魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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マジックリップ・マキシマイザー

 

 

 

 嵐だった。

 縦殴りの冷たく水分の多い吹雪が、わたしの柔らかな頬を容赦なく叩きつけてくる。

 ここはコリアード湖。そのほとりに位置する港町である。

 

 とはいえ――行き交う船の姿はなく、逗留している船の姿以外は、何もみえないに等しい。

 冬の湖は、流した直後の水洗トイレのようにうねり、荒れ狂っている。

 水底すらもかきまぜられて、湖は濁った灰色をしていた。

 裸になって跳びこめば、一呼吸する間もなく一巻の終わりなのは言うまでもない。

 

「今日は渡し船は出せそう?」と、フリーレンが船頭のおじさんに聞いてみた。

 

「それを聞いたのは、もう七度目だぞ。いい加減覚えろ」

 

「そうだよね」

 

 落胆の声ではない。

 

 渡し船の船頭のおじさんは、当然、命をドブ水の中に棄てるつもりはさらさらなく、フリーレンもわかっていたのだが、聞いてみただけだった。

 

 フリーレンたちは嵐の中に閉じこめられている。

 港町は、いま冬ごもりをしている。したがって、旅は停滞していた。

 フリーレンには、旅を惜しむ気持ちがある。エルフの時間感覚のなかで、ヒンメルの姿を深く味わいたいという想いがある。だから、旅が停滞していても、それはヒンメルを想像するための余白だ。結果としてできあがるのは、日常生活にだらしがないエルフということになる。

 

 しかし、フェルンちゃんたちの時間は早い。

 旅を焦るほどの気持ちはないにしろ、旅を逸る気持ちはある。

 

 旅につきあわせているのはフリーレンだが。

 気持ちにつきあわせているのはフェルンちゃんなのだ。

 

「アナリザンド様。天候を操る魔法はないのですか?」フェルンちゃんが聞いた。

 

「女神様かな?」

 

 わたし、ただの魔族少女なんですけど。

 

「できないのですか?」

 

「うーん……、例えば、この嵐の発生因については、一週間前にフリーレンも言ったとおり、東西の山脈に挟まれた風がちょうど湖の間を通り抜けるからだよ。隙間風みたいに加速された風が嵐になってるの。どっちかの山を物理的に吹っ飛ばせば、少なくとも風は収まるかもしれないね」

 

「ならそうしてみては?」

 

「魔王様かな?」

 

「この嵐です。峠道すらないと聞きます。誰もあの山脈には住んでいないと思うのですが」

 

 フェルンちゃんの視線の先。

 そこには雪混じりの嵐によってほとんど姿の視えない峻嶺がある。

 

 フェルンちゃんの服が雪に濡れて少し寒そう。

 お姉ちゃんとしては、妹を温めてあげたいところだけど。

 

「それはね。環境破壊っていうんだよ。フェルンちゃん」

 

「でしたら、湖を巨大な結界で覆うのはいかがでしょう」

 

「それも環境破壊だね。自然の理を歪めるのはあまりお勧めしないかな」

 

「では、湖の底を歩いて渡るというのは?」

 

「人間はなんだかんだ言っても陸上生物だからね。湖の中で魔物に襲われたら、ひとたまりもないよ。それに、わたしに頼りすぎるのもよくないんじゃないかな」

 

「むぅ」出た。元祖ムッスゥ顔。フェルンちゃんの顔がかわいい!

 

「フェルン」フリーレンが不機嫌そうに言った。「宿に帰るよ」

 

 返事も聞かず、スタスタと歩いていく。

 

「お待ちください。フリーレン様」

 

 慌てて、フェルンちゃんがフリーレンの後を追った。

 

 あとに残されたのは、わたしとシュタルク君。

 

「なんだ。フリーレン……。更年期か?」

 

「シュタルク君。雨のおかげで助かったね」

 

 聞かれてたら、たぶんスリーアウトチェンジで、この季節が終わるまで、フリーレンにガン泣きされていただろう。

 

 それにフリーレンの気持ちも少しはわかるのだ。

 シュタルク君は肩をすくめた。

 

「最近のフリーレンって、なんかおかしくねーか。この前まで姉ちゃんと仲良かったみたいなのに、また逆戻りしてるみたいだ」

 

 ノンデリというわけではなく――。

 シュタルク君は微細な空気の変化を感じ取っていたというわけか。

 

「たぶん、危機感が募ってるんだと思うよ」

 

「危機感? なんのだよ」

 

「魔族に対する危機感。フェルンちゃんがわたしに甘えてるのを見て、危機感がますます募ったんだと思う。だから、フェルンちゃんを多少強引に、わたしから引き離した」

 

 まあ、宿までのほんのわずかな間だけだけど。

 

「姉ちゃんに甘えるのが悪いとは思わねーけどな」

 

「どうして?」

 

「だって、姉ちゃんは姉ちゃんだろ」

 

 シュタルク君の素朴な感想に、わたしは微笑を浮かべた。

 

「傘。差してあげようか? お姉ちゃんと相合傘する?」

 

