魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
超常の戦いは熾烈を極めた。
もはや、魔法という固有の概念領域すら必要ないふたりは、光線を撃ちまくり、地獄の業火を生み出し、天を引き裂き地は穿たれ、無数の剣を生じさせ、弾丸のように放ちまくっている。
精液と愛液をどぴゅぶしゃ飛ばしあい、互いにグチョ塗れになりながらふたりして狂笑している。しかし、それはえっちではなくて、単に相手を屈服させるための行為。強姦魔どうしがなぜか服を脱がしあって、顔射バトルしてる感じ。
なんぞこれ。
新手のバトルファックか。
いや、正確に言えば
なんというかこう……わたしからすると、ドラゴンボールのヤムチャ視点だった。
光を一瞬だけ認識し、次の瞬間には結果が生じている。そんな感じ。
ドカーンというマンガみたいな擬音が鳴り響き、森が燃え、木が倒れる。わたしは震える。
せんせーどうしよう。この場合の先生は一般視聴者先生のことだけど……。
配信中ではないからどこにもいないけど、だからこそ問いかけたい。
わたし、腰抜けちゃってるんですけど!?
自然破壊もやめてほしい。環境保護団体から怒られちゃうよ。
でも、まあ正直なところ、わたしがショックを受けていたのは自然破壊より人工破壊のほう。
――わたしのお家。
せっかく十年くらいかけてがんばって家を作ったのに。
がんばって畑をたがやして、どうしても人間の街でしか手に入らないものはこっそり変装してでかけて人間のお手伝いをしておこづかいをもらって、それでようやく紅茶をたしなむ程度にはできたのに。
単なる余波で、家は単なる残骸に戻っていた。
ああ、色即是空ってこういうことを言うんだね。わたし悟っちゃう。
わたしは現実逃避していたのだ。
しかし、現実というものは――この場合の現実はわたしの網膜に映った幻想という意味での現実だが――差し迫ってくるものだ。
例えば、流れ星のように。わたしが隠れてる木陰を光線がかすめる。
「ぴゃ」
ゼーリエが魔法陣を多段発生させ、周りの被害も考えずにグミ撃ちしていた。
ソリテールはこれを防御魔法を展開して防ぐ。人間の魔法の研究成果だ。
「あなた、すごいわねぇ。私の命日はもしかして今日なのかしら」
「今、弾道予測をしていくつか避けたな? HUDを使っているのか」
「そうよ。あなたの研究結果、なかなかおもしろかったわ」
「ふん、HUDを使いこなしているくらいで調子にのるなよ。私はまだ実力の百分の一も出していない。おまえごとき10パーセント程度で十分だろうがな」
「あら奇遇ね。わたしもなの」
「では私を」ゼーリエが光の槍を生み出す。「もっと楽しませてみせろ!」
投擲。
それは神槍といってもいいレベルだった。絶対必中攻撃つきとかそんなやつ。
ソリテールは、剣を結集させ、絶対なる一を無限の剣で打ち砕く。
エネルギーの奔流が一点に結集し、臨界を迎え爆発する。
家の残骸がキレイに吹き飛ばされ、地面しか残っていなかった。
ああ、もうむちゃくちゃだよ。
視界が晴れたあとは、ふたりの姿は対照的だった。
ゼーリエが余裕の表情なのに対して、ソリテールは表情こそ崩れていないが、服が汚れていた。魔族にとっての服は精神兵装の一種。それが汚れているということは、多少のダメージが入ったということになる。
このままいけばたぶんゼーリエが勝ちそうかな。知らんけど。
いや、わたしの語彙力が低いわけじゃない。
もうね、ぜんぜん何が起こっているのかわからんの。
達人クラスの読みあいとか、バトルIQとか、暴力とは程遠いところで暮らしてきた一般魔族がそんな高度なことがわかるわけもない。
ただ一つだけ言えるのは――。
