魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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幻影鬼

 

 

 

 

 フェルンは夢を見た。

 

 そこは何年か前、ハイターがまだ生きている時で、自分はまだ幼い少女だった。

 ハイターは優しげな眼差しで、ベッドから上半身だけ起こしフェルンを見ている。

 フェルンは傍らの椅子に座り、ハイターの言葉を待っていた。

 ハイターは老いている。

 もうあとわずかの時間しかない。だからひとつも聞き逃さないために。

 

「フェルン、これからはあなたの姉の言葉をよく聞いて良い子にしているんですよ」

 

「ハイター様、姉とは誰のことでしょうか。フリーレン様のことですか。それともアナリザンド様のことですか?」

 

「どちらもです」

 

「けれど、ハイター様。フリーレン様はアナリザンド様を認めておりません。おふたりは時々まったく違うことをおっしゃったりもします。フリーレン様はアナリザンド様をお受け入れなさらないので、私が代わりに申しあげても話はすれ違うばかりです。私はどちらの言葉を優先すればいいのでしょうか」

 

「これは、難しい問いですね。一概にどちらをとは言えません。フェルン、考えることです。どちらがあなたにとって良い言葉であるか、その時々で相手の話をよく聞いて考えなさい」

 

「わかりましたハイター様。そのようにいたします」フェルンは答えそれから困った表情になる。「では良い言葉とはなんでしょうか」

 

「あなたを健やかに良い子に成長させてくれる言葉のことです」

 

「それでは良い子とはなんでしょうか?」

 

「良い行いをする子どものことです」

 

「では、良い行いとはなんでしょうか?」

 

 フェルンはハイターの言葉がもっと聞きたくて言った。

 良い行いくらいは、フェルンは既に知っている。それは聖典に書いてある。

 すべてをそらんじるくらいには、フェルンはそれらを覚えている。

 けれど、ハイターの言葉で聞きたかった。

 ハイターのまなざしが柔らかくなる。

 

「欺かず、敬い、誠実であり、相手が悪いことをしたら叱ってあげ、謝れば笑って赦してやり、良いことをおこなえば褒めてあげ、誰かが寂しがっていたら話を聞いてやり、誰かが苦しんでいたら慰めてやり、不幸な人がいるならその人の幸福を祈り手助けをすることです」

 

「私は良い子になれるでしょうか」

 

「フェルンはつねにすでに良い子ですよ」

 

「自信がありません。私は本当にそうなのでしょうか」

 

「大丈夫です。私が保証します」

 

 ハイターはフェルンの頭を撫でた。

 

 フェルンはくすぐったそうに目を閉じた。泣きそうだった。

 

「ハイター様は、私が良い子にしていれば、逢いにきてくださいますか」

 

「ええ、もちろんです。あなたを褒めるために時々は逢いにいきましょう」

 

「ハイター様は天国に行かれるのに、どのようにして逢いにきてくださるのでしょうか」

 

「聖典には霊の身体となってと、はっきり書かれてあります」

 

「では――」フェルンは最後の問いかけをした。「私の妄想とハイター様の霊体はどのように見分ければよいのでしょうか?」

 

 すると、ハイターはとつぜん黒いモヤに覆われアナリザンドの姿になった。

 

「フェルンちゃん。それは不可能なの。あなたがあなたというフィルターを通して世界を認識する限り、あなたは世界を見たいように見てしまうのだから」

 

 

 

 

 

 場面が移り変わり、今度はつい最近の出来事のようだ。

 そこでは、いつものようにアナリザンドが配信をしており、フェルンはそれを視聴していた。

 

「こんマゾ~~~~。家無き子のアナちゃんだよ。同情するなら金をくれ~~~」

 

 どうやら家が壊れたらしかった。

 

 今は自然み溢れる――というか野生ど真ん中にガゼボのような人工物を建てて、そこで配信をしているようだ。

 

「あ、フェルンちゃん。こんにちわ」

 

 まだ小窓に何も打ちこんでいないのに、アナリザンドはこちらを見つけ、そんなふうに笑っている。フェルンは驚きつつも「こんにちわ。アナリザンド様」と言った。

 