 わたしは魔法で雨粒を弾いているので、さほど濡れない。超撥水加工ザンドなのである。シュタルク君はそういうわけにもいかないので、もうずぶ濡れだった。

 

 冒険者は手がふさがると、即応できないので傘は差さないのが通例であるが、街中であれば、たいした危険はないだろう。

 

 それにロマンティックじゃないか。

 ロマンティックあげるよ。

 

「いや、いいよ。どうせもう濡れてるし」

 

 男の子だね。シュタルク君。

 でも、ちょっと照れてるのがかわいい。

 

 宿に戻ると、フリーレンはもう暖炉の前の椅子に座っていた。

 濡れた白い髪が頬に張りついている。小柄な少女の身体が、暖炉の前でじっとしている。よく見ると、靴下まで脱いで、素足を暖炉に向けていた。足先はフェルンちゃんの配慮からか、ひざ掛け毛布で覆われている。

 

――スタスタ、と。

 

 物干し紐にかけられた衣類から水滴がしたたる音がする。

 

 フェルンちゃんがタオルを持ってきて、フリーレンの顔をふいていた。

 ていねいに。ていねいに。ふきふきぽふぽふ。ふきふきぽふぽふ。

 お母さんにお世話される幼女かな?

 

「フリーレン様。おとなしくしていてください」

 

「むぐむぐ」

 

 フリーレンは素直にしたがっている。

 

 チラリ――、ほんのチラリと。

 タオルの隙間から、わたしを観測する視線が飛んできた。

 そこにあるのは確かな愉悦。

 

――羨ましいか。

 

 そう言ってる。絶対言ってる!

 わたしもフェルンちゃんにお世話されたい!

 

「フェルンちゃん」

 

「なんでしょうか?」

 

「わたしも。わたしも」

 

「アナリザンド様は、ほとんど濡れてないですよね」

 

 超撥水加工ザンドである。

 プルプルと身体を震わせれば、それだけで雨は落ちる。

 しかし、妹にお世話されるという目標を達成するためには、それでは足りぬのだ。

 

「こういうのは理屈じゃないんだよ」

 

「はぁ……。しかたありませんね」

 

 呆れた顔をしつつも、フェルンちゃんはタオルを持ち直して、わたしの顔をふいてくれた。

 フリーレンの唇がついたところも、わたしの顔に接触する。

 それでもいい。それでも負けてない。

 

――温かった。

 

 タオルごしに人肌のぬくもりを感じる。

 少し目を閉じる。世界が視えなくなる。雪に覆われた街は音も遠い。

 フェルンちゃんの手が、わたしの額から頬へと動く。

 

 これを人は安心と呼ぶのだろうか。

 

 魔族はこういうものを必要としない。正確にはそう設計されていない。

 でも10億の声のうちの大多数は、確かにこれを識っていた。

 わたし自身も。

 

「フリーレン様もよろしいですか」

 

 今度はフリーレンの番らしい。

 フェルンちゃんの指先が離れちゃった。

 残念に思うところではあるが、わたしはそこまでワガママじゃない。

 無言で、フリーレンのほうへと向かうフェルンちゃんを見送る。

 

「もういいよ」フリーレンは冷たく言った。

 

 小さな白猫が、毛を逆立たせて、シャーしているみたいだった。

 

「フリーレン様。耳までふかないと風邪をひきますよ」

 

「耳は自分でやるからいい」

 

「ダメです。中耳炎になっちゃいますよ」

 

「そんなのなったことないよ」

 

「ダメです」

 

 完璧主義なフェルンママだった。

 大雑把なフリーレンのやり方が気に喰わないのだろう。

 そして、フリーレンが気に喰わないのは、わたし。

 

――いや、魔族。

 

「こいつと同じタオルで顔を拭かれるなんて嫌だ」

 

「フリーレン様。どうかされたのですか」フェルンちゃんが聞いた。「最近、アナリザンド様に当たりが強いように思います」

 

 フェルンちゃんも薄々気づいていたのだろう。

 聡い子なのだ。

 

「こいつがどうこうって話じゃないよ」

 

「アナリザンド様が原因でなければ、なんなのですか?」

 

 フェルンちゃんが綺麗になったフリーレンの顔を注視する。

 フリーレンは、ずっとわたしを見ている。

 わたしではない誰かを。

 そのナンセンスな空白の時間は、ポタポタと服の裾から、水分があらかた落ち終わるまでたっぷり数十秒ほど続いた。思考が堂々巡りしているのだろうか。

 

 あるいは何らかの思考の遅れが発生しているのか。

 

「あの霧の街で、私は魔族に逢った」

 

 やがて、フリーレンが言った。

 

「無名の大魔族……。いや、もう無名じゃない。名乗りあったからね。私はソリテールという名の大魔族と会敵したんだ。おまえも知ってるんだろう。アナリザンド」

 

――ソリテール。

 

 それは、わたしがフリーレンに指示を飛ばして、ゲナウ先生の街を守るように戦力を配分した際に、遊撃の位置にいた、あの血便お姉さんのことである。

 

