魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
「ねえ。ヴィアベル」
エーレは、先ほどから木陰に背中を預けて休憩しているヴィアベルに声をかけた。
まるで、午睡でもしているような、今まさに試験を受けているとは思えないほどにリラックスしている状態だ。
同じパーティのシャルフという三級魔法使いの男は、周りを警戒しているのに対し、あまりにも余裕がありすぎる。
「なんだ?」
「あなたのことだから、他のパーティに奇襲でもしかけて受験者の数を減らすのかと思ったけど、なにもしない。シュティレも探しにいかない。いったい何を考えているの?」
「あのなエーレ。現代の魔法戦ってのはな
「そんなの知ってるわよ」
「いいや、おまえは知識としては知ってるかもしれねーが、なにもわかっちゃいねぇ。学校の授業じゃ、そこんところは教えてくれなかったのか?」
「なによ」エーレはプクっと頬を膨らます。
ヴィアベルは、舌を舐めた。
「おまえも気づいてんだろ。この森の中で馬鹿みてぇな肉の臭いをプンプンさせながら、動きまわっているやつがいる。おかげで、魔力探知を避ける力もねえ馬鹿も生き残ってやがる」
「フリーレンね。アナリザンドが何か仕掛けていたみたいだけど……」
「子猫みてぇなナリして巧妙な一手だな。いやがらせとしては最適だ」
「また、幼女に興味を持つセリフ禁止! 不潔だわ」
「なんだ。ヴィアベルはそういう……」シャルフが困惑していた。
「ちげぇっつーの。だいたいアナリザンドは俺よりも年上じゃねーか」
「しかし、魔族の幼体ではある……。アナ様はかわいいし」
大木を背に、シャルフが腕を組みながら言った。
「シャルフ、あなたも!?」エーレが驚愕の視線でシャルフを見た。
独学で魔法を学んできたと思われる彼は、修行僧な一面を見せていた。
まだ若いが、真面目でストイックな印象だったのだが、ここにきてアナファンだったとは。
「ひとりぼっちは寂しいからな……。アナ様だけが俺の癒しだったんだ」
シャルフはメソっとしていた。
まあ、零歳児くらいの頃から、いっしょにいる綺麗でかわいいお姉さんに惹かれない男児などいるはずもなく、シャルフの評価は、この世界の平均的な感受性であるといえる。ロリコンというわけではなく、アナリザンドコンプレックス。人外お姉さん大好き人間がアナリザンドの知らないところで、ポコポコ生まれていっているのだ。いずれ全人類のお姉さんになる日も近い。
「まったく男どもは……。どいつもこいつもロリコンなのかしら」
エーレは頭を抱えた。
ヴィアベルは軽く首を振った。
「真面目な話をするとな。情報戦の肝ってのは、ヘイトコントロールにあるんだよ」
「ヘイトコントロール?」
「要するに攻撃対象ってやつだ。俺が誰かれかまわず闇討ちしたら、あっという間に全員の敵だ。それぐらいは理解できるだろ。頭のいいエーレさんならな」
「まあ、それはわかるけど……」
「今のところ、ヘイト値が一番高いのはフリーレンだ。みんなが様子見してやがるのは、フリーレンの実力が未知数だからだな。だが、少なくとも勇者一行の魔法使い。弱いわけがねぇ」
「少なくとも、フリーレンに勝つのは至難だろうな」シャルフが冷静に言った。
「ああ……。だが、馬鹿は考える頭がねーから馬鹿なんだぜ。あいつらの感情は決壊寸前だ。ただでさえ試験に合格するか不安な気持ちのまま、焼肉くせぇ匂いがどこからともなく漂ってくるんだからな。そいつを一押しすればいい」
ヴィアベルはおもしろそうな表情で、小窓を出現させた。
「あんた。何しようとしてるの」
エーレはヴィアベルの横に腰をおろし、横から小窓を覗きこむ。
彼女自身も、ヴィアベルの一挙手一投足が気になるお年頃なのだ。
ヴィアベルは面倒くさそうな顔をしながらも、その成果を見せた。
【悲報】一級魔法使い試験に焼肉臭い女がいる件について
「……アナチャンネル。匿名掲示板? こんなくだらないトイレの落書きみたいな場所の情報に踊らされる人がいるの?」
「さぁな。だが、シュティレが森に充満した肉の匂いに警戒している今、受験者たちは暇なはずだ。暇なとき、人間は悪い方向で考えちまう。陰謀論ってのはそんなところから始まるんだよ」
ヴィアベルは投稿ボタンを押下した。
【悲報】一級魔法使い試験に焼肉臭い女がいる件について
1:名無しの受験魔法使い
マジでなんなのアレ?
