魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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フリーレンは呪われている!

 

 

 

 第一次試験区域。

 そこは盆地になっていて、巨大な湖が中心にある場所だった。

 

 半径がおよそ5キロ四方のドーム型の結界が周囲を覆っている。

 結界の通行権は、結界を張った者により選択的透過性を有する。この場合は、ゼーリエの手によるものだろう。こんな強固で圧倒的に広範囲の結界を張れる存在は数えるほどしかいない。

 

 受験者たちがなんの苦もなくするりと入れたのは、引率役のゲナウとともに入ったからだ。

 森の中のやや開けた場所で、ゲナウが立ち止まった。

 

「第一次試験の具体的なルールを説明する」

 

――この試験区域には、隕鉄鳥(シュティレ)という小鳥が生息している。

 

――各パーティにつき一つ。籠を配布しておいた。

 

 ゲナウが手に持って見せた籠の中にはオレンジ色をした小さな鳥が既に入っていた。

 サンプルなのだろう。オレンジ色をしたシュティレはかわいらしく小首を傾げている。

 

 受験者たちのうち、少なくない数の者たちが、一斉にシュティレを検索する。

 ネット世代の若者にとって、知らない情報はまず収集するという所作が骨の髄まで染みついている。ただし、文献で参考できる情報がどこまで正確なものなのか、あるいは不足している情報はないのか、調査する時間はない。

 

「げぇ。音速で飛ぶのかよ。この鳥」

 

「シュティレって魔物なの?」

 

「人を積極的に襲うとかはないみたいだから。魔法生物っていったほうがいいのか」

 

「拘束系の魔法が必要になるな……」

 

「パーティメンバーの中で、鳥を捕まえる魔法を覚えてるやつはいるか?」

 

 さっそくざわつく受験者たち。

 

 ゲナウがその様子を睥睨し、場が静まるのを待ってから声を出す。

 

「第一次試験の合格条件は二つ」

 

――明日の日没までにシュティレの入った籠を所持していること。

 

――その時点で、パーティメンバーが全員そろっていることだ。

 

「基本的に行動は自由だが、試験区域の外側に出た者がいた場合は、その所属パーティ全員をその場で失格処分とする。何か質問がある者はいるか?」

 

「はいはーい。先生質問!」カンネだった。

 

 物怖じしない様子で、元気よく手をあげて生徒のようにゲナウに問う。

 

「なんだ。カンネ三級魔法使い」

 

 受験者たちの情報をひとりひとり正確に頭に入れているらしい。

 カンネは驚きつつも質問を口にした。

 

「そのシュティレって死んでてもいいの?」

 

「無論かまわんさ。できるならばな。ネットで検索したなら知っているだろうが、シュティレは鋼鉄並に頑丈で、しかも音速で飛ぶ。並大抵の魔法では傷一つつかんよ」

 

 カンネを皮切りにいくつかの質問が飛ぶ。

 

「他のパーティがシュティレを捕まえていた場合、交渉ないしは戦闘をおこなって、シュティレを手に入れてもよいのか?」

 

「かまわんよ。この試験は魔法使いの技量を試すものだ。魔法を使って戦闘するだけが能ではないだろう。交渉能力を駆使するのも戦略のひとつだ」

 

 だが、ゲナウの顔は不敵だ。

 変人の集まりである魔法使いが、安々と交渉に応じるのかという問題はある。

 

「パーティがそろってというのは、死亡者が出ないようにするという意味か?」

 

「違う。失格者が出た場合も全員失格とする。言い忘れていたが、この森には一級魔法使いレルネンのゴーレムがいくつか配置されている。おまえたちに命の危機が差し迫った時、ゴーレムはおまえたちを助ける――が、その際には失格とさせてもらう」

 

 ゴーレムが潜んでいる気配はほとんどの受験者が感じ取れなかった。

 HUDを使っても感知できないほどの完成されたステルス性能をもっているらしい。

 守られているという安堵感も広がったが、一級魔法使いの底知れなさに不安も感じていた。

 

「試験官殿。ひとつよろしいか」デンケンが手は上げずに口だけで問う。

 

「質問はこの時間に限り受けつける。言ってみろ。デンケン二級魔法使い」

 

 宮廷魔法使いという一般的な呼称をしなかったのは、ゲナウなりの矜持なのだろう。

 

