魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
これだけ雪があるのだから。
わたしはそう言った。
一面は雪景色で、周りを見渡す限り生き物の気配すらない。
雪という組成物だけがそこらじゅうにあり、逆に言えば地面のほうが希少とも呼べる始末。
天気は良く、風はなく、晴れわたっている。零下零度。わずかにマイナス。手を覆うミトンの手袋や、耳おおいは不要。厚着をすればギリギリ人間でも生存できるような環境である。
わたしは魔法の手を使って雪玉を転がしていた。
具体的には、操作魔法を器用に使いころころと転がしていく。
転がしていくうちに、わずかずつだが雪玉は大きくなり、それでも操作魔法は雪玉を転がし続けた。雪玉の大きさは数メートルを超え、そのうちもっと巨大になり、全長二十メートルを超える大きさになった。雪玉がいつ崩れても危なくないように、わたしはたっぷり距離をとって転がしている。平坦な雪原なので不意に転がるようなことはなかったが、それでも、その巨大さから、丸くて白い塊は異様に威容で、何かのオブジェが同行しているように見えた。
「ふへへ」
楽しい――。なにはなくとも雪玉が大きくなるのは楽しい。
「いったい、おまえは何がしたいんだ」とフリーレンが言った。
イラついているわけではなさそうだった。
いつものように、アナリザンドが馬鹿をやっていると思っている。
でも――旅には余剰、つまり遊びが必要だと思うのだ。
「なにって、特になにもないよ。ただ雪玉が大きくなるのが楽しくて」
「それになんの意味がある?」
「今の言葉って魔族的だね。意味なんてないよ。でも、楽しいからいいじゃん。誰に迷惑もかけてないんだし。何かが大きくなるのを見るのって楽しいよ。楽しくない?」
フリーレンは沈黙。
雪玉を創る五歳児のような理由に、返す言葉はなかったのだろう。
実際、否定するほどのことでもないはずだ。ただ、デカい雪玉がついてくるという圧迫感を除けば、旅の道程になんら支障はなかったからだ。それに、わたしの先ほどの言葉は感情に由来するものである。他者の楽しいという感情論を論破する術はほとんどないのだ。
なぜなら、あなたが楽しくないだけで、わたしは楽しいのだから。
「最終的には巨大な雪だるまでもお創りになるのですか?」フェルンちゃんが聞いた。
「それもいいかもね」
「環境破壊では?」
「雪は降るし、雪は溶けるよ。可塑性という意味では環境を不可逆的に変成しているとは言えないかな。一級魔法使いの視点ではどう思う?」
「そうかもしれませんね」
「このままいけばギネスに載るぜ。姉ちゃん」シュタルク君は感心したように笑った。
「シュタルク君も一枚かんでみる?」
「俺は何をすればいいんだ?」
「雪だるまの頭部を一緒に造るとかどう?」
「おもしろそうだな」
シュタルク君が、雪玉を転がし始める。
最初は小さかったが、ぐんぐん雪玉は大きくなりはじめる。
やがて、雪玉はシュタルク君の身長を越えたあたりから、急激に重くなりはじめた。
「結構、重いな……」
「まだ余裕ある?」
「大丈夫だけど、姉ちゃんみたいにデカくはできそうにないな」
さすが戦士の力強さは頼りになる。
デモンストレーションになっているのか、フェルンちゃんの視線は柔らかい。
これは、男らしさってやつを見せつけちゃってるかな。
「がんばれ。がんばれ」
お姉ちゃんはシュタルク君を応援するものであります。
「はぁ……はぁ……姉ちゃん。俺もう……」
身長の五倍くらいに達したところで、限界だったらしい。
それなりに寒い環境なのに、額には汗がにじんでいる。
腕がぷるぷるとしちゃってる。継戦能力を鑑みるに、ここらが潮時だろう。