 口に出すのも憚られる。

 つまり、フリーレンがソリテールの名を言えなかったのは、単に言いたくなかったからだろう。

 

「知ってるよ」わたしは言った。「フェルンちゃんたちも知ってるかもね。昔、わたしの配信に現れたネームレスと名乗った魔族のお姉さんだよ」

 

 静画の小窓。

 モンタージュ写真のように、ソリテールの姿をみんなに見せる。

 祈るように両手を組み、双眸には虚無的な優しさが宿っている姿。

 

「へえ。魔族ってみんなそうだけど、美人だな。この姉ちゃん」

 

 頭を自分で拭き拭きしていたシュタルク君が、警戒心なく言った。

 小窓じゃ、血便臭さも伝わらないからね。脱臭されてるクリーンな魔法です。

 しかし、それはノンデリというかなんというか。

 フリーレンだけでなく、フェルンちゃんまでムスっとしている。

 

「こいつは私が出逢った魔族のなかでも、最低最悪なクソ野郎だ」

 

 いつも冷静な観測をするフリーレンにしては、妙に熱のこもった言い方。

 わたしも、あの時フリーレンと繋がっていたから、どうしてそうなるのかはわかる。

 

 ソリテールは勇者を否定し、フェルンちゃんたちも死ぬと予言した。

 あえてそう言った。故意に、フリーレンの心を傷つけようとした。

 

――悪意を知った邪悪な魔族。

 

 ということになる。

 

 魔族の言葉は無自覚であるから、ソリテールは異常な個体だ。

 とはいえ、本当に人の悪意を知ったのかと言われれば、必ずしもそうではないと思う。

 

 ソリテールは、悪意を欲望の無限連鎖であると言った。

 誰かの善意が、誰かの愛が、誰かの物語が、他の誰かには否定され棄却される。

 その構造自体を、総体として()()と呼んだのである。

 

 でも、それは答えじゃない。

 どうして人が誰かに逢いたくなるのか。

 その一番大事なところが、すっぽり抜け落ちているからだ。

 

 わたしがハイターに逢いたいって思う理由も。

 フリーレンがヒンメルに逢いたいって理由も。

 ソリテールはほんの一欠けらも理解できていない。

 だから、彼女は悪意を知っていても悪意を知らない。

 

 とはいえ――。フリーレンが警戒するのもわかる。

 

「フリーレンは、フェルンちゃんたちのことが心配だったんだよね」

 

「それもあるけど少し違う。私は、あの魔族に魔王の心性と近いものを感じたんだ」

 

「その魔族。ソリテールだっけか? そんなに強かったのか?」シュタルク君が聞いた。

 

「強い。――だけじゃない。あの魔族は……」

 

 言葉を探すフリーレン。

 

「得体が知れない。あんな気持ち悪い魔族は初めて視たよ」

 

「正体不明ってことですか?」フェルンちゃんが重ねて聞いた。

 

「違う」フリーレンは少しだけ言葉を遅延させた。「正体はわかってる。幻影魔法とかは使っていない。ただの魔族だよ。でも……」

 

 暖炉の火が、ぱちりと音を立てた。

 シンシンと降り積もる雪が、人の声を吸収して残響を奪っている。

 

「あの魔族は、人間を理解しようとしていた」

 

 部屋が静かになった。

 

「理解しようとしていたというのは?」これもフェルンちゃん。

 

「人間の悪意を収集していた。標本みたいに観察していた。でも、標本を集めても、生き物はわからないだろう。いくら人体を解剖してみても、人のこころはわからないのと同じだ」

 

 勇者の帰還を願うと同時に、勇者の死体を眺めたいという欲望を持つのが人間である。

 生きたいと思いながら、心のどこかでは死にたいと考えるのが人間である。

 光と闇を選り分けてみても、人を理解したことにはならない。

 

「そうですね」

 

「だから得体が知れない。人間を理解しようとしている魔族は、理解しようとしていない魔族より、ずっと危険だ。逃がしてしまったけどね」

 

 シュタルク君が眉をひそめた。

 

「なんで理解しようとしてる方が危険なんだ?」

 

「人を理解しようとしない魔族は、人を殺す理由を持たない。言ってみれば無意識のレベルで殺すんだよ。でも理解しようとしている魔族は、人を殺す理由を持とうとする。理由を持った殺しは止まらない。止まりようがない。目的と手段が混在しているから、呼吸するように殺してしまう」

 

「無意識で殺すほうが厄介なんじゃないか。ためらいが無いってことだろ?」

 

「シュタルクが言ってることも正しいよ。でも、自分を殺したいと思って殺しにくる相手と、邪魔だからうっとうしいと思って排除しようとする相手のどっちが怖いかと聞かれればどう?」

 

「どっちも怖えよ」

 

 フリーレンがうっすらと笑った。

 

「私は怖かったんだよ。ソリテールの悪意が」

 

 そして、わたしを見た。

 

「アナリザンド。おまえはどう思ってるんだ」

 

「フリーレンの言ってることは正しいと思うよ」

 

