そうですか」の一言で済ませてしまうような度を越してクールなひとだ。

 

「……本当にごめんね。僕のせいで、ミモザまで……」

 

 父さんの意向で、ミモザも僕の旅に同行することになった。

 勘当はしても、息子のことが心配らしい。

 

 その気持ちは嬉しいが、ミモザからすれば安全で快適なこの屋敷で働く方がいいはず。

 僕が【おち○ぽチャンバラマスター】になったばかりに、本当に申し訳ない。

 

「ご心配なく。仕事ですので」

 

「いや、でも……」

 

「私は坊ちゃまの専属メイド、この役目に殉ずる覚悟はできています。むしろ、これからも坊ちゃまのおそばに置いて頂けてとても嬉しく思います」

 

 無表情で淡々と言葉を並べる。

 澄んだ水のような青い双眸は、嘘偽りのない光を宿して僕を見つめている。

 

 ……格好いいなぁ、ミモザは。

 

 彼女はいつだってこうだ。

 何が起こっても動じないし、どんな時も僕のそばにいてくれる。

 仕事も完璧で、いまだかつてミスをしたところを見たことがない。メイドとして、これ以上のひとはいないと思う。

 

「レグルス君! 家を出るって本当!?」

 

 元気いっぱいな声をあげながら、金髪金眼の修道服姿の女性が部屋に入ってきた。

 

 彼女はアトリア。

 近くの教会で働いていて、稀少な【聖女】の持ち主。

 僕の二つ年上で、小さい頃は毎日一緒に遊んでいた。いわゆる幼馴染というやつだ。

 

「うん。アトリアは知ってると思うけど、僕のジョブがちょっとね。そろそろ出発するところだよ」

 

「そろそろ!? え、どうしてあたしに何も言ってくれないのさ!」

 

「……だってアトリアに会ったら、お別れが寂しくなるし……」

 

 修行が上手くいかなくて辛い時、いつだって弱音を聞いてくれたのが彼女だ。

 大丈夫だよ、と笑顔で背中をさすってくれた。レグルス君なら強くなれると、手を握ってくれた。……大切なひとだから、別れの時に泣きたくなくて、何も言うことができなかった。

 

「レグルス君は、あたしとお別れするのがそんなに嫌なの……?」

 

「当然だろ! ……アトリアがいたから、僕は何度も立ち上がれたんだ。よりにもよって【おち○ぽチャンバラマスター】のせいでお別れなんて、そんなの嫌だよ」

 

 そう言って、奥歯を噛み締めた。

 対してアトリアはふふーんと得意げな顔をして、悪戯っぽく白い歯を覗かせながら腕を組む。

 

「だったら、あたしも一緒に行こうかな」

 

「えっ!? いや、アトリアには教会の仕事が――」

 

「レグルス君はあたしの命の恩人なわけだし、その恩を返さずにお別れとか神様が許さないよ。うん、そう! そうに違いない!」

 

「で、でも……」

 

「なに? 嬉しくないの? あたしが一緒に行ったら迷惑?」

 

「っ! 迷惑なわけないよ! ……す、すごく嬉しいし!」

 

「だったら、あたしも行く! ってことでミモザさん、あたしも荷物運ぶの手伝うよ!」

 

「ありがとうございます」

 

 一方的に同行を決めて、ミモザと共に僕の荷物を持った。

 

 役目に徹するすごく格好いいミモザも、いつまでも一番の仲良しでいてくれるアトリアも、どちらも僕にとって大切なひとだ。

 

 ……ただ、一つだけ。

 

 たった一つだけ欠点というか、何というか。

 僕はとある理由から、彼女たちに苦手意識を持っていた。

 

 それは……。

 

 ――たゆん♡

 

 こぼれ落ちそうなほど大きい、二人の胸。

 荷物を持ち上げようと屈むと否応なく胸元が強調され、どうしたって視線が吸い寄せられる。

 