 それから、「そちらにうかがってもよろしいでしょうか」と、そのときはそれが正しく、そう言ったのだった。

 

「もちろん、いいよ。おいで」

 

 フェルンはニュルンと小窓の中に入りこむ。

 奇妙なことに、そのときのフェルンはそうなることが正しいと疑わなかった。

 

 目の前にアナリザンドがいた。

 フェルンよりもだいぶん身長が低く、顔も、手も、足も精巧な人形のようにキレイだ。

 そしてかわいらしい。姉を名乗る存在は妹のように小さかった。

 

 ふと振り返ると家があった。丸太を組んだ丁寧につくられた家が自然の中に屹立していた。

 角度を変えれば、こんなものである。

 家、ちゃんとある。

 

「みんなには内緒だよ」

 

 詐欺だと思った。

 

「アナリザンド様。あなたは本当にいらっしゃるのですか」

 

「フェルンちゃんには何が見えているの?」

 

「アナリザンド様が見えています」

 

「フェルンちゃんには何が聞こえているの?」

 

「アナリザンド様の声が聞こえています。けれど、それも私の夢なのかもしれません」

 

「わたしはここにいるよ。フェルンちゃんをずっと待ってる」

 

 ゾクリ……と、フェルンの胎のあたりから疼きにも似た痛みが襲ってくる。

 初めての生理痛にも似た痛み。怖さ。不安。そして期待。

 

「失礼します……」

 

 フェルンはずっとそうしたかった。

 アナリザンドの柔らかそうで真っ白な頬っぺたを伸ばしたかったのだ。

 

「ふにーん」

 

 お餅のような感触だった。

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 馬車がゴトゴトと揺れている。

 フェルンはフリーレンにもたれかかるようにして眠っていた。

 

「起きた?」

 

「……」

 

「そろそろ村に着くってさ」

 

「そうですか」

 

 あのとき、ハイターは何か言ったはずだった。

 アナリザンドが出てきたのは夢だからこその改鋳。

 まどろみのなかで、言葉が消えて感情だけが残留している。

 その感情も名づけることを忘れられて、不確かで曖昧な感覚だけが残った。

 

 赤ん坊が感じる不安に似ているのかもしれない。

 

 フェルンはさらにフリーレンに寄りかかる。

 頭を押しつけるようにすると、確かなものはそこにあり、フリーレンはそこにいた。

 

「何?」

 

「いえ……フリーレン様……」

 

 フェルンはそのまま視線を下にして、ゆっくりと頭を回転させる。

 現実感が少しずつ回復していく。

 連想されたのは違和感。

 最後に変わったアナリザンドの姿。

 

「どうしたの?」

 

「フリーレン様は、ゾルトラークの開発に貢献なされたのですよね」

 

「よく知ってるね」

 

「フリーレン様は魔法を魔法であると識っているかたでございます。現実主義者であり、魔法研究の第一人者であるともいえます。人類魔法史にもきちんと書いてありますから」

 

「私としては、べつにそういうつもりはなかったけどね。時間がたくさんあったから、そうしただけで、人間たちが勝手にそう評価してるだけだよ」

 

「フリーレン様は冷静に鋭く魔法を分析なされます。でしたら、魔法は魔法でしかなく、すべての魔法は代替できるもののはずです」

 

「そうだね。どうしたの、そんな当たり前のこと」

 

 フリーレンの問いに、フェルンは困った顔になった。

 すべてがすべてに代替可能なら、特別な魔法なんてものは存在しない。

 かけがえのない魔法なんて存在しないことになる。

 冷たい分析者の思考には、ただ、人をより効率的に殺せるかどうかという指標だけが存在する。

 

 けれど、フェルンはフリーレンが『花畑を出す魔法』を特別視していることを識っていた。

 フリーレンがヒンメル像に花冠をかぶせたとき、彼女はうっすらと笑っていたのだから。

 あのとき、フリーレンは分析者ではなく、ただのかわいらしい女の子だった。

 けれど、ただのかわいらしい女の子であることを世界は許してくれない。

 フェルンは人が人に殺されるという事実を、記憶に裂傷として刻まれている。

 