森ん中、ずっと焼肉みてーな匂いさせてウロウロしてるエルフ女がいるんだが
こっちは真剣にシュティレ探してんのに、あの匂いで鳥どころか虫一匹寄りつかねえぞ
つーか、逆に腹減って集中できねえし
そこらの魔物ホイホイしてるし、いい迷惑なんだが
運営は何考えてんだ?
エルフだからって特別扱いか?
あー、ムカつく
こっちは人生かかってんだぞ
4:名無しの受験魔法使い
イッチは落ち着けよ
どういう状況なんだ?
5:名無しの受験魔法使い
時間=一級魔法使い一次試験中
場所=グローブ盆地(森の中)
目的=シュティレを捕まえること(一次試験合格条件)
障害=エルフが焼肉クセェ
7:名無しの受験魔法使い
俺も試験受けてるんだが
この焼肉臭いのってフリーレンだったのか
原因はわかってるのか?
8:名無しの受験魔法使い
イッチとは別だが、アナ様がなんか魔法かけてた
ふたりはライバル関係っぽかったよ
なんかアナ様がお金貸してたみたい
フェルン三級魔法使いのことを何か言ってたような
11:名無しの受験魔法使い
フェルンちゃんをとりあう三角関係ですか!?
オラワクワクしてきたぞ!
13:名無しの受験魔法使い
そういや、そこにアナ様もフェルンちゃんもいるんだよな
どうでしたか? フェルンちゃんからはそこはかとない妹臭はしてましたか?
盗撮とかなされなかったのですか?
16:名無しの受験魔法使い
フェルンちゃんを盗撮したら、アナ様にBANされそう
ついでに>>13も教唆でBAN
19:名無しの受験魔法使い
焼香のフリーレンで草なんだ
21:名無しの受験魔法使い
アナ様えげつねえwww
でも、フリーレンも災難だな
22:名無しの受験魔法使い
災難っつーか、スゲェ迷惑なんだが
だんだん焼肉の臭いがきつくなってくるし
頭痛くなってきたわ
目に染みる
25:名無しの受験魔法使い
一級魔法使いの試験っておそろしいんだな
記念受験するのも命懸けとは
26:名無しの受験魔法使い
さっきからシュティレの気配すらしないっす
絶対あの焼肉エルフのせいだわ
29:名無しの受験魔法使い
シュティレは魔力に敏感で、音速を超える飛翔能力を持つらしい
ただでさえ受験者たちが跋扈している状況なら
警戒して姿をあらわさなくなってもおかしくないだろうな
32:名無しの受験魔法使い
これ、ある意味、フリーレンが他の受験者全員のデバフになってるよな
シュティレ捕獲難易度が無駄に上がってるというか
35:名無しの受験魔法使い
運営に抗議できねーの?
「特定の受験者のせいで試験が著しく困難になってます」って。
公平性を著しく欠いてるなら一考の余地ありなんじゃ。
38:名無しの受験魔法使い
ここで悲報
一次試験の監督官はゲナウ一級魔法使いです
39:名無しの受験魔法使い
血も涙もねえって噂のあの鳥狂いか
受験者たち可哀想(小並感)
40:名無しの受験魔法使い
てかフリーレン様にさっさと鳥捕獲してもらって
退場してもらったら?
41:名無しの受験魔法使い
それ無理
今回のシュティレ捕獲は、時間いっぱいまでその状態を維持するのが目標
逆ババ抜きみたいな状態になってる
44:名無しの受験魔法使い
フリーレン様のことBBAって言った!
45:名無しの受験魔法使い
言ってねーしw
47:名無しの受験魔法使い
でもよー
俺、受験者じゃないけど
フリーレン様には水の中にでも時間いっぱいまで
沈んでてもらえばいいんじゃねーかって思うぜ
水の中だとさすがに焼肉の臭いもしねーだろ?
49:名無しの受験魔法使い
それも無駄みたいな気がするな
今回、アナ様がかけた呪いは、魔力由来のものだろ
臭いっていうのは効果だが、シュティレは魔力の臭いを探知してると思う
52:名無しの受験魔法使い
あ、そう
がんばってくださいね(鼻ほじー)
55:名無しの受験魔法使い
なあフリーレンをみんなで排除したほうがよくね?
