エヴァンゲリヲン劇場版Qより4年と3ヶ月21日と120分前のクリスマスイブの夜。
巨大な廃墟と化した新生NERVの最深部で出会ったエヴァmark09のパイロットの少女とゼーレの少年。
ぎこちない会話の中で自我を意識し始める少女。
二人の成り行きを懸念し憂うNERV副司令。
副司令の懸念を知った司令の判断とは…?




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このお話しは同じ二次創作の「第3村賛歌」のプロローグ用の短い話でした。
また、昨年のクリスマスシーズンに思いつき膨らませた話ですので季節感は??です・・

お暇なときにでもご覧戴ければ幸いです。




聖誕祭前夜譚 EVANGELION:3.0 (-4Y3M21D120min.)

 

 

「女の子らしくて・・? 可愛い・・?」

 

 

 

 

 

 

「まったく・・無茶をしおって。深追いはするなと言っておったのに・・まぁ、イイ。

怪我の回復まで機体搭乗を要する作戦の命令は停止だな」

 

 冬月は損壊したNERV本部の医療室跡で、今作戦行動に()ける戦闘で負傷したパイロットに治療を施していた。

 

「次の調整迄は十分に休息して回復に努める様に」

 

 患部への一通りの処置を終え包帯を巻きながら冬月は負傷したパイロットに伝えた。

 

 そのパイロットの頭部に巻かれた包帯の隙間からはアクアマリンの様な寂しい青い色味を帯びたプラチナブロンドの髪が溢れる様に覗いている。

 

「休息・・? 命令・・ならそうする」

 

 mark09のパイロットは感情を表す事無く静かに答えた。

 

「う~ん・・命令だ!」

 

「はい・・」

 

 彼女は表情を変える事なく返事をした。

 そして治療を終えると医療室跡から礼を言うどころか振り返りもせず出て行ってしまった。

 

「まったく・・」

 

 冬月は彼女の後ろ姿を見送り呆れた様に呟いた。

 

 

 

 

 巨大なドームが覆い尽くす様に建造された施設の中は常夜の世界であった。

 そこは生暖かく、低周波の機械音が心地良い程度に静かに響きあっている。

 

 闇の彼方の壁面や天頂部には各装置の操作盤のものであろう色採りどりの小さな光が夜空の星の如く灯り瞬いている。

 

 この幻想的な空間を、最深部のLCLプラントの光だけが辛うじて通路を照らし出していた。

 

 薄明かりに照らされた通路に従って治療を終えた彼女は痛みに耐えながら最深部のプラントの縁に設置された自身の待機部屋を目指していた。

 

 そのプラントの縁に漸くたどり着いた彼女はその先にある待機部屋に向かう。

 

 だが、通路の前方に違和感を感じた彼女は立ち止まり眼を凝らした。

 

 果たせるかなそこには見知らぬ人影があった。

 

 

「⁉︎ 」

 

 

 人影はその場に立ち止まった彼女に気づいた様子で此方を振り返った。

 そして徐に近付いてくるのである。

 

 彼女は反射的に身構えた。

 

 その人影は近づきながら妙に明るい感じで彼女に話しかけてきた。

 

 

「君が・・新しいmark09のパイロットか。 また随分派手にやられたね~」

 

 

 プラントの光を反射した通路がその人影を照らし出し容姿と表情を露わにした。

 それは優しく落ち着いた感じの少年であった。

 彼もまたプラチナブロンドの髪をしていた。

 しかし、その髪は彼女の様な寂しい青い色味では無く無機質なムーンストーンの様な色であった。

 

 

「アナタ誰?」

 

 

 彼女の問い掛けには答えず彼は一人で喋り出す。

 

「ふ~ん・・君は僕と同じだね」

 

 彼はズボンのサイドポケットに両手を突っ込み馴れ馴れしい口調で彼女の全姿を眺めながら言った。

 

「何?」

 

 彼女は訝しげに問い掛けた。

 

 だが彼はそれにも応えず続けた。

 

「だけど・・何か違う。 君は・・そうか! リリス。 リリスの魂を宿した造られしリリン。 なるほどね・・」

 

 彼は一人で納得したかの様に俯き目を細め微笑んだ。

 

「リリスの・・魂? 造られし・・リリン?」

 

 彼女は彼の言葉を理解しようと反芻したが全く意味が解らなかった。

 