「そっか。じゃあ、もうそろそろ合体しちゃう?」
「そうすっか。姉ちゃん。あとは頼むぜ」
シュタルク君が手を放した。
――クンっ。
シュタルク君の雪玉を操作魔法で浮かして、わたしの雪玉にオンする。
それから鑑賞して評価を加える。ううむ。小さい。
小さいというよりバランスが悪いか。
「これだと、頭と胴体というより、恒星と衛星って感じかな。わたしの中にシュタルク君のを取りこんじゃってもいい?」
「べつにいいぜ。世界一を目指すなら、俺のことは気にしないでいいよ」
「そうするね」
シュタルク君の雪玉をぽろりと落とすようにして、地面にこすりつけるように合体した。
そして、またころころと大きくしていく。
巨大な雪玉はもはや小さな山に等しい大きさがあった。
転がるたびに雪が圧縮され、表面はほんのりと光沢を帯びている。
「ふふふ。お月様と同じくらいの大きさにしちゃおうかな」
それは言い過ぎだけどね。月の全長は3400キロメートル近くもあるのだ。
でも気分的には、それくらいでっかくしたかった。塊の魂感じちゃってる。
「姉ちゃん。がんばれ!」とシュタルク君。
「よーし、お姉ちゃんがんばっちゃうぞぉ」
さらなる巨大化にいそしもうとした、まさにその時。
「馬鹿なことやってないで行くよ。時間は待ってはくれないんだ」
フリーレンが不満げに愚痴をこぼした。
「べつにいいじゃねぇか。ここらは人の姿どころか魔物もいねぇぜ?」
「フェルン」
フリーレンが、フェルンちゃんを使う。
珍しい反応だ。フリーレンは旅を急いでいない。
それなのに、先を急いでいるように見える。
確かに、魔物や魔族に襲われる可能性を考えれば、遮蔽物がほとんどない平原は恐ろしいのかもしれない。旅の経験値はフリーレンが一番多いから、わたしには視えない理由があったりして。
「HUDにも反応はありません。周囲に敵影はありませんし大丈夫かと思われますが、何か急ぐ理由がおありなんでしょうか」
フェルンちゃんが確かめる意味で聞いた。
「特にはないよ」フリーレンはいつものように短く断定する。
感情の揺らぎも、魔力の揺らぎもないように見える。
呼吸のリズムも一定だ。わたしと相対するうちに、だいぶん感情を隠すのがうまくなった。
もとから上手だったけど、様々なパラメータを誤魔化す術に長けてきている。
「嘘ですね」
だが、フェルンちゃんはわずかな魔力の揺らぎを見逃さなかった。
長年いっしょに旅を続けてきたからこそわかる、フリーレン観なのだろう。
わたしにはわからなかったことが、フェルンちゃんには容易く見抜けるらしい。
「嘘じゃないよ。エルフは魔族みたいに嘘をつく種族じゃないからね」
「フリーレン様。旅費の半分をお渡ししてましたよね。財布をお出しください」
やはりマルサのフェルンちゃんだった。
魔族にすら感知できない、エルフの嘘を見抜く力に優れているらしい。
「え、なんで?」盛大にきょどってる。
「お出しください」
「わかったよ……」
そうして、小さな皮袋から取り出されたのは、銀貨と銅貨数枚程度。
銀貨が、かすかな音を立ててフェルンちゃんの掌に転がった。
乾いた音だった。雪原には似つかわしくない、現実の音。
――おお、黄金の輝きよ。そなたはいったいどこに隠れてしまったのです。
かろうじて身を隠せる岩の陰で、フェルンちゃんのお説教が始まった。
フリーレン、絶賛正座中である。
わたしは気にするところなく、雪玉を転がし続けている。
誰も、叱られている姿を見られたくないだろうからね。
まあ、何もないところだから声はよく通る。聞こえちゃうけど、一応の配慮ってやつだ。
「これだけですか?」
フェルンちゃん、超ムッスゥ顔。