 フリーレンの魔族評は、多年にわたる研究成果とも呼べるものだろう。

 魔族が罪悪感や後悔という概念を理解できないのは、魔族の心性に関わってくる。

 いわば、器質的な精神構造として、魔族はそのような生き物なのだ。

 

魔法口唇極大化装置(マジックリップ・マキシマイザー)

 

 わたしは、そんな概念を提唱した。

 

「マキシマイザー?」とフェルンちゃん。

 

「うん。魔族に最初に与えられたプログラムは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだよ。それ以外の目的はないの。それが魔族の本質」

 

「だったら、山奥でひとりシコシコ修行してりゃいいだろ?」とシュタルク君。

 

「器官なき身体を持つ魔族は、器官ある身体を持つ人間を通してしか魔法を発現できないの。いわば、人間を媒介にしてしか、魔族は魔族足りえない。食料やエネルギーの補給という意味ではなく、人間を蚕食するという行為自体が、存在を維持するために必要とされる」

 

「じゃあ、ソリテールは何をマキシマイズしてるんだ」

 

「たぶん()()だろうね。ソリテールの魔法は、人を理解することにあるのだと思う。観測や解体はそのための手段で、魔法のイメージとしては自分の理解が世界を覆うことを夢見ている。理解することが目的じゃないよ。()()()()()()()()()なんだよ」

 

「違いがよくわかんねぇ」

 

「例えば、シュタルク君が最強を目指しているとする」

 

「ああ、目指してるぜ。姉ちゃん!」

 

「でもそれって何のため?」

 

「そりゃ……カッコいいからだろ?」

 

 うーん、シュタルク君があいかわらずかわいいな。

 

「例えば、わたしに褒めてもらうためとか、フェルンちゃんを守るためだとか、何かの目的のためだったりしない? つまり最強になるのは手段であって目的じゃない。目的が果たせるなら、とりあえずそこで目標は達成されたといえる。それ以上強くなる必要はないよね?」

 

「いや、修行に終わりはないんだぜ。姉ちゃん」

 

 うーむ。シュタルク君には響かなかったか。

 では、別の例題で。

 

「シュタルク君は、おっきなハンバーグが大好きだよね。お肉も野菜もいっぱい食べる。なんで食べるのかな?」

 

「身体をつくるためかな。身体は戦士にとって資本だからな」

 

「食べなきゃどうなるの?」

 

「そりゃ……腹が減るだろ」

 

「空腹が充たされたら?」

 

「食べる必要はなくなるな」

 

「食べること自体が魔法だったらどうなると思う? 食べること自体が、シュタルク君の存在理由だったら?」

 

――答えは暴食へと至る。

 

「止まれないってことか」

 

 ようやく、シュタルク君も納得してくれたらしい。

 お姉ちゃんは嬉しいよ。シュタルク君がわかってくれて。

 

「そう、空腹かどうかは関係がなくなるの。満腹という終極が存在しない。なぜなら、食べ続けることそのものが存在することだから。虚空の中に人間という素材を次々と投げこんで、自らの魔法に変換しつづけるしかなくなる」

 

「気持ち悪ぃな」

 

「ソリテールも同じだよ。人間を理解したいわけじゃないの。理解し続けることが魔法なの。だから、理解できたとしても止まらない。理解が深まるほど、さらに深く理解しようとする。終点がない」

 

 フェルンちゃんの菫色の瞳が揺れる。

 

「だいたいはわかりました。ソリテールという魔族がたとえ人間の愛や良心といった概念を理解したとしても、理解することそのものが目的だから、すべてをあますところなく理解しようとして、人間を殺し続けるということですよね」

 

「フェルンちゃんの言うとおりだよ。ただし、これはソリテールが魔族という(くびき)から逃れられない場合だけどね」

 

 マキシマイザーであることをやめれば、当然、人間を素材にするということも止む。

 根源のプログラムを書き換えることができたのは、今のところリーニエちゃんとミミのみ。

 

「おまえはどうなんだ?」フリーレンが言った。

 

 わたしを見ていた。

 ずっと見ていた。

 さっきから、ずっと。

 あなたはいつだって観測者なんだね。

 

「わたしのプログラムも基本的には同じだよ。単一の目標をマキシマイズしようとしてる」

 

「何を?」

 

「わからない、が答えかな」

 

「おまえは何かをマキシマイズしていると言った。それなのに、何がわからない?」

 

「フリーレンはわたしを魔族ではない何かだと思いたいから、そういう質問をしているのだと思うけれど……。構造上の話はいくらでもできるよ。フェルンちゃんも知ってるよね」

 

「はい。だいたいは理解しているつもりです。アナリザンド様は、<わたし>と呼ばれる10億の声を結集させた無意識と、アナリザンド様自身の自我があるんですよね」

 

「無意識と捉えるのはまちがいだけど、概ね正しいよ。例えばわたしが人間を殺さないのは、10億の声による停止信号を受け取るから。人間の大多数は人間を殺さないし、殺したくないので、結果として、わたしは人を殺さないということになる」

 