これってどっちが勝ってもわたしに待ち受ける運命って最悪かなってこと。
だって、いまのわたしの立場はなぜだかわからないけど賞品扱いだ。
ソリテールが勝てば、脳クチュルート。(あっ……あっ……あっ)
ゼーリエが勝てば、こちらはいろんな意味でのかわいがり。(あっ……あっ……あっ)
あれ? これってもしかして詰みというやつでは。
もちろん――ゼーリエのほうがマシだとは思う。
いちおう商売の相手方ではあるわけだし、わたしはおそらく弟子ポジに収まっている。
でも、わたしの貞操も今日までなのかなぁ……。
そう思うと、少し哀しくなってしまう。
「少しだけお話ししましょう……。あなたにとっても悪くない提案よ。いま私達は互いに互いを高めあい、進化しようとしている。ちょっと早いかもしれないけれど、感想戦を交えるのも悪くないのではないかしら。あなたは戦いが好きなのでしょう? もっと強くなりたいのでしょう?」
ソリテールが提案した。
「命乞いの変形か?」
ゼーリエも興が乗ったのか、一時戦いの手を止める。
「ずいぶんな言い方ね。私はいままで常に命乞いを受ける側だったわ」
「今日が初めて命乞いをする日になるわけだな。よかったじゃないか。貴重な経験だぞ喜べ」
「素敵な贈り物ありがとう。でもよくわからないのよね。どうして、あなたはあの小さな魔族を気に掛けるのかしら。私よりも人間の擬態がうまいのは驚いたけど、あれは魔族よ。どこまでいっても人間とは異なる生命なの。あなたは獣姦好きの変態なのかしら」
「よくもまあペラペラとよく動く舌だな」
「私は本当に驚いているのよ。だって、あなたはあれを助けに来たわけでしょう。私があの子を少し小突いたくらいで、空間転移まで使ってここに飛んできた。それって、つまり、あなたとあの子はつながりがあって、ずいぶん前から仲良しだったってことよね」
「それがどうしたと言っている」
「私には
「おまえにはそう見えるのか?」
「いいえ。私にはそういった機能はないわ。経験を積み重ねて推測することはできるけれど。私は私を知っている。したがって、解剖学的な差異から導かれる精神構造の統計的差異として、あの子も人間の心を装っているに過ぎないと断言するわ」
「統計という言葉で誤魔化すな。虫唾が走る」
「何か問題でも? これは科学的思考というやつよ。人間が差異を理解するにはそうする以外になにがあるの? クオリアの差異を越えて人間と魔族がわかりあう唯一の可能性じゃないの」
「おまえには共存という言葉がないのだろう。その言葉がないのにその言葉を発する。その時点で、おまえは人間失格だ」
「じゃあ、どうしてあなたはあの子を人間だと定義するの?」
「完全な人間とは言い難いだろうがな。人間未満。赤ん坊。少しさかしいだけのガキだ」
「どうしてと聞いているの」
「おまえには理解できないだろう」
ソリテールは狂ったように笑った。
「わからないわね――。わからない。わからない。どう考えても理解できない。つじつまがあわない。私は人間に優しい言葉をかけることもできるわ。命乞いの時間だってあげてる。痛くしないようにすぐに殺してあげるし、時々は愛の言葉を受けたこともあるのよ。どこが違う? ねえ聞かせてよ。お姉さんに教えてちょうだい!」
「まるで命乞いのような絶叫だな。うまくできたじゃないか」
「そう。そうよ? 私は命乞いもうまいの。あいつとは違う」
「おまえは思想的に敗北したから、アナリザンドを攻撃したんじゃない。おまえ自身もわかっていないようだから教えてやろう。あいつが生まれるのを望まれる胎児だとすれば、おまえは未成の命、そのまま誰にも看取られず母の胎の中で息絶えた子……
「あ――は。あはははは。ははははははは。
「残念だが、私は死姦には興味がない。不合格だ。帰れ」
