シャーレに飛び込んできた生徒の情報を聞き、先生と私、そして下江コハルの3人は現場へ向かう。その場所はシャーレからさほど離れてはいない。友達と遊んでいたらガラの悪い人たちに絡まれた。それで近くのヴァルキューレの生徒に助けを求めた結果、銃撃戦が発生。状況不利と判断した彼女は友達と話し、シャーレに来たらしい。
ヴァルキューレの生徒がいるのにこちらに来たという話を聞くと、相手の数は多数。
「シャーレの近くで騒ぎを起こすなんて、確実に突発的なものでしょうね」
こっちの戦力は私と下江コハルの2人。ただ、現地に行けばヴァルキューレの生徒も居るだろうから3人。戦闘になったとしても先生がいるから負けることは無い。
「一応聞くけど、先生。荒事になる前に私が制圧するのは駄目なのよね」
先生は私の言葉に頷く。一応、話し合いが出来そうならやってみるつもりらしい。
銃声の音がいくつか耳に入る。多くのマシンガンの音に紛れる小さいハンドガンの音。どうやらヴァルキューレの生徒は1人で応戦しているらしい。
「さて、さっきの子からお友達の位置情報は聞いてるし、私の方でも確認は取れた。まずは合流して無事の確認をしようか」
先生タブレットを確認し、現場へと到着する。相手はオートマタ5人。この人数なら私1人でどうとでもできる。
「まだ、あっちも気づいて無いみたいだし、ヒナはここで待機しておいて。話し合いで解決出来たらそれで済ませたいし、駄目だった時の切り札は見せない方がいい」
出来れば傍にいて先生を守りたいけど、信頼を裏切りたくはない。だから頷いておくことにする。私はそのままこの場所で待機して、先生と下江コハルの後姿を見送る。
それから少し経って先生の声が聞こえる。
「こちらシャーレ。この戦闘をすぐさま中止してください。繰り返します」
オートマタ達の動きが止まる。彼らが何を考えているか知らないが先生が来たことで怯んだのだろう。これなら私の出番は
「シャーレの先生が来たってことは、そっちを誘拐すればそこら辺の生徒の何千倍もの身代金を要求できるじゃねえか」
先生の指示を聞く前に体が動いていた。まずは相手に気付かれる前に一番近くに居たやつの首に銃のストックを叩き込む。今の私の位置から銃撃すれば先生に当たってしまうかもしれない。
「え?」
1人が驚いたようにこちらを振り返るのを確認して次の相手として狙いを定める。こちらに向けられたマシンガンのトリガーが引かれる前に左手で相手の銃を引っ張り、残った右腕で相手に腹部に銃弾を撃ち込む。こうすれば先生に当たることは無い。
残った3人の内2人が私に銃口を向ける。先程銃弾を撃ち込んだ1人を盾にそのまま突撃していく。出来れば全員の意識をこちらに向けたかったが、流石に 先生の方にいる彼女たちを無視することはしないらしい。盾にした相手を1人に向けて蹴り飛ばす。これで一時的ではあるが1対1の状況を作り上げる。至近距離まで近づいて発砲し続けるのもそろそろ面倒になってきたので地面を蹴る。宙へと上がった私の先に先生の姿が見える。遠くにいる先生の口元が動く。その動きは確かに私に対して1つの指示を与えていた。
銃口を下に向け、先生達へと銃を向ける1人と私と相対していたもう1人に対して銃のトリガーを引く。
自身のバランスを保つために2~3回翼をはためかし放たれる銃弾を確実に相手に当てていく。最後の1人はまだ気絶した仲間をどかすのに苦労している。こちらが放った弾丸が相手のマシンガンに直撃する。その衝撃で破損したところを見ると質の良いものは使っていないらしい。
2人を制圧したのを確認しながらわざと片膝を折るように着地をする。それと同じように最後の1人が仲間を押しのけて立ち上がる。そして私の頭上を2つの弾丸が飛んでいく。
「しゃがんで」
先生と目が合った時、あの人の口は確かにそう動いた。その目的が私に楽をさせる為なのか、残る2人にも見せ場を与える為なのかはわからない。だから私も最大限に楽をさせてもらう。
最後の1人に対して2人の弾丸が命中し、よろけるのを確認し、クラウチングスタートの要領で足に力を込める。疎かになったその足に自身の銃を潜り込ませて掬い上げる。最後に無防備になったその体に銃のストックを押し込み地面に激突させる。
「先生、終わったわ」
ところで、ヴァルキューレの応援はいつ来るのかしら。仮にも相手は5人でこっちはシャーレに助けを求めに行かせたとはいえ、こうなることは想定内だろうし出動の準備に時間でもかかっているのだろうか。
「ありがとうございます!えっとまずは本部に電話して。。。あ、その前に犯人に手錠が先かな?」
どうやら現場慣れない生徒だったらしい。先生はその子に落ち着くように言って1つ1つ処理するように言っていく。
「コハル。この人達1カ所に集めるの手伝ってもらえるかしら」
とりあえずヴァルキューレの生徒が本部に連絡を終える前に私たちが出来ることはそれだろう。まずは先程倒した1人の足を掴み、近くに横たわっているもう1人の上に放り投げるように重ねる。コハルはその扱いに目を丸くする。つい、いつもの要領でやってしまったがトリニティでは問題児に対してもこのような扱いをしないようだ。まあ、これに関しては学校柄ということにしておこう。
「私たちが居なくても1人でなんとかなりましたよね」
申し訳なさそうな小さな声が私に尋ねてくる。こういう時、嘘は言わない方がいいだろうと思い、首を縦に振る。
「だけど、貴方のお陰で私が楽できたのも事実よ」
勿論嘘ではない。彼女が放った弾丸のおかげで弾の節約になったのも確かだし、シャーレで好きなだけ補給できるとしても申し訳ないとは思うのだ。
「すみません、お二方お名前と学校をお聞きしてもよろしいですか?後でヴァルキューレから感謝状を贈りたいので」
どうやらヴァルキューレの生徒は一通り済ませたようで、私たちの所属を聞いてくる。先にコハルに答えさせ、その後に自分の名前とゲヘナの名を答える。
「ありがとうございます。えーとトリニティとゲヘナの生徒さんでしたか。ってあれ?珍しい組み合わせですね」
一般的には確かに、そうかもしれない。だけどトリニティとゲヘナの全ての生徒がいがみ合っている訳ではない。元々私にそういった感情は無いし、それに踏まえて今日はシャーレの当番として来ているのだ。先生に情けない姿を見せるわけには行かない。
「まあ、シャーレの当番があればこういうこともあるってことね」
そう返すと、遠くからパトカーの音が聞こえてきたのであった。