暴虐と平成とスライムがわちゃわちゃする話   作:Stuffing

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2.暴虐と平成とスライム

「――成る程」

 クリアブルーの体がぽよん、と揺れる。

「つまり、お前たちはいつの間にかこの世界に来ていたってことでいいのか? 魔法陣とか竜巻とか炎の渦とか、なんかそんな感じのエフェクト――前兆もなしに?」

「ああ」

「そうだよ」

 異世界の知識とこの世界の技術を駆使し、細部に至るまで贅を凝らした迎賓館。その一室で、アノスとソウゴが揃って頷く。

 ふたりの眼の前でソファに座り――と形容していいのかは分からないが、とにかく考え込むように下を向くのは、一匹のスライム。

 名をリムル=テンペスト。ここ、ジュラ・テンペスト連邦国――通称・魔国連邦(テンペスト)の盟主にして、この世界の魔王の一柱である。

「……えっと。あんたが、ここの王様なんだよね」

「ん? ……あー、まぁスライムだしな」

 日本人のソウゴにとってスライムとはファンタジー世界でも最弱に位置する魔物だ。

 それが王様、ということに違和感を覚えるのも致し方ないと、実は前世が三七歳日本人男性だったリムルは思う。

 ――その時。

「くははっ」

 唐突にアノスが独特な笑い声を上げた。

「ソウゴよ、もっとその魔眼()を凝らし、深淵を覗くが良い」

「目を凝らす?」

 言われた通りに目を向けるソウゴ。

 ――ちなみに、当然ながら彼にアノスのような魔眼はない。

 

「…………」

「…………」

 ――それから、どれだけの時間が過ぎたのか。

 おそらく三十分くらい後に、ソウゴの方ががっくりと項垂れた。

「……だめだ、全然分かんない」

「そりゃただ見てるだけじゃな?」

 リムルが呆れたような声色でツッコむ。スライムなので表情は分かりづらいが、案外声色は分かりやすいものだ。

 だが、次の瞬間には。

「でも――」

 ソウゴの表情は、真剣なそれに変わっていて。

「あんたがいい王様だってのは、なんか分かった気がする」

「……俺が?」

「ここに来るまで、街の人たちとか色々見てきたけどさ。種族とか全然違うけど、みんな笑顔だったし。町並みも計画的に整理されてて、誰もが使いやすいように細かいところまで考えてある――そんな気がする」

「確かにな」

 確信の色が浮かぶソウゴの台詞に、アノスも賛同するように頷く。

「これほど姿形の違う数多の種族が集う国にあって、そのどれとも違う種族の者が王として統べているにも拘らずこの平和を保つことが出来る。紛うことなく貴様は良き王だ」

「……な、なんだよ急に。そんなに褒めるなよぅ」

 予想外の褒め言葉の連続に、クリアブルーの塊がへにょ、と崩れた。絶対に照れている、とソウゴの目にも分かる。

「――だからさ、リムル」

「おう、なんだ?」

 そうして真っ直ぐな目をしたソウゴに、ちょっと弾んだ声でリムルが返答する。

「俺に、ここで王様について教えてほしい」

「……はい?」

「俺、王様になりたいんだ。最低最悪の魔王じゃなくて、最高最善の魔王に」

 ――あれ、とリムルはふと思った。

 ソウゴって現代人、もっと言うと俺と同郷じゃなかったっけ――と。

 あくまでも名前と格好からの判断だが、その推測は正解であったりする。

「この国はすごくいい国だし、リムルはいい王様だと思う。だから、リムルがやってることを見て、勉強して、俺なりに最高最善の国を作る参考にしたいんだ」

 が、そんな疑問はソウゴの前には意味のないことのように思われた。

 その眼差しが、どこまでも真っ直ぐだったから。

 いろいろな困難にぶつかって、乗り越えて、決して夢を諦めない。ある意味で若者らしい、そんな力の籠もった眼差しだ。

「……分かった」

 故に、リムルは素直に頷いた。

 ――おじさんは、若者の純真さに弱いのである。

 

「そういえば、アノスはどうするの?」

「ふむ」

 先程までこの問答を見守るように黙っていたアノスが、ソウゴに問われて口を開く。

「ならば俺もこの魔国連邦(テンペスト)に滞在するとしよう。異論はあるまい」

「そりゃ異論はないけど……いちおう理由を聞いても?」

「何、ソウゴと似たようなものだ。この国の治世に興味がある」

 滅紫(けしむらさき)色の双眸に、ソウゴのような若々しさはあまりない。

 どちらかといえば、長年王として努めてきた――統治者としての眼差しでリムルを見ていた。

「あいにく俺は(まつりごと)が苦手でな。戦乱の世が過ぎたとはいえ、かつては人間や精霊、神族と対立していた身でもある。俗に言う“平和的外交”というものを俺も学ばねばなるまい」

「成る程ね……」

 この時、ソウゴとリムルの脳内にほぼ同じ疑問が浮かんだ。

 ――王様なのに政治が苦手でいいのか、と。

 ちなみにリムルの方は以前マブダチになった某破壊の暴君(デストロイ)を思い出して、まあ政治が苦手な王がいても大丈夫だろ、と秒速で納得している。

「――よし、分かった。お前たちを今日から俺の客分という扱いにする。それで構わないか?」

「分かった」

「構わぬ」

「おう。――これからよろしくな、ソウゴ、アノス」

 伸ばされたスライムの手を、ソウゴとアノスが握り返す。

 

 こうして、ここに三人の魔王による友誼が結ばれたのである。

 




リムル様がスライム態なのは私の趣味だ。良いだろう?
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