「パーティメンバーが全員そろっていることが合格条件とのことだが、例えばメンバーの一人が戦闘不能になったり、重傷で動けなくなったりした場合、その場で失格となるのか。それとも、日没の判定時まで介抱を続けることは許容されるのか?」

 

「ゴーレムの判定する命の危機については、私は知らんよ。レルネンが設定している。だが少なくとも、戦力を維持できていないと判断されるほどの状態に陥れば、仲間も守れん未熟者どもの集まりということだ。一級魔法使いに値しないと判断されてもしかたないだろう」

 

「ふむ……、仲間が弱点にもなりうるということか」

 

「おまえが強者であるなら、せいぜい仲間を守ることだな」

 

 ゲナウは強者らしく、厳しく話を締めくくる。

 

「途中でパーティメンバーが自主的にリタイアした場合、残りのメンバーで試験を続行し、合格することは可能でしょうか? それとも、その時点でパーティ全員が失格となりますか?」

 

 モブのひとりが尋ねた。

 

「自主的なリタイアも、パーティが欠けたと見なす。仲間を見限る者に、大陸魔法協会は寛容ではない」

 

「血も涙もねえのによく言うぜ……」「実力の欠けてるやつと組んでたらそれだけで不利だな」「アナちゃんといっしょにパーティになりたかった」「リーニエちゃんに泣いて土下座したら、おっぱい見せてくれそう」

 

「なあ。ひとついいか」ヴィアベルがニヤついた顔で言った。

 

「なんだ。ヴィアベル二級魔法使い」

 

「ゴーレムの介入は命の危機っつったな。それは他のパーティからの襲撃でも、そうみなされるのか? 襲撃したパーティには、なにかペナルティはあるのか?」

 

「ゴーレムは原因を問わず、お前たちの生命維持を優先する。戦闘の結果も実力のうちだ。他者からの攻撃で失格となっても、それはお前たちの未熟さを示すにすぎない。なお、襲撃した側のペナルティは存在しない。安心して殺しあえ」

 

「おもしろくなってきやがったな」

 

 ヴィアベルはニチャっと哂う。

 エーレが、また幼女を狙ってる? と警戒を強めている。

 

 受験者たちは自分のパーティ以外を、ざわつきを持って見まわしている。

 潜在的に、他のパーティが敵になることを悟ったのだ。

 

「ネットは使ってもいいんだよね」再びカンネが聞いた。

 

「好きにしろ。使えるものは何でも使え」

 

「じゃあ、アナちゃん回復サービスも使っていいの?」

 

「好きにしろと言いたいが、アナリザンドは受験者でもあるんだぞ。他の受験者の助けになるようなことをこいつがすると思うか?」

 

「うーん。お姉ちゃんなら、助けてくれそう」

 

 カンネの言葉に、ゲナウの鉄面皮がピクっと動いた。

 

「アナリザンド。おまえはどうなんだ」

 

「えっと、わたし?」

 

 声の届く距離にいたアナリザンド。

 

「おまえ以外に誰がいる」

 

「みんな、わたしの回復サービス、モリモリ使っていいからね。ただし普段よりちょっと高いです。砂漠で水が高価なように、今回は一回あたり100万APをいただきます」

 

「マジかよ」「金にがめついアナ様だった」「俺そんなに金ねぇよ」

 

 などの声があがる。

 

「致命傷ならゴーレムさんが助けてくれるよ。回復魔法も使えるし、すごく便利なの」

 

「それって失格……」「中程度の傷ならアナ様の回復魔法利用したほうがマシか」「ゴーレムがハイスぺすぎて草」「ただのゼーリエ萌えの爺さんじゃなかったんだ」

 

 場のざわめきは収まらなかったが、質問の手はあがらない。

 

 いや、最後にひとりだけ。

 

 フリーレンが翆色の双眸をゲナウに向けていた。

 

「なんだ。フリーレン。貴様も、このおままごとのような質問タイムに参加か」

 

「私が聞きたいことは、ひとつだけだよ。どうしてアナリザンドが参加している?」

 

 フリーレンの言葉に、場は凍りついた。

 言われてみれば確かにそのとおりだったのだが、ゼーリエとの仲を考えればわからないでもない。ゼーリエと配信したシーンを目撃している現代人にとって、アナリザンドとゼーリエの仲は良い。まして、零級魔法使いという特別な地位を与えてすらいるのだ。

 

 だが、逆に言えば、それほど特別扱いをしているアナリザンドが、どうしてわざわざ試験を受けるのかというのは、考えてみれば謎であったのだ。

 