再び、戦いが始まる。
こそこそ……チラ。
ねえ、思ったんだけど、このままどこかに逃げるというプランはどうだろう。
いわゆるプランBってやつだ。そんなもんはねぇとか言わないで。
お空の上では絶賛ドッカンバトル中なんだけど、今のところ決着がつきそうにない。
わたしなんかにかまっている暇はないからだろうけど、そのままスゥ―っと空気に溶けたい。
わたしはいない。どこにもいない。
「アナリザンド」
「ひゃい!」
突然、木の裏から声をかけられ、わたしは飛び上がった。
恐る恐る覗いてみると、息も絶え絶えなゼンゼだった。
「ゼンゼ先生、どうしたの?」
「突然、ゼーリエ様が空間転移を使って出かけられたので、みんなして追いかけたんだが……ハァ……空間転移は今のところまともに使えるのが私しかいなかったんだ。だから来た」
「先生、もしかしてわたしを逃がしてくれるの?」
「そう思っていたんだがな……」
ゼンゼはチラリと空中を見る。マンガの手抜き戦闘描写になっているそれを。
「ゼーリエ様が負けるとは微塵も思わないが、何もしないまま戦闘領域を離脱するというのも、よろしくない気がするんだが、君はどう思う?」
「ゼンゼ先生はどっちが優勢とかわかる?」
「わからない……。あの魔族は異常だ。普通の魔族にない狂気を感じる……。自暴自棄……喚きちらす赤子のような。ゼーリエ様が何か煽るようなことを言ったのかもしれない」
「確かにありえそう」
「手伝ってくれるか?」
「う、うんいいけど」
「どうした? 何か問題が?」
「あとで、命を助けたんだから10億APよこせとか言われないかなって……」
「ああ、そんなことか。言われるに決まってるじゃないか。あのゼーリエ様だぞ。絶対に言う。だが逃げ出した場合は100億APかもしれない。君が理性的な選択をすることを期待する」
どう考えても思考が反社の人なんですが、それは!?
大陸魔法協会は反社だった!?
わたしはガクリとうなだれた。是非もなかった。
「ゼンゼ先生。わたし攻撃魔法って無理なの」
「そうなのか? まあ確かに魔力は少ないが、一般人よりは多いだろう。私もさきほどの転移でほとんど魔力は残ってないしな」
「魔力はあるんだけど――、攻撃しようとする意志がないの。殺意がちょっと少なくて、カタチにならないんだよ」
攻撃方法は自爆くらい。それって、要するに周囲すべてをまきこみながらすべてを滅ぼすって感じで、力にまったく指向性がないということだ。
「だから、先生を杖がわりにしていい? だったら力に指向性が持たせられるから。先生のキレイな髪の毛に魔族の穢れた手が触れちゃうことになるけど……」
「なんだそんなことか。君は私の手を引っ張って月に連れていってくれただろう」
ゼンゼがわたしの手をとる。
ふにふにされる。
「猫の手みたいだな。クセになりそうな感触だ」
「んん。せ、先生もわたしに欲情してないよね?」
「そうだな。私はゼーリエ様のようにギラついた情熱はないんだ。だが――そうだな。あのとき見上げた月はキレイだった。君ともう一度見たいと思うくらいには」
か、かぁーーーー。
無自覚。この人無自覚で直球ストレートをぶちこんでくるタイプですよ。
しかし、いまはそれどころじゃない。
お赦しがでたので、わたしは、ゼンゼの髪の毛ごとピタリと背中に抱き着く。
わたしの魔力を譲渡するにはこの恰好がいちばん効率がいい。
「先生、HUDは使える?」
「当たり前だ。HUDは今や一般魔法管制システムと呼ばれている。私達が習得してなかったらゼーリエ様に言葉にできないほどかわいがられるよ」
ゾクってすること言わないで。
「じゃあ、いくね。充填していくから我慢できなくなったら発射して」
