渋谷喰種《シブヤグール》   作:千生鉄斗羅

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プロセカと東京喰種のクロスオーバー的な小説のChapter2です。半年近くお待たせして申し訳ありませんでした。


Chapter2

「は? アンタ、何言ってんのよ。冗談も大概にしなさいよ、半分喰種(グール)って。詳しいことは聞かないけど、普通に意味わかんないんですけど」

 絵名は、どうやら相当お冠のようだ。もちろん、本気で怒っているというわけではないと思う。どちらかというと、自分の気持ちを整理するためという側面が強いようにみえる。

「まあまあえななん落ち着いて。確かに、ニーゴで普通の人間なのはえななんだけになっちゃったけどさ。……ひょっとして、えななんぼっち?」

「ぼっちって言わないで。てゆーか、こんなのどう防げっていうのよ……」

 瑞希が絵名を揶揄って、それに絵名が噛み付く。いつもの、お約束とも言える流れだ。しばらく見ていなかったので、懐かしく思う。

「それじゃあ、そろそろ帰るね」

「おっ、もう帰るの。じゃーねー」

 奏は、この場から離れることを選択した。私は、それについていくだけだ。奏の後について、瑞希の工房(ガレージ)を後にした。

 

 家に帰ると、ドアの前に望月さんがいた。それを見るなり、奏の顔に、冷や汗が浮かぶ。

「忘れてた……。今日は、望月さんがきてくれる日だったんだ……」

 そう言って、がっくりと崩れ落ちた。望月さんは、どうやら合鍵を持っていないらしく、立ち往生している。合鍵を持たせてもらっている分、私の方が奏に信頼されているのだと思うと、ちょっとした優越感を感じる。もっとも、実際には、望月さんはあくまで仕事できているのだから──親密な関係にあるわけではないから、わざわざ合鍵を持つ必要がない、というだけなのだろうけど。

 そう思いつつ、私は望月さんに声をかける。この時も、不思議と()()()であろうとは思わなかった。というより、半喰種(グール)になってからというもの、()()()でいようという気持ちが起こらない。

「どうしたの?」

「ひゃあッ!? ……って、朝比奈先輩……? ええと、交通事故に遭ったって聞いたんですけど……。大丈夫でしたか?」

 まるで猫が尻尾を踏まれたかのように、体を震わせた。そんなに、私に驚く要素があったのだろうか。でも、奏は、私が一緒に暮らしているということを、望月さんに伝えていなかったらしい。それなら、確かに私はここにいるはずのない人間だろう。・・・喰種(グール)だけど。

「心配してくれて、ありがとう。私は、もう大丈夫。それより、奏の家に用があるの?」

「あっはい、家事代行で。朝比奈先輩こそ、どうしてここに?」

「一緒に住んでる」

「!?!?!?」

 望月さんの目の色が、スロットマシーンのように変化した。トムとジェリーで、トムが物理的な衝撃を受けた時みたいな目、と言った方がわかりやすいだろうか。数秒して、望月さんは平静を取り戻した。

「ところで、宵先さんはどちらに?」

「奏なら、そこで崩れ落ちてる。忘れてたみたい」

「あらら、まあたまにはそんなこともありますよね。以前・・・というより、本当に家事代行でここに来始めた頃は、居留守を使われたこともありましたから。家にいるのに、鍵をかけて。チャイムにも反応してくれないので、苦労したんですよ……」

 私は、即座に奏に詰め寄った。

「どういうことなの?」

「うっ……。ええと、曲作りに専念したかったから……」

「それで餓死するつもりだったの?」

「うっ……」

 奏は、反論できなくなってしまった。本当に、何も考えてなかったらしい。

 と、私に、望月さんが近づいてきた。オロオロとした様子で、きっと雇い主である奏に危害を加えていると勘違いされたのだろう。私は、奏から少し距離を取った。

「あ、あの、朝比奈先輩」

「なに?」

 望月さんが、私を呼ぶ。だけど、その目つきはどこか虚ろで、焦点があっていなかった。眼は赤く染まり、彼女が喰種(グール)であることを否が応にも報せてくる。望月さんは、私をぎゅっと抱きしめた。

