トレセン学園職員の憂鬱 作:フェザーンの人
デビューはもう少し先になります
…めんどくさい
それが私キンイロリョテイの抱いたトレセン学園に対する思いだった
いやまぁ親がアレなんで
「おう、リョテイ。お前今度トレセン学園受験な?」
と言われた時には
何言ってんだ?
と思ったものだ。勿論、口には出さないが
出すと碌な事にならないのは目に見えていたからな
走るのは割と好きだった事もあってか、トレセン学園に無事入学する事は出来た
んだが、何というか私の考えていたレースの世界とは全く違う学園に困惑したと言うのが偽らざる本音だろう
どんだけ綺麗事を言ったところで、レースに勝者は1人だけ
…ま、この前の日本ダービーみたいな例が無いとは言わないが
正直ウイニングライブについて、理解に苦しむってのが本音だ
走りだけに邁進させれば良いのに、何でいちいちダンスの練習にまで時間を割かなきゃならんのか?と
「うだうだしてる位なら一度行ってみろ
それで合わなきゃ辞めて帰って来い」
「私から言える事はあまり無い
出来れば生涯の友を見つけて欲しいとは思うけど」
とはウチの両親からのありがたい言葉だ
…まぁ、気分はのらないが少しばかり走ってからつまらなければ辞めたら良い話
そう思った
…変なのが出て来やがった
いや湧いてきたと言う方が正しいのかも知れねぇな
適当に自主練してたら、いきなり去年までサブトレーナーしてたって奴から声を掛けられた
まだデビューするつもりはない。そう言ったんだが、別にそれでも良いとか抜かしやがる
別に何するでも、いう訳でもない
ただ俺を見ているだけ
…訳が分からん。トレーナーってのはこんなんばっかりなのか?
ウチの親父みたいなのも居るが、変人ばっかりなのかも知れないと感じた
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とにかく基礎トレーニングはちゃんとやらねぇ事にはレースに出る事も叶わねぇのは理解している
幸いにも親父やお袋から多少はトレーニングのコツを教えてもらっていたから、それを叩き台として自分なりのトレーニング方法を見つけるべきだと思っている
確かに今までやってきたトレーニングってのは少なくとも、効果は実証されている
なんなら、故障の危険性も少なくなるだろう
が、それで満足してどうする?
やるなら徹底的に詰めるべきだ
いつも俺を見ているアレにも話を聞いてみたが、どうやらその手の資料は図書室にも無いらしい
…仕方ねぇ部分もあるだろう。トレーニングなんて担当ウマ娘とそのトレーナーが文字通り人生を賭けて生み出したもんだ
それを何も知らねぇ奴等においそれと渡したくはないだろうし、そんな義理もないだろうさ
結果を出したウマ娘のトレーニングメニューなら、それこそ誰もが注目するだろうが、それが俺に合うとも限らない
…仮に合ったとしても多分気にいらねぇだろうがな
つう訳で、その手の資料があると噂される事務室の室長とやらを訪ねて見る事になったんだが
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「…な、なぁリョテイ。流石に今の時期はマズイんじゃないか?」
「別にお前が付いてこなくても良いんだが?」
「いや、そうじゃ無くて。この時期からデビューするウマ娘が増えるんだ。そうなるとレースの申請やらトレーニング施設の利用申請やら、もう少しすると夏合宿の申請やらで事務室は修羅場になるんだ」
「…人がいねぇのか?」
余りにもなその内容に思わず俺も眉を顰めつつ疑問を口に出してしまう
「求人はしてるらしいんだが。…その機密保持関係が」
「…確かにそれはあるだろうな」
何とも言えない話だった。小うるさい連中は特ダネを求めてあらゆる方法を使いやがる
まして部外者立ち入り禁止となっているトレセン学園内で働く事の出来る職員ともなれば能力面だけで無く人格面などあらゆる方向で調べた上で雇わなければ危ないだろう
特に昨今SNSの台頭により個人でも気軽に情報発信が出来るとなりゃあ神経質にならざるを得ない
