魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
雨は、なおも激しく降り注いでいた。
ゼーリエの結界が砕け散った今、森の木々は容赦なく雨に打たれ、重く垂れ下がっている。泥濘と化した地面には、先ほどまでの激戦の痕跡が生々しく残り、鉄錆と土の匂いが混じり合って鼻をついた。
フリーレンは、静かにアナリザンドを見据えていた。
その翠色の瞳は、雨に濡れてなお、一切の揺らぎを見せない。消耗しているはずの身体からは、未だ底知れぬ魔力が静かに立ち昇っている。それは、千年の時を生きたエルフの、そして魔王を討ち果たした勇者一行の魔法使いとしての、揺るがぬ矜持そのものだった。
対するアナリザンドは、小さな身体に不釣り合いなほどの威圧感を放っていた。猫耳を模した髪型も、今は雨に濡れて少し形が崩れているが、その瞳の奥に宿る光は、遊び戯れる子供のそれではない。
明確な敵意と、そしてゼーリエという絶対的な存在から与えられたであろう『使命』の重圧が、彼女の表情を硬質なものへと変えていた。
「あのね。フリーレン……」
アナリザンドが、鈴鳴りのよく通る声でフリーレンの名を呼ぶ。
「人間の力はすごいよね。集まれば、ひとつになれば、魔王ですら打倒しうるんだから」
フリーレンは答えない。
ただ、その視線はアナリザンドから逸らされることなく、次の一手を待っている。
「デンケンお爺ちゃんも、よく頑張ったと思う。でも、あなたには敵わなかった。あと一歩叶わなかったのは、ひとりで戦ったからだと思う。リヒターって人と連携はしてたけど限定的だったし」
アナリザンドは、まるで他人事のように、先ほどの戦いを評価する。そして、ふっと息を吐き、その小さな唇の端に、挑戦的な笑みを浮かべた。
「だから、ここからは私の出番。ゼーリエ先生の言う通り。わたしはあなたを倒す」
その言葉と共に、アナリザンドの周囲の魔力が、爆発的に膨れ上がる。それは、先ほどデンケンが計測した数値を遥かに超える、もはや人知を超えた領域の魔力。雨粒が、彼女の魔力に弾かれるようにして周囲へと飛び散り、地面が微かに震える。
フリーレンは、その圧倒的な魔力の奔流を前にしても、表情一つ変えない。
ただ、その手に握られた杖の力が、ほんのわずかに強まったように見えた。
(……来る)
デンケンは、地面に倒れ伏したまま、息を詰めて二人の対峙を見守っていた。
伝説の魔法使いフリーレンと、謎多き魔族アナリザンド。
この試験の、そしてあるいは、この時代の魔法使いの頂点を決めるかもしれない戦いが、今、始まろうとしていた。
雨音が、二人の間に流れる張り詰めた空気を、さらに重くしていく。
どちらが先に動くか。
その一瞬の駆け引きが、勝敗を左右するだろう。
アナリザンドが、ゆっくりと右手を上げる。
その小さな手のひらに、眩い光が収束し始めた。
フリーレンもまた、杖先をアナリザンドへと向け、その魔力を練り上げる。
翠色の瞳が、アナリザンドの動きの一挙手一投足を見逃すまいと、鋭く細められた。
森の静寂を破り、二つの強大な魔力が、今まさに激突しようとしていた――。
ある~日、森の中~、エルフさんに出逢った~。
花咲く森の道~、エルフさんに出逢った~。
そう、わたしはフリーレンとの最後の戦いに臨んでいた。
フリーレンの目は物凄く冷たい。
あれはもう殺人者の目ですよ。ひえ。怖い。
でも、フリーレンも消耗しているのは確かだ。
冷静な判断もできなくなっているのだろう。
わたしは不敵な笑い3を表出し、手のひらに魔力を集める。
フリーレンが構える。カウンターを狙ってるのかもしれない。
だけど、わたしは
いやこれこそが、わたしの戦い方だ。
「これ、なーんだ」
魔力光が収束したあと、現れたのは見慣れた鳥籠。
シュティレを捕獲するために、ゲナウ先生から配布されたアイテムだ。
「籠……? なにがしたい?」
「すぐにわかるよ」
懐からシュティレを取り出し、いそいそと鳥籠の中にイン。
これで、一次試験合格へのチケットは完成した。
もちろん、これは
リーニエちゃんが捕まえたシュティレはちゃんとゲナウ先生のテーブルに置いている。
籠はどうやって手に入れたかって?