腕を組んで怒れるママというイメージ。
「見たとおりだよ。現実は嘘をつかないんだからさ」
「残りはどこへいったんですか?」
「便利そうな魔導書を買ったんだ。きっと旅の役に立つよ」
自分が楽しい魔導書ではなく、みんなの役に立つ魔導書を買った。
フリーレンは、そのように主張した。
しかし、それはあまりにも無計画すぎる。
欲望を覆い隠すための嘘だ。
「先ほどは嘘をつかないとおっしゃってたじゃないですか」
「嘘じゃないよ。言わなかっただけで」
「子どもの言い訳ですか」
「ごめんて」しおしおのフリーレン。
「次の街までどれくらいあると思ってるんですか?」
詰めるフェルンちゃん。
しおれるフリーレン。
「三日くらいかな……」
「雪原を抜けるまで五日はかかる計算です。それまでの間、金欠の私たちは柔らかなパンを食べられないことになります。フリーレン様、私の申しあげている意味がわかりますか?」
旅の楽しみ。その大部分は食事である。
フェルンちゃんにとっては特にそうなのだ。
はちきれそうなパンのように膨らんでいるフェルンちゃんフェイス。
「だからごめんて……」
念のため説明すると――。
わたしは、お金を対価にフェルンちゃんたちにパンを供給している。
そしてフェルンちゃんは絶対に借金をしない派である。
よって、無補給でこの雪原を踏破することになる。
わたしが無料でパンくらい配るよと言ってもダメなのである。
フェルンちゃんは変に真面目なところがあるから。
もちろん、そんなところもかわいいのだけど、誰もフェルンちゃんの教義に逆らえない。
「フェルンちゃん。また配信する?」と、わたしは聞いた。
ちょっと前に、フェルンちゃんは配信をして日銭を稼いだことがある。
そのときは、かわいい妹を表に出したくない気持ちが強かったが、フェルンちゃんとの動画アーカイブは、今も伝説として語り継がれている。先生たちにも受け入れられているし、いっしょに配信すること自体は嬉しかったりする。その選択も悪くなかった。
それに、フリーレンも反省してるしさ。
生活費を半分渡しちゃったのがそもそも悪かったのかなーって。
フリーレンには毎月お小遣いを渡す方式のほうがいいと思うんだよな。
「いえ。今回はフリーレン様が97パーセントは悪いです。言ってもわからない子には、身をもってわからせるしかありません」
悲報。フリーレン。三歳児扱い!
恐ろしい教育ママだった。
この場合、フェルンちゃんもいっしょに粗食を断行することになっちゃうだろうが、フェルンちゃんを横軸に成長させたいわたしとしては、今の状況はあまりよろしくない。最近は寒空の中を旅してるせいか、ずいぶんほっそりとなってしまった。ムーンフェイスとまでは言わないまでも、もう少し妹ちゃんにはふっくらしてほしいのです。
「毎日魚生活か……。まあ健康的ではあるかもな」シュタルク君がわびしそうに呟いた。
この子は、この子で状況を受け入れすぎちゃってるし。
「じゃあ、フリーレンが配信するってのはどう?」と、わたしは重ねて聞いた。
「おまえの配信に私が?」
ぎょろりとした魚のような視線がわたしに向いた。
「うん。雪原を抜けるまでの間、罪悪感を感じながら旅するのは嫌でしょ? それとも、わたしの配信に参加するほうが嫌かな? わたしはどっちでもいいよ」
わたしは救いの手を差し伸べる。
表情はにっこり笑顔を選択。ええ、すべてわかっておりますとも。
魔族からの提案は受け入れがたいものがあるのでしょう。わかってる。
フリーレンとの仲は良好とは言い難いけれど、ずっとギクシャクし続けるのもどうだろうと思うのだ。いい加減、普通の腐れ縁レベルくらいにはなりたいという考えもあった。
「私は考えを改めるつもりはないよ」
