暴虐と平成とスライムがわちゃわちゃする話 作:Stuffing
それは、よく晴れたとある日の午後。
ジュラ・テンペスト連邦国――通称・
大勢の魔物や人間が集う首都・中央都市リムル。
賑やかなその地に、突如としてふたつの影が現れた。
「――ふむ、妙だな」
かたや、紫紺の双眸を炯々と輝かせる黒髪の青年。
「――ったた……って、どこだここ?」
かたや、穏やかなうちに芯のある面立ちをした茶髪の少年。
「、何ごとだ!!」
遠巻きに取り囲む群衆の中、ちょうど巡回中だったらしいベニマルが駆けつける。
どこからともなく落ちてきたのか、中心には僅かに土煙が立ち残っていた。
「――そこにいるのは何者だ。何の目的があってこの地にやって来た」
場合によっては実力行使も辞さない――腰の剣に手を掛け、暗にそう告げるベニマル。
「目的は分からぬ。何ぶん気付いたらいきなりここにいたのでな」
対する黒髪の男は、だが傲岸不遜を体現したかのような笑みを浮かべて言った。
「分からぬ、だと……?」
「まあ良い。名を聞かれたのだ、答えてやらねばな」
信用できない、と眉根を寄せるベニマルも意に介さず、男はどこか嗜虐的な笑みを更に深めて言い放つ。
「俺の名はアノス――アノス・ヴォルディゴード。ディルへイドを統べる、『暴虐の魔王』だ」
「ディルへイド? そんな国、聞いたこともないぞ」
今にも剣を抜きそうなベニマル。その警戒も当然だった。
そも彼らにとっての魔王とはすなわち世界の調停者。たとえ彼らの主のように真なる魔王として覚醒せずとも、ただそこに在るだけで並の者たちへの影響力は凄まじい。そんな存在を伊達や酔狂で名乗る者などこの世界にはいないのだ。
故に、眼前の男の実力はある程度本物ということになる。
男――アノスとやらが、何の目的でこの
密かに念話を飛ばして自らの親衛隊である
「……あんた、魔王なの?」
――あまりにも唐突に。
この場に似つかわしくない呑気な声を上げたのは、茶髪の少年だった。
正直、彼のことは誰も気に留めていなかった。ベニマルにもその他大勢にも、何の変哲もない、ただの人間にしか見えなかったが故に。
「俺は
「トキワか」
「あ、ソウゴって呼んで。そっちが名前だから」
「成る程。変わった風習だな」
「俺の国とかだと皆そんな感じだよ」
「ほう」
――故に、一同が次の発言に度肝を抜かれたのは自明だろう。
「ねぇ、俺と友達になってくれない? 魔王友達にさ」
「……は?」
「ほう?」
ベニマルとアノスの声が重なる。
「貴様も魔王か」
「うーん……正確に言えば、見習いかな。まだ俺の目指す王様にはなれてないし」
「王になりたいのか」
「うん」
「何故だ?」
「皆を幸せにしたいから。そういう世界を作るために、俺は王様になるんだ」
「そうか。良い夢だ」
「それでさ――」
「……――いや、待て待て」
マイペースに問答を交わし続けるふたりに、茫然自失状態から復活したベニマルが割り込む。
「何?」
「どうした」
「どうしたじゃない。なんでいきなりお友達から始めるんだ」
――違う、そうじゃない。
混乱しているのか妙なことを口走ったベニマルに、群衆とついでに
「いや、そうでもなくてだな。……とにかく、アノスとソウゴとやら。俺についてきてもらうぞ」
すっかりぐだぐだになった空気を蹴散らすように咳払いをして、正気を取り戻したベニマルが言った。
「何故だ?」
「お前たちが何者か、どういう理由でここに来たのか――そういう話を場所を変えてしようということだ」
「だそうだが……ソウゴはどうするつもりだ?」
「俺はついていこうかな。情報を集めるなら大人しくしといたほうがいいと思うし」
「ふむ、一理あるな」
「……こちらだ」
色んな意味を込めたため息を零しつつ、ベニマルが背を向ける。そのあとに続くアノスとソウゴを、やはり遠巻きに眺める群衆。
この様子では、そう遅くないうちに情報が広まるだろう――と。
報告すべき内容を精査しつつ、今後のことに思いを馳せて遠い目をするベニマルであった。
――かくして。
異世界より、ふたりの魔王が来訪した。
それがこの世界に何をもたらすのかは――まだ、誰にも分からない。