 彼女の様子を見て彼は急に目を見開き顔を上げて言い放った。

 

「そう!リリタマ! あははは・・」

 

 彼は意味不明な事を言って爆発的な笑いをドームに木霊させた。

 

「リ、リリタマって…?」

 

「はは…君のコトさ!」

 

「ワタシはリリタマじゃない・・! アヤナミ・レイ」

 

 彼の言葉を不快に感じた彼女は少し膨れて言い返していた。

 今迄に感情を出す事の無かった彼女が、僅かではあるが不快感を表情にまで出したのは初めてであった。

 

「あはは・・! 怒らないでよ。 これはあだ名。 リリン達は親しみを込めてお互いをあだ名で呼んだりするんだよ」

 

「あだ名?」

 

「うん。リリスの魂だからリリタマ!」

 

「・・単純ね。」

 

「あだ名なんてそんなもんさ」

 

「アナタは・・違うの?」

 

「うん。違う。 僕にはアダムの魂が宿っているからね」

 

「そう・・なら、アダタマね」

 

 彼女は少し顎をしゃくりあげ、鼻先を突きつける様に言い放った。

 彼女は感情と言動が少しずつシンクロして行く感覚を覚えた。

 

「ほう! 言うね~」

 

 彼は感心したかの様に少し驚いた風に言い彼女を見詰めた。

 

 

 その彼の視線に彼女は素朴な疑問を投げ掛けてみた。

 

 

「その単純な理論なら・・リリンの魂もリリタマになるんじゃ・・?」

 

「あっ⁉︎ う~ん・・ じゃあ、リリンならリンタマ!」

 

「忍術学園の?」

 

「それは忍たま!」

 

 

 そう掛け合った後、二人は沈黙し見詰め合った。

 そして互いに思っていた。

 

 

『…なんで知ってんだ?』

 

『…何故、知ってるの?』

 

 

 その時、彼女は初めての感覚を経験していた。

 今迄、他人との会話など殆どする事は無かった。

 冬月副司令とは先の様に2〜3言葉を交わす事はあったが、それは命令や通達、それに対する返答といったものであった。

 碇司令とは直接対峙して話す事などは無かった。

 

 が、此処までのカヲルとの会話は打っ切ら棒ではあるが何故か成立していた。

 

 

「じゃ・・!」

 

 

 沈黙の後、彼女は素気なく言い放つと急にその場を立ち去るが如く、歩みを待機部屋へと向かわせた。

 それは傷の痛みと疲労から早く待機部屋に戻りたいとの反応であったが、その表現方法を彼女の思考が限界を超えた為、強制終了的な物言いになってしまった。

 

 

「あっ! ちょっと待ってよ! もう少しお話ししようよ」

 

 食い下がる様に付き纏う彼に彼女は見向きもせず言い放った。

 

「命令に無いから・・!」

 

 これもまた彼女流の強制終了の態度であった。

 

「命令か・・ じゃ、僕とお話しをする。 これは命令!」

 

「無理! アナタにはその権限無いもの」

 

 彼女流の強制終了の態度は続く。

 

「連れ無いねぇ〜。 リリンならもう少し融通がきくんだけどね」

 

 その言葉に彼女は立ち止まった。

 

「リリン・・なら?」

 

 そう呟くと同時に彼女の強制終了モードがウェイティングした。

 

「リリスじゃそうはいかないか・・」

 

「・・・・」

 

 彼女は無言で足元を見詰めた。

 

「気になるかい?」

 

 その様子を少し心配になったのか彼は覗き込む様に言った。

 

「別に・・」

 

 本当は気にはなるのだが。

 

 しかし、身体は強制終了モードに無理矢理持ち込もうと思考回路をシャットアウトした。

 

 彼女は歩みを再開した。

 

 

「やっぱ、連れ無いね~。 ねぇ、今からどうするの?」

 

 彼はその反応に安心したかの様にまた喋り出した。

 

「負傷の回復の為に休息・・命令だから。 回復したら次の命令を待つ」

 

 そう言うと彼女は急に歩みを止めた。

 

 

 其処は目指す待機部屋の前であった。

 

 

 彼はその建屋に一瞥をくれると彼女に尋ねる様に聞いた。

 

「ココ?」

 

 コクリと頷きだけを返す彼女。

 