ゼンゼのHUDに状況が次々とアップデートされていく。
魔法ネットワークエネルギー充填開始。
電影クロスゲージ明度20。
セイフティーロック、解除。
その際にも、魔力を単純な数値化したものがとてつもない勢いで上がっていく。
「4万……5万……12万。おい、これはなんだ」
ゼンゼが焦った声を出した。ゼーリエは自らの魔力値をHUDで測定させたことがある。その時の数値が約42000程度だったはずだ。
「先生はこの星の人口は知ってる?」
「わからんが3000万人くらいか?」
「いいえ、10億7千万人くらいはいるよ。さすがにそこまで借りる必要はないかな」
「57万……80万……ひとつ聞きたいんだが」
「なに先生」
「私の髪、アフロになったりしないよな?」
ゼンゼは杖を持っていない。魔力伝導体として髪の毛を使う。
よって、今回の魔法も、最終的な発射口は髪の毛ということになる。
「あ」
「おい……」
「大丈夫だよ。えへへ」アナリザンドは微笑を浮かべた。「たぶん」
「ちょ、おまっ」
総魔力数自体は途中で上がらなくなった。
アナリザンドが調節したおかげで、たったの500万ぽっちだ。
対魔法ショック。
対魔力防御。
「君。製造物責任って言葉は知っているかな。カウントが進み始めたんで、速やかに教えてほしいんだが……これからどうにかして止める方法はないのか。10……9……8……早く……早く!」
もはや止めようがない。
ゼンゼの髪の毛は神々しく光り輝き、月の女神様のようになっている。
アナリザンドはもうどうにでもなれと思い、ゼンゼのふんわり髪に顔をうずめた。
「そのときは、うん……請求はゼーリエ先生のと一本化しておいてください」
「債務になることをあきらめるな! ああッ! ゆ、揺らしたらダメだ。エネルギーが制御できな!? あっ……」
ゼロ♡
ゼンゼは500万人分の魔力を発射した。
それは極太のレーザーのように、空間を切り裂き、ソリテールが引きつった顔を浮かべるのが最後に見えた。
地上から空に向けた攻撃でよかった。
もしも、山にぶち当てていたら、消し飛んでいただろうし、都市に当たっていたらと思うと恐怖しかない。
ぷしゅうううう。
「あち。あちあちちちち……髪の毛。熱い。冷やして冷やして」
アナリザンドが民間魔法の氷を出す魔法でゼンゼの髪を冷やしていく。
よかった。なんとかアフロはまぬがれたみたい。焦げてもいない。
なんかイカ臭いけど……。
「ゼーリエ様が、君のおしりをぺんぺんしたい理由がよくわかったよ」
「わたし……やり方がわからなくて……本当は先生と仲良くなりたかっただけなの」
「命乞いも達者だな」
「ごめんなさい」
ひとまず、謝罪したのだった。
「……あれを避けたか。空間転移まで学習しているとはな」
ゼーリエは睥睨している。
ソリテールは肩のあたりをおさえていた。
身体がえぐられ、黒い霧のような魔力がこぼれおちている。
「油断したわぁ……。こんなデタラメな力……ありえない」
「楽にしてやろうか。こう見えて、私は慈悲深いんだ」
「人間ってやっぱり嘘つきだわ。そんな笑いながら言うセリフじゃないわよ」
ゼーリエが手をかかげる。
取るに足らない一般攻撃魔法で終わりだ。
一撃で終わる。闇から闇へ。滅することがただ唯一の救い。
「せんせ~!」
地上から小さな魔族の声が響いた。
一瞬、ほんの刹那の時間、ゼーリエは気をとられる。
その隙に、ソリテールは消えていた。
「空間転移で逃げたか――」
「ゼーリエ先生~~」
ふよふよとおぼつかない飛行魔法でアナリザンドが寄ってくる。
魔力探知レーダーを使えば、今なら追えるかもしれない。
だが、実をいうとゼーリエは戦うことは好きだが、相手を殺すことには興味がない。
それよりも――。