「ええと、なんだか特別な匂いがして、おなかがへってきたんです。くうくうおなかがなっているんです。ねえ、あさひなせんぱい。たべちゃっても、いいですよね……?」

「……!」

 共喰い……? でも、考えてみれば、私は喰種(グール)と人間の合挽だ。喰種(グール)にとっては未知の食材なのだろう、こうされても不思議ではない。だけど、どうせ食べられるのなら、どっちの意味でも奏がいい。いや、奏じゃないとダメだ。

 そう思っていると、奏が、望月さんを強制的に引き離した。あの体のどこに、そんな力があるのかと思うくらいの強引さだった。

「あ──よいさき、さん……?」

「駄目。まふゆは、食べちゃ、駄目」

「わかり、ました……」

「深呼吸しておいで。あと、顔も洗った方がいいかもね」

「はい……」

 望月さんは、あっさりと奏に従った。何か、序列の様な物があるのだろうか。

 ともあれ、私たちは家に帰った。

「……そうだったんですね。まさか、人間が喰種(グール)になるなんて……」

 コーヒーを飲みながらこれまでの経緯を一通り聞いた望月さんは、信じられないという様子だった。当たり前だろう。逆の立場だったら、絶対に黙殺している。

「それで、今は瑞稀に衣装(ドレス)を貰って帰ってきたところなんだ」

「うう、本当にごめん……。まふゆのことで頭がいっぱいで……」

 奏は、ずっとこの調子だ。それだけ、予定を忘れていたことがショックだったのだろう。そこで、私は、ある疑問を抱いた。

「ところで望月さんは、奏にとって通い妻というわけではないんだよね?」

『ゲホゴフ!?』

 コーヒーを飲んでいた二人は、同時に咳き込んだ。

「ま、まふゆ……? い、いきなり何を……」

「そ、そうですよ朝比奈先輩。私は、あくまで家事代行で、そんな、通い妻なんて……」

「どうなの?」

『うっ……』

 返答に窮する二人。でも、私は、回答を待つことはなかった。これは、私なりのジョークというやつだ。少なくとも、私自身はそう思っている。だから私は、すぐに話題を転換する。

「それはそうと、望月さん。確認しておきたいんだけど、あなたは生まれた時から喰種(グール)だったんだよね?」

「ちょっっっっっと待ってください朝比奈先輩? 何でさっきのあれを、軽く流しているんですか!?」

「本気だったんだ。冗談のつもりだったんだけど」

「まふゆ、それはちょっと洒落にならないかも……」

 どうやら、冗談とは受け取ってくれなかったらしい。どうしてなのかは、よくわからない。

「冗談のつもりだったのに……」

「そう主張するには、パンチが効きすぎていると思うのは私だけじゃないと思うんだ」

「そうですよね、宵崎さん!」

 この件に限っては、私に味方はいないらしい。迂闊すぎたみたいだ。

「それで、望月さん。さっきの質問についてだけど……」

「あっはい、そうですね。というか、一歌ちゃん、咲希ちゃん、志歩ちゃん、私のバンドのメンバーで幼馴染のみんなは、全員喰種(グール)なんですよ」

 望月さんがいうところによると、彼女はLeo/needというバンドを、幼馴染と組んでいるらしい。望月さんがドラム、星野さんがギターボーカル、天馬さんがキーボード、日野森さんがベースだ。このうち、日野森という苗字には聞き覚えがあった。仕事が忙しくて中々弓道部に来ることができないけれど、確かに私の友人の一人と言える、国民的アイドル。その名も、日野森雫。望月さんによれば、日野森さんは日野森さんの妹らしい。

 他にも、星野さんとも、委員会で何度か顔を合わせている。まさかバンドをやっていたなんて、想像もつかなかった。

「ちなみに、私、アップルパイとかミートパイが好きなんです」

「そうなんだ。でも、食べて平気なの?」

 喰種(グール)は、人肉とブラックコーヒー以外を口にすることはできないはずだ。正確には、それ以外も食べることはできるが、強烈な不快感に襲われるらしい。どうやって切り抜けるんだろう。

 そのことを望月さんに訊いてみると、

「訓練の賜物です。でも、ミートパイは、人肉を使っているものがあるので、そっちは平気です」

 とのことだった。

 まさか、人肉パイがあるとは知らなかった。どこで買えるんだろう。後で聞いたところでは、人肉パイはいろんなところで買えるらしい。喰種(グール)は五感が人間より優れているため、匂いで人間か喰種(グール)かが判るのだそうだ。それで、人間には普通のミートパイを、喰種(グール)には人肉パイを提供するのだという。材料の出所は、料理人自らが責任を持って自殺スポットに出向いているらしい。