失格になった子達は、すぐに試験会場から追い出されるわけじゃない。
わたしは、湖から森の中へ、とぼとぼと歩く受験者のひとりに声をかけたんだ。
「こんマゾ」
「アナリザンドか」
その子は、最後までフリーレンに挑んだ。そして勝利宣言をした男の子だった。
名もなき魔法使いの卵は、フリーレンの一撃を喰らって、それでも自分自身は致命傷を避けて生き延びていた。けれど、他の仲間が失格になって、もはや希望は残されていなかった。
顔はあげていた。誇り高い魔法使いのように。前を向いて歩いていた。
「ねえ。お願いがあるんだけど。いいかな?」
「お願い? 俺はもう失格になっているんだけど……」
「そのお腰につけた鳥籠を、ひとつわたしにくださいな」
「これか……でも」
それは、フリーレンと戦ったという誇りの証。
ただでもらえるとは、思っていない。
「100万APでどうかな? あなたの誇りの証を誰かに引き継がせたいの」
じっと、その子の顔を見つめる。
シュタルク君と同じくらいの年齢の、まだ年若い男の子。
その子が、フッと笑った。キレイな笑み。
「それ使って、パァっとみんなで大反省会でもするか」
握手。交渉成立。
名もなき彼は、いずれ一級魔法使いになるかもしれない。
あるいは、そうはなれなくても、あの大魔法使いフリーレンと戦ったこともあるんだぜって、あのエルフ焼肉臭すぎて力がはいんねーよって、笑い話にするかもしれない。
それは、わたしにはわからない未来の出来事。
ザザ。ザ。ザ。
森の茂みをかきわける音が、わたしの耳に届く。
フリーレンも気づいているだろう。
わたしに杖をかまえながらも、冷静に状況を判断しようとしている。
「何をした?」
「べつに、ただの
わたしがおこなったのは、いつもやってること。
小窓をまだ失格になっていない受験者たちのもとに開いて、こんマゾしただけだ。
『いまなら、なんとシュティレ捕獲の大チャンス。タダで手に入れられるかもしれません』
さっきの勇敢な魔法使いの卵君から鳥籠を譲り受けた後、わたしは小窓通信を使って、まだシュティレを得ていない他のパーティに、ほんの少しだけ試験合格のヒントを与えてあげたんだ。
残り数時間という状況。
あいもかわらず、焼肉の臭いは漂ってきて、脳を狂わせてくる。
焦りも天頂近くに達していただろう。
そこに吊り下げられた蜘蛛の糸。
もちろん、わたしも最高に愛くるしく、みんなを悩殺したつもりだ。
魔族の魅力は、時にどんな魔法よりも雄弁なのである。
計画通り(ニチャア)。
もちろん、質問には丁寧に答えたし、ひとりひとり考え方は違う。エーデルちゃんはやっぱり交渉しないで、自分たちで最後まで探すことを決めたみたいだし。
それでも、総勢9名。3パーティがここに集まった。
彼らの顔には、疲労と焦り、そしてわずかな希望と、それ以上のフリーレンという存在への警戒が浮かんでいる。その視線は、フリーレンと、そしてわたしが持つシュティレの入った鳥籠へと、飢えた獣のように注がれていた。
見ようによっては、わたしが持ってるシュティレをフリーレンが狙っている悪役のように見えただろう。いやそうでなくても、わたしがここに呼んだのだ。意図は明確なはず。
「フリーレンを取り囲んで。手を出しちゃだめだよ」
わたしの号令に、最後に残った慎重な受験者たちは、森の木陰から適度に距離を保ちつつ、慎重に身をのりだしてくる。三人一組で防御魔法をいつでも展開しようと待ち構えつつ、残り二人が攻撃魔法を放てる態勢を保ってるパーティもいる。
雨は依然として降り続いていた。
フリーレンは、新たに出現した魔法使いたちを一瞥する。その表情からは、依然として何を考えているのか読み取れない。ただ、その翠色の瞳は、静かに、鋭く、周囲の全てを見据えていた。
(さて、役者は揃ったかな? いやもうひとり……)
森の木々をかき分けるようにして、もう一人、よろめきながらも執念とも言える足取りで、その場に姿を現した者がいた。
ボロボロの服、泥と汗にまみれた顔。
しかし、その瞳には、まだ諦めないという強い光が宿っている。
「はぁ……はぁ……やっと、辿りついた……!」
ラオフェンちゃんだった。