あの連中の面倒臭さは両親から嫌と言う程に聞かされているからな
更に言えばトレセン学園に通う連中の中には勘違いしている奴もかなり多いと感じている
此処はレースの為の機関であり、学問を学ぶ場所でもある
決してテメェ等の自己表現の場ではない
勝たなければ、そのうち居場所すら無くなりかねない。そんな場所なんだ
結果さえ出せば何でもして良いなんて甘い考えなんざ反吐が出る
俺も決して普段の態度が良いとは思わねぇが、少なくともレースに対しては真剣に向き合う
それは数少ない俺の中のルールだからな
「早くなる為にあらゆる手を模索する
…おかしな事かよ?」
「…いや、それは
それは正しい事だと思うよ、リョテイ」
俺の言葉にしっかり頷く。妙な奴だが、悪い奴とは思ってはいない。変わり者だとは思ってるがな
「確かに今のトレーニングは今までやってきた連中の努力の結晶だろうよ。それは否定しねぇし、んな事させる権利は誰にも無い筈だ」
「だがな?いつまでも変わらないトレーニング方法ばかり守ってたら、そこから先へは進めない、そうじゃねぇか?」
「…そうかも知れないな」
ミホノブルボンがしていたと聞く坂路トレーニング
少し前までは、ウマ娘の身体にかかる負担が大き過ぎるとウマ娘やトレーナーから倦厭されていた。…だが、ミホノブルボンの活躍により、坂路トレーニングの有効性について再度見直させ始めている
「守破離というじゃねぇか」
「…そうだな。リョテイの言う通りかも知れない」
俺の言葉に漸く納得したのか、俺を止めるつもりはなくなったらしい
別にそこまでする必要があったとも思えないが、お袋が言うには『縁は大切なもの、粗末にするな』との事らしいので多少は気にしてやるべきだと考えた結果だ
面倒な奴を説得させた俺は事務室への扉に手を掛けた
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「ですから、学園内の取材は許可出来ません
…理事長に直接言う?それは此方が判断する事ですので」
「おい、凸宣言してる阿呆がいるぞ!」
「警備部にすぐ連絡しろ!必要なら警察に相談も忘れるな!」
「ライスシャワーとミホノブルボンへの1日密着取材?
許可できる訳ないだろう!?」
阿鼻叫喚
そう言っても決して過言では無い光景が事務室内に現出していた
特にこの時期はクラシック路線とティアラ路線の皐月賞、
加えて、前半期の総決算ともいえるグランプリ宝塚記念を間近に控えていた
となれば、話題性を求める者達はトレセン学園に取材申し込みをする事となる
トレセン学園も以前は事務室ではなく、学園理事長秘書を通して交渉をしていたのだが、前理事長と理事長秘書が職を辞す際にこれを廃止とした。何せトレセン学園理事長も多忙であり、その補佐を行なう理事長秘書もそれらの日程調整などを行なう事からまた多忙
そこにこちらの事情を理解しようとしない連中からの要請などまで業務に含めてしまうと過労で倒れる可能性もあった
事実、全理事長秘書は一度過労により倒れており、その時起こった
無論、事務室側も多忙ではあったが、それでも人員はそれなりの数いる事から受け入れる
年度末や年末年始は多忙の余り、事務室隣の仮眠室のベットの使用率が120%となるが(2割は床に布団を敷いて寝る為)、比較的年度初めなどを除けば問題なく業務遂行を行なえていた為の判断
まぁ、結果として電話窓口が増えてしまい、予想よりも忙しくなってしまったのではあるのだが
加えてSNSの急速な発展により、所謂個人配信者と呼ばれる者の中にも話題目当てに学園内への取材申し込みも出てきたりした為にやる事が増えていたりするのだが
その上、この時期から早い者はデビュー戦を走る者もいる為に、それも合わさりてんてこ舞いとなっているのが現状であった
勿論、話を通そうとする者はまだ可愛いもので、無断侵入やトレセン学園門付近に居座り所謂『出待ち』をしようとする者達もいたりする