 そこは仮設パネルとアコーディオンカーテンで仕切られただけの空間で、天井は天蓋は愚かシートすら掛けらず吹き抜けていた。

 

「こんな寂しい処でかい?」

 

 彼は驚き呆れた口調で尋ねる様に彼女に聞いた。

 

「寂しい・・?」

 

 彼女はゆっくり振り向き意味が解らないとでも言いたげに小首を傾げた。

 

 

「こんな処に居るより・・そうだ! ねぇ、お茶でもどう? 一緒に」

 

「お茶?」

 

「うん!アトリウムにおいでよ! お茶・・紅茶。 キーマンだけど・・淹れるから。 戦闘の緊張も解れると思うよ。 それにピアノがあるんだ」

 

「ピアノ?」

 

「うん。 聴く?」

 

「いらない・・」

 

 彼女は又候強制終了モードを発動した。

 

「連れ無いねぇ。 君に聴いて欲しかったのに・・」

 

「ワタシに?」

 

 このキーワードで彼女の思考回路は再起動し出した。

 

「うん。 君の為に・・弾くからさ」

 

「ワタシの・・為?」

 

「そう。 君の為・・同じ運命を仕組まれた君に・・」

 

「運命・・? 仕組まれた・・?」

 

「嫌かい?」

 

「わ、解らない・・」

 

 彼女は初めて聞く言葉の羅列に戸惑い混乱していた。

 が、何故か彼との会話では曖昧ではあるが言葉の意味をイメージ出来た。

 そしてそれらは彼女の中に今までに無い感覚や感情を、まるで思い出すかの様にぽつりぽつり一つずつ花開く様に呼び起こした。

 

「解らないなら聴いてみればイイよ。・・ね⁉︎」

 

 彼はもう一度明るく優しい口調で誘った。

 

 

「そう・・少しなら・・」

 

 

 今迄経験した事の無かった感覚が彼女にそう答えさせた。

 彼女は戸惑いながらもその先にある自身の未知の感覚を知りたい・・と、そう思ったからであった。

 

「そうこなくっちゃ! きっと気にいると思うよ」

 

 彼は素直な喜びを和かな表情に乗せて言った。

 

「それと、その愛想の無い黒いプラグスーツ・・脱いで着替えなよ。 折角の雰囲気にそぐわないよ」

 

「えっ?」

 

「そこの箱の中に置き去りにされたままの服・・」

 

 彼は彼女の待機部屋の傍に追い遣られる様に無造作に置かれた段ボール箱に視線を落とした。

 その箱の中には彼女の(ゆかり)のものであろう様々な物が放り込まれていたが、入り切らない衣類等はその周りに捨て置かれる様に散乱していた。

 しかし、其れ等は彼女には見覚えの無い物ばかりであった。

 

「可哀想だよ」

 

「可哀想・・?」

 

「着替えれば? 折角だからさ」

 

「折角?・・何が?」

 

「だって今夜は聖誕祭の前夜だよ?」

 

「聖誕祭・・?」

 

「うん。 そっちの服の方が素敵に見えるよ。 多分・・」

 

「素敵?」

 

「うん。 それに気分も変わるよ?」

 

「気分・・? わ、解らない・・」

 

 またしても聞き覚えの無い言葉の羅列に彼女の思考は混乱し始めた。

 

「解らなくてもイイよ・・」

 

 混乱しだした彼女の様子を見て、彼は優しく微笑んだ顔を彼女に向けて落ち着かせる様に言った。

 

 しかし、その表情は一瞬硬くなり彼方を見つめこう続けた。

 

 

「今はね・・」

 

 

 だか、彼は直ぐに持ち前の笑顔を取り戻した。

 

「それより、その傷・・チョット見せて」

 

 彼はそう言うと彼女の右腕を遠慮なく掴み上げた。

   

「えっ?」  

 

 彼女は掴まれた右腕を少し引き、警戒した。

 

「怖がらないで・・」

 

 そう言うと彼は優しく右腕の包帯を解き始めた。

 そしてその傷口にそっと顔を近付けて自身の唇を優しくあてがった。

 

 彼女はその仕草と擽ったさに少し躰を捩る。

 

 そして彼は今度は頭部の包帯を解き、彼女の頬を両手で優しく包み込む様にして支えると右額の傷口に腕の傷と同じ様に自身の唇を添えた。

 

 

「あっ・・」

 

 