体力回復もそこそこに、なんとかここまで辿り着いたみたい。魔法の杖を本当の杖みたいにして、重い身体をひきずっている。誓っていうが、わたしはあれからなんの手助けもしていない。小回復をしただけで、ここまで来たのは、ラオフェンちゃんの力、そして意志だ。
たぶん、デンケンお爺ちゃんの大魔法、炎の竜巻を目印にここまできたのだろう。
そして、ラオフェンちゃんの視線は、地面に倒れ伏しているデンケンお爺ちゃんの姿を捉えた。
「爺さん!」
ラオフェンちゃんは、悲痛な声を上げると、フリーレンや他の受験者たちのことなど目に入らないかのように、デンケンお爺ちゃんの元へと駆け寄った。
「爺さん! 大丈夫!? しっかりして!」
「……ラオフェン……無事だったか……儂は、もう……」
デンケンお爺ちゃんは、薄目を開けてかろうじて答える。
その姿は、先ほどまでの威厳など見る影もない。
「まだ諦めちゃダメだよ! ほら、立って!」
ラオフェンちゃんは、小さな身体で、なんとかデンケンお爺ちゃんを支え起こそうとする。その健気な姿に、デンケンお爺ちゃんの瞳に、ほんのわずかだが、力が戻ったように見えた。
それに呼応するかのように、少し離れた場所で木の幹に寄りかかっていたリヒターさんも、呻き声を上げながらゆっくりと身体を起こし始めた。頭の傷はまだ生々しいが、その目には再び闘志の火が灯っている。
「……世話の焼ける爺さんと孫娘だ、全く」
リヒターさんは悪態をつきながらも、ふらつく足取りでデンケンお爺ちゃんとラオフェンちゃんの元へと歩み寄り、デンケンお爺ちゃんの反対側の肩を支えた。
「すまんな……」
こうして、フリーレンから少し離れた場所で、ラオフェンちゃん、そしてデンケンお爺ちゃんとリヒターさんという、満身創痍ながらも互いを支え合う三人が再び立ち上がった。
そしてフリーレンは、今や四方をハラペコちゃんたち9人に囲まれ、さらにその外側にはデンケンパーティという構図。総勢12人プラスわたし。つまり13人もの魔法使いが周りを取り囲んでいる。しかも、ここまで生き残った猛者たちだ。面構えが違う。
まさに、フリーレン包囲網。ここに完成といったところかな。
ゼーリエ先生は、この状況をどう思っているだろうか。
絶対見てるよね? なんとなく魔力の気配でわかるし。
「先生、最後まで見てて。わたし勝つよ」
だから、いっぱい褒めてね。
「フリーレン」
わたしはフリーレンに問いかける。
冷たい雨粒が、白髪を濡らし、でも翆色のまなざしに一切の怯みはない。
「なんだ?」
わたしは聖母のような微笑み4を選んだ。
「
「なにを……」
「簡単なことだよ。言ったよね。わたしはゼーリエ先生と約束したの。フリーレンに勝つって。勝ち方にもいろいろあるけど、相手が素直に負けを認めたら、誰がどうみても負けでしょ。力比べをするよりも、ずっと明白だよね」
そう――、わたしはフリーレンに
「そのために、わざわざ受験者たちを集めたのか」
「そう。これがわたしの策。かしこいフリーレンならわかるよね。もうフリーレンには一級魔法使いと同程度しか魔力は残されていない。わたしにはわかるよ。HUDを使うまでもない。だって、アウラ様と戦ったときのことを覚えているから。たった二年前の出来事だよ」
「あれから私も成長している」
「冒険しながら成長するってこともあるだろうけどね。フリーレンを観察する限り、いきなり二倍になったりはしないかな。だって、エルフにとって二年なんて、あっという間でしょ」
「だからどうした。ここにいるやつらは、みんなおまえに扇動されただけの魔法使いだ。ひとりでも失格にさせれば、すぐに散るよ。私にはできる」
フリーレンの言葉は、静かだった。
氷のように揺るぎない。
消耗しているとはいえ、彼女は魔王を討った勇者一行の魔法使い。
烏合の衆を蹴散らすことなど、造作もないと言っているのだ。
わたしは、その言葉を聞いて、くすりと喉の奥で笑った。
ああ、やっぱりフリーレンはフリーレンだ。どこまでも
そこが、彼女の強さであり、そして――脆さでもある。
「確かに、フリーレンならできるかもしれないね。この受験者さんたちを何人か