トレセン学園とて、周囲は無人の荒野という訳ではなく、住宅地の為それらが住民とのトラブルを起こす事もあったりするのだから頭を悩ませる問題であろう
如何にトレセン学園が巨大な組織であろうと、近隣住民の感情は無視できるものではない
各種イベントなどで積極的に地元住民との関係構築に腐心しているが、一度拗れてしまうと関係修復というのは困難を極める
ーーー故にこそ
不愉快なのはそれを知っているからこそ、相手はそれを盾にして自分達の要求を押し倒そうとしている事
仮にこの対応を間違えれば、如何に理事長や理事長秘書であろうともその責任に対して何らかの処罰は免れない
だからこそ、事務室が対応せねばならないのだ
勿論、問題があれば理事長も監督責任や任命責任を追求される事もあるだろうが、あくまでも事務室の責任者は事務室長であり、理事長に対する責任は少なくなる
余談ではあるが、室長と事務室長は別の人物であり室長は事務室のメンバーの中でも古参組であり、且つ前理事長時のやらかしにより呼ばれる事になった通称である
まぁ、副事務室長なのて副長と呼ぶ人も多かったりするのだが
事務室の人員はいざとなれば、切り捨てられる事も覚悟した上で日々の職務に取り組んでいる
「栗東寮の修繕予定は?」
「まだ工程表が来ていませんよ!」
「再来週には着工するんだぞ!?先方に確認しろ!」
「美浦寮の週次点検表は?」
「今確認中です!」
マスコミなどの対応と並行して、トレセン学園学生寮の保守点検も行わねばならないのが今の事務室の状況
何せ新年度から入学してきた生徒達もG.W(ゴルシウィークではない)が明けた頃には新生活に慣れてくる頃
慣れてくると言えば聞こえは良いが、緊張が解れたとも言えるが気が緩んできたとも言い換える事が出来るのは確か
6月も半ばを過ぎたこの時期は栗東、美浦寮双方何処かしらの破損などが毎年の様に出て来てしまうのだ
言うまでもなく、それを放置しておけば生徒達の日常生活に支障をきたす事となり得る
速やかな修繕と共に再発防止策を講じなければならない
が、寮については事務室が行なうのは先も述べた様に保守点検のみであり、運営については生徒会と栗東、美浦寮の寮長の管轄となる
再発防止策や寮の規則についても原則として生徒主導で行なう事となっている訳だ
トレセン学園卒業後のウマ娘の多くは社会人としてレース人生を歩むか、或いはターフを去り新たな人生へと漕ぎ出すか?
主にこの二つの選択となる
アグネスタキオンの様にトレセン学園に残り、何らかの役職に就くのは例外中の例外であり、彼女の飽くなき探究心と確かな研究成果がトレセン学園内外から評価された形だ
とは言え、ダイワスカーレットとディープスカイが引退したらそのまま彼女も2人と合わせてトレセン学園を去る事となっているが
言うまでもなく、タキオンのトレーナーはスカーレットとスカイ2人のトレーナーとしての任を終えた後はトレーナーを引退。タキオンと共にささやかな生活を送る事としている
秋川理事長は
「…了承っ!
だが、ディープスカイの引退まではその結論を急がないで貰いたいっ!」
とタキトレの意思を尊重するが、出来れば残って欲しいとの願いを口にしている
室長は
「………まぁ、彼の人生ですし仕方ないとは思いますよ」
としている
勿論、癖の強いウマ娘の多いトレセン学園において、アグネスタキオンもその1人だ
寧ろ問題行動の数としては上澄みに位置する為、叶うならば自身の後継者を育てて欲しい
と言うのが深刻なトレーナー不足を知る室長としての本音であったが
後に
余談となるが、某王女がトレセン学園に在籍した際にはタキオンとタキトレ。そしてスカーレットとスカイが共同で経営してあるラーメン店を一時的にトレセン学園内に誘致出来ないかと秋川理事長が奮闘する事になったりしていた
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そんな魔境にキンイロリョテイは立ち入ろうとしていた
なお、殺気立っていた事務室の空気により、リョテイは回れ右をして退室
暫く理事長の飼っている猫に癒される事となる