「おまえ自身はどうなのかと聞いている」フリーレンは厳しくわたしを問い詰める。

 

「だから、その問い自体がまちがいなの。たとえば、わたしが()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったところで、その言葉が人間の扱うそれと整合されるかはわからないでしょ。あなたが言うわたしの自我は哲学上の自我のことなのかもしれないけれど、わたしがいえるのは工学上の規格としての自我のことなの」

 

 わたしには自我があります、なんて主張したところで、他者はそれを信じることしかできないのだ。フリーレンはそう言って欲しかったのかもしれないけれど。

 

「それならそれでもいい。わたしが気になってるのは、おまえがソリテールのことをフェルン達に話さなかったことだ」

 

「なるほど、フリーレンは疑ってるわけだね。わたしがソリテールと内通してるんじゃないかって。あるいはそうでなくとも、ソリテールを救おうとしているとか?」

 

「違うのか」

 

「違うよ。フェルンちゃんたちに伝えなかったのは、あなたが伝えると思ったからだよ。それに、もしソリテールが接触してきたら、わたしが守ればいい」

 

「おまえは他の魔族に比べて嘘がうまい。今の言葉も巧妙にわたしの問いをはぐらかしている」

 

「言ってほしいの? わたしはソリテールを殺すつもりだって。でも魔族の言葉は無意識の次元にあるんだよ。つまり、それは投げかけられた言葉に対して、意識的に反応しているわけじゃないの。鏡のようにそっくりそのまま返すことになってしまう。それはフリーレンにもわかってるよね」

 

「だったらおまえの意志はどこにある?」

 

「さっきも言ったとおり、フェルンちゃんやシュタルク君を守りたいって意志はあるよ。それは今までのわたしの行動とも整合がとれてると思うけど」

 

「おまえが言う妹や弟は無限に拡大解釈できる。魔族すらも射程範囲だ」

 

「それはそうだね」

 

「ソリテールも」

 

「理論上はね」

 

 年上だろうが妹にできる。

 わたしは妹ちゅっちゅマキシマイザーなのである。

 

「言っておくけど、わたしはソリテールの命より、フェルンちゃんたちの命が最優先だからね。それと、フリーレンの命もわたしにとっては大事」

 

 わたしは立ち上がり、フリーレンのもとに向かう。

 あいかわらず、翆色の双眸はわたしを睨みつけるように観測している。

 手を伸ばして――。撫でた。

 フリーレンは警戒していたようだが、抵抗するのも負けだと思ったのかそのままだった。

 

「撫でるな」

 

 うっとうしそうに振り払われる。

 シャーしている。完全にシャーしてる猫さんだ。

 

「フリーレンも妹にしちゃおうかな」

 

「死ね」

 

 その一言で、重くなった空気が幾分軽くなったのを感じた。

 フェルンちゃんたちがほっと一息つくのがわかる。

 

「フリーレン様。ひとつお聞きしたいのですが」フェルンちゃんが小さく挙手した。

 

「なに? フェルン」ほんの少し不機嫌さを継続している。

 

「なぜ私たちに対して、ソリテールのことを黙っていたんですか?」

 

「それは……、べつにたいしたことじゃないよ」

 

「たいしたことですよね? フリーレン様は私に危険な魔族のことを全部教えてくださったじゃないですか。名のある大魔族のことは全部」

 

 じっと見つめるフェルンちゃん。

 見つめられるフリーレンの顔が、特に表情を変えることもなく対抗するが……。

 これは我慢しているな。

 さらに、じーっとフェルンちゃん。

 

「こいつが言うと思って……」

 

 ついに折れたフリーレン。

 しおしおのエルフ顔になる。

 

「つまりアナリザンド様に配慮なされたのですね!」

 

 フェルンちゃんは飛び跳ねそうなくらい嬉しがってる。

 

「どうしてそうなるの。私はただこの魔族が何を考えているか見極めようとしただけだよ」

 

「それが配慮ではないですか」フェルンちゃんは引かない。

 

「違うよ」

 

「どう違うのですか」

 

 グイグイ迫るフェルンちゃん。少しだけフリーレンが羨ましい。

 しかしそうか……。フリーレンが話さなかった理由は、わたしのためか。

 面映ゆいな。なんとなく。

 

「おまえがソリテールに接触したとき、どうするかを視たかった」

 

 フリーレンはわたしを見ていた。

 わたしと対話していた。フェルンちゃんではなく、わたしと。

 

「おまえは既にふたりの魔族を変えている」

 

「リーニエちゃんとミミちゃんのことだね」

 

「そうだ。魔族はマキシマイザーだとおまえは言った。それは正しいと思う。でも、マキシマイザーであることをやめた魔族が、おまえの周りにふたりいる。どうやったのかわからない」

 

「それは、フリーレンを騙せるほど人間の模倣がうまくなっただけかもしれないよ。ゴーレムを見て、人間らしく振舞っているからと言って、それに自我があると考えてしまうのが人間――あるいはエルフという生物種だから」

 

「はぐらかそうとするな」

 