わたしは、一歩フリーレンに近づき、その翠色の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
「あなたの魔力は、ほとんど残っていない。みんなもそれはわかってる。だって、わたしが教えたから。この状況で無理をすれば、あなたは確実に戦闘不能になる。そうなれば、結果は同じ。フリーレンだけじゃなくて、カンネちゃんもラヴィーネちゃんも失格になる」
冷徹な事実を、淡々と告げる。フリーレンの表情は変わらない。
あいかわらず、何を考えているのかわからない。
「それとも、まさかとは思うけど、わたしと、ここまで生き残った12人の手練れを、その残り少ない魔力で全員相手にするつもり? さすがのフリーレンでも、それは無理じゃないかな?」
わたしは、わざとらしく小首を傾げてみせる。
フリーレンのプライドを、ほんの少しだけ、くすぐるように。
「……」
フリーレンは、何も答えない。
「ねえフリーレン。意地を張るのは、もうやめにしない?」
わたしは、今度は諭すような、優しい声色を選んだ。
「あなたは、フェルンちゃんのために試験を受けているんでしょ? あの子が不安そうだったから、って言ってたじゃない。だったら、フェルンちゃんの頑張りを無駄にしちゃダメだよ」
「フェルンは私が不合格になっても、きっと合格する」
わたしは、ちらりと崖の上の方向へと視線を送る。
「カンネちゃんもラヴィーネちゃんも、きっと必死に戦ってシュティレを守り抜いたはずだよね。フリーレン、あなたが今ここで『まいりました』と一言だけ言ってくれれば、あの子たちは一級魔法使いになれるかもしれない。あの子たちの未来を、あなたがここで潰してしまうの?」
「私が負けを認めたところで、状況は変わらない」
「
フリーレンの肩が、ほんのわずかに震えたように見えた。
雨が、彼女の白い頬を伝い、顎から滴り落ちる。
「そんなのは、ただの詭弁だ」フリーレンが、絞り出すように言った。「私が負けを認めれば、カンネたちが本当に喜ぶとでも思っているのか?」
「どうして? 結果が全てってわけじゃないけど、カンネちゃんたちは覚悟をもってこの試験を受けたんだよ。当然、一級魔法使いになりたいんだよ。フェルンちゃんといっしょで不安に思ってるはず。エルフにとっては短い時だったかもしれないけど、同じパーティの仲間でしょ。見捨てちゃっていいの?」
わたしは、フリーレンの心を揺さぶるように、言葉巧みに続ける。
「それともあなたは、あの子たちの未来よりも、自分のちっぽけな意地の方が大切だって言うの? ヒンメルなら、きっとそんなことは言わなかったと思うけどな」
最後の言葉は、フリーレンにとって最も重い楔となっただろう。
ヒンメルの名を出された瞬間、フリーレンの翠色の瞳が、大きく揺らいだのがわかった。
――終わり、だ。
この戦いに負ける要素はほとんどない! と言っておこう!
こう見えて――、このエルフ、実をいうと情に厚いところがあるのだ。
ものすごく不器用で、とんでもなく無愛想だが、
今は、魔族の言葉に負けまいと必死だが、結局は弟子的ポジションに収まってしまったカンネちゃんたちを守ろうとしてしまう。
だから、フリーレンは負ける。
わたし、アナリザンドの、この完璧な言葉の罠に。魔族の呪いに!
フリーレンは、しばらくの間、俯き、何かを必死に堪えるように肩を震わせていた。
雨が、彼女の白い髪を濡らし、その表情を隠している。
周囲の受験者たちも、固唾をのんでその瞬間を待っている。
伝説の魔法使いが、降伏を口にする歴史的瞬間を。
やがて、フリーレンはゆっくりと顔を上げた。
彼女の唇が、わずかに開く。
「……わか……」
その、一音が紡がれようとした、まさにその刹那――。
ドォォォン!!!
凄まじい炸裂音と共に、わたしのすぐ横の地面が抉れ、土煙が舞い上がった。
一瞬遅れて、空気を切り裂くような鋭い音が耳に届く。
――ゾルトラーク。
それも、並の魔法使いでは到底放てない、高密度の魔力が込められた一撃。
「にゃ……!?」
わたしは思わず短い悲鳴を上げ、その衝撃波だけで身体がよろめいた。
一体、どこから……!?