 先程の擽ったさに加えて暖かくて柔らかな甘い感覚に、彼女の口から切なさを伴った声が意図せず漏れ出してしまった。

 

 その心地良い感触に抗えず彼女の瞼は自然と閉じられた。

 その中で自身の脈動と同調した様に疼いていた痛みが薄らぎ消えて行くのを感じた。

 

 

「ほら・・目を開けて・・」

 

「あっ・・!」

 

 

 負傷した箇所は痛みと共に消え去っていた。

 

 

「うん。 もう大丈夫。 さあ! ホラ、着替えて!着替えて!」

 

「えっ? あっ・・う、うん。」

 

 

 彼女は初めての不思議な感覚と傷が癒えた事に気押されしてつい応えてしまった。

 

 応えた以上はと、意を決した彼女はプラグスーツ左腕の負圧解除のスイッチを操作した。

 「パシュッ」と言うバルブ解放音と共に、彼女のやや華奢ではあるが端麗な体躯を官能的に際立たせていたプラグスーツは正に気が抜けた様にだらし無く彼女に纏わりついた。

 そして背部の生命維持ユニットが肩部より開放され、彼女の儚げで白い肌が露わになった。

 

 

 

 

 

『・・ 初めての筈なのに・・・』

 

 そう思いながらも彼女は不思議な感覚の中で、覚束無い手際ではあったが何故か一通りの着装を熟していた。

 

 彼女が着替えている間、彼は彼女に背を向けてズボンのポケットに両の手を突っ込んで鼻歌混じりに虚空を見上げている。

 

 

「あの・・着替えた」

 

 

 彼女は着装を終えた事を伝える様に彼の後ろ姿に声を掛ける。

 

 彼は振り向き確認する様に視線を軽く上下させ彼女の全姿を見た。

 

「うん! じゃあ、コレと・・コレを」

 

 そう言いながら先程の彼女の縁の箱の中から小物やアクセサリーを幾つか見つけ出し、それらで彼女を修飾し始めた。

 

 先ずはロイヤルクレストのレジメンタル柄のボウタイを、慣れた手付きで三つ穴釦が特徴のハサウェイのオックスフォード地、サックスブルーのボタンダウンブラウスの首元に結んであげた。

 そして襟の剣先留め釦と、ラルフローレンのチルデンベストのVネックのラインの端を重ね合わせる様に襟元を少し手直しした。

 ブラウスの袖丈が少し長かったのでアームバンドかリングを縁の箱の中に求めたが、丁度ボウタイの柄と同じ様なガーターが有ったのでそれを使い袖丈を調節した。

 更にブラックウォッチタータンチェック柄の、ショートミディー丈のキルトスカートの前合わせの部分を摘み上げて、彼女の大腿部を傷付け無い様に慎重に肌蹴留めのゴールドのピンをスカートに差し込んだ。

 

 ピンの鋭利な先端が梳毛糸で織られたサキソニーの生地を貫通した矢先に事件は起きた。

 

 

「痛っ!」

 

 

 彼女は叫んだ。

 

「あっ! ゴメン!」

 

 彼は彼女の反応に驚きピンを素早く抜き取り謝った。

 

 申し訳ない気持ちと心配する気持ちが複雑に入り混じった表情で自分を見上げている彼の顔を見て、彼女はまた初めての奇妙な感覚に襲われていた。

 

 

 そしてその事件の顛末に対して静かに短く告白した。

 

 

 

 

 

「嘘・・」

 

 

 

 

 

「なんだよ!」

 

 彼は怒る仕草をしたが安心したのかそう言うと笑い出した。

 彼女も吊られて少し含羞む様に微笑んだ。

 

 

 微笑みながら何故こんな事をしたのか自身でも解らなかった。

 それはまるで不意に別の誰か?が現れて起こしたかの様に思えた。

 ただ、仕出かしたのは自分であるのは明白に意識があるので、彼女の中は高揚していた。

 

 

 彼は気を取り直しスカートにピンを差し込み、2本のサイドストラップを彼女の腰位置で調整してフィッティングは終了した。

 

「靴は・・そんなキッズストラップのパンプスより・・ほら、こっちのコンビのタッセルスリップオンの方が合うよ」

 

 彼はもう一足の靴を出し履き替える様に促した。

 

「あっ、う、うん・・」

 

 彼女は前に差し出され置かれた靴に履き替える。

 

