魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
「おまえにしては珍しく失態だな、ゼンゼ」
いつもの謁見室。いつもの豪奢なお椅子。
ゼーリエ先生は、いつものように傲岸不遜な態度でゼンゼ先生に冷めた視線を送っていた。
なんとか二次試験は無事突破し、みんな命を落とすことなく生還できた。
そのこと自体は素晴らしいゼンゼ先生の采配によるものだけれど、確かに失態と呼べるものではあった。シュピーゲルの脅威に気づけなかったというのが、ゼンゼ先生の失態だ。
ゼーリエ先生にシュピーゲルの管理を任せられていたのはゼンゼ先生だからね。でも、ゼンゼ先生に任せたのはゼーリエ先生なわけだから、最終的な責任はゼーリエ先生にもあると思う。
「そもそもなんだ。そのふざけた恰好は」
恰好というよりは、装備品的な?
そう、わたしアナリザンドはすっかり定番となった『アナぬい』状態で、ゼンゼ先生に抱っこされていたのである。
二次試験の結果については、まだ最終合格は発表されていない。なので、受験者のわたしが結果を聞くというのは、ちょっとどうかなと思ってもいた。
けれど、みんなの安全を保障するお助けザンドとしては、ゼーリエ先生に報告しないわけにはいかない。だから、ゼンゼ先生といっしょに怒られるのを覚悟して、いま報告しているのだ。
アナぬいの基本的効果は言うまでもない。誘惑だ。ゼーリエ先生は慣れによって抵抗力を高めていたようだが、わたしは、この魔法の効果をまだ諦めてはいない。しかも、いまのアナリザンドぬいぐるみは、角を収めてエルフ耳状態にしてある。
もしも、
ふむん。もしも、わたしがエルフだったら、フリーレンとの旅も即効で終わってた可能性があるな。想像しても詮無いことではあるけれど。
エルフという種族はおそらく、みんなが家族みたいな緩い連帯があると思うんだよね。子どもが少ない種族だからこそ、子どもを大事にするみたいな。だから、ゼーリエ先生も人間を疑似的な子どものようにみなしているわけだし。
先生の視線はあいかわらず冷え切ってるみたいだったけど、わたしのこと、本当は抱っこしたいんだって信じてるからね。
「姿かたちだけで、私の慈悲が引き出せるとでも思ったか?」
「返す言葉もございません」
ゼンゼ先生は自らの失態を認めた。
ほんの少しだけ、わたしを抱っこする腕に力がこもる。
先生が幼げな様子だから、庇護欲が120%アップ。
これには弟子がかわいくて仕方ないゼーリエ先生も唸らざるを得ないだろう。
「謝る必要はない。すべてアナリザンドが悪い」
なんでぇ!
「なぜおまえが責められるのかとでも言いたげだな。アナリザンド」
べつにそういうわけじゃないけれど。
ちなみに、ぬいぐるみ状態なので、答えはゼンゼ式。つまりは沈黙だ。
「七崩賢の複製体か。試験というにはあまりにも苛酷だと思わないか?」
『まあ、それも正しいけど。ちゃんと勝ったよ。みんながんばった』
グラオザーム先生や、アウラ様のシャドーを倒したエーデルちゃんたち。
ソリテールやクヴァールを倒したヴィアベル君たち。
劣化した状態だけれども、それら復活魔族たちをまとめて相手取ったラント君たち。
いずれも、一級魔法使いに比肩するほどの偉業だと思う。
ちなみに、勇者一行と戦ったわたしたちだけど、やはり前衛がいないのがネックだったんだよね。フリーレンがわたしのシャドーと戦っているとき、わたしたちは結構苦戦していたんだ。
けれど、そこに駆けつけたのがヴィアベル君たち。その
エーデルちゃんの解析によって、ゴーレムを直接動かすという、いわゆる憑依状態になって、戦線に駆けつけてくれた。おかげで、なんとか時間稼ぎができたという経緯がある。
その後は、知ってのとおり。
フリーレンがわたしと繋がって、シュピーゲルを破壊できた。
脅威が去ったあとには、リヒターさんはデンケンお爺ちゃんに肩を預けながら、シャルフ君はヴィアベル君に支えられながら、なんとか最奥に辿りついたってわけ。
つまりは、ゼンゼ先生が提示した最初の勝利条件を、みんな満たしたことになる。
エーデルちゃんたちについて言えば、試験は不合格だと覚悟していたけれど、みんなのために力を貸してくれた。だから、最後には、デンケンお爺ちゃんに促されて「試験結果がどう転ぶかはわからん」と言われて、いっしょに最奥に向かったんだ。
ちなみに、トーン君については、みんな忘れてた。
