魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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アイゼン

 ソレは時間と空間から解離している。

 どこにも特権的な座標なんてものは存在しない。

 現実にも幻想にも固着せず、ゆらゆらと宇宙を漂うわたし。

 

 けれど、わかりやすくするために座標を定義すれば、『数年前』の出来事。

 場所はどこかの森の中。

 あるいは崖面をくりぬいて作られた横穴の中かもしれない。

 そこにはひとりの老いた戦士が人生の余りを生きている。

 

――戦士アイゼン。

 

 勇者一行の前衛であり、今は現役を引退して静かに過ごしていた。

 

 彼はドワーフである。

 ドワーフの寿命はヒューマンに比べれば長く、エルフに比べれば短い。

 

 彼は手を組み、何物でもない岩に向かって祈りをささげている。

 岩は何物でもない岩ではなかった。岩は墓だった。

 

 風が鳴いていた。アイゼンは無声の声を聞いた。

 小さなコールサインがアイゼンの耳に届く。

 

「アナリザンドか」

 

 アイゼンは小窓に手を伸ばした。しかし、そこにアナリザンドの姿はなかった。

 

『アイゼンせんせー』

 

 幼い魔族の声は背後から聞こえた。

 

「どうした?」

 

 アイゼンはそのままの体勢で応える。

 アナリザンドの声はいつもより力がないようだった。

 幽霊のように、か細い声。

 

『ハイター死んじゃったよ』

 

 声だけが響いた。

 

 アイゼンは目を瞑る。一度深く呼吸する。自分が生きていることを確かめるように深く。ハイターの死が染みこむまでわずかな時間があった。

 

「そうか……。やつが逝ったか」アイゼンは振り向き驚いた。「泣いているのか? 魔族が」

 

「いいえ。よくわからないけど勝手に出てくるの。お粗相しちゃってごめんなさい。キタナイもの見せちゃってごめんなさい」

 

 情動が乱反射する。

 恋が殺意となるように、アナリザンドにはその身体反応を止めようがない。

 哀しみが羞恥心へ、羞恥心が申し訳なさへと移り変わっていく。

 だから、アナリザンドは謝ったのだ。

 

「こう見えて、オレも赤ん坊のオシメを変えた経験くらいはある。気にするな」

 

「先生にもお子さんがいたの?」

 

「昔の話だ」

 

 アイゼンの家族は魔族に殺された。その意味では彼もフリーレンと同じく復讐者だ。

 しかし、魔王を倒し、燃え盛るような復讐心は灰になってしまった。それにハイターの遺言もある。仲間の最期の頼みを無碍にするほど彼は冷酷ではない。

 

 だから、言葉は発せられなかった。『魔族に殺されて』とは言われなかった。

 

「アイゼン先生は、魂って在ると思う?」

 

「昔は無に帰るのだと思っていた」

 

「いまは違うの?」

 

「ハイターのやつが言っていた。人は死んだら天国に行くのだそうだ」

 

「先生は天国を信じているの?」

 

「ああ、信じている」

 

「じゃあ、なんでお墓に祈ってるの? そこには()()()よ。天国にいるお子さんがガッカリするんじゃないかな。わたしはここにいないのにーって。お父さんまた騙されてるって」

 

「オレには死者の声は聞こえない。死者がどこにいるのかなんてわからない。だから祈っている」

 

「そっか。先生にとって、お墓は記録媒体(メモリー)じゃなくて通信装置(アンテナ)なんだね」

 

「そうだな」

 

「先生、わたしもいっしょに祈っていい?」

 

「ハイターに対してか?」

 

「いいえ。みんなに。だってみんないっしょのところにいるんでしょ。わたしもそこにコールしていい? わたしがそこに辿り着けるかはわからないけれど」

 

「それは人に聞くものじゃない。おまえがそうしたいと思ったときにそうするものだ」

 

「うん、わかった」

 

 アナリザンドは軽く手を組み目を瞑った。

 どうか届きますように。どうか聞こえますように。どうか逢えますように。

 アナリザンドは祈った。

 

 

 

 

 

