トレセン学園職員の憂鬱 作:フェザーンの人
10日に投下出来なかった
悲しい
マックイーンは困っていた
と言うのも
「マックイーン、考え直せ。今ならまだ間に合うんだ」
彼女のトレーナーが慌てて自分を制止しているのだから
----
メジロマックイーンはメジロの悲願である天皇賞の盾を期待されているウマ娘
かつてはメジロムサシ、メジロアサマ、メジロティターンと言った者達が挑んでは敗れたこの国G1の最長レース『天皇賞・春』
これは特に格式を重んじる名家にとって特別な意味を持っていた
ウマ娘によるレースは長い歴史を持つが、それが世間に広く認知されるきっかけとなったのが『神バ』シンザンと『下剋上』ハイセイコーの活躍によるものだった
シンザンはその驚異的な成績で人々に夢を見せ、ウマ娘達によるレースというものを広く世間に周知させた
ハイセイコーは中央という巨大な壁に風穴を開け、一つの時代を作り出した
更にテンポイント、トウショウボーイ、グリーングラスによる所謂T.T.G体制や『狂気の逃げウマ娘』カブラヤオーとテスコガビーによる
所謂名門出身のウマ娘だけではなく、寒門つまり一般家庭出身のウマ娘やそこまでの歴史の積み重ねのないウマ娘達の活躍などもあって、人々と後に続くウマ娘に夢を見せた
----
『天皇』賞
つまり本邦において最も格式と歴史を持つ者の名を与えられたこのレースは同じG1レースでありながら、他のそれとは別格の扱いを一部で受ける事となっていた
名家に生まれたからこそ、名の重みを知るからこそメジロはそれを手に入れようと死力を尽くしている
…が、日本最長距離のG1である天皇賞・春
元々名誉とされるが故に名門も自分達の歩んだ道の正しさを証明したいと寒門出身のウマ娘やトレーナーもその盾を手にしたいと欲する
となればそこに出走するウマ娘達の実力が低い筈もない
加えて長距離レースともなると、かのミホノブルボンの様に訓練の鬼となってなお勝利は難しい
長距離レースを走り抜けられるだけの『適性』
それが必要だった
歴史ある名家メジロを以てしても、長距離適性を持ち尚且つ天皇賞・春を勝つに足るウマ娘を育てるのは容易ではなかった
積み重ねてきたトレーニングや医療のノウハウや人脈
それらを総動員して幾度となく挑んだ
だが、レースにおいて勝利したいといくら望んでトレーニングに打ち込もうと限界がある
天皇賞の盾を手に入れんと日々鍛錬に励み、そして脚を壊して引退する。文字通り死力を尽くして走ってなお届かない
そんな事は幾らでもあり、それらを記録としてメジロマックイーンは知っている
マイル・中距離路線は同時期にデビューするライアンに任せれば良い
自分は中・長距離で走り、天皇賞春秋制覇を成し遂げたいのだ
同年天皇賞春秋制覇
それがもしも叶うならば、とても
後に続くドーベル、パーマー達への何よりも
今やメジロにおける天皇賞勝利は一種の呪いとすら言える程に執着している者が多いと彼女は考えている
その楔を断ち切らねばならないのだ
だからこそ、マックイーンには分からない
「待ってくれ、マックイーン。君の決意やメジロ家の彼岸である天皇賞勝利への拘りは分かるつもりだ」
「なら、どうしてお止めになるのですか!
どうして信頼して共に行こうと決意した筈のトレーナーが
「だからマックイーン、落ち着け!