シュピーゲルを倒した直後には、なんか忘れてるなぁって感じだったんだけど、みんな疲れ切っていたからね。脚を負傷しているフリーレンを回復したり、少しぎこちないやりとりをしたり。フェルンちゃんがかわいかったり。カンネちゃんがようやく起きて、わたしに抱き着いてきたり。妹祭りだったり。ともかく、そんなわけで忘れてた。
それで24時間が経過した後に、ようやく思い出して跳んでみたら、ミミックに頭から突っこんで齧られていたよ。フリーレンが齧られていたあのミミックだった。間接齧られ状態だった。トーン君が食べられなかったのは僥倖として、試験結果としては失格だったのは明らかだった。
明らかでないのは、自らの意思で瓶を割ったエーデルちゃんたち。そして、デンケンお爺ちゃん。ゼンゼ先生の『どんな方法を使ってもいい』というお許しがでる前に瓶を割ったのがエーデルちゃんで、明確な『ゴーレムの使用許可』がでる前に瓶を割ったのがデンケンお爺ちゃんだ。ついでに言えば、レンゲちゃんも厳密に言えば、使用許可前に割ったけど、この子は試験結果には頓着してはいない。
「つまり――」ゼーリエ先生があぐらを組み、頬杖をつきながら言う。「おまえたちの意見としては、トーン以外は全員合格にしろということか?」
「エーデルもデンケンも、二級のままにしておくにはあまりにも惜しい人材です」
ゼンゼ先生が主張する。
「おまえにしてはずいぶん甘い判断だな。一級魔法使いであれば、どのような困難があろうと克服するとは思わないのか?」
「……」答えはゼンゼ式。
「エーデルは自らの意志で試験を放棄した。あとからルールが変わったからといって、遡及させては試験そのものが成り立たん。デンケンも同じだ」
『でも普通の試験なら、エーデルちゃんもデンケンお爺ちゃんも合格してるよね? コピーに過ぎないとはいっても七崩賢に勝ってるんだよ。大金星じゃん』
わたしはすかさずゼンゼ先生の意見に追随する。
「言葉を混ぜるな。アナリザンド」
先生は、エーデルちゃんとデンケンお爺ちゃんを分けて論じたいらしい。
ちゃんと考えているところは安心する。
『じゃあ、まずエーデルちゃんだけど……』
「その綿屑状態で、ずっといるつもりか?」
アナぬい状態ではふざけてると思われていたらしい。
ゼーリエ先生のご指摘を受けて、わたしはポンっと元に戻る。
ゼンゼ先生が少しだけ、不満げな顔になった。
アナぬいはお守りみたいなものだったのかな。
「エーデルちゃんは、七崩賢をふたりも倒したよ。一級魔法使いとしての実力を示したといえるんじゃないかな。瓶は自分の意志で割ったけど、それも撤退する勇気といえるよね」
「勇気だと? ただの弱さだろう」ゼーリエ先生は鼻で笑った。「戦いから目を背け、逃げ出しただけの小娘だ。それに、七崩賢を倒したと言っても、たまたま咬み合わせがよかっただけに過ぎん。エーデルの実力――特に戦闘能力は、二級どころか三級魔法使いの平均程度だ。おまえが言う
ぐうの音も出ない正論。でも、わたしは引き下がらない。
「違うよ、先生。エーデルちゃんはね、はぐれ者の意地を捨てたんだよ」
「意地だと? ますますくだらんな」
「くだらなくなんかないよ。意地は誇り、あるいは誉れともいうよね。エーデルちゃんは自分と仲間を守るために、魔法使いとしての誇りをあえて捨てたの。それって、一番誉れ高い行為だっていえるんじゃないかな」
そう、フランメも同じだった。
フランメは、魔族をぶっ倒すために、あえて魔法使いとしての誇りを捨てた。
不意打ちや魔力量を騙すといった欺瞞行為によって、強大な敵を葬り去ろうとした。
そうやって、人間の命を守ることを最優先にしたわけだ。
「それが強さだとでも言うつもりか」
「うん。そうだよ。合理的に考えて、二度目はないって思ったんだよね。それでも他の受験者たちにとっては有用な情報をもたらしてくれたんだよ。要するに、二次試験はみんなでパーティを組んで挑んだの。トーン君は別だけど」
忘れてて正直すまんかった。
でも、ミミックに齧られていたのを救出したんだからイーブンだよね。
「人間の連帯する強さは理解できないわけではない。だが、試験の内容は一級魔法使いとして、個の能力を測るものだ。試験内容に不備があったと言わざるを得んな」
ゼーリエ先生は、ゼンゼ先生に視線をやった。
平和主義者のゼンゼ先生は、ゲナウ先生とは違い、パーティ戦というものを想定していなかった。むしろ、パーティどうしの連帯。みんなで合格してもいいとすら考えていた。
思い返してみれば、一次試験も二次試験も、いずれも、個としての能力を測りきれてはいないように思う。本来なら、もう少し受験者たちの合格を絞っていって、最後に三次試験で一級魔法使いに値するかの見極めをすることになるはずだったんだろう。