 その日も、アイゼンはいつものように日々の様々な雑務をこなし、呼吸をし、生者として死者に相対していた。墓に対して祈っていた。

 すると、久方ぶりに生者の声を聞いた。懐かしい声だ。

 

「アイゼン、遊びにきたよ」

 

 フリーレンだった。もちろん、フェルンも連れだっている。

 彼女の言葉は軽やかだ。まるで、数週間振りと言っているかのように聞こえる。

 

「30年振りとは思えん態度だな」

 

「たった30年でしょ」

 

 フリーレンは、時間の感覚がきわめて速い。

 ゼーリエと同じく、人と風景が同化してしまう。

 人間にはきわめて長い時間も、一瞬で過ぎ去り、何も残らない。

 それは相対的には情動がきわめて遅いということも意味している。

 

「そうだな」アイゼンはその差異を優しく受け入れた。

 

 それから、フェルンのほうを向き、「フェルン。久しぶりだな」と声をかけた。

 

「アイゼン様お久しぶりです。生身でお逢いするのは初めてですね」

 

「そうだな。元気そうでなによりだ」

 

「アイゼン様もご健勝そうでなによりです」

 

 アイゼンとフェルンが仲良さそうに会話を交わす。

 言うまでもないが、ハイターを通じて、アイゼンはフェルンともネットで会話をしていた。ハイターが亡くなる前も、亡くなった後も、メールやLINEや二者間通信を通じて、いくつかの言葉を交わしていたのだ。

 

 フリーレンが冷たそうにアイゼンを見ている。

 

「アイゼンも、ネットなんかしているの?」

 

「立ち話もなんだ。家の中で話そう」

 

 アイゼンは言葉少なに、先にドアをあけてふたりを招きいれた。

 

 

 

 

 家の中は簡素だった。

 戦士らしい精神の持ち主であるアイゼンは物に対する執着は薄い。

 いくつかのタンスと、部屋の中央に置かれたテーブル以外はほとんど何もない。

 けれど、それでも話をするためのスペースは空けておいてある。

 いつか、仲間が訪れた時のために、そこに椅子は用意してある。

 

「ねえ、アイゼン。さっきの話だけどさ……」

 

「フリーレン。おまえは変わっていないな」

 

 アイゼンが遮るように言った。

 

「そうかな? アイゼンも変わってないように思うけど」

 

「オレは老いたさ」

 

 腕の筋肉は衰え、皺でたるんでいる。

 目の前のエルフは違った。30年前とほとんど変わらないようだった。

 

「さっきの話だが――、オレは最初はハイターと文通をしていたんだ。それからネットが広まるにつれて、ハイターとIDを交換しあい、それからはメールのやりとりをするようになった」

 

「魔族の呪いだよ、アイゼン。そんなワケのわからないものをワケもわからないまま使って気持ちわるくないの? その言葉が魔族に改鋳される可能性だってある。言葉が捻じ曲げられるかもしれない。想いをのっとられるかもしれないんだ」

 

「そうだな……」アナリザンドが祈る姿が想起された。「オレは魔法は門外漢だからよくはわからん。だが、フェルンから聞いていないのか?」

 

「なにを?」

 

 フリーレンは不思議そうな顔をする。横にいるフェルンにも視線を送った。

 フェルンは、少しだけ寂しそうな顔で微笑みを返している。

 

「大魔法使いゼーリエによれば、アナリザンドの魔法はわずかであるが解析され、懐柔することに成功していると書かれてあった。目が痛くて脳が灼かれたが……まあそういうことらしい」

 

「ゼーリエが? ふうん、やるね」

 

 フリーレンは楽しそうに言った。対抗心を燃やしているのかもしれない。

 

「おまえはアナリザンドの魔法を解析しようとはしなかったのか?」

 

「少しはしてるよ。でも、慎重にいかないと手ひどい反撃を喰らうかもしれないからね。時間よりも安全を重視しているんだ。心配しなくても大丈夫だよ。ネットは、どうやら直接的に人を殺す力はないみたいだから」

 

「言葉でも人は殺せるぞ、フリーレン」

 

「そんなことはわかっているよ。だったら、なんでアイゼンはメールを使ってるの?」

 