 さて。

 望月さんは、「困ったことがあったらいつでも連絡してくださいね」というので、連絡先を交換した。望月さんが帰ってから、私たちは、今後の身の振り方について本格的に話し合うことにした。

 

 WEEKEND GARAGEには、招かれざる客が訪れることが多い。

 CCG(通称"白鳩")、過激派の人間、そして過激派の喰種(グール)だ。

 白鳩と過激派の人間の違いは、前者の場合はあくまで法に基づいているのに対し、後者の場合は法に関係なく、ただの暴徒である場合が多いという点である。もちろん、白鳩にもイカれた人間がいることは否定しない。過激派の喰種(グール)は、正確には、命知らずというべきだろう。大抵の場合、頭が緩く、実力差を考えられないのだ。稀に、きちんと策を講じて襲撃する喰種(グール)もいるが、大抵の場合即処理される。

 そもそも、WEEKEND GARAGEの関係者は、あまり荒事を好まないのである。もし大事になれば、確実に白鳩に殺される。ただでさえお目溢しをもらっている状態なので、これ以上自分達に都合の悪い状況になってもらっては困るのだ。

「まったく、私たちの身にもなってほしいわね。なんでわざわざWEEKEND GARAGE(ウチ)が襲撃されないといけないのよ」

 そうボヤくのは、この店の一人娘の杏だ。強力な尾赫の使い手であり、メンバーの中でも最強格である。

「大方、俺が理由なんじゃねーのか? 俺が、喰種(グール)に好かれやすいっつーのは知ってるから、多分そうなんだろう」

「彰人、それはこの店を襲撃する理由にはならない。言い方は悪いが、それは絵名さんも同じだ。暁山の方も何度か襲撃されているというから、お前だけが原因というわけじゃない」

 ある種の自責の念に駆られる彰人を、冬弥は庇う。事実、今回襲撃してきた過激派の喰種(グール)は、()()()()()喰種(グール)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのため、彰人の自責は、まったくの的外れなのである。

「あ゛〜、こはね〜、疲れた〜」

 杏は、躊躇なくこはねに抱きついた。杏曰く、こうすることでコハネニウムなる謎の成分(マイナスイオンのようなものだろうか)を摂取することができるのだそうだ。

「あ、杏ちゃん、くすぐったいよ」

「えへへ〜、こはね〜」

 こはねは、杏にされるがままだ。しかも、それを受け入れている。二人の仲の良さがよくわかる、甘々空間だ。

「あー、お前ら。人前でいちゃつくのも大概にしとけよ。ブラックコーヒーの売り上げを伸ばしたいんなら別だが……」

「残念だが彰人、俺たち喰種(グール)は、どうしてもブラックコーヒー以外を飲むことができない。ブラックコーヒー以外の売り上げを伸ばしたいのなら、人間の常連客を増やしてくれ」

「おっと、すまん冬弥」

「だが、こういう光景を見せられると、ちょっと胃もたれするというのは何となくわかる」

「だよな……」

 

「ええと、まふゆ。まず私たちは、人間を喰べて生きてる。これは知ってるよね」

 もちろんだ。あの時、無意識にお母さんを食べてしまったから、なんとなく知っている。でも──

「いつもここに、人肉があるとは限らない──」

「そういうこと。ねえ、まふゆ。()()()()()()、人を殺すことってできる?」

 奏もすでに、何人かを踊り喰っていた。いくら体力がないとはいえ、食べねば生きていけない。自殺スポットに行けば、喜んで身を差し出す人間は何人もいるのだ。何せ、死ぬためにそこに来ているのだ。失意の元に失われそうになった命が誰かの役に立つというのなら、これほど嬉しいことはないだろう。

「わからない。もし奏が人間で、私が喰種(グール)だったとしたら、多分食べられない。でも、それ以外の人間だったら──私となんの関係もない人間なら、食べられるかもしれない」

「それなら、きっと大丈夫。変に同族意識を持っていたら、慣れてもらうのは骨が折れるから」

 どうやら奏は、ドライな人格を求めていたらしい。奏は、満足そうに頷いた。

「それじゃ、夜になったら行こっか」

「どこに?」

「自殺スポット──狩場まで」

 この夜、私は、初めて、自分の意思で人を殺した。驚くほどに、何も感じなかった。これがお母さんだったら・・・? きっと、こうはなっていなかっただろう。でも、どちらも同じ人間だ。その優劣は、どこにあるんだろう。