でも、強敵の存在が――要するにわたしとフリーレンというイレギュラーが、協力し合うという状況を創りだしてしまったともいえる。協力しなければ、勝てないというイメージでみんな動いていたから。
でも、それは
これは極論になるけれども、魔法使いは
「もし従来通りに三次試験を施行すれば、どうなると思う?」
ゼーリエ先生の言葉は、ゼンゼ先生に向けられているようだ。
「レルネンの試験は、受験者たちの個としての能力を測るものが多いと思われます」
言葉すくなに語るゼンゼ先生。
わたしも一応受験者なので、その内容を伝えるべきか、躊躇しているのだろう。
「結果はどう予測できる?」
「幾人かは、なすすべもなく失格になるのではないかと」
その幾人かのなかには、おそらくエーデルちゃんも含まれる。
レンゲちゃんは、クリエーターとしての能力は凄まじい執念みたいなのはあるけれど、単純な戦闘能力は三級にも届いていない。
「でも、先生」わたしは反論する。「魔法使いにもいろいろいていいんだと思うよ。オールラウンダーじゃなくて、サポーターみたいな人もいていいよね。ブルグお兄ちゃんだって、守り特化でしょ」
「あいつはああ見えて、一通りのことはできるぞ」
朗報、ブルグお兄ちゃん。ただのロリコン扱いじゃなかった。
ゼーリエ先生が考える最低限のクオリティみたいなのがあるってことか。
「でも例えばの話だけど、エーデルちゃんが他の人の力を100倍にする能力とかあったらどうかな。エーデルちゃん自身は弱いかもしれないけれど、それくらいサポーターとしての能力は優れてるとしたら?」
「仮定的な数値を述べたところで無意味だ。だが、使いどころがあるという主張自体は間違ってはいない。エーデルの件はいったん保留だ」
検討はしてくれるってことかな。
「じゃあ、次にデンケンお爺ちゃんだけど――。戦略家として際立っていたよね。個としての能力も申し分ないし、瓶を割ったのも、みんなの生存確率を高めるためだったんだよ」
「あいつは覚悟して瓶を割ったのだろう。私の前で大言を吐きながら、結果としては試験の放棄だ。実にくだらない。デンケンには逃げ癖がある」
ゼーリエ先生の言葉は、あいかわらず冷たい。
帝国という国家が衰亡の危機にあると、デンケンお爺ちゃんは言っていた。
もともと、デンケンお爺ちゃんが試験を受けた動機は、帝国に対して助力を乞うという公のものと、個人的な動機として、奥さんの眠る黄金郷に向かうためのチケットを得るというふたつがブレンドされていた。
要するに、デンケンお爺ちゃんはそれだけの責任を負って試験を受けたわけだけど、その責任を放棄したようにみえなくもない。
「違うよ、先生」わたしは、静かに首を振った。「お爺ちゃんは、何も放棄してなんかない。むしろ、一番大事な責任を果たしたんだよ」
「仲間を助けるという小さな感傷のために、国家の存亡という大義を捨てるのが、おまえのいう責任か? 宮廷魔法使いという国を導く立場にありながら、なんともお粗末な選択だ。デンケンの望み通りいっそ不合格にしてやるのが、せめてもの慈悲というものだろう」
ゼーリエ先生こそ個人主義者だと思うんだけどな。
「最小の国家は家族だよ」と、わたしは持論を述べる。「お爺ちゃんは、ラオフェンちゃんを守ろうとしたリヒターさんの覚悟を見て、気づいたんだと思う。国っていう大きなものを守るっていうのは、結局、そこにいる一人ひとりの小さな幸せを守ることだって。だから、お爺ちゃんはまず、目の前の仲間を守ることを選んだ。それは責任放棄じゃなくて、一番小さな国を守るっていう、政治家として一番大事な仕事をしたってことだよ」
「公私混同だとは思わないのか」
「むしろ公私混同だからいいんだよ」
わたしの突飛な言葉に、ゼーリエ先生は初めて、心の底から怪訝そうな表情を見せた。その金色の瞳が、まるで未知の魔法生物でも観察するかのように、わたしの真意を探っている。
「どういう意味だ」
「先生は、魔法はイメージの世界だって言ったよね」わたしは、一歩前に進み出た。「国っていうのも同じだよ。国っていうのは、地図の上にあるただの線じゃなくて、そこに住む人たちがわたしたちは仲間だって思う大きな大きなイメージの塊なの。そして、そのイメージの一番最初の形が、家族だったり、仲間だったりするんじゃないかな」
わたしは、ゼンゼ先生の方をちらりと見た。
先生は、静かにわたしの言葉に耳を傾けてくれている。
ゼンゼ先生がゼーリエ先生に寄せている感情も似たようなもの。
ゼーリエ先生がゼンゼ先生たちに寄せている感情も同じ。