 

「よし! ホラ、素敵じゃない!」

 

 彼はそう言いながら後退りし、少し距離を取り彼女を見廻した。

 そして仕上がりに満足するかの様に誇らしげに笑顔で見詰めている。

 

 

『これが・・素敵・・』

 

 

 通路壁に部分的に嵌め込まれた艶やかなガラス面に映る自身の姿を見て、彼女は自分の中で呟いた。

 自分の中・・彼女には心と言う概念が未だに理解出来ていないのであった。

 

 

「うん・・なるほどね.。 コレ、揃えたのは副司令だね。 彼等の年代らしいクラシカルなコーデだけど、 君の雰囲気にはピッタリだよ。 似合ってる」

 

「似合う・・?」

 

「うん! 副司令にも見せてあげようよ! きっと喜ぶよ」

 

「そ、そう・・  あ、あの・・」

 

 和かな笑顔の彼を見ていると、ふと、またある気持ちが彼女の中に湧き上がった。

 彼女は先程から自分の中にある気持ちを彼に伝えたかった。

 

「あの・・怪我、治してくれて・・その・・」

 

 しかし彼女は今の気持ちを伝える言葉を未だ自身の中に持ち合わせていなかった。

 

「気にしなくてイイよ!」

 

 彼は然も当然と言う感じで言い倦ねいている彼女に笑顔を向けた。

 そしてこう続けた。

 

 

「同胞だろ?」

 

 

「ハ、ハラカラ・・?」

 

 彼女にはその言葉の意味は解らなかった。

 

 ただその音だけが妙に彼女の中に響いた。

 

 

「よし! じゃあ、アトリウムに行く前に副司令に見せに行こうか!」

 

 彼はいきなり彼女の手を取りリードする様に引っ張った。

 

 

「さぁ! おいで! リリタマ・・!」

 

「あっ・・!」

 

 

 彼女は困惑しながらも顔が少し熱を帯びたのを感じた。

 そして呟く様に言った。

 

 

 

「リ、リリタマ・・じゃ・・ナイ・・」

    

 

 

 

 

 

 

 冬月は厨房跡でポツンと一人寂しくテーブルに着いていた。

 

 彩りと栄養価だけは良いが、味覚的には代わり映えのしないペースト状のミールが並んだ無機質なプレートディッシュを前に食事を摂っていた。

 

 その傍に、恐らくお気に入りで在ろう使い古された湯呑みが置かれていた。

 普通よりやや大き目なその湯呑みの表面には、使徒封印呪詛紋様が一面に規則正しく描かれていた。

 

 だが、よく見るとそれは江戸文字勘亭流で描かれた魚編の漢字であった。

 

 その湯呑みの飲み口からは微かに湯気が立ち昇っており、辛うじて食事らしさを演出していた。

 

 

 

「あの・・副司令」

 

 

 

 この場所で声を掛けられるとは思いもしなかった冬月は少し驚き、声の発せられた方を向いた。

 そこには厨房の搬入口から覗き込む様に顔だけ出して此方を見ている先程のパイロットがいた。

 

 その表情は少し緊張している様であった。

 

「なんだね?」

 

 緊張を解す為か冬月はなるべく優しく言葉を返した。

 

「あの・・」 

 

 彼女はおずおずと厨房跡に入って来た。

 

 

「おや? どうしたのかね? また随分おめかしして」

 

 

 搬入口に佇む彼女の容姿をみて驚き、咄嗟に出た言葉では有ったが流石に年の功からかその後に少し茶化す様に褒めるのを忘れなかった。

 

「あの、副司令に揃えて貰った服・・着たから。 どうかな? と思って・・」

 

 彼女は先程と同じく顔に熱が帯びているのを感じた。

 

「どうかなって・・それより怪我は・・ おや? う~ん・・」

 

 既に回復した傷跡を見て唸る様な声を出し訝しがる冬月だが、未だ緊張した彼女を安心させる為に労う様に声をかける。

 

「大丈夫かね?」

 

「もう、大丈夫・・」

 

 少し緊張が解れたのか彼女は微かな笑みをたたえて答えた。

 

「そうか・・いや、良く似合ってるよ。 女の子らしくて、可愛いじゃないか」

 

「女の子らしくて・・? 可愛い・・?」

 

「しかし、また・・どうしたと言うのかね?」

 