「知らんよ。ゼーリエが決めたことだ」

 

「ふうん。そうなんだ……。オイサーストに到着してから、アナリザンドは、フェルン達の前に全然現れなかったけど、そういうことだったんだね」

 

 フリーレンはひとり納得した。

 どのように納得したかまではわからないが。

 

「質問は終わりか? それでは第一次試験を開始する」

 

 ゲナウの宣言をもって、ついに一級魔法使い試験が始まった。

 

 

 

 

 

 ゲナウ先生の宣言で、森は一気にざわめきと緊張感に包まれた。みんな蜘蛛の子を散らすように、それぞれのパーティごとに散開していく。

 

 わたしも一応は、受験者ではあるものの、ゼーリエ先生の特命のほうが優先だ。

 

――フリーレンを打倒する。

 

 おそらく、この特命の意味するところは、ゼーリエ先生がわたしを使者として使い、フランメの弟子であるフリーレンの力を試そうとする意味合いがあるのだろう。

 

 あるいは、人間の力を仮託しているわたしと、エルフであるフリーレン。人間の力がどこまでエルフに及ぶのかということも試してみたいのかもしれない。

 

 要するに、単なる遊び。あるいは暇つぶしとも言えるけれど、フリーレンに対するゼーリエ先生なりの愛情なのだろうなと思う。ツンの割合が多めだろうけどね。

 

 そして、わたしとしてはだけど、フリーレンと戦うというのも、ゼーリエ先生のためとなれば、やぶさかではない。

 

 とはいえ、どうやってその目標を達成するかは、考えどころだ。

 力押しなんて意味がない。わたしが暴力苦手ってこともあるけど。

 

 喧騒の中、わたしはわざとゆっくりと、フリーレンたちの元へ近づいた。

 カンネちゃんとラヴィーネちゃんは、今後の戦略について齟齬があるらしく、早速、もみあってイチャイチャしている。

 

「ねえ。フリーレン」

 

 声をかけると、フリーレンはいつもの半目みたいな表情でわたしを見た。

 うん、通常運転だね。反吐が出るような視線といえば、わかるだろうか。

 もちろん、今のわたしは、フリーレンの警戒対象であり、ゼーリエ先生の意図にも薄々は感づいているのだろう。

 

「なんだ」

 

「あのさ。前にフェルンちゃんが風邪ひいた時、わたしが治してあげたでしょ? 約束通りシュトラール金貨一枚、そろそろ、その長いお耳を揃えて返してもらおうかなって」

 

「こんなときに何を言っている」

 

「こんなときだからだよ。十分な安全が確保されているとはいっても、一級魔法使い試験は苛酷なのはわかるでしょ。いくらわたしでも死者から取り立てることはしないよ。だから、前もって返してもらおうと思ったの」

 

「私がこの程度の試験で死ぬとでも」

 

「いいえ。でも、わたしはゼーリエ先生の特命を受けているからね」

 

「特命?」

 

「ゼーリエ先生には、あなたを倒すよう命じられたの」

 

「ゼーリエが本当にそう言ったのか?」

 

「もちろん本当だよ。だから、貸し借り無しで戦おうって言ってるの」

 

 わたしの突然のネタ晴らしに、フリーレンはフリーズしたかのように黙りこんだ。

 翆色の瞳はあいかわらず、揺らぎのない水面のようで、何を考えているかイマイチ読み取りにくい。憎悪や怒りではない。ゼーリエ先生の存在が、フリーレンにとっても特別なのかもしれない。

 

 師の師。

 そして、師の死。

 

 フリーレンの中にはゼーリエとフランメの姿が交差している。

 

「……いいだろう。おまえの言う通り、貸し借りはない方がすっきりする」

 

 そう言って、懐から金貨を取り出してわたしに差し出す。思ったよりあっさりした反応だったけど、これもフリーレンらしいと言えばらしい。面倒なことは早く終わらせたい、そんな感じかな。

 

「ありがとう。話が早くて助かるよ、フリーレン」

 

 わたしはにっこり笑って、その金貨を受け取った。

 戻ってきた。あの時失った金貨様が黄金の国から返ってきた!