「フリーレン様は、HUDは使われないのでしょうか」

 

 フェルンは傷つけないことを願って、そっと言った。

 

「ああ、ゼーリエが創った魔法ね」

 

「はい。人間の魔法です。一般魔法管制システムとしてデータリンクし、射撃補正、魔力探知、魔力測定など、あらゆる面で戦闘において有利に働きます」

 

「まあ、フェルンが言いたいこともわからないではないよ。私もおっかなびっくり使ってみたことはある。確かに便利そうだった」

 

 フェルンは見上げてみた。

 フリーレンは冷たく馬車の床を見つめていた。

 

「けど、あれは魔族の呪いに繋がっている。視界を奪われ、それどころかまちがったものを見せられる危険があるんだ。おおもとの呪いを解析しないと、危険すぎて手が出せない。大丈夫だよ。たぶん1000年もすれば解析できる」

 

「それでは間に合わなくないですか?」

 

「どうして怒ってるのかな、フェルン」

 

 フリーレンはのけぞるように上半身をそらした。

 

「私は心配なだけです。もしHUDを使ってくる魔族がいたらどうするんです?」

 

「そんな魔族がいるわけないよ」

 

「どうしてそう言えるんです?」

 

「魔族は自分の魔法に執着しているんだ。長い時をかけてひとつの魔法を研鑽する。だから、人間の魔法を使うなんて、自らの矜持にかけてできないんだ。自己否定になってしまうからね」

 

「フリーレン様は多くの魔族と対峙してこられたのでしょうが、それでも異常な個体がいないとも限らないのではないでしょうか?」

 

「確かにね。そのときはまた考えをあらためるよ」

 

「ですから、それでは遅いと申しあげております」

 

「何を焦ってるのフェルン?」

 

「フリーレン様……、アナリザンド様の配信に魔族があらわれました」

 

「ふぅん。まあ、他の魔族の魔法を参考にすることくらいは魔族にもあるよ。アナリザンドとその魔族が楽しく魔法談話でもしてたの?」

 

「いえ、アナリザンド様はすぐに接続を遮断されました。ですが、あの魔族は言っていました。人間を研究していると。人間の魔法も研究している可能性があります」

 

「だから、フェルンは心配してくれたんだ」

 

「はい」

 

「良い子だね、フェルン」

 

 フリーレンがフェルンを撫でた。

 フェルンは目をつむり、なされるがままになる。

 

「ゼーリエを信用していないわけじゃないんだ。でも、他人が解析したものは未知の部分がどうしても残る。私がゾルトラークや飛行魔法を人間が使えるようにしたのは、それらの未知を殺したかったからだよ」

 

「原理不明でも、フリーレン様は飛行魔法を使っておりますでしょう」

 

「フェルンの言いたいこともわかるよ。私だって頭の中までお花畑じゃないんだから、利益になるならなんでも利用してしまえばいいという考え方もわかる」

 

「でしたら――」

 

「フェルン。ゼーリエは()()()()()()()よ」

 

「え?」

 

「ゼーリエは()()()()()()使()()()()。似ている魔法は使えるかもしれないけれど、魔法通貨を女神の魔法で抑圧するなんてできるはずもないんだ」

 

「先ほど、ゼーリエ様を信用しているとおっしゃったじゃないですか」

 

「それなりにはね」フリーレンはそっけなく言った。「フェルン、多かれ少なかれ人間も魔族と同じように嘘をつく。それだけじゃない。思いこみや勘違いからその人自身が騙されてる場合だってあるんだ。信じきってはダメなんだよ」

 

「すべてを疑えとおっしゃるんですか?」

 

「すべてを検証すべきだと言っているんだよ。飛行魔法は比較的信用できる部分もあった。だから使ってるんだ。私の中で何度も試してみたからね」

 

「人間にはそんな時間はありません」

 

「そうだね。だから、フェルンは使ってもいいよ」

 

「では、HUDを今すぐにフリーレン様のモノにしてください」

 

