原作世界と少し違うプレナパテス
色彩を率いてキヴォトスを滅ぼした張本人で、近くには常に髪の長いシロコがいる。
見た目は、地面にまで付くボロボロのコートを羽織り、手足や首に包帯を巻いた少女。その顔には無機質な白い仮面をつけている。
この崩壊した世界での入学式と言うのは思ったよりも質素だった。
まず椅子が無い、そして誰も正装なんて着ていないし、みんなの表情も暗い。考えてみれば当然、数日前まであった青春が、青空が突然奪い去られたのだ。悲しんだり、落ち込んだりするだろう。
その点、私は"無敵"だ。
まず友人が居ない、青空を見ない、そして何より青春を知らない。もはや何も感じないし、今泣けと言われたら周りが号泣している中あくびを出そうとするだろう。
「えーではまず、シャーレの先生によるスピーチです」
少し震えた声で壇上の女性がそう告げる。
もちろん、ここで言うシャーレの先生とは少し前までの先生では無く「プレナパテス」の事だろう。
幕の奥からコツコツと足音が聞こえ、ついに壇上にプレナパテスが姿を表した。その姿を見たそして他生徒の反応は震えや放心が大半、反応が薄い者もいるが、そいつらは大抵強さで有名な奴らだった。
私は……今にも意識が飛びそうなのを堪えるので限界だった。まるで麻酔でも打たれたのでは無いかと言うほどの視界と思考の異変、そんなものを言葉を発さずして引き起こすのは、プレナパテスが只者では無いことを十二分に証明している。
「あーあー……マイクテスト」
「知っている人も居るだろうけど念の為、『プレナパテス』と名乗っているシャーレの先生だ」
プレナパテスは少女体系でか弱そうな見た目からは想像出来ないほど貫禄と迫力に満ちた声でスピーチを始めた。
「ただこの名前はあの黒い球体、色彩の嚮導者としての名前だ。それに私は君たち生徒と、親しみを持って接したい。だからここで、"私の"名前を伝えておく」
「『幽現ナキ』だ。以後宜しく」
当然誰も、関わりたいだなんて思ってないだろう。
ただ私は、少し彼女と話したいと思った。
「さて、一応スピーチという形だし自己紹介以外もしないと。とは言っても、私は君たちの青い春を壊した張本人だ。みんな私の事が嫌いだと思う、恨んでると思う。だけどもし頼みたい事があったら、気軽に言ってくれて構わない。勉強を教えたり、恋愛相談とかも受け付ける」
話を聞くにつれ威圧感が薄れて「先生」としての雰囲気が強まっていった。善悪は置いておくとして、最高に面白そうな先生だった。今度話しかけてみるのも良いかもしれない。
「それじゃあ、私からのスピーチはこれで終わり。各自自分の教室に向かってね」
さてと、私も教室に戻ろう。
「おい新任センセ、キヴォトスをこんなボコボコにしといて、よくあたしらの前に出てこれたよな」
道中階段ですっ転んだので保険室に行こうと思ったら、ナキ先生が複数人にボコられていた。
あの角は確か……元ゲヘナの奴か?
それにしても相当傷ついてる。私と同じで撃たれ弱いのかな、とにかくあのままじゃまずい。
私は素手でそいつらに近づく。
正直馬鹿げたことをしている自覚はある。持ち物は教室においてあるから、拳銃一丁しか持ってない。スモグレも無いしテーザー銃も無い。だが元先生がいない今、こんな明らかにヤバそうなやつでも誰かが生徒を纏めなければならない。壊れた世界の唯一の先生なのだ、丁重に扱わないとね。
「ねえ、いったん手を止め――「黙れ」
その一言と共に思いっきり顔面パンチを食らった。
っていうかこれまずい……一番ダメな位置に当たった。目がくらんで、耳鳴りが酷い。
「なんだ?お前はこいつの方でも持つってのかよ、なあ!?」
髪をわしづかみにされ、地面に何度も顔をたたきつけられる。
鼻血が出て、額がじんじんと痛む。最悪、こんなのにかかわらなければ良かった。
だけど……どうせもう引っ込めれない首だ。とことんやって、とことん血反吐を吐こう。
「私は……私は青春を送りたくてここに来た。名前すら知らないけど、たぶん君も」
「……ああそうだよその通りだ!!だけどなあ……こいつが全部ぶち壊しやがった!!ンな奴ぶんなぐって何が悪い!!」
「別に悪くもなんともない……ただ私は、一回だけでもナキ先生と話してみたい」
「……何でこんな奴と?」
「私に、面白い青春を送らせてくれそうなのと……引きこもり脱却させてくれそうだから」
「くっだらね」
そう言った後不良達は「気分悪い」とか言って帰っていった。
そんな中私は帰る気力も無く、ナキ先生をぼやけた視界に入れながら、そのまま意識を失ったのだった。
おお……見知らぬ天井。
付近の病院はあらかた崩落したので、消去法でここは保健室だね。
「あ、起きた」
横の方からナキ先生が私の視界にフェードインしてきた。
その顔には絆創膏が大量に貼ってあり、とても私のお見舞いなんてしている場合じゃないと思うのだけど……
「さっきは助けてくれてありがとう。あのままだったら死んでいたかもしれない」
その後ナキ先生は「あはは……」と冗談を言うように笑った。
あのままだと本気で死んでいたと思いますよ先生。見た感じ私より少し打たれ強いくらいの体力しか無いのヤバいですよ先生。
「でも、あんな無茶は今後しちゃダメだからね。先生は大丈夫だから、自分の心配を先にして」
「お言葉ですけど先生、その傷……ここに寝るべきは先生だと思いますよ」
「あくまで生徒優先なんだよ、私が休むのはその後。少なくとも、私が見てきた先生達はいつもそうしていたし、多分これで良いんだと思う」
ん?プレナパテスとは他の世界で何かが起こった、いわば別世界の『先生』と報道されていたはずだ。その発信元はシャーレの元先生……信憑性はそこそこあるはず。
もしこれが本当だったとして、先生としてのあり方が曖昧だなんてあり得るのか?何と言うか、おぼつかない新任教師を見ている気分。
「……あの、少し質問しても良いですか」
「うん、良いよ」
「ナキ先生って本当に、『大人』ですか?」
「……変なこと、聞くね」
先生と言う存在は『大人』、人生の先輩だからこそ未熟な子供達に何かを説くことができる。その定義が年齢なのか、人格なのか、はたまたそう呼ばれているからなのかは私には分からない。
だけれどナキ先生からは、良くも悪くもそれが感じられない。
誰かの虚像を追っていて、純粋な先生……それがナキ先生の印象。
「……私は」
ナキ先生が言葉を発した瞬間、下校のチャイムが鳴った。
そのチャイムの最中、誰の声も遮られる一瞬に……
ナキ先生が、私に一言耳元で告げた。
その後ナキ先生が立ち去り、保健室のドアが閉まった後でも、私は浸る事しかできなかった。
「……なんだ、貴方は十分大人じゃ無いですか」
そう呟いた後、私も保健室から立ち去った。
以前ゲヘナとトリニティの2〜3年だった生徒は当然入学式すっ飛ばして入れます。なので入学式に居るのは他学校の生徒か1年生、それと主人公みたいな引きこもりだけです。