58:名無しの受験魔法使い
フリーレンを排除か
無理無理無理勝てない
61:名無しの受験魔法使い
そうかわかったぞ!
この試験の真の目的はフリーレンに勝つことだったんだ!
62:名無しの受験魔法使い
な、なんだってー!?
65:名無しの受験魔法使い
考えてみろよ
アナ様はもともとゼーリエてんてーに認められた零級魔法使いだろ
そもそもが一級魔法使い試験を受ける必要がない、てんてーのペットだ
そのアナ様がフリーレンに呪いをかけた
これの意味するところは、フリーレンを打倒しろっていう
大陸魔法協会側の意思表示なんじゃないか
68:名無しの受験魔法使い
HUDで見た感じ、フリーレンの魔力は老練な熟達した魔法使いくらいはありそうだったが
やりようによっては勝てそうなイメージも持てたな
69:名無しの受験魔法使い
じゃあおまえ先にいけよw
71:名無しの受験魔法使い
いやなんか嫌な予感がするのでやめときますw
74:名無しの受験魔法使い
べつにフリーレンと戦わんくてもよくね?
パーティのうちだれかひとりでも欠けたら全員失格なんだろ
フリーレンのパーティって誰だっけ
76:名無しの受験魔法使い
確か、カンネちゃんはいたな
あの、寝取りのカンネだけど、あいかわらず元気そうでなによりだった
あとひとりは知らね
なんかいいとこのお嬢様っぽかったけど
79:名無しの受験魔法使い
フェルンちゃんと修羅場ったの?
アナ様「わたしのために争わないで」とかなかったの?
試験より、むしろそっちが気になるわ
81:名無しの受験魔法使い
修羅場ってはいない
突如、ゾルトられて、カンネちゃんの冒険が終わったりもしていない
というか、フェルンちゃんもなんか緊張してたみたいなんだよな
年頃の普通の女の子って感じだった
82:名無しの受験魔法使い
美少女でしたよね?
83:名無しの受験魔法使い
そこ重要っすか?
まあ、かわいくはあったけど、超美人とかじゃなくて普通にかわいいって感じかな
物静かそうな、物腰やわらかそうな子だったよ
86:名無しの受験魔法使い
特定部位もやわらかそうな子だった
87:アナリザンド
>>86 ピー! ワンアウト!
89:名無しの受験魔法使い
アナ様……ゆるして……ゆるして
悪口じゃないんです
ポジティブ要素ですよね?
91:名無しの受験魔法使い
やっぱりアナちゃんいるんじゃん
どうして、フリーレンに呪いをかけたん?
93:アナリザンド
答えはゼンゼ式
あと89は抗弁を認めて、ワンアウトを取り消します
96:名無しの受験魔法使い
で、でたー。都合が悪くなると黙秘やつー
97:名無しの受験魔法使い
ゼンゼ式イズ何?
ていうかさりげに赦されている89w
98:名無しの受験魔法使い
ゼンゼと言えば、一級魔法使いのロリお姉さんのことでしょ
私知ってる
ゼンゼてんてーは沈黙の魔法使いだって
99:名無しの受験魔法使い
それはゼーリエ先生のパワハラ発言がよくないのでは?
101:名無しの受験魔法使い
それはまあ……そうねえ
104:名無しの受験魔法使い
おや、一級魔法使い様がいらっしゃるようで?
ゼーリエ先生、お弟子さんはここですよ
107:名無しの受験魔法使い
書かにゃいけんブログの量が三倍に増えるのでやめて……
本当にやめて
睡眠時間がガリガリ削れるの
108:名無しの受験魔法使い
切実すぎて草
111:名無しの受験魔法使い
理由なんてどうでもいいが状況的にはかなりまずいな
正直、このままだと合格者ゼロで終わってしまうぞ
113:名無しの受験魔法使い
フリーレンの焼肉臭でシュティレがまったく出てこない
もうかれこれ半日近く経つぞ。焦ってきた
116:名無しの受験魔法使い
そういやシュティレ捕まえたパーティいんの?
今なら言い値でAP払いますよ
アナ様もおひとついかがですか?
118:アナリザンド
言い値ですか!?
金貨様とか?