「便利だからという理由も大きい」

 

「実利を重んじるのは戦士らしいね」

 

「ああ、だが一番の理由は時間だろうな」

 

「時間?」

 

「フリーレン。人は死ぬ。おまえよりも遥かに早く寿命を迎える」

 

「わかってるよ」

 

「オレがもし文通だけをしていたら、年に数回でも届けばいいほうだ。それだと、オレはフェルンとは知り合えなかっただろう。ハイターとも言葉を多く交わすことができなかった」

 

「アイゼン、魔族の呪いで世界が覆われても、郵便は無くならなかったよ。それは人間が魔族の魔法を本能的に恐れているからだ。いくら不便でも時間がなくても人間は郵便を使うべきだと思う。いつかはインターネットも人間が解析する。それまで待つべきじゃないかな」

 

「それまで待っていたら、オレは老いさらばえて土くれになっていただろうな」

 

「アイゼンはまだ生きるでしょ」

 

「そうだな。だが……、フェルンはそうではないだろう。フリーレン、人はおまえと違って短い時の中を生きている。死がほんの少し先にあるんだ。だから誰かと話せなくなるのを恐れる。オレは死ぬのが怖いんだよ」

 

「それで魔族の魔法なんてまがいものにすがるのが納得いかない。あの魔族に唾を吐かれるかもしれないんだ。いやそれどころか、アイゼンがそうしたかのように()()されるかもしれないんだよ。私達は旅の途中でいくらでも魔族の嘘を見てきた。アイゼンもそうでしょ」

 

 フリーレンはいつもより必死そうに訴えていた。

 旅の仲間。共有された時間は、エルフにとっては微小だが、それでもフェルンよりはわかってもらえると信じているのだろう。

 

「そうだな。フリーレンの言う通り、オレは魔族の嘘を見てきた」

 

「だったら――」

 

「フリーレン、魔族の言葉は死者の声に似ていると思わないか?」

 

 アイゼンは再び遮るように言った。

 

「心なき声って意味ではそうかもしれないね」

 

「死者に心はあると思うか?」

 

「無じゃないならあるんじゃない?」

 

「魔族の心も無ではないかもしれない」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「オレがそう信じたいからだ。いや、そう信じるべきだからだ」

 

「ますますわからない。ネットのしすぎでおかしくなっちゃったの?」

 

「フリーレン。昔、ハイターやヒンメルたちと、この家に訪れたとき、ハイターは天国はあるべきだと言ってくれたな。そして、死んだ家族に祈りを捧げてくれた。覚えているか?」

 

「覚えているよ」

 

「祈りは、天国に向けて郵便を出すようなものだ。届いているかもわからない。いつ届くかもわからない。そんな不安を抱えながら、ずっと返事を待ち続ける行為に似ている。愚かだと思うか?」

 

「思わないよ」フリーレンはそっけなく言った。「顔に似合わず律儀だね」

 

「本当は返事など来なくてもいいんだ」

 

 アイゼンは告解するように言った。

 

「なんで? 返事を期待しているんでしょ?」

 

「これはオレの贈り物だからだ。お返しを期待しては贈り物にならないだろう?」

 

「よくわからないな。アイゼンの本音はどっちにあるの?」

 

「どっちもだ」

 

 逢いたいと心の底から願っているからこそ、郵便が届かないほど遠くに行ってしまったと思いたい。魂がそこにあると信じるからこそ、あなたはそこにいるのかと問いかけたい。

 

 死者への祈りは贈与である。

 

 しかし、引き裂かれてしまいそうな痛みを、フリーレンはまだよくわからなかった。

 

「まあいいや。アイゼンがそうしたいならそうすればいいんじゃないかな」

 

「聞いてくれフリーレン」

 

「なに?」

 

「あの子はオレの子のために祈ってくれたんだ」

 

「あの子ってあの魔族のこと?」

 

「ああ」

 

「だから心があるって?」

 

「そうだ」

 

「心がなくても仕草なんかいくらでも真似られるよ。ああほんと――頑固な汚れみたいな呪いだね。いつか解いてあげるから待っててよ。もともと私はアイゼンに何か手伝ってほしいことがないか聞きにきたんだ」