しかし、フリーレンはすげなく断った。
「それってネットを魔族の呪いだと捉えてるって話?」
「そうだよ。人間たちはすぐ騙されるけど、魔族の魔法を無条件に信じるのは危険だ。おまえは自分が魔族であることは否定していない」
「べつに、フェルンちゃんたちを騙しているつもりもないし、洗脳する力があるわけじゃないよ。ネットはただ繋ぐだけ。繋がりが交換価値を生むの。誰かに認めてもらえたり、考え方を共有できる。それは人間たちの魔法だよ」
表面は、一応そういうことになってます。
非ナラティブなものを連結する装置ゆえ。
「そんなことは知ってるよ」
「知ってるならいいじゃん。人間は視たいものを視るということに価値を見出す生き物なんだよ。フリーレンはきっと皆に好かれるよ。もっと身近に感じられて、愛着と所有欲が湧く。結果として、APが蓄積されるってわけ」
その時こそは、フリーレンを女神様のように崇めることになるだろう。
ああ、女神様。無限の銀を生み出す月の女神よ。なんちゃって。
「結局、お金じゃないか」呆れたようにフリーレン。
「資本は人の子が創り出した究極魔法のひとつなんだから当然だよね。それともフリーレンには何か妙案があるの? お金をポンと生み出す魔法が使えたりとか」
「フェルン聞いた? こいつ禁術を使おうとしている」
告げ口のフリーレンだった。
「まあ、いつものことですから……」
「ゼーリエ先生に叱られるからやらないよ。というか、文脈を重視してよ。フリーレンのためにせっかく話題を振ったのにさ」
「おまえ……、私がどこに向かおうとしていたか知ってるな」
フリーレンが警戒心バリバリでわたしを睨んでいる。
今にも杖を取り出してゾルトラークを撃ってきそうな気配だ。
「うん。わたしは経済の流れをマップ化しているからね。フリーレンが金欠だってわかったらすぐにピンときたよ」
「ピンでございますか?」とフェルンちゃん。
ペンギンポーズ。気に入ったの?
「うん。このあたりはお金になりそうなレアアイテムが落ちてるからね。聖雪結晶っていうんだけど、フェルンちゃんは知ってる?」
「昔、ハイター様が話されていたような気がします」
記憶はおぼろげのようだ。
シュタルク君はまったく知らない模様。
「この地方の雪原で生成される鉱物だよ。魔法薬の原料になるんだ」
応答したのはフリーレンだった。
「とても貴重で、高価なの」わたしは補足説明をした。
そう、聖雪結晶は黄金よりも価値がある。
封魔鉱と違って、わたしも触れる。
とてもとても素晴らしく、わんだほーな鉱石なのである。
「フリーレンは、そいつを採掘しようとしてるのか?」とシュタルク君。
「シュタルクもまだまだ甘いね」ニヤっと笑うフリーレン。「聖雪結晶はめったに見つかるものじゃない。だから、高価なんだ」
フリーレンの説明も間違ってはいないが、それは冒険者の視点だ。
「シュタルク君。採掘権という問題もあるんだよ。未発見の鉱脈が見つかれば、ここらを支配下におさめているノルム商会と発見者で権利を折半することになるけど、行きずりの冒険者は雇われて報酬をもらうのがやっとなんだ」
つまりはサラリーマンってわけ。
まあ、採掘労働者には採掘した聖雪結晶の質と量に応じて手当がつくことも多く、いわゆる歩合制と固定給の合いの子みたいな感じらしいけどね。
「だったらフリーレンはどうするつもりだったんだ?」
「聖雪結晶が高価なのはふたつの理由がある。一つはその希少性」
フリーレンがピースサインをしているみたいでかわいらしい。
少し顔がドヤってる感じもする。
「もう一つは狂暴な魔物がうろつく危険地帯にあるからだ。私の言いたいことがわかる?」