 少し考えて、私は、「自分にとって大切な存在」は殺したくないけど、「自分にとってどうでもいい(自分の人生に一切影響を与えないような)存在」は殺しても構わないという結論を出した。

 そして私と奏は、眠りについた。

 

 翌朝。

 目を覚ました私たちは、昨日望月さんが置いて行ったミートパイを食べた。肉の部分の味は、よくわかった。

 それから数日の間は、特に変わり映えのない日々を過ごした。時々人間の在庫を仕入れに行くことはあっても、幸運なことに喰種(グール)同士の戦闘はなかった。戦闘経験に乏しい私は、もしかすれば奏以上に死にやすい存在かもしれない。

 事態が大きく動いたのは、私が半喰種(グール)になってから三ヶ月後のことだった。

 瑞希が、目に光のない状態で、私たちの住処にやってきたのだ。どういうことか訳を訊くと、瑞希は、憎々しげにこう言った。

「あいつら・・・・・・

 ()()()()()()()()()()

 普段の飄々とした態度をかなぐり捨てて、そう言い放った。

「あいつら、って・・・・・・」

CCG(白鳩)だよ。畜生、あいつらは絶対に殺してやる・・・・・・!」

 その時、私の中に、考えたくない可能性が浮かび上がった。

 ()()()()()()()()C()C()G()()()()()()()()

 もしかすれば、ということはある。できれば、違っていて欲しいとは思う。でも、坊主が憎ければ袈裟まで憎いというように、きっと今の瑞希は、CCG全体を敵視しているだろう。ならば、()()()()()()()()()()()()。もし奏が同じことをされたら、もしくは殺されたら? ──きっと、CCGを壊滅させるだろう。

 だからまずは、絵名の行方を探りたい。私はそう言って、なんとか瑞希を落ち着かせた。

 それにしても、どうやって絵名を誘拐したんだろう。普段瑞稀は、絵名にべったりくっついていると言って過言ではない。外出している時なら尚更だ。

 経緯を聞いてみると、どうやら買い物に出て一瞬別行動をした時に、誘拐されてしまったようだ。

「……瑞稀」

「ああわかってるよ、ボクの不注意だ! 一人にしちゃいけなかったのに……!」

「まふゆ、まずは絵名がどこにいるかを突き止めないと」

 そうだ。どこに、どういう目的で誘拐したのか。それがわからないことには、何もできない。

「瑞希、心当たりはないの?」

 奏が訊いた。

「ボクに? ……殺したいっていうのなら、直接殺せばいいだけだし、ボク狙いということはないんじゃないかな。あんまり目立つようなことはしてないし」

「あと、CCGがやったというのも違和感がある。仮にも国家権力なのに、バレたら非難されかねないようなことをやる理由がない」

「じゃあ、喰種(グール)が白鳩を騙ってるってことかな?」

「まともな人格を持っているなら、そんなことはしないと思う」

「白鳩にまともな奴なんているわけないじゃん」

「お父さん」

「……それは主観でしょ」

「そうともいう」

「なんでそう自信満々にボケるのさ……」

「反例を示しただけなのに……」

 まあ、躊躇いなく自分と同じ姿をしたものを殺せるという点では、狂っているといえなくもない。それに、CCGの使うクインケは、どうやら赫子を使っているらしい。そう考えると、確かに向こうのほうが狂っていると言える。……同じ姿をしたものを殺せるというのは、私たちも同じだが。

 そういえば、お父さんといえば。

「だいぶ前に、MADがいるってぼやいてた」

「MAD?」

「うん。なんでも、隙あらば人体実験しようとしたり、生体兵器を作ろうとしたりする危険人物だから、労働基準法をガン無視した扱いをされてるみたい」

「やっぱりイカれてるじゃん……」

「いや、お父さん曰く、『CCGがイカれていると言われるならば、その原因の七割はあいつだ。あいつさえまともな人格を持っていれば、喰種(グール)もおとなしく殺されてくれるんじゃないかとは思うんだが……』ということだから、大部分はまともな人だと思うよ。……多分」