「検証には時間がかかるんだ。仮説をたてて、失敗を繰り返し、連続試行の果てに、最後に削ぎ落されて残ったものが真実なんだよ。それには膨大な時間がかかる。わかるでしょ。フェルンがゾルトラークを完璧に習得するまでにかかった時間を考えれば」

 

「フリーレン様はすべてを自分おひとりでやられるおつもりですか?」

 

「できるならそうしたいとは思っているよ。でも、すべてを解析するなんて千年の時があっても不可能だからね。私だって妥協している。本だって読んでるし」

 

 フリーレンは手に持っている魔法の本を見せるようにした。

 彼女はくだらない魔法を蒐集することを趣味にしている。

 未知なるものに誰かの手垢がついていてもよいのだ。

 フリーレンは処女厨なわけではない。

 

「でしたら、フリーレン様はHUDをお使いになるべきだと思います。いまHUDは五級以上の魔法使いはほとんど全員使っており、たくさんの経験の蓄積があります。けっしていかがわしい危険な代物ではありません」

 

「フェルン。主観の総和は客観じゃないんだ。多くの人が天国があると信じているからって天国があると証明できるわけじゃないだろう」

 

「それは確かにそうです……。ですが、ひとりだと間違えてしまうことも、みんなで考えれば正解に辿り着く可能性はあがります」

 

「そうなることもあるだろうね。けれど、みんながみんなまちがった意見をだしたら、むしろ間違いが助長されることだってあるでしょ。そのときいったい誰が間違いを正してくれるの?」

 

 フェルンは一瞬言葉を失った。

 

「その、誰かが……」

 

「誰かに頼るのは悪いことじゃないよ。私だってみんなに助けられて旅を続けられた。でも、みんなに頼りきりになって、自分の責任を果たさないのは悪いことだ」

 

「では、フリーレン様がおひとりで考えて、それでご自身が間違っていた場合、誰が正してくださるのでしょうか?」

 

「過去の自分かな」

 

「ヒンメル様や大魔法使いフランメの言葉ではないのですか?」

 

 ああ、私、()()()だ。

 フェルンは自分のズルさを認識しながら言った。

 持論の正しさを補強するために誘導している。

 

「そうだね。正直なところ、それはフリみたいなところもあるんだ」

 

 フリーレンは目を細めて虚空を見ている。

 

「フリですか?」

 

「フェルンが言うとおり、私は疑り深いんだよ。時々は自分の心さえ疑いたくなる。だから、ヒンメルがそうしたからとか、フランメがそう言ったからとか、そういった言葉を言い訳にして、自分の心を騙そうとしているんだ。本当のことはなにひとつわかっていないくせにね」

 

「私にも騙されてはいただけませんでしょうか」

 

「悪くない提案だね。少なくとも、ゼーリエよりは信じているよ」

 

「……むうううううん」

 

「フェルン……どうして怒ってるの?」

 

「知りません」

 

「あ、……村が見えてきたよ。村についたら甘いものでも食べにいこうか」

 

 結局のところフリーレンは根っからの()()()なのである。

 今も彼女はフェルンの怒りを観測し、その対処法を必死に検証しようとしていた。

 

 

 

 

 

 フェルンは思った。

 要するに、信頼度が足りなかったのだ。

 ヒンメルやフランメほどは信じられていなかった。

 弟子なのだから、頼りなく見えているというのもあるだろう。

 だったら、自分の有用性を証明すればいい。

 フェルンはそう短絡した。

 

「フリーレン様。この村の峠道で魔物が出没しているようです」

 

「え、そうなの?」

 

 村に着くやいなや、フェルンは言った。

 言うまでもなく、村の掲示板では魔物の出没情報が噂話となっており、検索すればその程度のことはすぐにわかる。

 

「えっと、じゃあ調査を……」

 

「幽霊に連れ去られたという声もあるようです」

 

「じゃあ、アンデッドかな」

 

「いいえ。親しい人の生前の姿を真似ているというところや、声をかけられたというところから、アンデッドではないと思われます」

 

「うーん、じゃあ――」

 