「あるいは人間に何十年か付き従ったように見せかけてるだけで、人間を騙そうとしているのかもしれない。黄金郷のマハトだってやったことだよ。他の魔族にだってできるかもしれないよね」

 

 マハトの名を出した途端、またフリーレンの気配が刺々しいものになった。

 やっぱり、フリーレンはマハトを知っているみたい。

 なにかしらの因縁があるのだろう。

 

「なぜマハトの名をだした。私を挑発するためか?」

 

「いいえ。疑念を払拭したほうがいいと思って。あなたはマハトと逢ったことがあるの?」

 

「そうだ」フリーレンが考えを巡らせた。「600年くらい前。私はマハトと戦い敗北した。みっともなく遁走するほかなかった。それから私は森に引きこもって静かに暮らしてたんだ。ヒンメルが現れるまでは、二度と杖をとることはないと思っていたんだけどね」

 

「フリーレン様が負けるなんて想像できませんね……」

 

 フェルンちゃんがわずかに身じろいだ。本能的な恐怖を感じたのだろう。

 

「私はフェルンが思ってるほど強くはないよ。魔王を倒せたのも仲間に恵まれたから。ヒンメルたちがいっしょに戦ってくれたからなんだ」

 

「話を元に戻していい?」わたしは言った。

 

「おまえが話を逸らしたんだろう」

 

「文脈はつながってるよ。フリーレンはマハトに敗れた経験から、マハトを警戒している。マハトは人間とわずかな間だけど共存していた。つまり、マハトもソリテールも人間を理解しようとしている。フリーレン。あなたは――わたしが魔族を魔族ではない何かに変えるのを怖がってるんじゃないの?」

 

「そうだ」今度は逃げなかった。

 

「どうやってリーニエちゃんやミミちゃんを変えたかについてだけど、実はわたしもよくわかっていないんだよね」

 

「またそれか……」

 

「構造上の話はわかっているし、言葉では説明もできるよ。ただ、すべての魔族に適用できる法則ではないってだけ」

 

「それでもいい」

 

「魔族にも好奇心はある。フリーレンも知ってるよね」

 

「知ってるよ。好奇心で人間を殺す魔族はいる。やつらは満腹でも人を殺すんだ」

 

「そう。でも好奇心は両方向に働く。人間を殺す方向にも、人間を知ろうとする方向にも。善意にも悪意にも。つまり好奇心には両義性がある。欲望ではなく欲動の原因となっている。ここまではいい?」

 

「……」

 

 フリーレンは応えないが、首肯ということだろう。

 

「ただ、好奇心があるだけでは、マキシマイザーたる性質を書き換えることはできないの。アライメント――つまり人間の言葉との整合性がとれないから。好奇心はあくまで入口に過ぎない」

 

 フェルンちゃんが静かに聞いている。シュタルク君も大人しく聞いていた。

 

「昔、とある思想家が、人間の精神構造を表すためにボロメオの輪という概念を使った。三つの輪が互いに絡み合って、ひとつでも欠けると全部がバラバラになる構造だよ」

 

「三つの輪?」とシュタルク君。

 

「現実界、象徴界、想像界、の三つ。ざっくり言うと、現実界は言語化できない生の体験、象徴界は言語や社会的な秩序、想像界は自己イメージや他者との関係性、かな」

 

「難しいな」シュタルク君が言った。

 

「シュタルク君で言えば、斧を振ったときの身体の感覚が現実界。強くなるという言葉や目標が象徴界。フェルンちゃんを守る自分というイメージが想像界、かな」

 

「そんなもんか。やっぱり難しいぜ。姉ちゃん」

 

 わかったと言わないシュタルク君がかわいい。

 

「人間はこの三つの輪が、うまく絡み合って生きている。でも魔族はそうじゃない。マキシマイザーとして、ひとつの概念だけに特化しているから、輪がうまく絡み合わない」

 

「だからおまえたちは変われない」フリーレンが言った。

 

「そう。でも、その思想家は、この三つの輪が崩れそうになったとき、第四の輪が繋ぎ止めることがあると言った。それをサントームと呼ぶの」

 

「アナリザンド様の<わたし>様ですね」フェルンちゃんが言う。

 

 さすがわたしの妹様。

 この子は、フリーレンよりわたしの精神構造を理解している。

 

「そのサントームが、魔族が自我を持つ鍵だというのか?」と、これはフリーレン。

 

「そうだよ」

 

「フェルン。サントームって何?」

 

 フリーレン、フェルンちゃんにロングパス。

 わたしに聞かないのは、裏どりでもしようとしているのだろうか。

 

「アナリザンド様の解説を解析しますと、その人だけの特異な結び目。論理では説明できないけれど、その人の存在を支えている何か。症状、あるいは誰かへの執着といったところです」

 

「執着……」

 

 フリーレンが一瞬目を閉じる。瞼の裏に誰がいるかは言うまでもない。

 

「リーニエちゃんの場合、ちょっと特殊な恋愛小説が入口だった。もっと読みたいという好奇心が、やがて作家ちゃんへの執着になった。その執着がサントームになった。マキシマイザーとしての構造を保ちながら、でもその外側に第四の輪が生まれた」