タキオンさんの部屋に行こうとするのを止めるのか
マックイーンには分からなかった
----
アグネスタキオン
トレセン学園の中で既にレースから身を退いていながら、後進の育成にも力を入れているウマ娘だ
現在は中等部にいるダイワスカーレットとディープスカイを自身の経験やあらゆる競争ウマ娘のデータなどから独自のトレーニングを自身のトレーナーと共に作り出した才女
加えて彼女達に鍛えられているダイワスカーレットとディープスカイの両名はまだデビューは先だというのにトレーナー達の間は勿論、メジロやシンボリと言った名家からも注目を集めている
これを頼らないなんて、少しでも実力をつけたいと願うマックイーンにはあり得ない選択だ
…そこに彼女のトレーナーが製作していると言われている低カロリーの数々のスイーツ
デザートに目の無いマックイーンとしては
「此処は楽園ですの!?」
と大いに称賛したいところ
タキオンさん曰く
「食べても食べてもカロリー的には全く問題ない
流石
との事
…その近くで七色に発光しながらパソコンに向かって作業をしているタキオンさんのトレーナー
この姿を見ても全く動じないタキオンさんとそんな扱いをされても一切気にしないタキオンさんのトレーナー
そんな2人の姿にウマ娘とトレーナーの理想が私には見えましたわ
「大丈夫?その目曇ってない?
交換する?」
と仮にマックイーンのこの時思った事がタキオンのトレーナーに伝わっていれば心配してくれただろう
…ただし
----
いかん、マックイーンが掛かっている!
俺はそう思い、何とか彼女を押し留めようと必死になる
確かにアグネスタキオンは優秀なウマ娘だろう。アスリートとしても、指導者としても研究者としても認めざるを得ない
そのトレーナーもまた優秀だ
…いや、自分が間違いなく批判される事が分かっていて、それでも担当の人生の為に恐れる事なく引退という選択を取れた人物だ
ジュニア、クラシックを無敗で駆け抜け、クラシック一冠目となる皐月賞を勝利した彼女
トレーナーの多くはどうやって日本ダービー、ひいては皐月賞つまり無敗三冠を行なえるか?
という欲に目が眩むのではないだろうか?
彼女のトレーナーである彼もそれを考えた事が無かった訳がない。それでもそれよりも彼女の無事を選んだのだ
一部のトレーナーは担当の怪我などについて軽く考えているとしか思えない言動をする者がいる
余りにも目に余る言動を繰り返すのなら、それ相応な処分が下ることになるが、そうでなければ基本的にウマ娘とその担当の話として片付けられる
そういった者達は大抵
したい訳じゃ無い。でもそうしなければならなかった
等と理解したくも無い言い方をする
担当になったのならば、そのウマ娘に対する責任を持つべきなのがトレーナー
自己責任もあるかも知れないが、そうやって多くのウマ娘達が過度なトレーニングなどで潰れてしまったからトレーナーという職が必要となり、レースへと出走するのにもトレーナーとの契約が義務付けられたのではないか?
担当のウマ娘に対する接し方は個々のトレーナーの判断に任せられているが、それは彼女達の意思を出来る限り尊重し、その上で出来る事と出来ない事をしっかり判断する
それが大前提の筈なんだ
その点で言えばアグネスタキオンのトレーナーは間違いなく優秀であり、何ら批判される事はないと俺は思う
…だが、何故だろうか?
此処でマックイーンを止めなければ
パクパクですわ!
と満足そうにスイーツを食べる彼女の姿が見えてしまう
別に彼女のそれを咎めるつもりはない
…無いのだが、彼女もまたレースを走るアスリート。体調管理をする立場としては暴飲暴食は控えて欲しいと考えてしまう
彼女の実家メジロの当主からも
「マックイーンは優秀なステイヤーとしての才能を持つ娘です
…ですが、その
少々スイーツに対する執着が強いのですよ
…こほん。それも含めて頼みましたよ」
と言われている。筋トレが趣味でどうしても筋肉が増えるせいで調整の難しいライアンのトレーナーとはまた異なる意味で大変なのがマックイーンと言えるだろう
…それでも、俺は彼女の走りに
その在り方に魅せられたんだ
そう自らを叱咤激励するとマックイーンを止めるべく彼女との終わらない攻防を続けたのだ
アグネスタキオンの研究室のすぐ目の前で
後からたづなさんにマックイーン共々怒られる事になるのだが、この時の俺達はそれを知らない
という訳でマックちゃんでした
彼女はまだ別のウマ娘の時にも大きな役割を果たす事になる予定なので彼女の詳しい話は書きません
予定は未定?
………まぁ、そうだね(ため息)