「おとなしく殺されるつもりはないからね言っとくけど」

 でも、CCGで誘拐をさせそうな人物といえば、噂の人物の牟田与志之以外にあり得ないだろう。

 それでも、問題が一つ。私は、牟田与志之について何か知っているであろうお父さんと連絡を取るわけにはいかないのだ。

 それでも、問題が一つ。私は、牟田与志之について何か知っているであろうお父さんと連絡を取るわけにはいかないのだ。

「……八方ふさがり、だね」

 つまるところ、現段階では、私たちにはどうしようもできないということだ。とはいえ、目撃情報をあさったり、地道に探すなど、できることがないわけではないだろう。それに、喰種(グール)は人間に比べて鼻がいい。絵名の匂いを辿ることができれば、あるいは……

 

*** 

 

 牟田与志之は、部下に誘拐させた少女の身辺情報を洗い、プリントアウトした。名前、生年月日、血液型、身長、学歴、職歴(アルバイト含む)、趣味などが事細やかに記載されていた(なお、体重は非公開である)。個人情報が駄々洩れだが、これは懇意にしている新聞社、週刊誌、ハッカーに調査させたものである。

「……ふむ、なかなか面白い。喰種(グール)共を呼ぶ餌にもなり、そして喰種(グール)の飼いビトか。こんな人間はそうそういない。貴重なサンプルだが、つまりこいつは喰種(グール)共を擁護する立場にあるということか。ならば、その手で殺させてやるか」

 牟田は、普通の人間の体に赫子を移植するという計画を立てており、その第一症例は行方知れずだが成功している(無論、執刀は牟田の手で行えなかった。なにをされるかわからないから)。そこで今度は、自分自身の手で移植を為し、そしてCCGの兵器に仕立て上げようという算段なのである。

「麻酔は……いいか。それより、感情を消し記憶を封じ、新たな認識を植え付けられるものを呼ぶのが重要だ」

 そう言って、牟田は電話をかけ、誰かいい人材はいないかと相談を持ち掛けた。

 それから三日後、牟田は少女に麻酔なしの手術を強行した。当然ながら、インフォームド・コンセントは徹底されておらず、表の医者ならばニュースに取り上げられ非難され、インターネット上でも非難号号の嵐となるだろう。

 赫子の移植には六時間ほどかかった。少女は、一五分も経たないうちに気絶してしまった。

「さて、目が覚めたら、精神の処置も行うか」

 牟田は、少女を実験動物でも見る顔ような目で見て、言った。

 この少女は、後に牟田によってリザと呼ばれることになる。

 

***

 

 まふゆの父(本作ではこれ以降、彼のことを和也と呼称する。あくまで非公式であり、本作独自のものであることに留意されたし)は、突如CCG随一のMADである牟田与志之に呼び出された。

──一体何だというんだ、まったく。というより、なんで私なんだ……?

「失礼します」

 そんな思いはおくびにも出さず、和也は牟田の軟禁されている部屋に入った。先程、「牟田は労働基準法をガン無視した扱いをされている」という内容を記した。それは、彼を野放しにした場合、無辜の市民にどれだけ被害が出るか計り知れないため、CCGの彼専用の宿舎に閉じ込めておくというものである。元は病院だった施設だ。

「やあ朝比奈君、よく来てくれた。さっそくだが、面白いものを見せたくてね」

「面白いもの……?」

 和也の表情が強張った。牟田のいう面白いものとは、大抵ろくでもないものであるということを知っているからである。

「まあ、気になるだろう? 気になるよな、というわけでだ。リザ、入ってきたまえ」

「リザ?」

 牟田の声に従って現れたのは、(まふゆ)と同い年くらいの少女だった。目に光はなく、自由意志があるかどうかすら不明瞭に見えた。

「紹介しよう。人間に喰種(グール)の赫子を移植した第二症例にして、CCGの新たなる兵器! その名も、リザだ」

「リザと申します」

 リザは、無機質な声で名乗った。

「こいつはな、元来喰種(グール)共をおびき寄せる体質だったらしい。要するに餌、もしくはルアーだ。その性質に着目し、ゴキブリホイホイのごとく喰種(グール)共を引き寄せ、そして殺させるのだ。なかなかによいと思わんかね?」

「だが、それでは彼女の……いや、見覚えがある。以前娘が言っていた、サークルメンバーの一人なのだと。そうだ、この娘はリザじゃない、東雲絵名だ! なぜ、何の罪もない彼女をそんな風にした!」