検討に値する提案ですな
119:名無しの受験魔法使い
やっぱりがめついw
120:名無しの受験魔法使い
アナ様、フリーレンの呪い解いてくれませんかね?
このままだとマジで試験が成り立たないんですが。
なんならAP払いますよ。言い値で。
121:アナリザンド
んー、それはちょっと無理かなー。ゼーリエ先生との約束だからね
ゼーリエ先生との約束を破ったら、絵にも描けない恐ろしさだよ
借金も増えちゃうだろうし
綺麗なわたしは次の日にはいなくなってるかもしれない
でも、フリーレンも頑張ってるみたいだし、みんなも頑張ってね!
応援してるよ!(高みの見物)
123:名無しの受験魔法使い
人の心とかないんか?
124:名無しの受験魔法使い
魔族だし、あるわけねーだろw
125:名無しの受験魔法使い
ゼーリエ様との約束ってことは、やっぱり協会側がフリーレンを潰そうとしてるってことか?
だとしたら、俺たちがフリーレンを攻撃しても問題ないってことだよな?
むしろ推奨されてるまであるのか?
128:名無しの受験魔法使い
>>125
嘘を嘘と見抜けないやつは以下略
アナ様もわりと平然と嘘つくからなぁ
話半分くらいで聞いておかないとひどい目にあうぞ
焼肉のフリーレンみたいにな
131:名無しの受験魔法使い
向こう100年は焼肉エルフという肩書を背負うことになった哀しきエルフ
134:名無しの受験魔法使い
もうやめて
フリーレン様のHPはとっくにゼロよ
136:名無しの受験魔法使い
フリーレンはフランメの弟子だったんだろ
そして、フランメはゼーリエの弟子だった
つまりフリーレンはゼーリエの孫弟子にあたるわけだが
あのツンデレエルフがフリーレンのことをかわいがりしてる可能性は高そうだ
139:名無しの受験魔法使い
それで焼肉の烙印おされるとか
いやーきついっすゼーリエ様
140:名無しの受験魔法使い
もういちかばちかの可能性に賭けてフリーレンを打倒しようかな
もしかすっと、フリーレンを倒したら一発合格とかない?
143:名無しの受験魔法使い
試験は厳粛なプロトコルに従っている
例外は存在しない
フリーレンの状態は、試験のルールに沿っている
146:名無しの受験魔法使い
フリーレンのパーティ、さっき北の方角に移動してたぞ
相変わらず強烈な焼肉臭を漂わせながらな
匂いを頼りに追跡は容易だ
149:名無しの受験魔法使い
>>140
乗った。こっちのパーティも限界だ
フリーレンさえいなくなれば、シュティレ捕獲のチャンスは格段に上がる
誰か旗振り役やってくれ
150:名無しの受験魔法使い
とりあえず、フリーレンの現在位置を共有しつつ
合流できるパーティは北西の岩場エリアに集まらないか?
あそこなら囲いこみやすいはずだ
151:名無しの受験魔法使い
了解。こっちも向かう
フリーレンには悪いが、これも試験だ
恨むならアナリザンドを恨んでくれ
152:アナリザンド
( ゚д゚) わたし悪くないよね?( ゚д゚ )
154:名無しの受験魔法使い
こっちみんなw
木陰で掲示板の盛り上がりを眺めていたヴィアベルは、ニヤリと口角をあげた。
「ほらな。馬鹿は勝手に騒ぎ立てて、勝手に悪い方へと考えを巡らせる」
エーレは少し呆れたような、それでいてヴィアベルの策略のえげつなさに感心したような複雑な表情で、スクロールされていく書きこみを見つめていた。シャルフは黙って腕を組んでいるが、その目にはなんとも言えない色合いが浮かんでいる。
森のあちこちで、受験者たちの間に不穏な空気が広がり始めていた。フリーレンの放つ香ばしい匂いは、もはやただの迷惑を超えて、彼らの焦燥感と疑心暗鬼を煽る格好の材料となっていたのだ。
ヴィアベルの投げた小さな石は、確実に波紋を広げつつあった。
「さぁて。くだらねえ戦いは雑魚どもに任せて、俺らはシュティレを捕獲しに向かうぞ」
「これだけ不穏の種をまいて、自分は行かないつもり?」
「ちょっとは頭を使えよ。俺のまいた種に飛びつくようなやつは、元からシュティレを捕獲する気概も実力もねーやつらばっかだ。少し戦えるやつらは、この機にシュティレを捕まえる」