「彼が、お茶を・・一緒にって。それと、ピアノを・・折角だから、その・・着替えればって・・」

 

 彼女は巧く説明が出来ないので時系列でその理由を述べた。

 

 

『彼? あのゼーレの少年か・・』

 

 

 冬月は少し眉間に皺を寄せてその少年の行動を訝しんだ。

 だが、目の前の少女に悟られまいと直ぐに目尻と眉を下げて言った。

 

 

「そうか・・」

 

 

「あの・・副司令」

 

「なんだね?」

 

「副司令も一緒に・・どうですか? お茶・・」

 

 これは彼女自身の咄嗟の提案であった。

 彼女は卓上の呪詛紋様風魚編漢字の湯呑を見て、副司令もお茶に誘ってみようと思い立ったのである。

 

「う〜む・・」

 

 冬月は驚き少し考えた。

 今迄の彼女からは想像も出来ない言葉が発せられたからである。

 しかし平静を取り戻し微笑む様な優しい眼差しで彼女の提案に答えた。

 

「いや、年寄りは遠慮しておこう」

 

 そしてこう付け加えた。

 

「まぁ、折角だから楽しんで来なさい」

   

「楽しんで・・? 命令・・ならそうする」

 

『やれやれ ・・』冬月は心の中で呟きながら返答する。

 

「じゃあ、命令だ!」

 

「はい・・」

 

 彼女は冬月との何時も通りのやり取りの無感情な返事を返し、アトリウムに向かう為に振り返ろうとした。

 

「あっ! ちょっと待ちなさい」

 

 冬月は彼女を呼び止めた。

 

「コレを・・まぁ、大したもんじゃ無いがな」

 

 冬月は背後にある大きな食器の格納棚を開け、奥から未晒の紙袋を取り出し彼女に手渡した。

 

「なに? コレ・・?」

 

 彼女はキョトンとした顔で紙袋を受け取った。

 

「菓子だよ」

 

「菓子・・?」

 

「お茶だけというのもなんだしな。 残り物だが・・碇が甘いものは食わんからな。 さあ、彼に渡しなさい。 ちゃんとして出してくれるだろうから」

 

「はい・・  あの・・副司令」

 

「なんだね?」

 

 彼女は先程貰った紙袋を胸元に大事に抱え込み尋ねる様に聞いた。

 

 

 

 

 

「楽しんでって・・ナニ?」

 

 

 

 

 

 彼女はゼーレの少年との会話の時とは違い冬月とでは言葉の意味をまだ充分にイメージ出来なかった。

 

「ふぅ~」

 

 冬月は呆れた様に大きな溜息を吐き、続けて言った。

 

「まぁ、イイ。 行けば解る!」

 

 テーブルに肘を付いた左手で頭を抱えながら、片方の腕で追い払う様な仕草で早く行けと即した。

 

「そう・・ なら、行って来る」

 

 組織の副司令官に対しては甚だ無礼な返答を残し、彼女は踵を返し厨房から出て行ってしまった。

 が、それは彼女の何時もの態度ではあったが、先程の彼女の出立ちや垣間見せた振舞いを思う度に冬月の胸中には彼女に対する不憫さが去来するのであった。

 

 そしてまたこう呟いた。

 

 

「やれやれ・・」

 

 

 

 

 

 

「全く持って・・」

 

 冬月はブツブツと呟きながら食事休憩から発令所に戻り定位置に着いた。

 

「どうした? 冬月」

 

 碇は冬月の何時もとは違う様子が少々気になったのか、珍しく声を掛けて来た。

 

「ゼーレの少年がmark09のパイロットに断りも無く接触しおった。 しかも遣り口がまるで昔の街のナンパ師の様だ」

 

 冬月は愚痴る様にブツブツな物言いを続けた。

 

 その冬月の愚痴を聞き終えた碇は顔の前で手を組んだまま、前を見据えて静かに言った。

 

「なに・・問題無い。 我々の計画に支障を来たす事は無い」

 

「だがゼーレの少年だぞ?」

 

 冬月の言葉には先程感じた懸念を含んでいた。

 

「心配無い。 事はゼーレの計画通りに進んでる・・表立ってはな」

 

 碇は先程の姿勢を崩す事無く含みを持たせた言い方をした。

 

「しかし・・妙な入れ知恵でもされて前の様に行動計画に影響せねば良いが・・現に今など服を着替えよって・・」

 