索敵を怠っていたわけではないけれど、<わたし>が用いる超精密なHUDですら捉えきれないほどの魔力隠蔽。わたしは、それをおこなえる人物を識っている。
土煙が晴れると、そこに立っていたのは、紫色の髪を雨に濡らし、静かに、しかし強い意志を宿した瞳でわたしを見据える少女――フェルンちゃんだった。
その手には杖が握られ、その先端からは、まだ魔力の残滓が陽炎のように立ち昇っている。
「ふぇ、フェルンちゃん!? な、なんでここに!? ラント君たちと一緒にいたはずじゃ?」
わたしは、激しく動揺した。まさか、このタイミングでフェルンちゃんが現れるなんて、全くの計算外だ。それに、今のゾルトラーク、明らかに、わたしを狙っていた。
悲報。妹にゾルトラされる姉がいるらしい。わたしだ! なんでぇ!?
フリーレンも、驚いたようにフェルンちゃんを見つめている。
「アナリザンド様。一体、どういうことですか?」
フェルンちゃんの声は、いつもよりも低く、そして冷たい。その瞳は、一切の感情を排して、ただわたしを射抜いている。ひえっ、フェルンちゃん、怒ってる……よね?
「あ、あのね、フェルンちゃん! これは、その……なんていうか、深いわけがあってね! そう、フリーレンのためでもあり、カンネちゃんたちのためでもあり、つまりは、みんなのためなの!」
わたしは、しどろもどろになりながら、必死に言い訳を並べ立てようとする。
「説明してください」
フェルンちゃんの言葉は、短く、そして有無を言わせない響きを持っていた。
そのプレッシャーは、下手な攻撃魔法よりもずっと怖い。
「は、はいぃ。わかりました!」
わたしは、思わず背筋を伸ばし、敬礼せんばかりの勢いで頷いた。
「えっとね、フリーレンはもう魔力がほとんどなくて、このままじゃみんなにやられちゃうでしょ? だから、わたしが代表して降伏勧告したの。そうすれば、フリーレンもカンネちゃんたちも失格にならなくて済むし、わたしもゼーリエ先生との約束を果たせるし、みんなハッピー! っていう、そういう素晴らしい計画だったんだよ!」
わたしは、早口で、しかしできるだけ論理的に、事の経緯を説明する。
わかって。フェルンちゃん。わたしの想い。
わたしは続ける。
「フェルンちゃんも、わたしの味方だよね? ね? だって、フリーレンはただ負けを認めるだけで、誰も何も損をしないんだよ? フェルンちゃんだって、フリーレンが無事に試験を終えられる方が嬉しいでしょ? ね?」
わたしは、必死にフェルンちゃんの共感を求めようとする。だって、フェルンちゃんは、わたしの可愛い妹なんだから! きっと、この素晴らしい作戦を理解してくれるはず!
だけど、フェルンちゃんは、表情一つ変えずに、ただ静かにわたしを見つめている。
……あ、これあかんやつや。
「喧嘩しないって、約束しましたよね」
「約束しました。で、でも。これって試験だから! しょうがないじゃん。戦わなければ生き残れないんだし。あ、そうだ。いいこと思いついた。フェルンちゃんもいっしょにフリーレンを説得してよ。そうすれば、フリーレンも幾分軽く負けを認めることができるでしょ? かわいい弟子がお願いするんだから、フリーレンも頷くしかないって、そう思えるだろうし」
「アナリザンド様……」
「んー? なあに、フェルンちゃん」
「悪い子ですね」
ビシッ! 心がひび割れる音がしました。
ううう、フェルンちゃんに責められるなんて、そんな馬鹿な。
わたしの完璧な計画ががが――!
頭の中で、ガラガラと崩れ落ちていく音がする。
「フリーレン様は、私の魔法の師匠です。師匠が負けそうになっているのに、助けたいと思わない弟子はいません」
「フェルンちゃんは優しいから」
「一般常識の問題です」
反論は許されない。
フェルンちゃんの口撃は、ゾルトラークよりずっと速い。
「アナリザンド様が、フリーレン様を負かそうというのでしたら――」
「ま、待って。フェルンちゃん。それ以上言わないで!」
わたしは手をふりふり、必死に抵抗する。
今、それを言われたら……。わたしは! わたしはぁぁぁ~~!
「私は、アナリザンド様に杖を向けさせていただきます」
「まいりましたぁぁぁ~~~!」
超速降伏――完了。
これ(妹からの降伏勧告)はな、(姉なら)だれでもそうなるんや。
しかたないんや。