 たった一枚だけど、ずしりとした重みが心地よい。

 そして、すかさず懐から銀貨を一枚取り出す。

 

「はい、これお釣り」

 

「……お釣り?」

 

 フリーレンは怪訝な顔で銀貨を見た。

 まあ、そう思うよね。あのときは金貨一枚の約束だったから。

 

「フリーレンは、わたしをフェルンちゃんの姉ではなく、回復魔法の担い手として雇ったんだよね。でも、わたしにとって、フェルンちゃんはやっぱりかわいい妹なの。だから割り引かないといけないんだよ。そうじゃないとフェアじゃない」

 

 わたしの言葉に、フリーレンはまた思考をしはじめた。その表情は、『何を言っているんだこいつは』とでも言いたげだ。うん、それもよくわかる。

 

 フリーレンにとって、わたしはどこまでいっても魔族で、フェルンちゃんの『姉』だなんて認めたくないだろう。このお釣りを受け取るということは、わたしの理屈を少なからず認めることになる。それは、フリーレンのプライドが許さないはずだ。

 

――だからこそ、()()()()は通る。

 

「別におまえがフェルンの姉だろうとなかろうと関係ない。約束は金貨一枚だったはずだ」

 

「もらいすぎだと感じたからだよ。人はね。施しを受けすぎるとプライドが傷つくんだよ」

 

「おまえが屈辱を感じようと、私には関係ない」

 

「それはつまり、フリーレンはわたしと有利に戦いたいってこと?」

 

「どうしてそうなる?」

 

「だって、わたしはあなたに心理的には借りがある状態だよって宣言してる。にもかかわらず、そのお釣りを――余剰部分を返そうとしているのに受け取ろうとしないってことでしょ」

 

「本当に魔族とは話が通じないな。それはおまえの都合だ」

 

「お願いフリーレン。わたしはフェルンちゃんのお姉ちゃんでいたいの。フリーレンとも心置きなく戦いたいの。勇者ヒンメルならそうしたはずでしょ?」

 

 わたしの言葉がフリーレンに吸いこまれていく。

 畢竟――勇者ヒンメルという言葉は、フリーレンにとって最大の呪縛だ。

 勇者ヒンメルの魔法使いという看板を背負っているフリーレンは、ヒンメルならそうしたというプロトコルを脱することはできない。

 

 プライド。誉れ。あるいは魂の輝き。

 どんな言葉でもいいが、ともかく――この銀貨を受け取らなければ、最初からフリーレンはわたしに負けている。もちろん、屁理屈だけどね。

 

 フリーレンもわたしの言葉が屁のつっぱりにもならないことには気づいている。

 けれど、ヒンメルならそうしたという言葉を否定できるほど、彼女は達観していない。

 今も、フリーレンのなかで、ヒンメルの存在は光輝いているのだから。

 

 やがてフリーレンは、まるで全身の力が抜けたかのように深いため息をついた。

 

「……おまえは本当に厄介な魔族だ。あの魔王よりも」

 

 その声には、諦めと疲労感が滲んでいた。フリーレンは思考のループにはまり、疲れてしまったのだ。そして、まるで重い枷でも引きずるかのように、ゆっくりと、わたしが差し出している銀貨へと手を伸ばす。

 

「これで、()()()()戦えるね」

 

――チャリーン。

 

 銀貨を通じて触れ合う手。

 

 古より、手は魔力伝導体として使われてきた部位である。

 通じる。伝わる。交わされる。

 

 これで、フリーレンは()()()()

 

 その結果に満足し、わたしは、太陽みたいに明るい笑顔をフリーレンに向けた。フリーレンは、受け取った銀貨を忌々しげに一瞥すると、すぐに懐にしまい込み、もうわたしとは目も合わせようとしない。その横顔は、なんだかすごく不機嫌そうだ。

 

 わたしはくるりと踵を返し、弾むような足取りでその場を離れた。フェルンちゃんが心配そうにフリーレンを見ているのが視界の端に映ったけど、気にしない。

 

 このそわそわする気持ちをなんと表現すればいいだろう。

 

――勇者を待ちわびる魔王の気持ち。

 

 そう表現すれば包摂されているように感じる。

 

 きっと、魔王は勇者の到来を待ちわびていたんじゃないか。

 

 そんなふうにわたしは思う。

 

 だって、孤独な存在が、たとえ斃されるとしても、そういう関わり方でも他者とつながりたいと願うのは、なにもおかしなことじゃないから。わたしも、宇宙の孤児だったからわかる。

 