「ふうん。要するに静謐な場を創り出したってわけね」
フリーレン達がいない領域であれば、シュティレを見つけることができるかもしれない。
「そうじゃねえよ。俺だったら、そいつらが同じように考えて油断しているところを狙う。目指すべきなのは、シュティレを捕まえて、安心しきってる
ヴィアベルの真の狙い。
それは大規模な陽動作戦だったのである。
「……考えてるのね」
「言っただろ。魔法使いの戦いは、情報戦だ」
「爺さん。これちょっとまずくない?」
ラオフェンは掲示板を流し見しながら、木陰で休むデンケンに声をかけた。
「ふむ。誰か石を投げたやつがいるな」
「それで、あんたはどう動くつもりだ。デンケン」
アゴヒゲをはやしたいい年したおっさん受験生のリヒターは、老獪な宮廷魔法使いの行動を注視していた。自分より遥かに実力者であるだろうデンケンを、リヒターは利用するつもりだ。
まがりなりにも同じパーティの仲間なのだし、リヒターの行動理念はまちがってはいない。
「今は動くときではないだろう」
「でも、爺さん。私達も何かしたほうがいいんじゃない?」
「ラオフェンよ。軍を動かす時の行動は
「待機するってこと?」
「そのとおりだ。受験者たちが勝手に削り合ってくれるのなら好機だろう」
「うーん。でも、シュティレを見つけたほうが話は早いんじゃない?」
「おまえはまだ若い。早く動きたくてウズウズしているのだろう。それはわからんでもないが、必ずしも動くことが最良の結果を生むとは限らん。漁夫の利を狙え」
「悠長な感じ」
「心配せんでもすぐに事態は動く。それまで力を蓄えておけ」
「うん。わかった」
ラオフェンはデンケンの言葉を素直に受け取り、街で大量に買いこんだドーナツにパクついた。
「じじいと孫かよ」
リヒターがひとり呆れた声を出した。
フェルンは籠の中にシュティレを入れていた。
警戒の強かったシュティレを捕獲した数少ないパーティのうちのひとりである。
このパーティは実力者ぞろいだ。
フェルンも含めてであるが、ユーベルもラントも、魔力を隠蔽し、探知する能力に優れている。
「これで一安心ですね」
言いながらも、フェルンは不安を抱えていた。
師であるフリーレンの苦境が、風に乗せて焼肉の臭いとともに伝わってくる。
「あれれー。フェルンちゃんってさ。師匠であるフリーレンのことは気にならないのかな」
ユーベルがいじわるに聞いた。
「気になっていないわけではないですが、気にしてもしょうがないことではあります。フリーレン様なら、なんとかするはずです」
「ふうん。師匠を信頼しているんだ」
「もちろんです。フリーレン様は私よりも遥かに魔法の高みにおられる方ですから」
「じゃあさ。アナちゃんのことはどうなの? フリーレンとアナちゃんのどっちが強いと思う?」
「わかりません。強さとは状況次第でしょうから」
「つまんないの。これだから真面目ちゃんは。だったら、アナちゃんとフリーレンのどっちかがピンチで、どちらか一方だけを助けられるとしたら、フェルンはどっちを助けるの?」
「……わかりません」
「迷ったね。私だったら、自分を無条件に愛してくれるお姉ちゃんを選ぶんだけどな。フェルンちゃんには共感できそうにないなー」
「あのさ……。愉しくおしゃべりしてるところ悪いけど、僕は試験に受かりたいんだよね。こんなところで駄弁ってないで、早く隠れたほうがいいんじゃない?」
ラントは眼鏡をおしあげて冷静に言った。
確かに森の開けたところで、会話するより、人目のつかないところに隠れたほうがいい。
いくら焼肉臭で欺瞞されているとはいえ、いつ他の魔法使いに鉢合わせるかはわからないのだから。ラントの言葉は常識的なものだった。
「とりあえず、試験終了まで潜伏してやり過ごそう」
「えー、つまんないよ。正義の味方なら正々堂々戦わないと」
「なんのことを言っているのかわからないな。僕たちは正義の味方じゃなくて、ただの魔法使いだ。不要な戦いは避けたほうがいい」
「へへへ……愉しいねえ。まあいいよ。眼鏡くんがそう言うならね」
ユーベル達は隠れ場所を探して、こそこそと歩き始めた。
夜が近い。