触れられることすら恐れていた魔族の少女が、泣きはらした顔で寄ってくるという事実のほうが、得も言われぬ興奮と疼きをゼーリエに与えた。
魔力の輪っかがアナリザンドを拘束する。
「にゃ、にゃんで」
「どうしたアナリザンド。これから楽しい楽しい借金返済計画の話だぞ。ついでに家も建ててやろうか?」
「それ壊したの先生……」
「おもしろいことを言うな貴様。おまえには教育が必要なようだ」
「わたし先生に学ばなくても、ネットで自習できるし」
「これだけセキュリティガバガバな状態でか。ふざけるなよ」
「ふざけてないし! ゼーリエ先生やあの魔族のお姉さんが例外なだけ。たぶん」
「おまえ、またあの魔族が来たらどうするつもりだ?」
「せんせーのところに逃げこんでもいい?」アナリザンドが小首を傾げる。
ゼーリエがピクっと反応する。
「好きにしろ。首輪をつけて飼ってやるぞ」
「他の先生たちはやっぱり生身で逢うのはまだ抵抗があるんじゃないかな。ネット越しのわたしでもあれだけ紛糾したんだし」
「それはあの子たちが未熟なだけだ」
そして、ゼーリエはゼンゼに視線をやった。
「ゼンゼ、おまえはアナリザンドに逢っていたんだな。どうして黙っていた?」
「ゼーリエ様……」
「謝る必要はない。私は二十年前からこいつに逢っていた。黙っていたのは私の方が先だ」
「……」
「だんまりか。都合が悪いといつもそれだな。だが――悪くない。おまえの沈黙はおまえにとって大切なものを守ろうとした結果だ。おまえは、アナリザンドを利用しろという私の言葉を忠実に守っている。そして事実、利用せしめた。誇れ。私が認める」
「ゼーリエ様は変わられました」
「私とて変わる。変わらないものなど、この世界にはなにひとつない」
ゼーリエは少しの間、何かを愛おしむような視線をどこでもない空間に送り、それから再びゼンゼの方に向けた。
「ゼンゼ。こいつが家を作るのを手伝ってやれ」
ゼンゼは軽い会釈でそれに応える。
「せんせー、紅茶欲しい」
アナリザンドはここですかさず要求を追加。
さりげに服の裾を軽く握るところがポイント高め。
「いくらでもいいぞ。どうせ借金が増えるだけだからな」
「いいもん。だったら、借金分のお金を発行すればいいだけだし」
「そんなせこい真似を私が赦すはずもないだろう」
「マゾ虐反対! あにゃああああああああああああああ!!!!」
ゼーリエは容赦なくアナリザンドの頭を握りつぶす勢いで圧搾していた。
「ゼンゼ。紙を出せ」
「はい」
出ましたるは借用書。
「おいくらを?」
「そうだな。ひとまず百兆でいい」
「多いよ!」アナリザンドは抗議する。
けれど、ゼーリエは一切聞かず、アナリザンドに書かせるのだった。
出来上がったのは、ただの紙切れ一枚。
そこにはたどたどしい字で『アナリザンドはゼーリエにひゃくちょうAP借りました。かならずおかえしすることをちかいます』と書かれてある。
ゼーリエが指を鳴らすと、それは転写され、二枚に分かたれた。
一枚はゼーリエのもとに。もう一枚はアナリザンドのもとに。
「ゼーリエ様。なぜ保証人に」
「こいつの返済能力に期待なんぞできるか」
「……」
矛盾している。
だが、ゼンゼは沈黙した。いつもの所作だった。
最後にアナリザンドは嫌がりながらも、ギュっとそれを抱きしめる。
本当にうれしそうに。
焼野原になってしまった大地で、アナリザンドは借用書を太陽に掲げる。
負債は命だ。
あなたが借金を返すまで生き延びなければならないから。
利子は愛だ。
あなたが生き延びる時間を増やすから。
債権者は母だ。
あなたがいつか借金を返すのを忍愛強く待っているから。
保証人は父だ。
あなたがいつか借金を返すことを信じてくれるから。
債務者はわたしだ。わたしが生まれた。