 白く透き通る肌。

 どこまでも落ちて行くような深い谷間。

 その破壊力に生唾を呑んだところで、まずいまずい、と視線を逸らす。

 

 これが僕が、二人のことがちょっとだけ苦手な理由。

 

 彼女たちは凄まじい肉体の持ち主。

 多感な年頃の僕にはあまりに刺激が強く、いつだって視線のやり場に困り気を惑わされる。

 

 そんな二人と、今日から旅に出る。

 長い時間を共に過ごすのだから、変な目で見て嫌われたくない。

 

「んーっ! うわ、これおもーい!」

 

「アトリア様、私のものと交換いたしましょうか?」

 

「ううん、大丈夫! 何のこれしきーっ!」

 

 力を目一杯入れて、荷物を持つ二人。

 やや前傾姿勢でバッグの持ち手を両手で持つと、自然と腕で胸を挟むことになるわけで。

 

 むぎゅっ♡

 

 大きな胸がこれでもかと強調され、僕は挙動不審になりながら片手で赤くなった顔を隠した。

 

 ダメだぞ、レグルス! 落ち着け、レグルス!

 見るな、見ちゃダメだ! 女性にそんな目を……よりにもよって僕のために働いてくれてるひとたちにそんな目を向けるなんて失礼だろ!

 

「あっ! ミモザさん、ごめん!」

 

「おっとっと」

 

 体勢を崩したアトリアはミモザにぶつかり、二人同時に僕の方へ倒れてきた。

 

 むにゅん♡ むにゅにゅん♡

 

 身長差のせいで、顔が思い切り二人の胸にうずまった。

 

 「んぁっ!」とアトリアの甘い声と、「失礼しました、坊ちゃま」といつも通りのミモザの涼しい声音。やわらかな感触と甘い匂い。

 この場から離れようとつい手を出すも、豊満な胸に包み込まれてただ沈むだけ。

 

 凄まじい女性的な魅力に襲われ、頭の先から下半身にかけて電流が走る。

 

「……あ、あぁ、うん。二人とも、平気? 荷物、僕が持って行こうか?」

 

 口の内側を噛み締めながら、何でもないように言った。

 

「ご心配なく。仕事ですので」

 

「レグルス君はゆっくりしてて! お姉さんにまっかせなさーい!」

 

 と言って、二人は部屋を出て行った。

 それによって気が抜けたのか、ドクドクと下半身に血が流れ込む。

 

 ……最悪だ、僕。

 二人はただ僕のために働いてくれてただけなのに、それで反応しちゃうなんて。こんなの剣士失格だよ……。

 

 ―― 武太血(ぶったち)ゲージ上昇 ――

 ―― ♂♂××× ××××× ――

 

「は?」

 

 突如、頭の中で無機質な声が響いた。

 

 な、何だって? 武太血(ぶったち)ゲージ? 確かに何か、ゲージみたいなのがあるけど……。

 

 ―― 〈抜刀〉の使用には武太血(ぶったち)ゲージが不足しています ――

 

「いや、不足してるとか言われても……」

 

 まず、どうやって溜めればいいかわからないし。

 

 アトリアとミモザにおっぱい見せて、とか言って溜めるのか?

 いやいや、無い。あり得ない。

 そんな人間として最低なこと、僕にはできないよ。

 

 でも、溜めない限りスキルが使えないし、使わないとどういう能力なのかもわからない。うーん、どうしたものか。

 

「とりあえずこれ、何とかしないと……」

 

 女性二人との旅では、下半身(こいつ)の処理も難しくなるだろう。絶対にないと思うが、それでも若さに負けて暴走しないよう、今のうちに一人でせこせこと片付けておく。

 

「……うっ」

 

 ―― 武太血(ぶったち)ゲージ低下 ――

 ―― ××××× ××××× ――

 

 出すものを出すと、またしても頭の中でそんな声が響いた。

 

 もしかして僕、今後一生、するたびに上がったとか下がったとか言われるわけ?

 

 う、嘘でしょ……?

 

 

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