 和也は、牟田の胸ぐらをつかんだ。だが、牟田は余裕の表情を崩さない。むしろ、嘲笑を浮かべてさえいた。

「果たして、本当にそう言えるのかね?」

「何?」

「この第二症例だが、なんとこいつは喰種(グール)の飼いビトだったのだ! しかも、一般的な、欧米人が大航海時代にアフリカから連れ去った奴隷のような扱いではない。ギリシアだったかローマだったか、市民権を持たないものの総称としての奴隷の扱いを受け、当人もそれに甘んじていたのだ! ならばそれは、喰種(グール)共の同族といってよかろう。体? 種族? 心根が同じレベルなら、人間とは見做さぬ!」

「前々から思っていたが、やはり人の道を外れたか、この狂人め!」

 激昂を顕わにする和也と対照的に、牟田はさらに笑みを濃くする。

「第二症例というのに引っかからなかったかね?」

「……それがどうした」

「君の娘さんは、交通事故で大怪我を負い、臓器移植を受けたそうだね。いや、受けただろうといったほうがよいか。実をいうとアレにはね、私の部下もかかわっているのだよ」

 和也は、眼鏡の奥の瞳孔が開くのを感じた。思わず、掴んだ胸倉を手放してしまった。

「……まさか……第一症例というのは…………」

「そのまさかだ朝比奈和也! お前の大事な大事な一人娘、朝比奈まふゆはリザと同じく、その身体に赫子を持つ、いわば半喰種(グール)! さすがに一般の病院だったのでリゼのような兵器には出来なかったが、あれは成功と言っていいだろう! 惜しむらくは、その赫子を見ることがかなわなかったというのと、やはり兵器にできなかったということか」

「ふざけたことを言うな! 牟田、貴様は人の将来を、未来を、命を、尊厳を、なんだと思っている!」

「実験材料にすぎんさ。それこそ、喰種(グール)すらもだ。ともかく、朝比奈君。リザは、君に渡しておこう」

「私に……? どういうつもりだ」

「単なるテストさ。これが成功すれば、そうだな、無戸籍児童なんかを大量に集め、第二第三のリザを作るとしようか」

「──外道が」

 和也は、リザを連れて、牟田の宿舎を退出した。そして、長らく会話ができなかった娘に電話を掛けた。

 

***

 

「──誰?」

「久しぶりだな、まふゆ」

「──ッ、お父、さん?」

「積もる話もあるだろうが、単刀直入にいこう。東雲絵名さん、だったね。この前話してくれたサークル仲間」

「それが、どうしたの?」

「彼女が、あのMADに移植手術等を施され、リザという兵器になった」

「──ッ!」

「感情は稀薄、話してみたがどうやら記憶喪失らしい。私が今日こうして連絡を取ったのは、このリザを東雲絵名に戻したかったからだ」

「……」

「そして、そのためには、半喰種(グール)となったまふゆたちの力が必要だと考えたからだ」

「……どこで、それを」

「あのMADがしゃべってくれたよ。なんでも、まふゆの手術を担当したのは、あのMADの部下だったらしい。ともかく、たしかに母さんを食っただろうことには思うところはある。だが、だからといってあのMADの外道を許すことはできん。まふゆがどう生きるか、母さんを殺したのは誰で何故なのか、それはリザを東雲絵名に戻した後だ」

「なんで、」

「ん?」

「なんで、お父さんはそんなにしてくれるの? 絵名は、お父さんには関係ないはずだよ?」

「娘の友人を心配しない父親がどこにいる! それに、そうでなかったとしても、私はまふゆに連絡を取っていたよ。なにせ、娘と同じくらいで、しかもまだまだ未来ある若者をあんなふうにするのは許せなかった、ただそれだけだ」

「……いつ、どこにいけばいいの?」

「そうだな、渋谷郊外に敷地の広めな広場があるだろう?そこに、明後日午前零時に来てほしい」

「わかった」

「ありがとう。それじゃあ、体に気を付けるんだぞ」

 

***

 

 私は、奏と瑞希に、お父さんから連絡があったこと、絵名がお父さんのそばにいること、記憶を失ってリザと名乗っているということ、お父さんはリザを絵名に戻そうとしているということを告げた。瑞希は罠を警戒していたけど、最終的にはお父さんの誘いに乗ることにしたみたいだった。

 

Chapter2 完




いかがでしたか?
次回、起承転結で言えば転になるかと思います。ぜひ、お楽しみに。
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