 

 フリーレンは昔のよしみで明るく言った。

 その残酷さに気づきもせず。

 アイゼンは目を瞑る。

 

「そうだな……おまえに期待しておこう」

 

 

 

 

 

「それで探し物って?」

 

 フリーレンが前を歩くアイゼンに問いかける。

 

「大魔法使いフランメの手記だ」

 

「フランメの著書はほとんどが偽物だよ。まさかネットで調べたとかいうんじゃないだろうね?」

 

「ハイターが調べたものだ。聖都にある現物のフランメの記録をまとめあげてな」

 

「そう、なら安心だね。わかった。まずは大きな木を探そうか」

 

「大きな木か、途方もないな……たくさんあるぞ」

 

 鬱蒼とした森林地帯である。

 大きな木という曖昧な表記では、探すのに時間がかかりそうだった。

 

「時間ならいくらでもあるのか?」

 

「まあね」

 

 フリーレンの言葉に、フェルンのほっぺたがリスのように膨らんだ。

 その姿を見て、フリーレンがすぐに言葉を変える。

 

「フェルンが嫌がるから早めに終わらせようか」

 

「フリーレン様。ありがとうございます。でしたら、HUDを使うことをお許しいただけますか」

 

「また魔族の魔法か。フェルンは本当に好きだね」

 

「いいえ。()()()()()ですよ。ゼーリエ様がお創りになられたれっきとした人間の魔法です。ゾルトラークといっしょです」

 

「うーん。ゼーリエが保証するなら、まあいいか……」

 

「では、最高効率で探しましょう」フェルンがHUDで周辺情報を検索する。「見つけました」

 

 五秒だった。

 

「は?」

 

「こちらから、ちょうど8時の方角。距離は……飛行で3時間ほどになります」

 

「どうしてわかったの? ここには人間もいないのに」

 

「超精密な魔力探知レーダーです。大魔法使いフランメ様の手記ですから、当然、魔力を帯びているでしょうし、魔力的な封印がなされている可能性も高い。とても簡単でございました!」

 

 フラストレーションが溜まっていたのか、フェルンは声を大きくして言った。

 対するフリーレンは顎のあたりに手をあてて、なにやら思案している。

 

「人間の魔法なら、問題はないのか……?」

 

「では、参りましょう」

 

 鳥のような速さでフェルンが飛びたっていく。

 驚きにかたまっていたフリーレンはワンテンポ遅れた。

 

「フリーレン。早くしないと追いていかれるぞ」アイゼンが言った。

 

 

 

 道すがら。

 

「フリーレン。すまなかったな」

 

「なにが?」

 

「オレはおまえが変わっていないと思ってしまった。そうではなかった。おまえの成長に気づけるのは、もうオレしかいない。だが、オレはどこかであきらめてしまっていた。謝罪をさせてくれ」

 

「そんなに変わってないよ」

 

「あの子の時間を気にしただろう」

 

「だって、フェルンは怒ると怖いんだよ」

 

「おまえは郵便が100年届かなくても気にしないでいられる。だが、100日届かなくても不安になるフェルンのことを思いやってくれた。それがオレはうれしかったんだ」

 

「そうかな……」フリーレンはアイゼンのほうを向いた。「ねえ、なんでフランメの手記なんか探すことにしたの?」

 

「可哀想だと思ってな」

 

「……?」

 

「30年前のあの日、おまえは泣いていたじゃないか」

 

「あれは、よく……わからないんだ。哀しいって感情なのはわかってる。でも、そうじゃなくて、なんか本当は、言葉にできない何かが身体の奥から勝手に溢れ出した感じなんだよ。私はその感情の名前を探したかったのかもしれない」

 

「そうか」

 

「ヒンメルなら教えてくれそうだと思った。でも、ヒンメルとはもう話せないから、私はきっとあの時、生まれて初めて後悔したんだ」

 

 フリーレンは泣きそうな顔になっていた。けれど耐え忍んだ。さすがに弟子の前で泣くわけにはいかなかったからだ。アイゼンは前を歩きながら話を続ける。

 

「フランメの手記には死者と対話した記録が書かれているらしい」

 