 冬月はそこまで言うと碇を視野の端に置いた。

 

「何 ⁉︎ 服を・・着替えただと⁉︎」

 

 碇は少し動揺した様であった。

 

 その様子を見留めた冬月は追い討ちを掛ける様に更に続けた。

 

「まるで初めてのデートに誘われさた少女の様だったぞ。 我ながら中々のチョイスだったな。 まさか着る時が来るとは思わなんだが・・お前にも見せてやれば良かったな」

 

 そこまで言うと碇の背中を見据えた。

 

 

「・・いや。 その必要は・・無い」

 

 

 碇は外見上は平静を保っていたが、内心は先程の動揺が収まり切らないのを冬月は見透かしていた。

 

「碇・・幾ら造りものでも人間だ。 道具の様に使い捨てるのは如何なものかね? 魂は違えども心はある筈だ。 先程の彼女の変化がソレを物語っておる」

 

 冬月は彼女に対する処遇が余りにも不憫である事を碇に理解させようと弁を奮った。

 

 

「・・・・・」

 

 

 碇は黙ったまま先程の姿勢から微動だにしなかった。

 

 冬月は尚も続けた。

 

「なぁ、碇。 もう少し扱いを考えてやれんかね? 行動計画に影響する様なら矯正も可能だ。 何なら記憶操作という手もある」

 

 

「必要無い・・!」

 

 

 碇は同じ姿勢でやや強く冬月の提案を否定した。

 

「碇・・」

 

 冬月は碇の後ろ姿を見ながら呟く。

 

 冬月は碇のその態度を測ろうとしたが、動揺が収まり微動だにしない背後からは最早知る術は無かった。

 

 

 すると碇はそのままの姿勢で冬月の提案を真っ向から否定するかの様に更に冷酷な言葉を投げて来た。

 

 

「行動計画に支障を来たす様なら・・その時はNo.4同様、破棄してNo.6を使うまでだ。 問題無い」

 

 

「碇!」

 

 冬月はその碇の言葉に我慢出来ず声を荒げた。

 そして続けて言った。

 

「あの娘の可憐な姿をお前も一度でも見てやればイイ! お前のその傲慢で無慈悲な考えも変わる筈だ! 抑々あのパイロット達・・いやあの娘達はお前の・・」

 

 

「だからだ!」

 

 

 碇は冬月の訴えを遮る様に声高に叫んだ。

 

 そしてもう一度静かに言った。

 繰り返す様に、自身に言い聞かせるかの様に。

 

 

「だからだ・・だから見ないのだ・・!」

 

 

『碇・・』

 

 冬月は碇のその後ろ姿を黙って見据えていた。

 

 沈黙の後、碇は独り言の様に、唱える様に言った。

 

 

「今は・・ 今はそれでイイ・・・」

 

 

 冬月は碇のその言葉の意味と重さが感じ取れない程、耄碌はしていなかった。

 

 碇のその背中から自分には到底及ばない過酷な胸中を慮ると、二の句を告げる事が出来無かった。

 

 

 徒労感と後悔が冬月の胸に吹雪いた。

 

 

 冬月は碇を残し無言で発令所から退出した。

 

 

 

 

 発令所前の通路に出るとアトリウムからのピアノの調べが微かに冬月の耳に届いた。

 

 

 その調べの響きは巨大なドームの暗闇に吸い込まれ溶け込むかの様に消えて行く。

 

 

 その消えゆく調べを追うが如く見上げた冬月はため息混じりに呟いた。

 

 

 

「やれやれ・・」

                         

 

                                                                                           (終)

 

 




エヴァ二次創作SS初めて書いてみました。
ホントは漫画用の台詞台本でしたが、今、右手に問題があり描けなくなりました・・

ツイッターで二次創作SSを知り各作家さんの作品を読んで刺激を貰い自分でも書いてみたいと思ったのがキッカケでした。

そこで四苦八苦してなんとか読み物風に仕立て(デッチアゲ?)ました。
漫画では場面やキャラの表情は想像出来るのですが、それを文字化するのが如何に難しいか思い知りました・・
ホント、とんでもなく大変でした。

貧弱な言語ボキャブラリーでオマケに文才とセンスが無いので拙く無茶苦茶な出来ですが・・

是非、ご感想、ご批評戴けましたら幸いです。

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