「デンケンお爺ちゃんは、宮廷魔法使いとして、ずっと帝国っていう大きなイメージのために戦ってきた。たぶん奥さんが帝国に所属しているから。帝国を守ることが奥さんを守ることだったんだよ」
「つまり、初心からしてデンケンの動機は公私混同だったといいたいわけか」
「うん」わたしは頷いた。「お爺ちゃんは最初から何も変わっていないよ。いっしょに試験を受けるうちに、仲間っていう家族みたいなものを見つけたんだ。お爺ちゃんは、その小さな国を守ることで、自分が本当に守りたかったものが何なのか、もう一度思い出したんだと思う」
「……」
「大きな目的のために、小さなものを切り捨てるのは簡単だよ。でも、それって本当に正しいのかな? 小さな幸せを守れない人が、どうやってみんなを幸せにできるの? デンケンお爺ちゃんの選択は、『公』の理想を、『私』という確かな実感で、もう一度燃え上がらせるためのものだったんだよ」
わたしの言葉に、謁見室はしばし静寂に包まれた。
ゼーリエ先生は、腕を組み、何かを深く考え込んでいるようだった。
やがて、先生は、ふっ、と短く息を吐いた。
「家族か……。それはおまえが欲しかったものじゃないのか?」
「うん。先生もだよね?」
わたしはすかさず反論する。
一級魔法使いは、ゼーリエ先生の子どもみたいなものだし。
エルフは性欲に乏しいと言われているけれど、情愛が薄いわけじゃない。
先生の瞳が遠い過去を映し出す。
「フランメも似たようなことを言っていた。くだらない感傷が、時にどんな魔法よりも強い力になる、と。……いいだろう。デンケンの件も、保留だ。最終的な判断は、面接で私が直接下す」
先生はそう言うと、玉座に深く腰掛け、まるでこの議論に飽きたとでも言うように、話題を転換した。
「それで、アナリザンド。一番肝心なことを聞いていなかったな」
わたしの心臓が、ドキリと跳ねた。
わかってる。先生が何を聞きたいのか。
「おまえは、私にフリーレンを打倒すると約束した。その結果はどうだった? おまえの口から、きちんと聞かせてもらおうか」
どうやら三次試験の一番手は、わたしみたいです。
ゼーリエ先生は、レルネン先生を呼びつけて、自らが面接をおこなうことを宣言した。
ちなみに、最初にゼンゼ先生を単独で呼びつけたのは、お説教だったからだろう。
叱るという行為はクローズドにおこなうというのが、ゼーリエ先生なりの配慮だったのだと思う。
傲岸不遜なところがあるゼーリエ先生も、実のところ弟子は大切にしている。
ゼーリエラブなレルネン先生は「ゼーリエ様のわがままは、今に始まったことではないですから」と、すぐさま了承。試験担当の地位を降りた。
かくして、三次試験はゼーリエ先生による圧迫面接とあいなったのだ。
そして、面接前に待機場所として謁見室に呼ばれた受験者のみんな。
ただし、トーン君は除く。さすがにゼンゼ先生の試験を無為にするわけにはいかないから、きちんと最低限の合格条件を満たしたものだけが、試験を突破したことになった。
それでも、二次試験の突破者は総勢20名という異例の多さになる。もちろん、全員が全員同じスタートラインというわけではないだろう。ゼーリエ先生はいままでの試験をおそらくすべて総覧してきた。実力を見せたヴィアベル君たちが一番有利ってところかな。逆に、エーデルちゃんやデンケンお爺ちゃんはマイナススタートだと思う。
「アナお姉ちゃん」と、声をかけてきたのはカンネちゃんだ。
緊張しているのか、顔の筋肉が少し強張っているのがわかる。
「ん。どうしたの?」
「面接を突破するコツとか教えてよ」
なるほど。ゼーリエ先生のことを一番よく知っていると思われるわたしに聞いてきたか。
実にかわいらしい妹的な戦略だ。でも、わたしもまだ合格したわけじゃないんだけどな。
それでも、ゼーリエ先生が何を求めているかはだいたいわかってるつもりだけど。
「ゼーリエ先生は強い子が好きみたい。だから、ひるんじゃダメだよ」
正直なところ、カンネちゃんの実力は一級魔法使いには届いていない。
おそらく、素の実力だけで合否判定されれば、不合格になると思う。
ただし、ゼーリエ先生にも好みというのが存在する。
簡単に言えば、バトルジャンキーなところがあるので、戦闘に対する熱意というか、先生と同じく戦闘狂的な性格があれば、プラス補正が働くのではないかと推測される。
「でも、私強くないし」
「強さにもいろいろあるってことだよ」
わたしは背伸びして、カンネちゃんの頭を撫でる。
されるがままのカンネちゃん。なかなかの妹力。これも強さだ。
そうしていると、フェルンちゃんがプチムッスゥ顔になって、こっちを見てた。
もしかして、嫉妬ですか!?