「ヒント、今、冒険者たちの野営地では物価がなんと標準的な都市の十倍です。パン一個が銀貨一枚もするんだよ」
わたしは被せるようにして言った。
「十倍かよ……じゃあ、討伐報酬も十倍か!」シュタルク君が気づいた。
「そういうことだよ。シュタルク。さっき甘いって言ったのは取り消してあげようかな」
得意げなフリーレンは気づいていない。
不穏すぎる空気が、フェルンちゃんの周りを漂っていることに。
「なるほど、それはつまり、フリーレン様の不始末を私たちが戦って解決するということでしょうか。よくわかりませんでしたので、フリーレン様の中で論理構造と正当性判断がどのようになっているのかお教え願えますか?」
底冷えのする声だった。
フェルンちゃんは精神を殺す魔法を唱えている。
「そ、そんなんじゃないよ。困ってる人を見捨てるなんて、ヒンメルならそうしないってだけで、当然じゃないか」
「フリーレン様。正直におっしゃってください」
迫るフェルンちゃん。
下手な判事よりも追及が厳しい。
フリーレンが唸っている。エルフがたじろぐシーンなんて結構レアかもしれない。
「気づいたら、路銀が消えちゃってたの……魔法みたいに」
エルフ顔のフリーレンが両の手の人差し指どうしをくっつけている。
「だから、なんとかしなくちゃって思って……」
「あとから入金して帳尻あわせをなされようとしたのですね」
クソデカ溜息をつくフェルンちゃん。
「まあ、いいんじゃねえか。俺たちも冒険者だし、戦うことには慣れてるしな」
シュタルク君がジェントルだった。フェルンちゃんの気勢が削がれる。
場の空気がわずかに弛緩し、フリーレンが息をつくのがわかった。
「ごめん。フェルン」
結局、素直に謝ることにしたようだ。
フェルンちゃんにはこれが一番効く。
「そんなにもネット配信がお嫌いなのですか?」
「そうじゃなくてさ」フリーレンはちょっぴり素直さを続けることにしたようだ。「私には人間に好意を抱かれるのがイメージできないんだよね」
「フリーレン様は人間に好かれる性質だと思いますが」
フェルンちゃんの言葉は、一見すると賛辞のようだが、その実、逃げ道を塞ぐための外壁塗装に似ていた。この子は、フリーレンにわたしを認めてほしいのだろう。そのために合いの手を入れている。
「私は、自分で言うのもなんだけど薄情なエルフなんだよ。どこに好かれる性質があるの?」
「無自覚なところとかでしょうか」
「無自覚って?」
「フリーレン様が宝箱に食べられたり、朝起きられなかったり、無駄な魔導書に路銀を溶かしたりする姿は、一部の人間には……その、母性本能というか、庇護欲を刺激するところがあると思います。無垢でかわいらしいと申しますか……」
「幼女じゃん」
「当たらずとも遠からずといった感じですね」
「あのね。フェルン。私は歴史上もっとも多くの魔族を葬った魔法使いだよ。人間たちに畏怖されることはあっても、愛着なんて――」
「フリーレン」わたしはインターセプトした。「小窓の向こう側にいる先生たちは、歴史学者じゃないんだよ。魔法使いでもない。ただの人間なんだ」
雪玉はわたしの背後で転がりつづけている。
「視聴者さんは、フリーレンを誤解するよ。葬送のフリーレンという二つ名も、さっきフェルンちゃんが言ったみたいなギャップ萌えの燃料として消費される。フリーレンかわいいよフリーレン」
ニチャア。ハイター仕込みの笑いをこぼす。
「やっぱり魔族の呪いじゃないか」
「でも、背に腹は代えられないでしょ? 銀貨一枚のインフレパンを、これから五日間、三人分。フェルンちゃんやシュタルク君はまだまだ育ち盛りだから、一個じゃ足りないよね。まあ、わたしは公平な魔族ですし、標準価格でお出しすることもできますがいかがいたしましょうか?」ニチャニチャァ。