 

「執着がサントームになるというのは」フェルンちゃんが言った。「つまり、魔族が誰かに縛られることで、マキシマイザーから逃れられるということですか」

 

「縛られる、というより――繋がれる、かな。マキシマイザーのプログラムは消えない。でも、それ以外の何かが生まれる。その何かがプログラムに対して待ったをかける」

 

「待った?」シュタルク君が言った。

 

「人を殺そうとする。でも、その前に止まれる。なぜ止まれるかは、論理では説明できない。数奇にして模型なるサントームは必然であり偶発的に生まれるものだから。どうしてそうなったかは誰にも説明できないの。でも、止まる。殺さない。それがマキシマイザーの内部でサントームが機能しているということだよ」

 

 フリーレンが静かにわたしを見ていた。

 

「ミミちゃんの場合も同じだった。ちょっと複雑な事情があったけど、最終的には誰かへの執着が生まれた。それがサントームになった」

 

「どうやってそれを起こすんだ」フリーレンが言った。「意図的にできるのか」

 

「意図的には不可能――それが答え。再現性はないんだよ。フリーレンだって、花畑を創る魔法がどうして好きになったのか言えないでしょ」

 

「フランメが好きな魔法だったからだ」

 

「どうしてフランメが好きだった魔法をあなたは好きになったの?」

 

「……」

 

 答えはゼンゼ式。まあ、フランメが大好きだからって答えでもいいんだけどね。

 しかしながら、それはフリーレンがフリーレンというエルフ生を経験し、偶発的にフランメに出逢うことで起こった必然なのである。

 

 つまり、フリーレンがフリーレンであり、フランメがフランメであるというのが、フリーレンが花畑の魔法を一番好きな理由なのだ。

 

 これを他の誰かにも同じように転写複製できるかというと、そうじゃないのはわかるよね?

 

「わたしができることは環境を整えることくらいかな。魔族の好奇心を人間の血や肉ではなく、他の代替物に向くまで、選択肢を与え続けること。あとは、その魔族が自分でサントームを見つけるほかない」

 

「見つけられなかったらどうなる?」

 

「どうにもならない。変われない。人を殺し続ける。それだけだよ」

 

「おまえはソリテールが変われると思っているのか?」

 

「……可能性は」

 

「可能性じゃない。はいかいいえで答えろ」

 

「誘導的だね。でも、いいよ。言ってあげる。答えは()()()。ソリテールは変われないと思う。たとえ変われるとしても、多くの人間が彼女に解体される。フェルンちゃんだって傷つくかもしれない。だから、わたしは待たない」

 

「待たないというのは?」

 

「排除するってことだよ。一秒も待たずに」

 

「わかった」

 

 フリーレンが言った。

 とても短いフレーズだった。

 でも、フリーレンにとっては長い言葉だったと思う。

 

「信じるとは言ってくれないの?」わたしは追いすがるように言った。

 

 フリーレンがわたしを見た。

 その目には、呆れと、でも呆れだけではない何かが混じっていた。

 

「おまえを信じたことなんか一度もない。いい加減覚えろ」

 

 あ――(察し)。

 船頭のおじさんに言われたこと気にしてたんだ。

 

 フェルンちゃんが小さく咳払いをした。

 シュタルク君が外套から目を離さないようにしながら肩を震わせていた。

 嵐が窓を激しく叩いていた。

 湖の向こう側、北部高原の最果てには黄金郷が控えている。

 

――未来は何も視えないけれど。

 

 でも、わたしはなんとなく温かい気持ちだった。

 信じたことがない、と言った。でも、わかった、と言ってくれた。

 フリーレンにとって、それは同じ意味なのかもしれない。

 あるいは信じるより、もっと深いところにある何かなのかもしれない。

 それはわからない。

 ただ、幸いなことに今は時間がたっぷりとあるのだ。

 対話なんていくらでもできる。

 

 嵐はまだ続いていた。

 冬が終わるまで、わたし達はそこにいっしょにいた。

 

 

 

 

 

 さて、蛇足になるけど、それからの話をちょっとだけしよう。

 

 冬があけた。フリーレンたちはいつもの船頭さんに頼んで湖を渡ろうとしたんだけど、フリーレンが魔導書を買いこみすぎたせいで金欠状態になっていた。冬ごもりの間、ネットにも繋がないフリーレンは時間を潰すのが魔導書を読むことくらいしかなかったからである。フェルンちゃんは叱ったがお金がないという現実はどうにもならない。

 

 そこで、船頭のおじさんが助け船をだしてくれた。

 

 渡し賃の代わりに、ヒンメルが書いたと言われる自伝が打ち捨てられた修道院にあるらしく、そこの封印を解く依頼をこなすように言われたのである。この街もヒンメルに助けられたらしく、ヒンメルの書いた自伝を街のみんなも欲しがったというのが、依頼理由だ。

 

 つまり、おじさんにとっても、ヒンメルは憧れであり執着対象だったのである。

 