うちの妹がかわいすぎるんですけど!
「んー。フェルンちゃんも撫でてあげる」
「結構です」
なんでえ!?
もしかして、焼肉臭くされるとか思ってる?
そんなこと絶対にしないのに。
「試験中ですよ。アナリザンド様」
ふむん。公平性に欠けるという判断だったか。
クールなフェルンちゃんもかわいい。
その横にいたフリーレンは、いつものように無表情のまま何かを考えている。
「面接か……。これは私とフェルンを受からせる気はないね」
フリーレンの予測は、ゼーリエ先生との長い因縁のせいだろう。
同じエルフどうし、通じ合うものがあるのかもしれない。
「どうしてそう思うのですか?」とフェルンちゃん。
「たぶん、ゼーリエは直感で合格者を選ぶつもりだ」
「直感ですか? なぜそれが不合格につながるのでしょう」
「イメージの問題だよ。ゼーリエの想像する魔法使いのイメージを超えることができれば、おそらくゼーリエは合格という判定を下す。私は未だにゼーリエが望むほどの魔法使いにはなれていない。だから、私は不合格になる。でも、フェルンはたぶん合格するよ」
そもそものところ――。フリーレンが試験を受けたのはフェルンちゃんがひとりで試験を受けるのを不安がったからというものがある。フリーレン自身は、あまり合否判定に頓着していない。そりゃ、受かるか受からないかでいえば、受かった方がいいんだろうけれど、そこに執着はしていない。フリーレンにとって、一級魔法使いという資格は、一瞬で過ぎ去る風景みたいなものだし、すぐに通用しなくなるとでも思っているのだろう。
でも、不満だ。
「フリーレンは、フェルンちゃんが合格すればそれでいいって思ってる?」
「旅を続ける分には、誰かが資格を持っていれば問題ないからね」
「フリーレンはそれでいいの?」
「別にいいも悪いもない。ただ事実を言っただけだ」
フリーレンらしい合理的な帰結。
「でも、フェルンちゃんは?」
「フェルンがどう思うかは関係ないよ」
確かに、この三次試験はゼーリエ先生の価値判断に基づくものだ。
価値とは、そもそも心理的な価値に過ぎず、実体があるものじゃない。
要するに、フリーレンにとってゼーリエ先生の価値判断を揺るがそうとか、変えてしまおうとか、そういう気概があまりないのだろう。
そもそも、一級魔法使いになる価値というのは、言ってみればゼーリエ先生に褒めてもらうということが根幹にあるわけだし、フリーレンはゼーリエ先生に褒めてもらおうなんて思っていない。
「フリーレン。必ず試験に合格してね。フェルンちゃんの師匠なんだから」
「おまえに言われずとも……。いや、いい。べつに積極的に試験に落ちようとは思ってない」
そんなこんなで、やはり面接の一番手はわたしが呼ばれた。
約十分後の面接の後。
わたしは扉の前で待っていた心配そうなフェルンちゃんとフリーレンの前に立つ。
表情は見せない。いや見せられない。
長めの髪の毛がシェルターになって、わたしの気持ちを覆い隠す。
「アナリザンド様。合否判定はいかがでしたか?」
フェルンちゃんが不安そうに聞いた。
だけど、わたしはフリーレンに向けて決死の表情を創った。
涙でぽろぽろ。今のフリーレンならちょっとは効果があると信じて。
「お願い。フリーレン。不合格になって!」
「はぁ?」
呆れた声が待機室に響いた。
理由はあとから説明しよう。
遅くなってごめんね。