「おとぎ話だよ」

 

「どんな魔法も最初はおとぎ話だ。それにハイターとも相談していた。おまえはきっと後悔するから、そのとき手助けしてやろうとな。この30年間、ふたりで計画するのは存外いい暇つぶしになった。人生の余りには最適だ」

 

「あのお節介な生臭坊主」

 

「フリーレン。もう一度だけ聞かせてくれ」

 

「なに、アイゼン。あらたまって」

 

「オレもハイターも、それにフェルンも、アナリザンドを信じている。それでも足りないか?」

 

「ヒンメルは言ってないよ」フリーレンは冷たく言い放った。

 

「……そうだな」

 

「でも……、もしかしたらヒンメルも同じことを言うんじゃないかとも思っている」

 

「震えているのか。フリーレン」

 

「わからないんだよ。アイゼンは怖くないの? もしソレを認めてしまったら、私達のなしえた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それはべつにそれでもかまわない。人間たちにただの復讐心で魔族を殺しまくる女だと思われてもどうでもいい。でも、ヒンメルの死が穢されるのは嫌だ」

 

「なら、なおさらおまえはヒンメルと対話すべきだ」

 

「アナリザンドとじゃなくていいの?」

 

「逃げるのもたまには悪くない。そのための代替案だ」

 

「わかったよ。アイゼン」

 

 

 

 

 

 ほどなくしてフランメの手記は見つかり、フリーレンたちは魂の眠る地(オレオール)を目指すことになった。そこは大陸の北の果て、魔王城のあったあたりに位置する。

 

 長い旅になる。

 アイゼンが家に戻るまでが、最後の同行だ。

 

 荷馬車に乗せてもらっていると、フリーレンは疲れからか、それとも北に行くのが寒くて現実逃避でもしてしまったのか、眠りこけてしまった。

 

 そして、フェルンの膝を枕に夢の世界へと旅立っている。

 正直、ちょっと羨ましい状態。

 

「アイゼン様。フリーレン様が申し訳ございませんでした」

 

 小さくささやくようにフェルンが口を開いた。

 

「どうしてフェルンが謝る必要がある」

 

「フリーレン様はアイゼン様に対していくつか心無い言葉を発しました」

 

「戦士はみんなの盾になり耐え忍ぶことが仕事だ。気にすることは無い」

 

「それでもアイゼン様の祈りだけは否定するべきじゃなかったと思います」

 

「そうか……ありがとう」

 

「……? どうして感謝を?」

 

「フリーレンの代わりに謝ってくれたからだ」

 

「弟子なのですから当然です」

 

「当然ではないさ。おまえは優しい子だ、フェルン。ハイターも天国で鼻が高いだろう」

 

 フェルンはフリーレンの頭をそっとひと撫でした。そして言った。

 誕生日ごとにプレゼントをくれるようになったこと。

 魔法を教えてくれたこと。

 いつもは興味がなさそうなのに、フェルンのことを心配してくれること。

 とても不思議だと思った。

 隔絶した時間を生きているフリーレンが、時折ふりむいてくれる様が愛おしかった。

 

「フェルン、おまえはフリーレンにとって初めての弟子だ」

 

「はい。存じております」

 

「弟子のほうからすれば信じられないかもしれないが、師匠も弟子とともに成長するものだ。ましてや初めてともなればなおさらだ。内心では優秀な弟子に追いつかれないように必死なのだろうさ。……そいつはいい師匠だ。できるだけいっしょの時間を共有してくれ。フリーレンを頼んだ」

 

 フェルンは頷いた。けれど、アイゼンは目を瞑っていたから見えなかった。

 

 フリーレンはおそらくアイゼンのメールを受け取らないだろう。だから今度こちらに来るときは、自分はもういないかもしれない。それとも、魂の眠る地(オレオール)で再会するとか? 笑い話もいいところだ。

 

 いずれにしろ、生身で逢うのはこれが最後になるかもしれない。フリーレンは死者のように眠っていて、しばらく起きそうにない。だからこそ、返事は必要なかった。

 

 アイゼンはふたりの旅の無事を祈ったのだから。

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