視線を向けられたシュタルク君が、指出し手袋を脇腹に叩きつけるようにした。
「俺は……まあ、雪でも食って耐えられるぜ……? 戦士だしよ」
健気だねえ。かわいいねぇ。
顔はしおれちゃってるけど、そこもまた母性本能が刺激される。
「シュタルク様、無理を言わないでください。戦士が栄養不足で倒れたら、誰が魔物の囮になるのですか」
フェルンちゃんの囮という言葉に、シュタルク君がさらにしおれる。
わたしは微笑を浮かべる。
「ねえフリーレン。罪には贖いが必要だと思うんだよね」
「罪? 私が罪を犯したって言うのか」
「フリーレンが罪悪感を感じたら、それはもう罪だよね」
「クソ魔族」
「わたしの評価はここでは関係ないよね」
それに、フリーレン自身はとっくに理解しているのだ。
理はこの場合、わたしにある。理は正義であり、正義は勝つ。
「なにも難しいことはないよ。ただそこに座って、わたしの質問に答えたり、お茶を飲んだりしていればいい。小窓の向こうの人間たちは、あなたがそこに存在しているという事実だけで、勝手に価値を見出してくれる。それをわたしは投げ銭という名の魔力に変換するだけ」
「やっぱりお金じゃん」
「そうだよ。お金だよ。シュタルク君やフェルンちゃんたちを生かすための
わたしは操作魔法を使い、そこらの雪を小さな雪玉にして即席の椅子を創った。
対面の椅子に座り、足を組む。フリーレンに座るよう促す。
「さあ、どうする?」
「わたしがひとりで戦って、日銭を稼げばいいんだろう」
「もちろん。それも論理的には正しいね。でも、フェルンちゃんたちはあなたを一人で戦わせるつもりはないみたいだけど?」
「当たり前です。凶暴な魔物であるなら、いっしょに戦うべきです」
フェルンちゃんは最初からそのつもりだった。
「つまり、魔物を倒すのは、フリーレンが罪を清算してからってことだよね」
「罪というほど大仰なものではないですが……公平感といいますか、フリーレン様の贖う気持ちみたいなものは欲しいと感じます」
「フェルンちゃんは納得したいって考えてる。逃げ場はないよ、フリーレン。この何もない場所で突然、お仕事が降ってくるなんて、ありえるはずもないからね」
「はぁ……」白いため息がこぼれる。
フリーレンが天を仰ぐ。
雪原の太陽は、そこにあるはずなのに、ヴェールに包まれたようにその姿が見えない。
「ヒンメルなら何て言うんだろうな……」
「ヒンメルなら、フリーレンが微笑みかけてくれるだけで大勝利って言うだろうね」
希望の未来にレッツゴーしながら赤スパ連打しそう。
「わかったよ。やるよ。やればいいんでしょ」
投げやりなフリーレンだった。
フェルンちゃんが両の手を合わせて、すぐさま顔を綻ばした。
「決定ですね。これは歴史的な配信になる予感です」
流れるような仕草で、わたしの対面に座ったフリーレンの髪を梳かしはじめる。
そのまま喜びの三つ編み状態に。
この子、最初からノリノリだったのでは?
「よーし。じゃあ、タイトルはどうしようかな」
背景には、わたしが造り上げた巨大な雪玉。
その横に、しおしおの状態で鎮座する伝説の魔法使い。
コントラストとしては最高だ。
「雪山で遭難しかけたので、伝説のエルフがチート魔法でパン代を稼ぎます。これでいこう」
なんとなく、あらすじっぽいタイトルで流行に乗ってる感じ。
「タイトルからして嘘じゃん。遭難してないし」
「演出ってやつだよ。大丈夫。みんなは嘘を求めてる」
そんなわけで、わたしとフリーレンの歴史にその名を刻んだ伝説の配信が始まったのである。
フリーレン配信する(していない)。
次回は、もう少し早めに書けるようがんばるね!