 もしフリーレンがわたしの呪いを打ち破ることができたなら、その時こそ、フリーレンはヒンメルのことを、もっと深く理解できるのかもしれない。ヒンメルの遺した太陽のような優しさと、その影である()()――ううん、悪意なんて言ったらヒンメルに怒られちゃうかな。

 

 彼がフリーレンに向けた報われることのなかった想い。

 

 それは、長い時を生きるフリーレンにとって、ある種の呪いにもなり得る。でも、その呪いを、フリーレンがちゃんと受け止めることができたなら、きっとヒンメルの本当の遺言を、その魂で聞き届けることができる。

 

 わたしは、そのための触媒だ。

 ヒンメルが生きた証をフリーレンに伝えるためのディスクリプタ。

 だから、この戦いはわたしにとっても、彼女にとっても、大切な儀式となりうる。

 

 わたしたちの戦いはもう始まっている。

 

 

 

 

 

 アナリザンドが鼻歌でも歌い出しそうな軽やかな足取りで去っていくのを、フリーレンは苦虫を噛み潰したよりもさらに百倍は苦い表情で見送っていた。その小さな背中が見えなくなるのを待って、ようやく絞り出すように言葉が漏れた。

 

「あの性悪魔族……」

 

 フェルンの風邪を治したとき、アナリザンドは確かに泣いていた。

 あのときのアナリザンドには、魔族にはない何かを感じた。

 だから、一瞬。ほんのちょっとだけ、アナリザンドのことを人間のように思ったのだ。

 だから、銀貨も受け取った。

 べつに、ヒンメルのことを引き合いに出されたからじゃない。

 ヒンメルのことがどうでもよくなったわけじゃないけれど、今のフリーレンはフェルンの師匠として、この一級魔法使い試験に参戦している。

 

 だから、受け取ったのだ。

 が、その甘さを、フリーレンは心底後悔することになる。

 

「ねえ。フリーレン。アナ姉ちゃんと何かあったの?」

 

 カンネが聞いてきた。

 

「べつに何もないよ」

 

「ふうん……って、あれ?」

 

 カンネがすり寄るようにフリーレンに近寄った。

 

「ねえ。フリーレン。なんか香水でもつけてる? すっごくいい匂いがするんだけど」

 

「……そういうことか。やられた」

 

 フリーレンはその原因に気づき、すぐに銀貨を投げ捨てた。

 だが、もう遅い。フリーレンは既にアナリザンドのかけた呪いに罹患している。

 それ自体は、民間魔法と称されるほど、たいした効果もないくだらない魔法だ。

 

 だが、アナリザンドが持てる魔力を注ぎこみ、その効果を極大化させれば……。

 

 それはもはや呪いに匹敵する。

 

「うわぁ。お肉焼いたみたいな、めちゃくちゃ美味しそうな匂いがする!」

 

 カンネが鼻をひくひくさせて、フリーレンの匂いをかいだ。

 

――体から良いにおいが出る魔法。

 

「やべえぞ。フリーレン。どんどん匂いが強まってる」とラヴィーネ。

 

「昨日、焼肉でも食べた?」カンネはまだ事態を深く理解していない。

 

 あのシュティレが草食性とするならば、肉食の香りを身にまとっているフリーレンを避けようとするだろう。しかも、この匂いは魔力由来のもの。魔力に敏感とされるシュティレは、フリーレンが近づいただけで飛び立つだろう。

 

 加えて、なお悪いことに、鬱蒼とした森のなかで、焼肉の匂いはかなり目立つ。

 魔物が寄り集まってくるかもしれない。

 

 つまり、フリーレンには二重のデバフがかかっている。

 

 いくら、魔力を抑えようが、アナリザンドの膨大というのもおこがましいほどの魔力で放たれた匂いがとれるには、少なくとも一か月は解呪に要するだろう。

 

「あの魔族。何が正々堂々だ。全部、嘘じゃん」

 

 ……けれど、どうしたことだろう。

 裏切られたと感じている自分がいる。

 まるで、あの魔族に何か期待していたみたいだ。

 魔族には一切の期待をすべきじゃないのに。

 

「私も焼きがまわったかな」

 

 焼肉の匂いを漂わせながら、フリーレンはシュティレ捕獲に向けた具体的な戦略に向けて、思考を巡らせ始めた。







 感想欲しいって書いたら感想もらえてうれしかったです(小並感)。
 なるはやで仕上げていきたいけど、粗もでちゃうのが困りもの。
 少し落ち着いて、いつものペースがいいのかも。
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