気持ちのいい日差しを浴びた後、シャーレの執務室に戻るとそこには書類の山がいくつか並んでいる。前に来た時は朝からもっと並んでいた気がするけどこういった日もあるのだろう。
「ああ、今日は少なくてよかった」
やっぱり先生も少なく感じているみたい。3つほどなら午前中で終わらせること自体も難しくはない。午後には別の生徒も来るみたいだし、私も先生を休ませるために頑張らなければ
さっそく先生に言われ机に腰掛ける。一枚目の書類を手に取る。
--シャーレと万魔殿の今後のキヴォトス征服計画について-- ~羽沼マコト
意見書に書かれたその題名に少し頭が痛くなる。一応、内容に目を通すと先生とマコトでキヴォトス全てを支配しようとか、各地に銅像を建てようなどといった内容で、とりあえず却下の欄に✓をつけ、先生のサインを待つ書類入れへとそれを入れた。
シャーレに届く書類は勿論意見書だけではない。被害報告書なども届く訳である。
--○○水族館、美食研究会が行った爆破騒動について--
そう言えば昨日の昼間、彼女たちを捕まえた覚えがある。というより何故被害届がシャーレに届いているのかわからない。ただ、これは被害請求、及び復旧に対して万魔殿宛にしておこう。多分後始末は私たちになるのだろうけど。
「先生、もしかしてここにある書類の大半はゲヘナの生徒のことだったりしない?」
少し先生は考えた後、手を横に振る。私を気遣ってくれるのかもしれないが、それでもその優しさが嬉しい。
「まあ、被害届だとちょっと多いかなって思うこともあるけど、生徒の皆が元気な証だと思ってるからね」
それは...違うと思う。私から見ても何も考えていないとか、自分の欲望に忠実に動いてるだけって思うことは多々あるし、もう少し怒ったりした方がいいんじゃないだろうか。あなたは優しいからしないのだろうけど。
これに関しての話題はここまでと言わんばかりに彼は書類に目を落とす。話を続けていれば終わる物も終わらない。だから私もとりあえず話の続きは終わらせてからにしよう。
執務室の外からは他の生徒たちの楽しそうな声がする。外からの笑い声に対して、執務室から返すのは先生と私がペンを走らす音。ゲヘナだったらこういった仕事をしているとアコが途中から万神殿に対しての愚痴をこぼしたり、イオリがドアを勢いよく開けて、慌てながら私たちに報告したり、チナツが忙しそうに備品を確認したりしてる姿が目に入ったりするが今日は違う。このペンを走らす音もどこか上機嫌な気がする。
ふと、チャイムの音が鳴り響き意識が部屋全体に戻される。時計を見ると丁度12時を指している。あれだけあった書類の山は私の手元に残った1枚だけになっていた。先生も私が書いたものに対して確認のサインを入れ終えていた。
「ヒナ、それ最後でしょ?貸して」
言われ通りに書類を差し出すと先生はそこに自分のサインを入れる。
「さて、書類は片付けられたし、ご飯行って午後に備えようか」
最後のは録に読んでないでしょ?と返したかったが朝から更に疲れた顔をした先生の顔をみるとこれ以上は言えない。だから私も机の上を片付けて折角のお昼を時間を減らしたくはない。
「お昼なんだけど、蕎麦屋とかでいいかな?」
こういった時、先生から食べたい物を振ってくるのは珍しい。大体はこちらの食べたい物を聞いてくれるのだから
「うん、それでいいわ」
近くにあった自分の銃を担ぎ、外へ出る準備を整える。先生も机の上から入り口に対して見えるように外出中と書かれた小さなホワイトボードを立てかける。それを入り口で再び確認してからエレベーターを呼ぶ。
「最近見つけた場所なんだけど、お手頃価格で、それなりにゆっくりと出来る場所なんだよね」
じゃあ、今の私たちには丁度いいかもしれない。午後からは勉強を教えて欲しい子が来るみたいだし、そうなれば忙しくなるのは当然。だとしたらゆっくりと出来る時間はそうした方がいい。
エレベーターが到着し、私たち2人はそこへ足を進める。小さい箱の中、私と先生はまた沈黙に包まれる。
「今日は本当にヒナが当番でよかったよ。あまりこういうことを生徒相手に言うものじゃないと解ってるんだけど、ここ最近忙しかったからどうしても疲れが出ちゃってね」
情けないけど、今日はヒナのおかげで楽できてる。と先生は付け足す。普段、仕事に対して疲れたなどの事を言うことはある人だけど、ここまでなのはほとんど見たことない。
「先生、最後にちゃんと寝たのはいつ?」
少し考え込んでから、私が満足する答えを先生は口に出そうとする。
「考え込んでる時点で駄目よ。先生は皆の大切な先生なんだから体を労わらないと」
ついつい皆という言葉を使ってしまった。でも、私は元気のない先生は見たくない。
「じゃあ、ヒナもしっかり休まないと。私の大切な生徒だから、元気が無いと私が困る」
この人はこういう人だった。返せる言葉もなく、エレベーターの扉が開く。先に出ていく、先生の後をついていく。どうしたらこの人は休んでくれるのだろうか、私は先生の案内に続くまま、その答えを探し続けることにした。