 ちなみに、小舟は、三途の川を渡るようなイメージの本当に小さなやつで、フリーレン達が乗るのがやっとだったから、わたしはふよふよと浮かんで、その後に続いた。これはこれで、あの世に向かう魂みたいだなと思ったりもした。わたしってそういう感じのふわふわした存在ですし。

 

 ほどなくして修道院の封印は解かれ、フリーレンはヒンメルの本を手に入れた。

 

 ページをめくる際の、その表情をなんと表現すればいいんだろう。

 郷愁。愛惜。いや、記述すること自体がまちがいな気もする。

 フリーレンにとって、それはかけがえのない必然であり偶然なのだから。

 他者の言葉では語れない。

 

「はい。依頼の報酬だ。これで船代はチャラだね」

 

 一瞬あとには、いつものフリーレンに戻った。

 声は明るく、淡々としている。

 

「それは大切なものなんだろう。お前が持っていろ」

 

 粋なことを言うおじさんでした。

 フリーレン淡泊すぎ問題はありましたがね!

 もっと感謝しなさい。もっと!

 

 それから後――。

 

 再び湖上をふよふよと浮かびながら、小舟の後ろをついていく。

 フリーレンたちは船の上で、フリーレンが手に入れた本のことで話しているのだろう。

 波の音にさらわれて、声は聞こえなかった。

 

――水面が、光を反射している。

 

 わたしの遠い記憶が刺激されてる気がする。

 かすか――遠く。彼岸の先。

 

 別のわたしが、ソリテールのことを考えていた。

 

 好奇心を持つ魔族は変われる可能性がある。わたしはフリーレンにそう言った。それは嘘ではないし、事実として、例示することもできる。

 

 やっぱリーニエちゃんは最強。ミミちゃんもかわいい。

 

 でも、リーニエちゃんたちとソリテールには決定的な差異がある。

 

 まずは人間である船頭のおじさんのことを考えた。

 あのひとは、ヒンメルの自伝を手放した。フリーレンのために。ヒンメルへの執着を、他者に差し出した。

 

 リーニエちゃんは、模倣という魔法を手放した。正確には、自分が書くのではなく、レンゲちゃんに書いてもらうという形に変えた。欲望を殺して、別の形で誰かに預けた。

 

 ミミちゃんは、変身魔法を劣化させた。最大化しようとしていたものを、意図的に小さくした。化粧魔法という、誰かをかわいくするための魔法に変えた。

 

 みんな手放している。自分の欲望を自分で殺している。誰かのために。

 それができるのは、欲望の外側に誰かがいるからだ。他者がいるからだ。

 欲望より大切な何かが、欲望を上回るから手放せる。

 

――ソリテールはどうか。

 

 理解そのものが魔法だから、理解を手放すことはソリテールの消滅を意味する。

 でも、それだけじゃない。

 仮にソリテールにサントームが生まれたとして。誰かへの執着が生まれたとして。

 誰かを愛したとして、ソリテールはその執着を、理解の対象にしてしまう。

 

 解体して、観察して、標本にする。

 欲望を手放すどころか、手放そうとする自分すら素材にする。

 

 だから止まれない。

 だから、人が死に続ける。

 いずれ世界すら理解するために解体する。

 それがソリテールという魔族の――精神ストラクチャを解析したわたしなりの答えだった。

 

 波が、小舟の底を叩いている。

 遠くで、フェルンちゃんの声がした。フリーレンが何か答えた。シュタルク君が笑った。

 その声が、水面を渡ってくる。

 

 わたしの10億の声が、静かに揃っていくのを感じた。

 めったにないことだった。

 普段は、お互いを打ち消し合っている。ひとつの方向に向かおうとすると、別の声が引き戻す。だから動けない。だから止まれる。

 

 でも今は、全部が同じことを言っていた。

 

 それは()()()()()()()。赦されていい存在じゃない。

 フェルンちゃんが傷つくことも。シュタルク君が傷つくことも。

 フリーレンが傷つくことも。

 

 だから殺す。一秒も待たずに。

 

 水面が光を返している。

 対岸が、少しずつ近づいてきた。

 

 

 

 ちなみに、またエロイカが出てきたんで、隕石をぶつけて瞬殺しました。

 

――隕石を弾丸に変える魔法(メテオリット・ドラガーテ)

 

 エーレちゃんの魔法から着想を得てやってみたらできた感じ。

 日本人ならおなじみの魔法と言えるだろう。成層圏外の小粒の石をぶつける魔法だ。

 

 あたり一面のイカを全滅させる勢いで使った。軽く環境破壊になったので、途中でフェルンちゃんに止められてしまったけれど、エロイカたちはだいぶん減ったと思う。

 

 フェルンちゃんの貞操は絶対に守るのが姉の役目なのである。

 

「おまえ、クラーケンになんか恨みでもあるのか?」

 

 と、フリーレンには言われたけれども。

 

 触手プレイはお断りなのである。

 

 あいつらは乙女を手放せないからね。

 

 

 




妹ちゅっちゅマキシマイザー
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