「幻影魔法を使っているのでしょう。ちょうど峠道のあたりに魔法が使われた形跡があります」

 

「お、おちついて、フェルン。どうしたの」

 

「幻を利用して獲物を誘いこむ魔物。幻影鬼(アインザーム)の可能性が極めて高いと思われます」

 

「対処法は――」

 

「魔法使いにとっては簡単です。高密度の魔力をぶつけるだけで幻影は離散します。さあフリーレン様。さっそく討伐しにいきましょう!」

 

「う、うん……、まあフェルンの機嫌がなおったのならいいけど」

 

「なおっていません!」

 

 フェルン達は村に着いてそうそう、さっそく魔物討伐にでかけることになった。

 峠道までは歩きで20分ほどの、村から近いところにある。それまでの間、フェルンはズンズンと前を歩いていたが、さすがにフリーレンも注意を喚起するために声をかける。

 

「フェルン。幻影鬼(アインザーム)は親しい人の姿や声を真似るんだよ。その意味では……最も魔族に近い魔物だ。もしハイターの姿で出てきたら撃てる?」

 

「天国を信じるよりは、よほど簡単です」

 

「すごい自信だね」

 

「ハイター様に前にお聞きしたことがあるんです。妄想と幽霊の区別をどうつければいいのか」

 

「どう言ってたの? あの生臭坊主は」

 

「簡単なことでございました。天国に行った魂は永遠の命を得るということなので、撃って確かめればいいとおっしゃられておりました。死ななければ、妄想ではないと」

 

「まあ、その対処法はまちがっていないけど」

 

 霧が出てきた。

 あたりは薄暗く、妖しい気配がたちこめる。

 フェルンは杖を生じさせた。HUDをオープン。

 

 対象との距離、魔力量測定。ピピピという警告音。

 そこにそいつはいた。

 

 自らの手で顔を覆った魔物。幻影鬼(アインザーム)だ。

 

 フェルンには、それが、()()()()見えていた。

 大したことではなく、幻影鬼(アインザーム)は対象の記憶を覗き見て、親しい人の姿や声を真似る。しかし、主観の総和においては、そもそも親しい人というものは、白く塗りつぶされてしまい見えない。

 

 みんなの妄想に、みんなの親しい人がバラバラに投影される結果、そうならざるを得ないからだ。けれど、それは真実が見えているということにはならない。

 

 この網膜に生じた図像が、フェルンの妄想であることを否定しない。

 

 現象学には、意識としての主体と、現象としての客体の問題がつねにすでに横たわっている。

 

 

 

 

 

 他方、フリーレンにはヒンメルの姿が見えていた。

 少し前にはフランメの姿だったので、自分も変わっているのだと思って、少し不思議だった。

 ヒンメルが口を開きかける。

 フリーレンは彼の言葉を待った。

 

 

 

 

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)!」

 

 

 

 

 

 しかし声は、すぐ傍らにいるフェルンから伝わった。

 魔法の光は、幻影を貫き、塵へと変えた。

 フリーレンは少しだけ残念に思った。

 ヒンメルならなんて言っただろう、と考えたからだ。

 

「フリーレン様。いかがでしょうか。HUDは暫定真実としては有用です。人は妄想と現実の区別がつかないのですから、まずはここを基点にしてショートカットしてはいかがでしょう」

 

 所詮、やってることは殺し合いである。

 殺し合いの場面で、わざわざ、おまえは私の妄想かなんて問う暇はない。

 

――あなたもそうでしょう?

 

 そう、フェルンは言いたかった。

 

「フェルン、私はそれが嫌なんだ」

 

 嫌なのにそうする矛盾。

 殺したくないのに殺す欺瞞。

 しかし、それこそが彼女なりの責任の取り方。

 妄想と現実の折り合いのつけ方だったのである。

 

「そうですか……」

 

 フェルンはフリーレンを見つめた。

 彼女のほっぺたは氷のように硬そうだった。

 




それはそれとして、ふたりは村に戻り、甘いものをいっしょに食べた。
フェルンの口座に、2000APがいつのまにか振りこまれていた。
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